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中野重治君 労働組合
法案と労調法の一部
改正の
法律案についての
共産党の
簡單な
質問をいたします。これは
質問は非常に沢山ありますが、二、三の單純なことについてお尋ねします。それで晝前から続けておりますが、私としましては労働
大臣に前以て注文を付けて置きたいのですが、尋ねられたことについて答えて頂きたい。(「そうだ、その
通りだ」と呼ぶ者あり)これは聽かれたことに対する答え以外のことを喋
つてはならんというわけでは決してありません。(「
賛成」と呼ぶ者あり)併しそれは自由ですけれども、外のことを長く喋
つて肝腎の答えを横流しないように願いたいと思います。なぜこういうことを言うかというと、(「本論に入れ」と呼ぶ者あり)これが本論の中の重要な
部分です。この間うちからの労働
委員会で我々が非常に難澁をしておる。これは労働
大臣ばかりでなく、政務次官でも、確か齋藤さんとおつしやつた
説明員までも含めて、いろいろ
質問が出るけれども、答は出ない。仕方がないから、これは、こうでしようということを念を押すと、そうでございますと言う。先程なんかは門屋議員から謝まりなさいということで、謝まるというようなことにな
つております。私は時間もありませんし、
大臣のために答を用意して來ておるわけではありませんから、どうか
大臣の方で答えて頂きたい。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
問題に入ります。
第一の問題は、新らしい労組法、労調法の
改正案、このことと、その他の労働関係
法案との根本関係はどうな
つておるかということです。これについては先程も話がありましたが、先程お話にな
つてことでなく私はお尋ねしたい。例えば
政府は緊急失業対策
法案を出していますが、あれを調べて見ると、あれは実際には永久失業法というものにな
つている。
政府の
説明を聽きますと、行政整理の名で沢山の、何十万という人間の首を切る。そうして
失業者が出た場合には、何ものにも優先してこれを助けなければならぬと、こう言
つております。そこで四月の二十五日、二十六日の労働
大臣の
説明を聽きますと、あのときはまあ四十万の頭脳労働者が首になるという。この四十万をどこへ持
つて行くかというと、今に輸出が盛んになるだろうから輸出産業へ持
つて行く、輸出産業が盛んになればサービスの仕事が殖えるからそこにも廻す。この輸出産業とサービスで二十万廻す。それからあとの二十万はどうするかというと、研究の結果、戰災による燒跡の地ならし、煉瓦の取り片付け、それから都市衞生のためのどぶ浚い、公園の整理、掃除などに廻す。こう言
つております。これで四十万人を吸收すると言
つている。これが緊急失業対策
法案の根本精神です。そこで、どうなるかというと、爲替レートが決まつたから輸出が盛んになるだろうと言うけれども、これはなかなか疑わしい。
反対の氣味合いも現に現われております。よしんば幾らか盛んになるとしても、労働
大臣その人が、輸出の元は低コストにあると言
つておりますから、輸出産業の低コストのための低賃金というものは避くべからざるものになる。サービスなんかの産業というものは、これは賃金というものは名ばかりのものになりましよう。それだから一旦二十万人の首を切
つて、その上に非常に大きな低賃金に引込もうという仕掛けにな
つております。輸出産業が盛んになれば、そこに労働市場の方に盛んに
失業者が集まりまして、盛んに労働地獄が開かれる。失業地獄が開かれるということになる。一方どぶ浚い、それから地ならしはどうかというと、これは一層ひどい。一体こういうことは今日までに
政府がや
つて來ていなければならないことであります。それをや
つて來ていかなかつた。そこに氣が付いて、人を使
つて正当な賃金を拂
つて今日どしどしやらなければならないが、首を切
つて、その上、
失業者をそこに廻すということで今日までや
つて來なかつた。今日尚や
つていないことをごまかしてはならないということで肩代りは断じて許すことができない。一方どぶ浚いとか何とかということを考えて見ましても、地方財政は非常に貧しいし、それから公共
事業費も首切られ、手を切られ、足も切られ、胴も切られているのですから、これは公園の問題なんかなかなか片が付かない。それですから從來
日本では公園、火葬場というふうなことをやる
人たちは、まあ惡い言葉を使いますと、乞食に毛の生えたようなことをや
