○川上嘉君 無所属懇談会を代表いたしまして、昨日行われました
吉田総理の施政
方針演説に対しまして
質問いたします。
もとより施政
方針の全般に亘りまして、先ず
公約不履行を衝き、更に飽くまでも全勤労大象の立場に立ちまして徹底的にこれを檢討し、更に特に
行政整理、六・三制の費用等を徹底的に糾彈して、飽くまでもその
責任を問いたいのでありまするが、これは他の同僚議員諸君から十二分に
質問が行われることと思いますので、私は少しく方向を変えることにいたします。
私は税務署の第一線で十数年間勤務して参りました生粹の税務署出身でありますので、又更に昨今大藏省もその実質がすでに收税廳になりつつあると言われております程に、税金問題こそは現代の
政治の根幹であり、全
勤労者大衆、全
國民にと
つて最も密接な重要な問題であると固く信じまするが故に、税金問題一本槍で
質問を行うことにいたします。(
拍手、「異議なし」「徹底的にやれ」と呼ぶ者あり)
首相も昨日施政
方針演説の中で、我が國の財源は極端に枯渇しておる、重税に
國民は未だ曾て見ざる苦痛を感じつつあり、誠に憂慮に堪えない事態である云々と述べられております。誠にその
通りであります。私の
質問に対しましては明確にして詳細、而も
責任のある答弁を特に冒頭に希望いたして置きます。
吉田首相は三月十四日大磯の私邸から増田官房長官を通じまして次の
通り述べたと三月十五日附の各新聞が一齊に報じております。
國民の最も苦しんでいるのは税
負担だから、
國民の租税
負担を
軽減する必要がある、現行の徴税強行はひど過ぎる
ようだ、滯納八百億円の
整理についても徴税
方法に
人間味を持たせる
ような檢討を加え、
所得税など減價償却ができる
よう考慮しなくちやならぬ云々。この
吉田首相の言に対しては全
國民が同感であり、税務署の事務に從事しております全税務職員は全く同感でありまし
よう。(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)然るに
政府はその後何らの
政策を講じていないではないか。対策も講ぜずにかくのごとき言をなすことは明らかに反税的な発言であり、税務職員を
政府と納税者との板狹みにして苦しめるがごときものであります。(「そうだ、大阪事件を見ろ」と呼ぶ者あり)恐らく税務職員の一人として重税を課することの好きな者はない。一人として差押えの好きな者もいない。泣かれたり頼まれたりするのを見て見ぬ振りしながらべたべた封印するときの氣持ぐらい非
人間的なものはないでし
よう。(「道理だ」と呼ぶ者あり)泣く人もある。怒鳴る人もある。今年限り店をしまう人もある、首を吊る人もある。併し税務職員は自分勝手にや
つているのではなく、
政府の
命令によ
つて飽くまでもや
つているのであります。何とか言えば
政府は強権を発動する。今や第一線の税務職員は
國民の怨嗟の的となり、
政府と納税者との板挾みとなりつつも徴税強行を敢てし、こうまでしても二十三年度の租税收入三千百六十億円を辛うじて確保できるかどうかの瀬戸際であります。この悲惨な実情を
吉田総理はどう御覽になるか。而も二十四年度におきましては、実に前年度に対する六割増の税收入五千百四十億円が見込まれているのであります。然るに税制に対しては何らの措置が講ぜられていないのであります。
民自党が今回の衆議院議員の
選挙において絶対多数をかち得たのは、他に種々な事情がありまし
ようが、その
公約が
選挙民の要望に叶
つたためであり、而もこの
公約中最も
國民の
支持を受けたものは、税金問題であることは一点の疑いもないのであります。然るに税金問題に対して、ただ一点の措置も講じていないのであります。
〔議長退席、副議長著席〕
國民の苦痛はよく分
つているとの單なる見せ掛けでは済まされない。一体
吉田総理はこれに対してどんな
責任を取られるのでありますか、明確なる御答弁をお願いいたします。もとより
政府はその年度内におきまして予定の税收入を確保すべく最善の努力をなすのは当然でありまするが、併し同時に税收入さえ上れば万事良しでないことは言うまでもないところであります。
経済安定の條件である健全財政の
確立は納税問題と密接に繋がれており、
從つて納税成績を上げることは絶対でありまするが、それには納税者の納得の行く
ような解決策を工夫することが根本問題であります。
昭和二十四年度歳入
予算は七千三十四億円でありまして、前年度四千七百三十一億円に対しまして四割八分の増加であり、このうち租税收入五千百四十億円は歳入の七二%を占めており、前年度三千百六十億円に対しまして六割の増加であります。中でも
所得税三千百億円は前年度千八百三十四億円に対しまして六割九分の増加であります。この厖大な税收入を納税者が納得の行く
ように賦課徴收する
