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政府委員(遠山丙市君) 只今上程に相成りました出版法及び
新聞紙法を廃止する法律案外十二件について以下提案理由の御説明を申上げます。刑法の一部を改正する
法律案の提案理由を御説明申上げます。
今度刑法の一部を改正して、第二十五條ノ二という新らしい規定を設けましたのは、本國会に提出いたしております
犯罪者予防更生法案が成立いたし、法務府の外局として、中央更正保護委員会が置かれ、その地方支分部局として地方少年保護委員会及び地方成人保護委員会が設けられ、その重要なる権限である保護観察の制度が実施せられました曉には、
裁判所が懲役刑又は禁錮刑の執行猶予の裁判の言渡をする場合におきましても、從來のように全く無條件に刑の執行を猶予しないで、執行猶予の裁判の言渡を受けた者の改善と更生を助めるために、この者を保護委員会の保護観察に付して、これを補導援護することが適当と認められる場合もあろうかと存ぜられますので、かような場合には猶予の号間中遵守すべき事項を定めまして、刑の執行猶予者を保護観察に付することもできるように、このような新たな規定を設けた次第であります。この改正は從來のように、無條件に刑の執行猶予の裁判の言渡をすることを妨げるものではありませんが、ただ保護観察に付する旨の裁判をした場合には、刑の執行猶予の言渡しに一種の條件を付することになりますので、一見被告人に對して不利益な改正のように思われますけれども、從來は
裁判所が刑の執行猶予の裁判を言渡すのに躊躇いたしたような場合にも保護観察に付するならば刑の執行を猶予してもよいと考えて、執行猶予の判決を致す場合もありますので、実際に執行猶予の判決が言渡される場合が殖える結果にもなり、却つて被告人には利益を与えることにならうかと存ぜられます。
次に第二十六條の改正は、第二十五條の二が新設されました結果、保護観察の期間中遵守すべき事項を遵守せず、而もその情状が重いことを刑の執行猶予取消の原因に加えることといたし、これに伴う必要な改正をしたものでありまして、保護観察の目的である刑の執行猶予者の改善及び更生を図りますためには、この改正を必要と考えたのであります。
第二十九條第一項第四号の改正は、犯罪者予防更生法が成立いたしましたときは、從來の仮出獄取締規則は廃止され、仮出獄中の者は同法によつて法定の遵守事項の外、地方成人保護委員会又は地方少年保護委員会の定める遵守事項を守らなければならなくなりましたので、これに伴う改正を施したのであります。
最後に本法は犯罪者予防更生法施行の日から施行いたしますが、刑の執行猶予者を保護観察に付し得る旨の規定は、法律不遡及の原則に從いまして、本法施行後に罪を犯した者に限りこれを適用するというのが、この法律の附則の趣旨であります。以上がこの
法律案を提出いたしました理由であります。何とぞ愼重御審議の上速かに御可決下さるよう御願いいたします。
次に
少年院法の一部を改正する
法律案の提案理由について御説明申上げます。
御承知の通り、
少年院法、昭和二十三年法律第百六十九号)は、本年一月一日から施行されたのでありますが、その運用を檢討いたしました結果、十四歳に満たない少年は、少年法の一部を改正する
法律案の提案理由にも説明いたしましたように、これを十四歳以上の犯罪少年又は慮犯召年と同一に取扱うことは適切でなく、若しこれに收容保護を加える必要のあるときは、すべてこれを兒童福祉法による施設に入れるのが妥当と思われ、又少年院の運用もさようする方が一層効果的になりますので、
少年院法第二條第二項を改めて十四歳以下の少年は、少年院には收容しないことにいたしたのであります。
次に、少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第十七條第一項第二号の規定、即ち收容観護の措置によつて家庭
