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説明員(勝田成治君) 私からは集團
犯罪の
捜査につきまして、
檢察官といたしまして現在の
刑事訴訟の
規定の下におきまして、どういうような不便、或いは困難を感じておるかということを申上げて見たいと思います。
現在の
刑事訴訟法の下におきまして、集團
犯罪と申します一般の
犯罪捜査につきましても、いろいろ不便を感じでおる点はあるのでございますが、ここでは全般的のことには
関連いたしませんで、できるだけ集團
犯罪の
方面に限りたいと思います。併し一般的の普通の
犯罪捜査につきまして感じております不便とい
つたようなものが、集團
犯罪につきましては非常に大きくな
つて現われておるということは、一般的に申してよいのじやないかと思
つております。それから、これから私の申しますことが、直ちに
捜査上不便であるから、そういう
規定を止めてしまえとかいうようなことには、直ぐになるとは
考えないのでありまして、本來
法律というものがいろいろな理念とか必要とか、いろいろな
方面の問題が交錯いたしまして、或る
程度の妥協にな
つておるということは否定できないのでありまして、又現在の
憲法の
規定の下において
法律というものがあるということも当然でありますから、直ぐに私が申しますことが
法律の改正の問題にまで
希望しておるかどうかということは、又別個の問題であります。併しながらいろいろ
考えて見まして、現在の
憲法の下におきましても集團
犯罪の特殊性に鑑みまして、もう少しゆとりのある
規定ができないか。決して
憲法の
規定に抵触するという問題でなしに、十分に
憲法に
規定されております基本的人権の保障とい
つたことを
考慮しながら、
犯罪捜査上、もう少しゆとりのある
考えはできないであろうかというような点を若干申上げて見たいと思うのであります。
先ず第一に、
被疑者の
供述拒否権の問題でありますが、これは御
承知のように、
憲法第三十八條の
不利益な
供述を強要されないという
ところから來ておる
規定であることは明らかでありますが、
刑事訴訟法の
規定におきましては、そうい
つた例外と申しますか、
憲法も必ずしもそこまでは要求しておらないのじやないかというような
規定にな
つておるように思うのであります。その
一つの例としまして、百九十八條の第二項でありますが、この
規定はいわゆる默祕権と称されておりますが、その默祕権があることを
取調べの前に告げなければならぬという
意味の言葉でありますが、
被疑者に対しまして、予め
供述を拒むことができることを告げなければならないという
規定であります。先程申しましたように、
憲法の
規定では
不利益な
供述を強要されることがないという
規定にな
つておりまして、この
憲法の精神は、御
承知のように
被疑者が
自分で述べたことによ
つて自分が処罰を受けることのないようにという歴史的の沿革のある
規定だと思うのでありますが、この
刑事訴訟法の
規定はそれよりもむしろ廣くな
つておりまして、頭ごなしに
供述を拒むことができる旨を告げなければならない。從
つてこの半面、
被疑者は一切喋らないことができるということを
規定した形にな
つておるのであります。一例を申しますと、例えば住所、
氏名、職業、年齢とい
つたようなことも
供述しなくてもいいということに、この
規定からはならざるを得ないのではないかというように
考えるのであります。果して
憲法の
規定がここまでのことを要求しておりますかどうか、人を殺したり、物を盗
つたとかいうことにつきましては、本人の口から聞こう、言わせようということは、それを強要してはならないということは十分の理由があると思うのでありますが、さような、そのことを喋ることによりまして、その者が処罰つれるというような何ら
関係のない事柄につきましても、
一言も喋らなくてもいいというような
規定が、果してこの
憲法の下におきましても、
相当なものであるかどうかという点は、
捜査官の
立場から申しますと、いささか疑問を持たざるを得ないのであります。このために單独犯人でありますれば、仮に名前を申しませんでも、その者を