ためには、当然税制の画期的な改革が必要とせられますが、これに対しまして
政府は
用意があるのか、それとも現在のままの不合理な賦課徴收を繰返す意思であるのか、以下大藏
大臣の答弁を願うものであります。
税制の画期的な改革なくして、若し過去の経驗に一層輪をかけた徴税強行に
発展するとしますならば、
吉田内閣は近々必ず税金問題で崩壞するでありまし
よう。もとより一
内閣の運命や一
政党の進退は必ずしも大した問題ではありませんが、
國民は重税の下に押し潰され、税務
行政は全く
國民の信頼を失
つて早晩破綻するの止むなきに至るでありまし
よう。次に、納税者の
負担と、税務の事務に從事している第一線税務職員の
負担とに大別いたしまして、更に具体的に
質問いたします。
先ず納税者の
負担について言えば、税金が高過ぎはしないのか。更に税の
負担が不公平ではないのか。更に所得額の捕捉が不適正ではないのか。去年の十二月七日の都下各新聞は、税金が拂えないのを苦にした麻布の洗濯屋の主人が、十五になる長女を初め三人の子供を前夜近所の映画館に連れて行きまして、豚カツを御馳走した後、青酸カリで一家四人心中をしたという記事を載せております。更に昨日の東京新聞に、四月二日午後一時四十分頃、荒川区日暮里町四ノ一〇〇四、傘販賣業萩原房男が自宅八疊の間で西洋剃刀で右頸部及び腹部を切り自殺を図
つたので、附近の下谷病院へ收容したが、間もなく絶命した。これは税金を苦にしたものであると報じております。こういう悲惨な話は、多少の程度の差こそあれ、拾い上げて行きますれば限りがなく、
國民は今税金の苛酷さに文字
通り圧殺され
ようとしておるのであります。正に徴税の行過ぎであり、眞劍に取上げなくちやならない重要な問題であります。かくのごとき税金の不合理の原因は一体どこにあるのか。又この不合理をなくして、租税の過重な
負担を
軽減し、税金の賦課徴收を公平且つ適正に配合する
ためにはどうすればいいのか。大藏
大臣の御答弁を願います。
さて、税金の不合理の原因は、先ず歳入見積りの過大が問題であり、続いて税制運用面などに甚だしい
欠陷があるからであります。ここで、この不合理の原因、尚これに対する根本策について檢討して見ますれば、先ず歳入見積りの過大については、第一に最も大きな矛盾は、取るつもりの税收入の
基礎となるものは机の上で計算しました
國民所得であるが、それが直ちに
國民の正しい所得であるかどうかは大きな疑問であります。
國民所得に対する税
負担の割合は我が國におきましては二〇%程度であるが、アメリカにおきましては二六%、イギリスにおいては三六%であるから、英米に比較してまだ軽いと大藏当局はちよいちよい発表しておるのでありまするが、大体
國民所得なるものに大きな疑問がある上に、更に同じ二〇%程度の
負担でも、
生産が減退して國が今日のごとく疲弊しておるときと平時とは、
負担の度合に大変な相違がある筈であります。大阪時事新聞の二十四年の元旦の外人記者の座談会の記事に、官吏は
生活給以下の給料しか貰
つていない、然るに税金は実際に拂えるよりか遥かに重い、而もこの
状態を
基礎にして
予算を立てるというのが
日本政治の現状だとい
つたような
意味深長なことが載
つております。
次に税法につきましては、税法そのものが
大衆課税的であります。國の
予算が増大するに連れまして税の收入が増大するのは当然であるとしまして、その賦課徴收の
方法が
予算の多少に拘わらず依然として同じであるということが大きな矛盾であります。國の歳出
予算を通じて見ますれば、金のばら撤かれる先がどんな階級であるか、どんな
人たちであるかは、はつきりと分るのでありまして、これを的確に掴んで、そこから税を徴收する
よう、一切の措置を講ずべきであります。大阪軍政部長コワルスキー大佐は、一月二十七日、次の
ように述べております。私は徴收の対象として決して貧しい中産階級の市民諸君を指してはいない。私の見るところでは、現在の
日本の上層階級の
國家への支援は甚だ欠如している。これらの階級は
政府から多くの金を貰
つているのであるから、金持階級がかかる場合に
政府を支援するのは当然である。私は納税の
責任の大半は、かかる大口納税者によ
つて完全になされるべきことを強調し、要請すると、か
ように述べております。インフレ大口所得を捕捉することは、租税
制度の問題ではなくして租税技術の問題であり、課税技術上に困難があると当局では一方的に決めておりまするが、勿論課税技術も重要な一要素ではありますが、併し調査技術だけによりまして、大口所得を捕捉できると決めているところに大きな誤算があるのであります。(「欺瞞だ欺瞞だ」と呼ぶ者あり)
政府は税務に練達の士を五百人程すぐりまして、國税査察部を設置して大口所得の調査捕捉に当らしめて、最近その成果は相当に挙