裁判所から送致された者を收容する少年観護所は、本年一月一日から開設されたのでありますが、その実施に当つては、その施設を整備する時間的余裕がなかつたのと、予算的措置が十分にこれに伴わなかつたため、從來、仮委託少年を收容しておりましたところの少年院の出張所又は少年院の廳舎の一部を應急的に少年観護所の施設に充てたのであります。然るに、改正少年法の実施によりまして、從來は刑事事件として直ちに拘留処分に付せられるような惡質な犯罪少年が観護の措置によつて少年観護所に收容されることとなりましたため、少年観護所の收容施設は相当強固なものを必要とし、又、最近の少年犯罪の激増殊に惡質化は到底現在の收容施設では收容し切れない現状でありまして、これが施設の拡充強化を取急ぎ進めているのでありますが、それが整備するまでには多少の日時を要しますので、この際二十一條を改めまして、その施設の補充を図るため、昭和二十六年三月三十一日までの二ケ年間は、拘置監の特に区別した場所を少年観護所に充てることができるようにし、これには犯罪少年であつて逃走の虞れのあるものに限つて收容することといたしたのであります。以上の二点が改正の要旨であります。何とぞ愼重御審議の上、速かに、御可決あらんことを希望いたします。
次に少年法の一部を改正する
法律案の提案理由について、御説明申し上げます。
御承知の通り昨年第二國会において成立いたしました新少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)は本年一月一日から施行されたのでありますが、その運用の実績について檢討いたしましたところ、
少年院法、兒童福祉法及び本期國会に別に提案されました
犯罪者予防更生法案との間に、調整を要する点があり、又、少年保護事件の身柄の取扱、証拠品の処理、其の他について法の不備を補正する必要が感ぜられますので、これらの諸点に亙つて少年法の円滑な運用を期するために所要の改正をいたすこととしたのであります。
先ず改正の第一点は、
少年院法との関係においてでありますが、少年法第二十六條第一項の西定によりますと、家庭
裁判所が同法第二十四條第一項、其の他の規定によつてなした決定を執行する権限が、当の少年を現に收容観護している少年観護所又は少年院の職員である法務廳教官に与えられていないため、これら決定の円滑な執行に大きな支障を來しておりますので、本改正において、少年法第二十六條第一項の執行権者に「法務廳教官」を加える事といたし、後に述べます同法第二十六條の二の規定の新設と相俟つて少年の保護事件が家庭
裁判所から事後の執行機関へ極めて適切に移行できるように、その手續きを整えることを企図いたしたのであります。
改正の第二点は、兒童福祉法との関係においてでありますが、從來の少年法及び兒童福祉法の規定によりますと、家庭
裁判所と都道
府縣知事との権限は一応区別されておりますけれども、その規定が簡略に過ぎるためか、それが実際の適用におきましては、とかく紛淆を來たす虞れがあり、又相互の連絡に関する規定が十分でない憾みがありますので、この点を是正して兩者の権限をできるだけ明確に規定すると共に、両種機関について少年の健全な育成のために必要な相互の援助連携の方法を規定して置く必要があります。
そこで、十四歳に満たない少年は、本来刑法第四十一條の規定によりましても、明らかでありますように、刑事未成年者者でありますが、これを年齢的にみましても、その心身発育の過程から考へまして、十四歳以上の者とはおのずから、その取扱も別個に考慮する必要がありますから、少年法の対象となる少年でありましても、十四歳未満の者につきましては一応これに兒童福祉法の措置を優先的に適用するのが妥当であると思われますので、この度の改正におきまして、少年法第三條第二項を改正して十四歳未満のいわゆる虞犯召年だけに限らず「十四歳に満たないで刑罰法令に觸れる行爲をした少年」を加えたすべての十四歳未満の少年につきまして、家庭
裁判所は都道
