○高橋啓君 今日我が國の大きな課題といたしましては食糧問題の解決であります。この食糧の増産をするための方策は幾多あることでありますが、先ず田と畑を整えなければならないのでありますが、最近度重なる水害のために田と畑が非常に荒されて未だ復旧されておらないのであります。かの非常な大きな洪水の際は、國民挙
つて洪水対策について輿論を高めたのでありますが、段々に熱が冷めたような傾向がありまして、尚
政府におきましても、
予算編成に当
つてこれが対策に極めて冷淡であることが、今度の
予算において見ることができるのであります。私共は何としてもこの水害を日本から放逐するように考えなければならないと思うのであります。私共は緊急対策といたしましては、何を措いても先ず災害の復旧に力を盡さなければならないのであります。如何にいろいろな増産の方策を講じましても、あのように荒れた田をそのままにしては、今
年度の増産
計画、生産
計画が空なものになるのであります。そのためにはあらゆる費目を節約しても、先ずこの田や畑、河やその他の復旧に力を盡さなければならないと思うのであります。私共は先ず災害によ
つて荒された復旧を図ると同時に、先ず根本対策について私共は考えなければならないと思うのであります。誰でも言うことでありますが、洪水を予防するためには山林を緑化しなければならない。これは國民的常識とな
つておるのであります。大体山林の緑化の諸條件を簡單に申上げますと、先ず私有林の場合を申上げますと、我々は木を植える。そうして收穫をする。その間少くとも三十年、四十年、五十年を要するのであります。このような長い間收穫に時日を要するとするならば、土地の所有権に不安があ
つたならば誰も木を植える者がないのであります。先ず第一に所有権の確立ということが必要であります。又所有地を制限するという問題も考えなければならないのでありまして、これは少くとも小さい土地で木を植える、或いはその他の造林をするについても、余り小さい土地ではそれに対して意欲を持たないのであります。少くとも木を育てるには、その山を育てるについての愛撫感がなければこれはできないのであります。五十年間の採算ということは、我々としてなかなかそれに対して、計算上によ
つて、いわゆる利益とか或いは利害による
関係において意欲を持つのではなくして、自分の子供や孫を育てるような氣持で山を育成して行くのであるから、余り小さい面積では植林意欲が生じないのであります。そこで所有権を確立する。それに対する所有面積の制限は行わない。こういうことでなければいけないと思うのであります。
尚國有林の場合もそうでありますが、今日國有林の伐採その他の生産
計画と、それに対する植林の
計画とがマツチいたさないのであります。伐るものは伐る、植えるものは植えるというふうに、別な
計画の下にこれを樹立いたすために、今日尚國有林が非常に禿山が多い。
政府みずからがこのような
状況では、私有林の緑化ということは非常にむずかしい。この意味におきまして、
計画を立てるときには、伐採その他の生産の
計画と植林の
計画とのマツチを図り、
予算もそれにふさわしいものを作り上げなければならないと思うのであります。尚今日植林に対する隘路といたしまして、非常に費用がかかるということであります。大体一町歩二万円から三万円、三万五千円くらい実際に費用を要しております。これを何とかしなければならない。そのうち主なるものは苗木が高いということ、それから人夫賃が非常に高いというこの二つの問題にな
つております。私はこの際國民にいわゆる森林の恩惠を感ぜしめると同時に、愛林思想昂揚の意味で國民奉仕デーというものを作
つて、そうして過般の植林愛護デーというようなものを実際全國的に展開して植林のために奉仕する。又秋にはその植林の根刈とか下刈というような作業に奉仕するという日を設定いたしたい。その植林技術は一時間か二時間丁寧に
指導すれば特別なる技術を必要としないのであります。それでこの國民の奉仕によ
つて植林し、その木が收穫された場合にこれを何割か國家に還元いたすのであります。その還元いたした費用、それを更に植林のためにこの費用を使
つて行くということにすれば、長い間にはこの大きな問題も解決すると思うのであります。尚種苗が折角の植林
計画に対して足りません。そこで種苗の育成ということについて國家は國営とし、そうしてこれを無償で交付するということにならなければならないと思うのであります。大体日本の國は御
承知の
通り非常に傾斜度が激しいのであります。そこで、このような地形におきましては、耕土を維持し、或いは電源を維持し、或いは水源地を維持するというためには、どうしも一定数の林野を保持しなければならないのであります。いろいろな計算によりまして少くとも日本では七〇%くらいの林野面積が必要であります。そこで國土