つていると発表しております。三月十六日の発表によりますと、脱税件数は一千十五件、そのうち告発済四十五件、増差税額四十億七千万に上り、引き続いて調査中のもの百七十五件に達すると発表しております。この國税査察部の方々の活動努力に対しては敬服するのでありますが、今の分では良心的でまじめな経営者だけが運惡く捕ま
つて、インフレ大口利得者はまだまだであり、不公平であるとか、調査に行き過ぎがあるとか、横暴であるとか、人権蹂躪であるとかの非難が囂々としております。從いましてインフレ大口利得の捕捉は決して調査技術だけでよくなし得るものではないことを事実が立証しておるのであります。何が故に
政府は金融機関に対する幅のある調査権限を税務職員に付與しないのか。これによ
つて預金忌避、現金退藏の弊風が再現することを
政府は恐れているのでありますが、それならそれといたしまして、預金の調査はやらくとも、せめて融資先を調査するだけでも大口所得を捕捉するのに非常に効果があるのであります。尚、手形税のごときも、直接そのものの税收入は別々としましても、インフレ大口所得の捕捉に非常に助かることになります。もとより金融機関の調査とか手形税の
実施等によりまして完全にインフレ大口所得を捕捉することができるとは承知しておりませんが、こうすることは正に現行税法の画期的な
進歩であるということができるのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)一体
政府は積極的にインフレ大口所得者に重税を課する意思があるのか、あるとすればその具体策について御答弁を願いたいと思います。今回の税制
改正案を見ましても、表面では以上述べました
通り現
政府は立派なことを言うておるのでありますが、極めて形式だけの
改正で実績は少しも変らず、依然として税源を大象課税に求め
ようとしておるのであります。共産党は、終戰から二十二年度末までに四千億円、更に二十三年度末までに二千億円増加して、脱税額だけで六千億円に達するということを発表しておりまするが、これに対する大藏
大臣の見解を御発表願います。
次に申告納税
制度についてでありまするが、申告額に対し更正課税は低いものでも五、六倍はざらにあり、二十倍、三十倍というのも少くなく、勿論これは納税者にも
責任があります。人を見て法を説き、善人と惡人くらいの区別は付けるべきでありまするが、大多数の申告は実際の額よりも少いとの一般的な
原則からいたしまして数倍の査定額が要求されるものと思います。又税務職員が常に掴まえにくい個人や
企業の所得をできるだけ正確に掴もうと苦心努力しておることを十分知
つておりまするが故に、ここで無暗に税務職員の見当違いを非難する前に、先ず申告納税
制度をあらゆる角度から徹底的に檢討する必要があると思います。これまでの結果から見て、果して申告納税
制度は実情に既したものであるかどうか、御答弁を願います。次に最近怨嗟の的とな
つておりますところの差押、公賣の件についてでありますが、勿論惡質な滯納者に対してはどしどし嚴罰主義で臨むべきでありますが、正直な納税者が、自分の所得に対して不服があり、異議申立をして再調査の申請中に差押えされて、トラツクで乳母車のごときものまで持
つて行かれたといたします。後にな
つて再調査の結果所得額が
軽減されて、差押物件を引取りに行
つたときには、すでに「早いもの勝ち、時價により遥かに安い」との宣傳の下に公賣されていたといたしましたら、正に憲法第二十九條に保障されております財産権の侵害であり、
基本的人権の蹂躪であります。(「その
通りだ」と呼ぶ者あり)こ
うした実例のあることを幾らも聞いております。昨晩もラヂジで異議申立をなしたる者も一應税金を納めて下さいと、か
ような放送をしてお
つたのでありまするが、この條文は現行税法の中における最惡の癌であり、正に
日本民主主義の推進を阻むところの癌であることを強調し、併せてこれに対する大藏
大臣の御答弁を願いたいのであります。(
拍手)
次に運用面について申上げます。人員が非常に少い、熟練者が少い、待遇が惡い、徴税費が少い、
設備が不十分であるなど全く不合理だらけであります。從いまして租税の過重なる
負担を
軽減し、税金の賦課徴收を公平且つ適正に配合する
ためには、税制の根本的な改革が必要でありますると同時に、運用面を実情に既して合理化することが必要であります。
予算の圧縮が不能であり、
予算の膨張が止むを得ないものでありますならば、せめて
負担の公平適正に万全の対策を講じて、
國民の
負担軽減を図るべきであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
マ元帥の手紙にも、その
負担が全
國民に平等に課せられるならば、個人