府縣知事又は兒童相談所長から送致を受けて初めてこれを取扱うこととし、之に応じて同条第一項を整理して書き分けることといたしたのであります。
次に少年法第三条第一項中の從來の第二号本改正案による第三号のいわゆる虞犯少年中十四歳以上の者でありましても、事案によりましては、少年法によつて家庭
裁判所が直ちにこれを取扱うよりも、まず兒童福祉法の措置にゆだねるのが適当であると認められる者もありますので、少年法第六條第二項として、新にこれについての規定を設け、その具体的な事案について最も適切な判断のできる立場にある警察職員や保護者はさような少年を直接兒童相談所に通告する事ができる途を開くことといたしたのであります。これによりまして少年法及び兒童福祉法による一般人の家庭
裁判所及び兒童相談所に対する通告義務の混乱が相当大幅に整備される結果となるのであります。
かようにして兒童福祉法による都道
府縣知事又は兒童相談所長の権限は、少年法による家庭
裁判所の権限と明確に区別されることになりますが、一方兒童福祉法による措置においても極めて例外的ではありますが、対象兒童の行動の自由を制限し、又はその自由を奪うような強制的措置をとることが、その兒童の福祉のために必要であることがたまたまある場合も予想されるのでありますが、このような場合には、行政機関である都道
府縣知事又は兒童相談所長といたしましては兒童福祉法第三十三條及び第四十七條の規定により當然にその親權又は親権的措置の範囲として認められる場合を除き、それを越えて強制力を用いることができない関係にありますので、少年法第六第三項として新たな規定を設け、又同法第十八條を改正してこの点について必要最小限度に家庭
裁判所が児童福祉の措置に関与する道を開き児童の健全な育成をはかることといたしたのであります。尚これらの諸点にわたる少年法の改正に伴ひまして、児童福祉法におきましてもその第二十七條の二として、少年法第六條第三項に相応する規定を新たに設ける外、同法第二十五條乃至第二十七條について、両法律による手続相互の連絡につき、必要な改正を加える事となつておりまして、今期國会に別に提案されておりますからこの点申添えておきます。
改正の第三点は
犯罪者予防更生法案との関係においてでありますが、少年法第十七條第一項第二号の規定による身柄收容観護中の少年保護事件について家族
裁判所が処分を決定した場合にこれを地方少年保護委員会の保護観察に移し、その他の処置を適切円滑に取り運ぶためには、一時的に少年を引續き少年観護所に收容しておく必要のある場合がありますので、新たに少年法第二十六の二の規定を設けてその必要に応ずるほか、少年法と
犯罪者予防更生法案との用語の統一を図るために從來少年法中に第十三條、第二十四條、第二十六條等において「観察」「観察官」「保護委員」としてある表現を「保護観察」「保護観察官」「司法保護委員」と改めることといたしたのであります。
改正の第四点は家庭
裁判所が少年の保護事件について、処分を決定する場合に既に証拠品として領置されている兇器その他刑罰法令に触れる行爲の用に供したもの等、これを返還すると本人の將來に惡影響を及ぼす物を必要に応じて、適法に処分することができるようにするため新たに少年法第二十四條の二の規定を設けたのであります。
以上が改正の要点でありますが、その他少年法第十一條、第三十一條、第三十七條及び第四十七條中の一部を修正又は補足いたしまして、少年法の円滑な運営を期したいと思ふのであります。何とぞ愼重御審議の上速に御可決あらんことを希望いたします。
次に出版法及び
新聞紙法を廃止する
法律案の提案理由につき説明申上げます。
御承知の通り終戰直後におきまして、言論及出版の自由を抑圧していた一切の制限が取除かれたのであります。具体的に申しますれば、昭和二十年九月二十七日の連合國最高司令官の覚書によりまして、
新聞紙法を初め十二法令の覚書に牴触する條項の廃止が日本政府に命令されたのであります。よつて政府は、右のうち
新聞紙法を除き他の十一の法令に対してはそれぞれ同年十月中に正式に廃止の手続をとりました。ただ
