○町村敬貴君 私は多年北海道において農業を
経営しておるものでございますが、今日我々に取
つて最も重要な食糧増産の問題につきまして、私の農業者の
立場からの体驗に基いて、その所信の一端を申上げたいと思います。
日本は元來米作に関する限りは、その反当収量においても恐らくはこれは世界一と思われます。又
國民の関心も絶対的でありまして、この米作によ
つて過去の
日本の食糧危機というものが突破されて來たというこの事実は誠に当然の話でございます。併しながら
日本の全耕地が六百五十万町歩、その半ばは畑作でございます。ところが、この水田の優秀さに比べまして、畑作は至
つて低調であります。これをデンマークあたりに比しまするというと、その反当収量は畑作においては全く半分くらいしかないのであります。欧米人は藷や雜穀を主食としまして立派に食
生活を行な
つておる。我が國では藷は米の換算で、主食として配給はされておりまするが、
國民はこれを主食としてはどうも物足りない、やはり米に依存をすることが多くあります。これは止むを得ない現象でございまするけれども、今にしてこの因襲を或る程度是正しない限りは、我が國の食糧問題の前途に明るい見通しは付かないと思います。第一、藷や雜穀を主食としまして利用する
方法の研究であります。第二には、畑作
生産に改良し、これを水田
生産の水準まで引上げて來る。そうしてこの食糧増産の完遂を図ることであると思います。
第一の利用の面でございまするが、私は今日は藷というものにつきましては、これは原形のままでその調理法を研究するということが非常に大切だと思うのであります。欧米人は殆んど藷は主食に近いものでございまするが、ドイツにおいては藷の料理を約三十種類くらい若き女性が若し知らぬとすれば、お嫁に行く資格がないというようなくらいに、この藷の問題に対しては非常なる研究を拂われておるのであります。然るに我が國では藷は極めてまずいものである、米があれば藷というものには割合に触らないというようなことが一般であります。又この藷はこれを粉にしまする粉化工業を興す必要があるのであります。そうしてこの藷というものは立派な粉になります。この藷の粉というものは殆んどその栄養價及びカロリーの計算におきましては、小麦粉とは殆んど変らないのであります。それで、これをつまり小麦粉に混ぜまして、パンとか菓子とか、麺類とかいうものに用いますれば、これは立派に用いられるものであります。又この粉化工業は一面において藷類に貯藏價値を高め、甘藷の腐敗を防ぎ、馬鈴薯の凍結を完全に防ぐこともできます。過去における莫大な損害を絶無ならしめるようなことができると思います。從來
政府は米に対する熱意に比べまして、藷に対しては案外冷淡でありました。
國民も亦主食とする意欲が誠に薄い。從
つて畑作の増産に対する関心が高ま
つて來なか
つたのも事実でございます。これは食糧増産の上に甚だ遺憾なことでございます。今後は國家がこの方面に対しまして積極的の努力を拂うべきであると信ずるものでございます。粉化の様式というものは米國あたりでは多様にいろいろ
方法があります。
只今のところでは、これを一旦蒸煮しまして粉化をするものが一番満足な成績を挙げております。この大規模な
工場としましては、北海道には今ただ一つ、熱ローラーを用いて乾燥している
方法を採用しているところが一
工場ございます。併し私は全國的に農村工業としまして、この種の
企業が各地に起ることを切望するものでございます。(
拍手)曾てドイツもこの粉化工業によ
つてその食糧問題を解決したと聞いております。
日本も米ではとに
かくその絶対量が不足である限り、國内に
生産する藷を余すところなく徹底的に利用しなければならないのでございます。昨年ミシガン大学のホイラー博士が北海道に数回おいでになりまして、そうして馬鈴薯の栽培に対して有益なる指導を與えた。その成果は非常に多くの農民から感謝を受けております。今後の藷類の増産ということについて、甘藷、馬鈴薯を通じて大なる期待はできるのでございますが、如何に増産しましても、その処理、利用の研究を怠つたならば、折角の増産も無駄となるのでございます。故に藷類を完全に利用しまして遺憾なき施策を講ずべきだと思います。
第二に、畑作の
生産の改良と、その増産の問題でございますが、國は今や農地の開墾にあらゆる努力を拂