つておつたことになります。ああいうところに頭脳労働者の首を切
つて、そうして持
つて行こうとする、これが緊急失業対策
法案であります。それですから、この緊急失業対策
法案というものは、成る程、口では首を切せれた人は何ものにも優先してこれを救済しなければならんと言
つているけれども、実際はこういうことになる。
失業者を使
つて、そうしてそれを半失業
状態に永久化する。固定化する。そこで、こういう緊急失業対策
法案、即ち実際は永久失業法を出している
政府が、一方で今度は新らしい労組
法案を出している。そうして労働
大臣はこの労働省の宣傳新聞の「週間労働」というものに、さつきも演説でいろいろありましたが、これによ
つて組合の民主性、責任性、自主性に十分確立ができる、幸いにこの
法案が
國会を通過したならば、新らしい労働問題は適切に調整でき、
経済九
原則実行に当
つて結局は労資双方にプラスになるだろう。こういうことを言
つている。組合の自主性を確保しようとする、そういう
政府が、一方で永久失業
法案を出そうとしているということになれば、ここは平仄が合わぬということをなる。この永久失業法というものは確実でありますから、そこで、この平仄が合わぬものを合せようとすれば、この新らしい労働
法案は、これは組合の自主性を破壞し、労資双方のうちの大資本家だけがプラスになるということになれば、これは平仄が合うということになります。そこで、この右と左のような、この二つの
法案の根本関係が労働
大臣においてはどういうふうに調和を保
つているか。その間の根本関係を
説明して頂きたい。こう思います。
次に
法案そのものに入ります。この
法案については、やはり先程
説明があ
つて、要らぬ條項は削つた、大分削つたが根本は変らないというふうな
説明がありましたが、そこで、どういう條項が削られたかということを見ますと、沢山削られておりますが、例えば現行法の二十
一條、二十
五條、それから労調法の四十條が削られております。それだから、我々はここで要らぬものが削られたかどうかを見るために、二十
一條、二十
五條、四十條が何であるかを見ればよい。二十
一條はこうな
つております。「労働協約締結セラレタルトキハ当事者互ニ誠意ヲ以テ之ヲ遵守シ労働能率ノ増進ト産業平和ノ維持トニ協力スベキモノトス」、労働協約は双方の側が遵守しなければならぬ。こう書いてある。第二十
五條は「労働協約ニ当該労働協約ニ関シ紛爭アル場合調停又ハ仲裁ニ付スルコトノ定アルトキハ調停又ハ仲裁成ラザル場合ノ外同盟罷業、作業所閉鎖其ノ他ノ爭議行爲ヲ爲スコトヲ得ズ」、平和條項ということになりましよう。だから裁定が決定しない前に勝手に資本家の方で工場閉鎖をやるということはできないということにな
つておる。それから労調法の四十條というのは、「使用者は、この
法律による労働爭議の調整をなす場合において、労働者がなした
発言又は労働者が爭議行爲をなしたことを
理由として、その労働者を解雇」することができない。資本家に氣に入らぬ言葉遣いをしたからとい
つて労働者の首をちよん切
つてはならん。こういうことです。これが皆削られておる。そうして、これを削ることによ
つて、不必要なものは削られ、自由な、民主的な、自主性ある組合がその発展を確保された。こう労働
大臣は言
つておる。これは実際そうであるかどうか。問題は
簡單でありますから、労働
大臣もお答えが願えるだろうと私は思う。ここで実際これが削られるなれば、双方にプラスするか、それとも資本家にプラスするか、私が
説明するまでもないでしよう。問題が紛糾した場合にも、或いは労働者の言葉遣いが氣に喰わぬというような、そんな
簡單なことからも、資本家の方がいつでも拔打ち的に工場を閉鎖することができる。首切りをすることができる。この拔打ちをやるということが、この二十
一條、二十
五條、四十條が削られたことから、労資双方の側の資本家の方がプラスです。労働者の方は拔打ちに首を切られる。拔打ちにロツク・アウトを喰う。資本家は
簡單な言葉遣い
一つで拔打ちに首切ることができる。工場閉鎖ができる。これがどうして労働組合の自由な発展を確保するということになるか。これを
説明して欲しい。そうして、これは資本家の中でも余程惡い大々資本家の利益のためにということを、
政府が労働者の犠牲においてやろうとしておるのでなければ、この点は
説明されないと思うが、外に
説明のしようがあるかどうか。
政府はさまざまな労働組合彈圧を考えておるようであります。今日廻