新聞紙法につきましては、その規定の全部が少ずしも檢閲、発禁処分その他言論の自由を抑圧するものばかりでもありませんでしたので、当時内務省の司令部との間におきまして、
新聞紙法及び出版法はこれらに代るべき適当な法律が制定せられるまでその効力を停止して置き、その正式の廃止手続は暫くこれを見合せることとしていたのであります。因みに申しますが、出版法は前述覚書の中には列挙せられていませんが、その内容からして当然
新聞紙法と同列にこれを取扱うこととされたのであります。
併しながら
新聞紙法及び出版法の改正の問題はその後進展せず、そのうちに二十二年五月には出版に関する事務は文部省に引継がれ、又内務省は同年末を以て解体せらるるに至りました。尚一昨年刑法の一部分が改正されました際に、猥褻罪の罰の程度が高められ、名誉毀損罪に関する部分に從來の
新聞紙法及び出版法の中の規定の一部が取入れられたり、罰の程度が高められたりいたしましたので、今般政府といたしましては、
新聞紙法及び出版法を成規の手続を経て廃止し、以て覚書の趣旨の通りに結末をつけることとした次第であります。
法律案の法文自体は極めて簡單なものでありまして、説明の要もないかと存じますが、附則の中で予約出版法の一部を改正いたしていますので、この点について若干説明申上げたいと存じます。元來この予約出版法は言論、思想の自由を取締るための法律ではなくして、予約購読者ため一般國民を惡徳出版業者から行政的に保護することを目的とするものであります。從つてこの法律を廃止したり、或いはこれに対して実質的な改正を加えたりすることは、今後の研究問題であります。ただこの法律の中には出版法を引用している個所が若干ありますので、今回は出版法の廃止に伴つて当然加えられなくてはならない形式的な改正即ち字句の削除又は書替えをこの法律に対して行なつただけであります。何とぞよろしく御審議賜り速かに可決の運びに至ますよう御願いいたします。
次に只今上程に相成りました
檢察廳法の一部を改正する
法律案の提案理由を御説明いたします。
本案は、大別して三つの事項をその内容といたしているのでありまして、その第一は、
檢察廳法と國家公務員法との調整、第二は、國家行政組織法及び
法務廳設置法の一部を改正する法律の施行に伴う必要な整理、第三は、その他の改正であります。
先づ第一の点から御説明いたします。從來檢察官の任免につきましては、
檢察廳法第十五條第三項によりまして、一般の檢察官は、内閣が、二級の檢察官は、内閣総理大臣が、これを任免することとなつておりましたが、本年一月八日施行の人事院規則一―三によりまして、國家公務員法中第五十五條を始め、國家公務員の任免に関する規定の大部分が適用されることになりました結果、檢察官の任免につきましても
法務総裁がこれを行うことと相成つたのであります。然しながら、檢事総長、次長檢事及び檢事長につきましては、いずれも認証官であります関係上、これが任免は、内閣がこれを行うことを適当と認めまして、第十五條第一項を改正することによりその旨を規定し、その他の檢察官につきましては、國家公務員法の規定により
法務総裁がこれを任免するものとし、同條第三項はこれを削除し、且つ、これに伴つて、第二十三條の罷免の手続についても必要な改正を加えたのであります。次に、三級官吏の進退に関する権限の委任並びに檢察事務官、檢察技官の支部勤務命令に関する第三十條の規定は、國家公務員法第五十五條第二項の規定が優先する結果、既に何れも不要となりましたので、これを削除いたしました。而して檢察官は、その職責上、その任免につきましては、一般の國家公務員とはおのずからその取扱いを異にすべきものでありますので、檢察官の任免手続、任用資格等に関する規定を國家公務員法附則第十三條の規定による同法の特例といたしたのであります。
次は第二の点でありますが、これは本年六月一日から國家行政組織法及び