計画を立てるに当りまして林野の利用区分をはつきりと決めて、これを法制化によ
つて裏付けして、いわゆる利用を変更する、例えば開拓をするとか、その他の利用に移す場合には、國土
計画の一環の中でこれをするというような強い方策を設けて、林野区分を七〇%くらい残さなければ、日本の國土保安は保たれないと私は思うのでありまして、このために我々はどうしても國民の大きな課題として解決しなければならないと思うのであります。
かくのごとく山を緑にする、木を育てるということだけでは今日の山林或いは森林の保全はできないのであります。何故かといえば、山を緑にするだけであれば林を伐らなければよい。ところが日本には戰災復旧という大きな國策的な問題があります。その他進駐軍用材とか或いは賠償物資の梱包用材、このような國策的に供出しなければならない材木が沢山あります。それを伐らなければならない。即ち山を伐るなというのと、山を伐
つて木を出せというのと、二つの
関係を
調査して行かなければならないのであります。それではどうするかというと、今後木材の利用加工の面について科学的な檢討を行い、合理化して行かなければならないのであります。一本の木も細
かく用途別にこれを生産いたしまして、できるだけ木に無駄がないようにして、そして森林を保持して行くようにしなければならないのであります。今日くらい木材の生産が極めて不合理な生産をしておるのはないのでありまして、それには國もこの問題に対してできるだけ
指導或いは
予算上の援助を與えなければならないと思うのであります。
もう一つは、今日日本には二十億石というような大きな数字の利用のできない奥地の林があります。それは奥地は原始林でありまして、これ以上何年放
つて置いても腐るばかりでなく樹木が増加いたさないのであります。併しながらこれを開発するということには非常な大きな困難があります。その一つは非常に費用がかかるということ、もう一つこの奥地林を伐り拂うことによ
つて洪水や或いは、水源地を失
つたり、電源を失
つたりという
関係が生じて参るのであります。そこで今後この未利用に置かれておるこれらの奥地林を開発することによ
つて、平地林その他の私有林を守
つてやらなければならないのであります。それはどうするかというと、奥地開発には非常に大袈裟な
計画を立てる、小さい資本でや
つては仕事を始めたばかりで参
つてしまうのであります。そこで先ず奥地林を開発するためには非常に立派な林道が必要であります。そこで又ダムを作らなければならない。これらの大きな森林を伐採してしまえば、必ず洪水が起きたり或いは旱魃が起きたりいろいろな大きな
原因とな
つて参るのであるから、それを防止するためにダムを作
つて、このダムによ
つて水害を防ぎ、或いは水力発電の水源となし、或いは用水の調和を図るということにしなければならない。もう一つは今日の原始林は大体闊葉樹でありまして、「ぶな」のごときは季節によ
つて、伐採した場合これは腐
つてしまうのであります。それを水に漬けて置くと腐らない。そこで、このダムにこれらの闊葉樹を漬けておいて、夏であろうと冬であろうと、何どきでもこれを運搬し得るようにしなければいけない。即ちいろいろな
関係の総合
計画を立てて、そうして奥地林の開発をしなければならないのであります。この奥地林の立木價格を計算いたしますと、略算してないのもあります。又五十銭、一円と算定されるのもあります。このような隠れてお
つた宝物を、これを木材の需要に供した場合、大きな費用となるのでありまして、このいろいろな資源の枯渇しておる日本においては、これは相当重要に考えてよろしいと思うのであります。恐らく原始林を開発して、その材木を池或いは港の止場に持
つて來たなら、恐らく千二三百円の原木となると思うのでありまして、この費用というものは決して投げるものでなくして生産的な費用であります。又これに附帶した問題として、最近行政整理その他によ
つて失業者が沢山出て参るのでありますが、このような大きな仕事にはあらゆる立場の人たちをこれに吸收し得ると思うのであります。例えば一円の原木を持
つて來て千二百円となるが、この仕事を失業者でやらしめて、これを國家の財源にするということは、私共は考えようによ
つてはなし得ないことはないと考えているのであります。私はこの際一石二鳥の方法といたしまして、水害洪水対策の根本問題として、このようないろいろな諸條件を解決して
政府はこの植林問題の解決に当
つて貰いたいと考える次第でございます。(
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〔駒井藤平君
発言者指名の許可を求む〕