起訴状に表示いたします場合には、特徴などでできますから、それを特定することはさまで困難ではないのであります。集團犯罰ということになりまして、数十人或いは何十名というものが、若し一様に住所も言わなければ、名前も言わない。これが黙秘権で当然だということになりますと、先ず第一に、その者の特徴を固める
意味において
捜査上非常に大きな手間が掛かるということになるのであります。從來も実例といたして、数名の犯罰につきまして住所、
氏名が分らないために、いろいろな
方法で番号を付けまして
起訴をいたしたという
事件も、東京ではございませんが、神戸
あたりにあるのでございますが、これも数名
程度なら或いはできるかも知れませんが、これが数十名或いは百名を超えるというような
事件にな
つて参りますと、到底短時間の間にそれぞれの
人間を
はつきり識別するような
方法を講ずるということが非常に困難な場合が予想されるのであります。実例といたしまして、これは
應急措置法の当時でありましたが、例の
日本タイプライターの爭議の
事件等におきましては、或る
警察署に
留置いたしました全部の者が申合せまして、名前も何も言わないということがあ
つたのであります。幸いにその際にはよく話をいたした結果、最後には住所、
氏名を述べたのでありまして、問題は一應解決したのでありますが、すでにその当時、私は若しそのまま最後まで住所も
氏名も述べないとい
つた場合には、どういう形で
捜査を進めるかということについて、いろいろ
考慮いたしました。これに時間的の
制約等があります場合なら容易ならんことであるということを感じたのであります。私の申しております
ところの趣旨は、いわゆる黙秘権、或いは
供述拒否権の
刑事訴訟法の
規定につきまして、必らずしも
憲法が要求しておることでないものが
規定されるのではないか、從
つて少くともこの
被疑者の
供述拒否権のあるものは、そのことを述べることによ
つて自分が罰せられる、そうい
つた事柄について黙秘権がある。その外の、これを設けました例として挙げましたような名前とい
つたようなものについては、いわゆる黙秘権の内容として入
つておらないのではないかということが
はつきりして頂ければ、
相当そういう点の
捜査上の困難は救済されるのではないかというような感じがいたします。勿論さような
法律の
規定の発動がありましても述べない者はあると思います。從來の旧
刑事訟訴法の下におきましても、最初から最後まで名前を言わなか
つたような者もあ
つたのでありますが、併し少くとも
被疑者の
権利であるとして、それを聞こうとすれば、職権の濫用であるとい
つたようなことは言われなくても済むのではないか、かように
考えるのであります。從
つてこのいわゆる
被疑者の
供述拒否権の問題については、その点について御
考慮をお願いしたいと
考えております、それから今
一つの問題は、予めそういうものがあることを
被疑者に告げるという問題であります。これも
憲法の
規定から直ちには出て來ないと私は
考えるのであります。この
憲法の趣旨を生かすために、こういう
規定が必要なんだという理窟のあることは私も十分
承知しておりますが、併しながらどうも調官の
立場から見ますと、進んでみずから本当のことを述べようとしておる者に対して、わざわざ何も言わなくてもいいんだということ、或いは当初から頑強に否認して來ておりまして、何も言わない者に対しまして、又殊更何も言わなくてもいいんだぞということを告げなければならないという
規定は、どうも少しまあ何と申しますか、おかしいような感じを持
つておるのが
実情でありまして、さような黙秘権とい
つたようなものが、黙秘権と申しますか、
憲法の三十八條の
規定にありますような精神が、
國民全体の
常識にないますれば、わざわざそれを
取調べの手続きの過程におきまして言わなければならないというような
規定までは、必要ないのではなかろうかというような感じを持
つております。
それから次に第二に移ります。それは
被疑者と
弁護人との
接見交通の問題であります。これも
被疑者の
権利の保証する、又は弁護権の本來の理由から
考えまして、この立法理由も十分私は分るのであります。ただこのために実際問題といたしまして、