法務廳設置法の一部を改正する法律が施行される関係上、これに伴つて、從來政令で定めることになつていた檢察廳の職員の定員を法律で定めるものとした外「法務廳」とあるのを「法務府」に、「副檢事選考委員会」とあるのを「副檢事選考審査会」に、「檢察官適格審査委員会」とあるのを「檢察官適格審査会」に改める等の必要な整理を行つたのであります。
第三は、その他の改正でありますが、その一は、副檢事の任用資格に関する点であります。
檢察廳法第十八條第二項第一号によれば、副檢事は、高等試驗に合格した者で、副檢事選考委員会の選考を経たものの中からも、これを任命することができることになつているのでありますが、政府におきましては、只今高等試驗に代るべき試驗について
法律案を立案準備中でありまして、その法律が制定施行せられるに伴つて、この点を改正する必要がある譯でありますが、本案におきましては、本号の試驗は、司法修習生となる資格を得る試驗と同一であることを明らかにするために、これを「
裁判所法第六十六條第一項の試驗」と改めたのであります。その二は、檢察官適格審査会に予備委員を置く旨の規定であります。檢察官適格審査会の予備委員については、さきに
檢察廳法第二十三條第五項に基き、檢察官適格審査委員会令(昭和二十三年政令第二百九十二号)中にこれを規定いたしたのでありますが、これは委員会に関する重要な事項であり、且つ、國会議員については、國会法第三十九條により、内閣総理大臣その他の國務大臣、内閣官房長官、各省次官を兼ねる場合及び國会の議決に基いて内閣行政各部における各種の委員、顧問、参与その他これに準ずる職務に就く場合のほかは、法律で定めた場合でなければ、國又は地方公共團体の公務員を兼ねることができないことになつておりますので、これを法律により規定することを適当と認めたのであります。而して、本案におきましては、予備委員は、各委員に対照して置かれ、その資格は対照する委員と同一の資格を要するものとし、國会議員たる予備委員は、委員の場合と同樣にそれぞれ衆議院又は参議院において、これを選出するものといたしたのであります。
その三は、
檢察廳法施行の際、現に弁護士試備たる者で一年六ケ月以上の実務修習を終え考試を経たものを、その考試を経た時に司法修習生の修習を終えたものとみなす旨の規定であります。これは
檢察廳法施行の際弁護士試補であつた者一四九名中現在までに修習を終えた者が一二八名あり、その中には檢事を志望している者もありますので、
裁判所法施行令第十條第二項の規定にならつて、規定いたしたものであります。その四は、外地弁護士に檢事たる資格を付与する規定であります。御承知の通り、
裁判所構成法により、三年以上弁護士たる者は、檢事たる資格を有することになつてをり、その結果これらの者については、
檢察廳法第三十七條第一項の規定により檢事たる資格を得た時に司法修習生の修習を終えたものとみなされるのでありまいか、弁護士たる資格を有する者が、三年以上外地弁護士をしていた場合、又は内地外地の弁護士在職を通じて三年以上になる場合にも、右と同一の取扱をし、又弁護士たる資格を有する者が、朝鮮弁護士令による弁護士試補として一年六ケ月以上の実務修習を終えた場合には、内地の弁護士試補として一年六ケ月の修習を終えた者と同一の取扱をするのを相当と認め、判事補の職権の特例に関する法律第三條の規定にならつて、これを規定したものであります。
以上御説明致しました通り、本案は、國家公務員法及び國家行政組織法の施行並びに
法務廳設置法の一部を改正する法律の施行に伴い、必要な整理を施しますと共に、檢察官適格審査会に予備委員を置き、且つ、檢察官の任用資格に関する規定を整備するためのものでありまして、いずれも檢察機関を整備充実せしめるため重要な規定でありますから、何とぞ愼重御審議の上速かに可決せられんことを希望する次第であります。
次にただ今議題となりました司法試險法案について提案の理由を御説明いたします。