つて來た屋外廣告物
法案というようなものを見ても、労働組合がビラを貼り、ポスターを貼り、宣言文を貼るということを、理窟をこねて法的に禁止しようという陰謀が明らかに現われておる。そういうものの関係においてこの点を
説明して欲しい。削られることによ
つて無用なものが削られるのか。併しながら実際について見れば、これが削られることによ
つて労働者は拔打ちに失業の危險にさらされておる。ここはどうなるか。こういう
簡單なことであります。
次に第三は、今度の新らしい
法案によると、
政府は労働組合というものを
許可制、認可制に引込もうとしておる。何か外の
営業のようなものにしようとしておる。これは第
五條、第十九條に関係します。そうして若しこの認可する、
許可をする、適格を認めるというのは、その仕事が労働
委員会に與えられてお
つて、労働
委員会がこれは駄目だということになれば、駄目だと言われた労働組合は労働組合として受け得る一切の利益から排除されなければならぬ。アウト・ローを宣言される。こういうことにな
つております。そうして、この労働
委員会はどこがこれを握るかというと、中央労働
委員会は労働
大臣が握る。地方労働
委員会は
都道府
縣知事がこれを握る。これを握
つて、これを
運用して、上から運営するということにな
つております。それから先程労働
大臣は他の方の
質問の対する答えの中で、官廳の干渉を思い切り切
つて捨てた。そうして組合の自由なる発展を考えておるのだと言うておるけれども、その言葉で実行しようとしておることは。労働
大臣、
都道府
縣知事が、上から中央及び地方の労働
委員会を握
つて、そうして、それによ
つて自分の一存で組合そのものの適格性の認可さえも左右できる。こういうことになります。これは今度の戰爭中、
日本の軍閥が産報を通してサーペルと役人とで労働組合を上から握り、これを左右し、延いては、これを叩き潰してしまつた。その
方式です。実際、
日本の労働組合が今日まで発展して來ることができたというのは、こういう軍閥
方式が木端微塵に打碎かれて、それを乘越えて進んで來たからです。ところが今労働
大臣は、官僚の干渉を取除いて、組合の自主的に自由な発展を念願とするという一方で、この軍閥的、産報的
方式を復活しようとしている。この間の関係はどういうふうに我々が納得したらいいか。このことを
説明を願いたい。
尚、最後に、この
法案が出るという話が始まるや否や、
日本の全労働者がこれに
反対の声を揚げています。これは
日本の全労働者であ
つて、労働組合のいろいろな系統とか、或いは個々の労働者の政治的、思想的
立場ということに拘わりなく、それらを越えてすべてが
反対している。そこで
日本の生産を復興して行く、そうしてこの能書にもあるように
経済九
原則を実行して
日本の生産を挙げて行くというためには、どうしても
日本の労働者の結束した
賛成と努力とを確保しなければならんのですが、その肝腎の労働者階級が全体打
つて一丸とな
つて反対している。このことをどうして
政府は默殺し、無視して、労働者からは利益を削除し、資本家には拔打ちの権利を合法的に與えようとするこの
法案を出さねばならんのか。又出したいのか。これが
一つ。それから
日本の労働者階級はこういう條件の中で非常に苦しいながら自己の生活を戰いによ
つて確保して、そうして自分たちの力でこそ
日本の生産は復興しなければならない、こういう方向へどんどん進んでおります。それですから、今まで爭議その他に対して
政府側、会社側、官憲側から加えられた非常に乱暴な仕打ち、例えば東洋時計の上尾のときなんか人が殺されていますが、そういうことをも堪え忍んで、そういうものに恐れず怯まず自分の道を歩もうとしておる。ところが、この力を蹂躪して、本当に労働
大臣がさつき言つたような
日本の産業の復興ができるかどうか。これは普通の
日本人が考えるとできないことですが、どうして、できるというふうに労働
大臣は考えるか。このことを考えることのできるその材料を示して頂きたい。又
日本の労働者階級がこういうべら棒な改惡に泣き寢入りしてしまうものと思
つておるのかどうか。こういうやり方で湧き寢入りさせようとするその
方式こそ、
日本の労働者階級の統一された戰線による非常に大きな根柢的な反撃を我々から呼ぶ起すものとは感ずることができないかどうか。そのことを答えて頂きたいと思います。(
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