○証人(水野東太郎君) 私は日本弁護士会連合会の会長をいたしております水野東太郎であります。
公証人法の十三條後段の問題でありまするが、その後段の問題につきましては公証人が、公証力のある証書を作り、認証力あり、且つそれに対しての
執行力を與えられる、そういう非常に重大な役目を持
つておられる職責であるということに鑑みまして、その資格をどうするかということは、非常に大きな問題であろうということは直ちに感じられることなのでありまして、そこでこの
法案が提出されているということを聞きまして、去る五月六日に連合会で
委員を選定いたしまして、第一回の
委員会を開催いたしました。最初のことでもありまするので、直ちに結論を得るわけに参りません。その
委員は九名から構成されているのでございますが、一應この
改正案の経過について、最も直接の立場にあられる公証人会の会長の松沢さんにおいでを頂いて一應の意見を求める、そういうふうな
方法をと
つて、後に連合会の
委員会の態度を決めることがよろしいということになりまして、五月九日に二回の
委員会を開きまして、そうして松沢さんにおいでを頂いたのでありますが、私は
差支えがあ
つて出られなかつたのであります。松沢さんの意見は、或いは
只今お聞きになりましてお分りのことかとは考えまするが、一應松沢さんは、結論的には大体この
法案は御了承のように承わつたのであります。併しながら我々弁護士といたしましては、この公証
関係というものは非常に重要な面が多いのでありまして、
判決によ
つての
執行ということ、公正証書によ
つて執行する場合、それから公証力ということが我々の
事務の
取扱において非常に大きな役割を果しているというような、こういう
関係から我々独自の立場、
考え方からそれを研究して、どうするのがいいのかということを、やはり考えなければいけないではないかということから、他にもいろいろ実は氣付いたこともありますし、論議された点もあるのでありますが、主に十三條後段の問題につきましては、後段の方の書き方が非常に曖昧だ、「多年」という言葉を使われ、「法務」という言葉を使われている、更に「公証人の職務ニ必要ナル学識
経驗ヲ有スル」、この三つの言葉の使い方なんでありますが、この三つの言葉の使い方というものが非常にはつきりしておるという解説をまだ承
つておりませんが故に、或いはその点認識が足りないことから出る意見かも知れません。併しながらどうも「多年」という言葉と、「法務ニ携ハリ」という言葉と、「法務」という言葉が、どうも如何にも確然としておらないのであります。どうもこういう曖昧な言葉によ
つて、重要な資格を與える
一つの
範囲を決めるということには、この問題の
取扱如何によ
つて大変な弊害を釀すのじやなかろうか、前段におきまするようなはつきりしたこういう表示と比べまして、如何にもこれは余りにはつきりしな過ぎる。この字の
取扱い方がこういうようなことについては十分檢討して見る必要がある、或いは狙われるところには簡易
裁判所の判事、檢事を除かれておりますことと、かような人方、或いは又更に実際
裁判所に書記とか、或いは司法
事務官といたしまして、そういう立場におられて例えば特任判事とか副檢事などになり得るというような実力のある人には、
裁判官、檢察官、弁護人という方々に準じて公証人の資格を與えてもよいのじやないかというようにも思われるのでありますけれども、そういう人だけを対象にしたものとは考えられない。もつと廣い
意味でのことを含んでおると、かように私は考えるのであります。そうなりますとこれは非常に廣汎なものを対象にして一應の資格を與えることになるのではないか、こういうことによ
つて公証人という重大な職責を與えるということは、公証
事務の上から申しまして非常な弊害が発生するのじやないかということを非常に虞れるのであります。勿論この後段につきましては、公証人審査会の選考ということの
條件が加わ
つておりまして、而も公証人審査会は一体どういう組織力を持
つておるとか、そういうことについては少しも現われておりません。のみならずこの
改正條文を見ますると、八十二條が削られております。最初の案を私拜見いたしましたところでは、八十二條では、公証人審査会に関し必要なる
事項は政令を以てこれを定む、かように
法律案は伺
つておつたのでありますが、さて最終の案を見ますと、八十二條が削られておる。八十二條が削られますと、果してどういうことによ
つて公証人審査会というものをお考えなす
つていらつしやるか、政令に委すのでなく、或いは
法律でおやりになさるか、仮によし又政令にするにいたしましても、一体どういう
考え方をお持ちなのかを私はまだ存じませんので、殊に何ともこの点について直ちに私共の結論的なことは申上げにくいかも知れません。併しながらこの公証人審査会の
運用に一歩誤まりますれば、これは非常に重大な弊害を釀す段階を招來するのじやないか、こういうことを非常に虞れるのであります。少くとも公証人審査会というものはいろいろな面の人をとり上げられるお考えではないかと思います。例えばそういうような
意味においては公証
事務に非常に重大な
関係を持ち、更に法務
関係にも相当の
経驗を持
つておりまする我々弁護士などもお入れなさることと考えられますが、そのいずれにいたしましてもそういう選考
機関があるからよいではないかということによ
つて、直ちにこの後段の條文を設けることに安心するということは少くとも我々はならんのでありまするが故に、この後段はさような重要な職責を持たれる公証人の資格を與えられる
方法としては、非常に弊害と危險を予想される、こういう
意味から私共の
委員会では、結論といたしましてはこれは削除して頂きたい、こういう結論に達しましたのであります。十三條の後段についてはそういうような経過とそういう結論であります。