捜査に支障を來す場合があるという事実だけは否定できないように思うのであります。多くの
檢事が申しますことは、この
被疑者の段階におきまして、
弁護人の面会がありましたあとで、全部とは申しませんが、非常に多くの者が何と申しますか、今まで
供述してお
つたことを否定し、或いは取消し、或いは更に進んで
供述しなく
なつたと、いわゆる固くなるというように言
つておりますが、さような例が
相当ある。勿論実例といたしまして、
弁護人のうちでわざわざ
被疑者に会われた際に、かたくなな
被疑者に対しまして、本当のことを述べた方がいいんじやないかというようなことを言われまして、その結果
被疑者が
供述をするように
なつたという例も私は存じております。從いまして抽象的に
被疑者と
弁護人の交通が自由であり、又
立会なくして交通が行われることが因ると言い切
つてしまうわけに、私としてはいささか躊躇するのでありますが、往々にしまして、
只今申しましたように、
被疑者と
弁護人との
接見の自由権が、率直に申しますれば濫用されまして、智慧を付けるようなチヤンスを與えるようなことにな
つておるのではないかという点が感ぜられるのであります。そのことが別に
捜査上支障を來すと言いましても、直ぐに相手が
被疑者でありますれば、
相当のことが言われましても、使嗾教唆とか、
証拠湮滅とかいうわけには參らないのでありまして、結局それも
被疑者の黙秘権の中に入
つて來ると言われれば、それまででありますが、
被疑者自身としては、或は
程度述べるような氣持にな
つております場合にも、外の
被疑者との
関係だとか、いろいろな
事件の波及する
ところとかい
つたようなことを
考え直させられる機会が、こういう交通の場合に與えられておるのじやないかとい
つたような
事例を見ておるのでありまして、この根本的の精神を私は否定するつもりは毛頭ありませんが、実際上の不便を感じておる点から申しまして、何らか
交通権が濫用されないような適当なチエツクがなかろうか、むしろそれについて
考えられますことは、
立会とい
つたような問題でありますが、その限度は非常にデリケートな問題であります。私の結論といたしまして、そういう問題があるから
被疑者、
弁護人の
立会の際には、必ず、
立会をするような
規定にして貰うというような点までは申しませんが、さような点も十分お
考え願いたい
一つであるということを申して置きたいのであります。殊に多数
犯罪におきまして、
被疑者が非常に関心を持
つておりますことは、外の
被疑者がどういうことを述べておるかという点でありまして、これが
弁護人を媒介といたしまして、その
取調の限度なり
供述の内容が、大勢の
被疑者の間に全部傳わるというようなことになれば、集團
犯罪の
捜査といたしましては非常に困難なことになる、これは否定できないことでありまして、かような例が
捜査上いろいろ不便を感じておる例の
一つとして挙げざるを得ないと思うのであります。
それから第三点でありますが、これも
憲法の
規定から來ておる
規定でありますが、いわゆる
勾留理由の開示手続というものがあります。
勾留された者は何人でもその理由を公の法廷で開くことができる、これは
憲法の
規定から來ておりまして、この
規定も外國におきましては
相当歴史的の沿革がありまして、いわゆる人権保障の建前からは十分理由のある
規定なんでありますが、ただ刑訴上にそれをそのままの形で持
つて來ました点につきまして、若干私は疑問を持つのでありまして、本來
刑事訴訟手続におきまして、
被疑者の逮捕
勾留というようなものはすべて
法律の手続で
規定されておりまして、而も身柄の拘束に関しますことは終始裁判所がこれにタッチしておるのであります。從いまして余程手続上の過誤がありません限りは、
刑事手続において
勾留されておる
被疑者につきましては
勾留の理由があ
つて、又形式的には裁伴官の署名いたしまして
勾留状が出ておりまして、それぞれをちやんと
被疑者に示しまして、こういう
被疑者事実について
勾留するということは十分分
つておるわけであります。而も
勾留された場合には必らずその親族というような者に