これまで裁判官、檢察官、弁護士等の法律專門家は、高等試驗令による高等試驗司法科試驗に合格した者が司法修習生又は弁護士試補として実務修習をして、これになることを原則としていたことは、御承知の通りであります。ところが國家公務員法の改正によつて高等試驗令が廃止せられ、高等試驗司法科試驗の制度は昨年末でなくなりましたので、これに代るべき試驗制度を早急に定める必要があるのでありまして、ここにこの
法律案を提出いたした次第であります。
法案の内容について簡單に御説明いたしますと、この試驗は、法律專門家として必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする國家試驗でありまして、これを第一次試驗と第二次試驗に分ち、第一次試驗は、第二次試驗を受けるのに相当な教養と一般的学力を有するかどうかを判定することを目的とし、学校教育法に定める大学卒業程度において一般教養科目について筆記の方法によつて行うことにいたしたのでありまして、從前の高等試驗予備試驗のごとくその受驗資格を制限しないこととすると共に、試驗科目の範囲を広めることといたしたのでありますが、その具体的な細目は後に述べる司法試驗管理委員会規則で定められることになろうと存じます。そしてその第一次試驗は、学校教育法に定める大学において、学士の称号を取得するのに必要な一般教養科目の学修を終つた者、旧高等学校令による高等学校高等科、旧大学令による大学予科、又は旧專門学校令による專門学校を卒業又は修了した者、旧高等試驗令による高等試驗予備試驗に合格した者、又は弁護士法第三條の試驗の受驗資格の特例に関する勅令の規定等によつて高等試驗予備試驗の免除を受けていた者等に對しては第一次試驗を免除することとしたのであります。第二次試驗は、法律專門家として必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とし、第一次試驗に合格した者又はその免除を受けた者について筆記及び口述の方法によつて行うこととし、筆記試驗は、憲法、民法、刑法、民事訴訟法及び
刑事訴訟法の五科目の外、商法及び行政法のうち、受驗者が予め選択する一科目、商法、行政法(既に選択した場合を除く。)、破産法、労働法、國際私法及び刑事政策のうち、受驗者が予め選択する一科目、合計七科目について行い、また、口述試驗は、筆記試驗に合格した者について憲法、民法、刑法、民事訴訟法及び
刑事訴訟法の五科目について行うものでありまして、これらの試驗科目を從前の高等試驗司法科の試驗試目に比べますと、筆記試驗、口述試驗ともに受驗者にとつてやや負担が重くなつておりますが、健全な法律專門家養成のためにはこの程度の負担加重は必要止むを得ないものと信ずるのであります。尚、司法試驗は、毎年一回以上行うこととし、その期日及び場所は、予め官報を以て公告することにしたのであります。
次に司法試驗に関する事項を管理する機関といたしましては、司法試驗が法律に関する学力檢定の國家試驗たる性質に鑑み、政府の法務統轄機関たる
法務総裁の所轄とし、その所轄の下に司法試驗管理委員会を置き、委員会は、
法務総裁官房長、最高
裁判所事務総長及び
法務総裁が弁護士会の推薦によつて任命する弁護士一人の三人で構成し、委員長は委員の互選に基き、
法務総裁が任命することにしました。そして別に委員会に
法務総裁が法律学者や法律実務家等の中から委員会の推薦に基き試驗ごとに任命する司法試驗考査委員を置き、司法試驗はこの委員に行わしめ、合格者の決定もこの委員が行うこととしたのであります。尚、委員会の庶務は
法務総裁官房においてこれを掌るものとし、この試驗の施行に必要な細則その他委員会がその職務を行うのに必要な事項については、委員会が、司法試驗管理委員会規則を制定することができることといたしたのであります。尚、この法案におきましては、司法試驗の合格者に対する合格証書の授与、不正受驗者に対する処分及び受驗手数料等について規定を設け、附則においては、この法律の施行に必要な経過規定を定めてありますが、これらについては別段の御説明をいたすまでもないと存じます。全体としてこの法案は、成るべく從前の高等試驗司法科試驗の例に做つて、不当の混乱を避けるように努めたのであります。以上甚だ簡單でありますが、この法案の大要について御説明申し上げました。何とぞ愼重御審議の上、速かに御可決あらんことをお願いいたします。