つております。併しそのやり方が各道府縣一律一齊に行な
つている。私はこれは誠に平凡な策だと思うのでございます。中にはよく行
つている所もございまするが、多く失敗に終
つている所も多いのでございます。これは私は國自身が全
責任を背負
つて、この重点主義に開墾
事業に当るベきであると思うのであります。さもなければ、なかなかこれが徹底しないのではないかと思われる。私は北海道や東北地方に横たわるところの泥炭地、濕地、干拓地、これを合しまするというと優に五十万町歩の町が何ら
生産なくして寢ておるのでございます。從來のごとき姑息の手段でや
つたのでは到底これは物にならんのであります。これをどうしても本格的にやりまするのには、先ず大きなるところの河川を掘鑿して、計画的排水の
基礎を作るのでなければ到底いかんのであります。私は曾てカリフオルニアのスタツクトンにおいて、この
方法により立派に泥炭地で成功している所を見たのであります。これは昔、牛島謹爾という馬鈴薯王がこの場所で始めたのでございます。即ち國として資源を総合的に開発する大きな
見地から、
政府みずから全面的にこれを引受け、そうして入植者に対しまして最も親切な行き方をしなければならんのではないかと思います。現在のごとく耕地を求めるに急な余り、濫りに森林を伐採して、効果の挙らざる開墾を行な
つていることは、國家百年の大計から見て、誠にこれは誤まりではないかと思うのであります。(
拍手)先ず泥炭地帯、濕地及び干拓地、この眠れる資源の開発に重点を置くことが必要であると私は力説するのでございます。
次に耕作の
方法の
改善でございまするが、御承知の
通り我が國の耕作法は、幾百年となく表土の農業をや
つて來た。いわば三四寸の間を耕作しておるのでございます。そのためにこの三四寸の下に堅い磐ができている。恐らくは九州から北海道に通じてこの下層磐というものができているのであります。これは普通の農家には分らずにおる。併しこの磐があるために全く地下と縁を切られているために、場合によりますと、僅かの雨が降ると直ぐ雨の害を蒙むり、又僅かの早魃がありますと、直ちにその早魃の害を受ける。これは
只今米國では盛んにサブ・ソイラー、即ち下層土破碎機と申しましようか、こういう機械によ
つてこの地下を破
つている。この地下を破ることによりまして空氣は滲透して來る。又いろいろな作物の根は自由に地下に滲透して参るのでありまして、こういう結果から同一面積を約二倍にこれは使える結果となるのであります。私はこれを自分が北海道におきまして実行しまして、その効果を親しく見ているのでございます。これの
方法には畜力、動力両方の行き方によ
つて、この機械を引張ればよいのであります。これは誠に簡單な行き方のものであります。私はこういう面において是非とも
政府がこれを取上げて奬励すベきだと思うのであります。(
拍手)
又
日本は水田地帯で二毛作が可能の地でありながら、濕田のために裏作が不可能な所が沢山あるのであります。一例を挙げれば新潟縣は最もその多い所だと思うのでありますが、これはいわば行き方によりまして暗渠排水、或いは明渠排水、こういうものをつまり併設をしまして、そうして後に機械力排水によ
つてその水を排除すれば、この問題は誠に樂に解決をする問題でございます。私は是非一つこういうような立派な効果を持
つてお
つて、ただ一作しか穫れないというところの水田地は、誠にこれは惜しいものであろうと思うのであります。そうしてその結果としましては、二毛作によ
つて畑作の増産を図るばかりでなく、水田そのものに対しましても、從來の濕田のときよりは、非常にその水田としての効果が多いのであります。こういう点を深く私は考える必要があるのではないかと思います。
政府が若し國策的にこの土地資源開発を提げて、そうして食糧自給のために邁進するならば、恐らくはこれは関係方面においても、もつともつと有効な援助と支援を與えられるだろうと私は思うのであります。
政府においては今回
内閣に総合國土開発
審議会及び北海道総合開発
審議会を設置されたのでございます。極めてその時宜に適したこととは思いますが、私はこの
審議会において十分これらの問題を討究されまして、是非これを実行に移して頂きたいと思うのであります。(
拍手)御清聽を感謝いたします。(
拍手)