勾留したことも通知をすることにな
つております。從いましてさような場合に直ちに
勾留理由の開示を
請求するということが普通の場合として必要であるかどうかということを
考えますと、むしろ
被疑者自身は、
自分がどういう理由で
勾留されておるかということは十分
承知しておると言わなければならないのじやないかと思うのであります。從いまして実際の例といたしまして、これまで
勾留理由の開示の
請求のあります
事件というものは必ずしもそう多くはないのであります。大部分の
事件につきましては、かような手続は
請求がないのであります。最近爭議とか、ああい
つたような
事件に
関連いたしまして、この連続が非常に何と申しますか、活用されるように
なつたのでありまして、実際の運用を見ておりますと、
只今申しましたように、普通のこういうような
犯罪の嫌疑で、こういうような
勾留の理由で
勾留してあるのだと、裁判所として一應の説明をいたしまして、私はそれでこの手続としては十分だろうと思うのでありますが、それに対しまして、まるで判決の際の弁論のような、一体どういう
証拠があるのだ、
犯罪の嫌疑は如何なる
証拠に基いてさような檢挙をしておるのか、
証拠湮滅の理由があるというのは、どういう根拠に基いてそういう判断をするのかとい
つたようなことが執拗に開示を
請求されまして、それこそ開示を
請求されまして、そのために本來の、恐らく
憲法で要求しております
ところの
勾留理由の開示とい
つたようなもの以上のものが、この
勾留理由開示手続では行われなければならないとい
つたような実際の動き方にな
つておる傾向が見られるのであります。私はこの
勾留理由の開示とい
つたようなものは、例の人身保護令ですか、ヘビアス・コーパスの
制度と私は
関連あるものと思うのであります。何ら
法律上の手続を経ないで、
法律上の
権限なくして逮捕されているような場合に、最もこれは効果を発揮する
規定ではないかと思うのでありますが、たまたまこの
刑事訴訟の中に、
憲法にはさような例外はございませんので、
刑事訴訟法の手続の中にもこの
規定が入
つて來たわけでありますが、実際
憲法が期待しておりました
ところよりも、逸脱と言
つて語弊があるかも知れませんが、いささかこの
制度が違
つた目的のために利用されているのではないかという感じを深くいたすのであります。併しそれも
規定があります上は又止むを得ないかも知れませんが、実際問題といたしまして、このために
勾留理由開示の手続が行われますために、一人一人の
被疑者でありますれば時間もそうかからないのでありますが、十数名、数十名の
被疑者についてこれを行うということになりますれば、
勾留理由開示手続につきましても、先程申しましたように簡單に、かような
勾留状が出て
勾留されている、被疑事実はこうであ
つて、
勾留理由はこうであるという
程度で済めば結構でありますが、それで済まないということになりますれば、理由開示手続だけにつきましても
相当の時間がかかるのであります。先般の三鷹
事件の
勾留理由開示手続におきましても、まる半日かかりましたが、あれは七人でありましたが、それが数十人ということになりますれば到底一日ではできない。これが限られた
捜査期間の中から割かれるわけであります。而もその間
捜査は全く中断されますのみならず、この理由開示の手続を
通りますためには、裁判所はやはり記録を貸して呉れということを、まあ檢察廳に要求して來るわけであります。そのためにその当日のみならず、少くとも二、三日前、大部の記録になりますれば更にその前に、記録を全部裁判所へ貸す。その間
檢察官の手許には
捜査記録がないという不便があるのであります。それからこれは余り予期されておらなか
つた効果ではないかと思いますが、集團
犯罪等につきまして個々的に
勾留理由開示をやるという建前を取
つてしまえばいいのでありますが、先程申しました
勾留理由開示手続を大いに利用しようという
立場の人からは、必ずそういう場合に大勢の
被疑者を同時に法廷に入れまして、同所にその手続をや
つて貰うようにという
請求があるのであります。そのために各
被疑者を
捜査の過程におきましては分離いたしまして、相互の
取調の
状況の進捗