生活に対する衝撃は最小限度に止めることができ
ようと明らかに述べております。そこで運用面を実情に既して合理化する
ためには、税務職員の大幅の増員、税務職員の素質の向上、待遇の徹底的改善、科学的調査
方法の樹立、諸
設備の完備などが必要とせられるのでありまするが、これに対する
政府の見解並びに対策等について御答弁を願います。
終りに税務の事務に從事しておる財務職員の
負担について申上げますと、勤務が肉体の点でも頭脳の点でも非常に過重である。その上、
責任が過重であります。以上長々と述べました
通り、
予算、税制、運用面に不合理、不備がありますにも拘わらず、僅かの人員で、而も限られた短期間で収收入の
目標額を是が非でも達成しなくちやならないところに無理があります。今や職場には肺浸潤が続出しております。発狂した者もあります。自殺した者もあります。一人で役所から家に帰れないという者もおります。今年に入
つてからでも大森税務署、荒川税務署でそれぞれ事務官が過労から自殺をしております。尚、葛飾税務署では、連日の徹夜で疲労因憊した事務官が、帰宅の途中ふらふらして汽車から轉落して慘死を遂げました。又愛知縣の小牧税務署では間税課長が発狂しまして、済まない、惡か
つたと連発して、誰彼のお構いなく、人の顔さえ見れば、どうも済みません、私が惡か
つたのですと、頭を下げておるそうであります。右のごとき第一線税務署の過重な
負担の実情について、一体
政府はどんな対策を持
つておるのか。
吉田総理の
責任ある御答弁をお願いいたします。
次にここに非常に重大なことがあります。実は三月八日放送されましたNHKの街頭録音、「新
内閣と
公約実行」の中で、増田官房長官は、答弁の中で次の
ようなことを言うております。「今の御
質問も亦極めて御尤もな御
質問である。私は最近税務職員が極めてこの人情という見地から見て苛斂誅求であるという
ような税金を取り立てておる点については、誠に不本意に思います。この点については閣議で問題にな
つて、各閣僚間にも、ああいうやり方は、あれは民主自由党の評判を落す
ために税務署の共産党フラクシヨンがや
つておるということまで実は議題に
なつたわけであります。いずれの
理由か実は私は調べて見ないと分りませんが、そういう
ような共産党フラクシヨンの活動であるかどうか分りませんが、ああいう人情から見てむごいことはしたくない、これから適切な措置を講じたいつもりであります。」以上が増田官房長官の言でありますが、実に妙な表現の仕方でありまして、現在の徴税の一切の不合理の
責任を税務署に轉稼しておる。そうでなくてさえ怨嗟の的とな
つております税務職員を、納税者と
政府との板挟みにして苦しめ、且つ又納税者の神経をいやが上にも刺激し、明らかに反税的な発言であると断定せざるを得ないのであります。(
拍手)、「その
通り」と呼ぶ者あり)恐らく税務職員の一人として、民主自由党の評判を落す
ために政略的な立場から税務の事務を遂行するごとき者はいないでし
よう。職務なるが故に、税收入
目標額達成の
ために
政府の
命令によ
つてや
つているのであります。(「そり
通りだ」と呼ぶ者あり)又私も全財労組の出身でありまするが、増田官房長官のこの放送に対しまして、全國の税務職員と共に底知れない義憤を感ずるものであります。この放送に対して
吉田総理の
責任ある答弁をお願いするものであります。
最後に、税金問題とは別個に
吉田外務
大臣に
質問したします。実は昨日の
吉田総理大臣の施政
方針演説の中にもあります
通り、又昨日岡元議員の緊急
質問にも強力に要請せられました
通り、海外同胞の引揚促進に関して万全の努力を要請することは勿論でありまするが、同時にここに要請したいことがあります。実は今次戰爭の結果、北緯三十度以南の線で鹿児島縣奄美大島並びに沖縄縣は
日本の
行政権より離れて、目下交通も杜絶せられております。奄美出身者の
日本本土に居住する者約十万でありまするが、これらの
人たちは、
行政権の帰属の件につきましては、講和條約に譲るといたしましても、交通の復旧につきましては、
國民生活が一日も早く安定するのは念願すると同じ
ような氣持で、否それ以上に交通の復旧の一日も早からんことを念願しているのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)無論この中には、郷土からの送金の杜絶えた学徒も相当数に達しております。奄美大島及び沖縄方面の交通復旧に対する
見通し並びにこれについて
関係方面に折衝する
用意があるかどうか。
吉田外務
大臣の御答弁をお願いいたしまして、私の
質問を終ることにいたします。(
拍手)
〔
國務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