状況とい
つたようなものを、極力
被疑者の間で分らないようにということに苦心しながら
檢察官は
捜査を進めるのでありますが、これが
勾留理由開示の際に一堂に会しまして、そこでいろいろ
被疑者に対する尋問等によりまして、大体誰が今までどういうことを述べている、どういう態度を取
つているとかいうことが、皆
被疑者の間に分
つてしまうのであります。更に進んではその機会にお互いに激励し合うというような実例もございます。と同時に、先程申しました
勾留理由というものにつきまして、具体的な理由の開示を
請求せられます場合に、場合によりましては裁判所におきまして、いわゆる
証拠関係の説明を余儀なくされるとい
つたような
事例もあ
つたのであります。そのためにこちらで切札として持
つておりますような
証拠が、
捜査の途中において
被疑者の前にさらけ出されるとい
つたようなこともあるのでありまして、これが
捜査上非常な支障を來している場合があることは否定できないと思うのであります。
捜査官の
立場から申しますと、
勾留理由開示手続は、少くとも
被疑者として
勾留中に勘弁して貰えないだろうかというのが率直な
意見であります。これは先程申しましたように、
憲法の
規定から参
つておりますので、
憲法違反になりはしないかという点が直ぐ
考えられるかも知れませんが、
刑事訴訟法の
規定によりましても、
勾留理由開示の
請求がありました場合には、建前としましては、五日以内に
勾留理由開示をやらなければならない。併し例外がありまして、止むを得ない場合には五日過ぎてからでもいいということにな
つておりまして、
法律によりまして、このような、今日あ
つたから今日しなければならないというような点につきましては、すでに例外が認められておるのでありまして、現在の限られました十日、或いは延長しまして二十日の
勾留期間中につきまして、
勾留理由開示手続はやらないという立法がありましても、私はあながち
憲法違反ではないのではないかというように
考えるのであります。從いまして十分意義のある
制度ではありますが、その運用の実際並びにその効果等に鑑みまする場合に、又
憲法との
関係を
考慮いたしましても、少くとも
捜査中の
勾留理由開示の手続につきましては、今一度お
考え願いたいというのが檢察廳のお願いであります。
それから第四点でありますが、これはまあ一般的の問題といたしまして、集團
犯罪につきまして、
刑事訴訟法の諸種の時間的の
制限が何ら例外が認められておりませんために、非常に一般
事件の
捜査に比べまして、集團
犯罪の
捜査には困難を生じておるという点であります。これはもう殊更御説明いたさなくてもお分りだろうと思いますが、今度の三鷹
事件の例を取りますと、あれは新聞にも書いてありますように、
被疑者一人について
檢事一人当
つております。かようなことは異例の場合でありまして、聞く
ところによりますれば、平
事件等におきましては、百名以上の
被疑者に対しまして、
檢察官は
檢事及び副
檢事を合せまして十数名でや
つているということを聞いております。そういたしますれば、一人の
檢察官の担当は数名になるのでありまして、これを十日とか、二十日とかいう
勾留期間の
制限で割
つて参りますと、結局一人の
被疑者に対しまして
檢事が夜も寝ないで調べに当りましても、極く僅かの日数しか調べができないということになるのでありまして、
被疑者一人に
檢事一人というような普通の場合の
考え方でありますれば、私は
只今のような
刑事訴訟法でも、忙しい忙しいとは申しながら、それ以上のことを望む氣持はないのでありますが、集團
犯罪につきましては、何らかの形において例外が欲しいというのが実際の氣持であります。殊に
警察官から要望があ
つたと思いますが、四十八時間或いは
檢察官の手許において二十四時間というような時間にまで
制限されております
期間がありますが、この間に簡單な
窃盗事件も二十四時間、百人以上の複雜な集團
犯罪も二十四時間とい
つたような形では非常に無理でありまして、殊に最近のような思想的な、或いは政治的な背景のありますような
事件になりますと、つい裁判所の方でも普通
事件以上に愼重になるというのが
実情でありまして、このために逮捕状を出すとか、拘留状を出すとかいう問題につきましても、一應
証人を調べてからとい
つたようなことにもなるのであります。そうしますと、できるだけ
檢察官としましても、裁判所が調べる前に或る
程度の
証拠を集めて置かなければならない。
証人も確保して置かなければならないとい
つたようなことにもな
つて参りまして、この二十四時間とい
つたような
制限については、少くとも多衆
犯罪については何らか例外的な
規定が欲しいと、かように思うのであります。現在でも拘留
期間の延長につきましては、今度の新
刑事訴訟法、
應急措置法で十日でありましたものが十日間だけ延長されるようなことになりまして、実際問題といたしまして
相当むつかしい
事件が、あとから顧みまして、十日間では絶対に
捜査が完了できなか
つたものが、十日間延長されたがために一應形の付くような
捜査ができたというような実例も多々ありますので、あらゆる
事件について更に
勾留期間の延長を期待するというのではございませんが、多衆の
犯罪等につきましては、多くとも或る
程度勾留期間の延長とい
つたようなことも例外的にお
考え願いたいと、かように
考えるのであります。それから集團的
犯罪という第五点でありますが、集團的
犯罪ということから直ぐには参らないかと思いますが、次に暴力團のああいう組織的なものの
犯罪に伴う
関係人の扱いの点について御
考慮願いたい点が
一つあります。それは旧
刑事訴訟法には、御
承知と思いますが、法廷におきまして本当のことを言いにくいという
証人がありました場合には、被告人などいない
ところで尋問するという
規定があ
つたのであります。
ところが今度、やはりこれも
憲法によりまして、あらゆる
証人について反対尋問の機会が與えられなければならないということになりました結果、右申上げましたような旧
刑事訴訟法の
規定は削除いたしたのであります。これは
憲法の
規定から止むを得ないと一應言わざるを得ないと思うのでありますが、実際問題といたしまして、例えば大きな恐喝團の被害者とい
つたような者は、法廷に出まして、しばしば実際と違
つたことを言
つた実例があるのであります。
檢事が
檢事の調室において聞きます場合には本当のことを述べておりまして、それが法廷で宣誓までした上で証言するときになりますと、極めてぼやけた証言にな
つて來るという例があります。そうい
つた場合には、
檢事が今一度その者を
檢事の調室で聞いて見ますと、実はあすこで本当のことを言えばあとが怖いということを申すのであります。更にお尋た場合には、おどかされたとい
つたようなことを言う場合もあります。それで
檢事としましては又その調書を作りまして、もう一度法廷で
証人として調べて貰う手続きを取るのであります。二度目に又召喚状が参りますと、あわてて
檢事の
ところへ参りまして、又法廷へ立たなければなりませんが、私はどうしても法廷では本当のことが言えませんということを言
つて來るのがあるのであります。かような点につきまして、
訴訟法上では
証拠保全という手続がございます。法廷に参りまして
供述を変える虞れがあり、而もその者の証言が有罪と判定するために、どうしても必要な場合には、裁判所に第一回の公判手続行に
請求いたしまして、その者の証言を確保して貰うという手続はあるのでありますが、
檢事の
ところでは非常にすらすら申しますために、まさかと、そこまでの手続も取らないで置きまして、さて公判が開かれますと
只今申しましたようなことにな
つて参ります。そういう場合には非常に困難が生ずるのであります。まさかさようなものを一々僞証罪とするということも、いささか酷な場合もありまして、
憲法下止むを得ないということは一應分りながら、今更この旧
刑事訴訟法の、先程申しました
規定が、如何にその人情の機微をうが
つた規定であ
つたかということを痛感するのでありまして、かような点につきましても、
一つ特に集團的な恐喝
犯罪とい
つたような
事件につきまして
考慮をお願いしたいと、かように思うのであります。
その他細かい点もありますが、一應
檢察官といたしまして
考えております主な点を申上げて、私の説明を終りたいと思います。