次にただ今議題となりました
下級裁判所の設立及び
管轄区域に関する法律(昭和二十二年法律第六十三号)の一部を改正する
法律案につきまして提案の理由を御説明申し上げます。
この法律は、憲法第七十六條第一項及び
裁判所法第二條第二項の規定に基き、
高等裁判所以下の
下級裁判所の設立及び
管轄区域につき規定したものでありまして、昭和二十二年四月法律第六十三号を以て制定公布せられ、同年七月法律第八十九号、昭和二十三年十二月法律第二百三十三号を以てそれぞれその一部が改正されたのでありますが、今回更に次のような改正を要することになりましたのでこの
法律案を提出いたしました。即ちその改正の第一点は簡易
裁判所の増設であります。
簡易
裁判所は
裁判所法の制定に伴い全國に五百五十九個所設置されたのでありますが、この
裁判所は直接社会の治安確保に任ずる第一線の
裁判所でありまして國民の利害に関係するところが極めて多いにも拘わずその数が十分でなく、その後、その増設方につき全國各地より熱心に國会その他に請願や陳情がありまして、その数は二十数ケ所に及んで居るのであります。政府といたしましは、最高
裁判所とも協議を遂げこのうちさし当り次の六個所即ち岐阜
地方裁判所管内の岐阜縣武儀郡関町、廣島
地方裁判所管内の廣島縣賀茂郡西條町、岡山
地方裁判所管内の兒島市、鳥取
地方裁判所管内の鳥取縣郡美郡浦富市、山形
地方裁判所管内の山形縣東置賜郡赤潟町及び松山
地方裁判所局内の新居浜市にそれぞれ簡易
裁判所を設置せんとするものでありまして、この予定
管轄区域内の事件数及び交通状況等より新設場所として最も適当と存ずるのであります。
第二点は土地の状況及び交通の便否等に鑑み簡易
裁判所の
管轄区域を是正することであります。即ち宇都宮簡易
裁判所管内の栃木縣上都賀郡西方村外五村を栃木簡易
裁判所の管轄に変更いたしますことと、尾道簡易
裁判所管内の廣島縣沼隅郡山南村と福山簡易
裁判所の管轄に変更せんとするものでありまして、これらの変更はいずれも地元市町村及び関係官公署並びに地元弁護士会の意向等を充分参酌して最高
裁判所とも協議の上決定したものであります。
更に第三点は
裁判所の
管轄区域の基準となつた市町村その他の行政区画に変更のあつたことに伴いこの法律の別表を訂正する点であります。即ち從前の市、町、村が合併又は分離してあらたに市、町、村ができ、また、市町村の一部が他の市町村に編入せられる等
裁判所の
管轄区域の基準となつた行政区画に変更のあつたもの等についてこの法律の別表の記載を訂正しようとするものであります。
以上誠に簡單ではありますが、この
法律案の要点について御説明申し上げました。何とぞ愼重御審議の上速かに御賛同を賜わらんことを希望いたします。
次に只今上程に相成りました
犯罪者予防更生法案の提案理由について、御説明申上げます。
最近、犯罪が激増し、そのため國民の生活が脅かされ、國家再建の障害となつていることは、御承知の通りであります。一方、刑務所その他の矯正施設は、極度の過剩拘禁の状態にあり、そのため、多数の犯罪者が社会に放出せられ、而もこれに対する保護監督の制度が整つていないので、これらの者は、常習犯罪者の群に顛落して、社会不安を増大しつつあるのであります。併しながら、犯罪者を盡く刑務所その他の矯正施設に收容することは、財政的に收容費、増築費その他の莫大な國費を必要とするのみならず、再犯防止の効果から見ましても、決して良策と申すことはできないのであります。そこで現下の犯罪対策といたしましては、財政上及び効率上の見地から、犯罪者を社会において保護監督し、これによつてその更生を促し、再犯を防止することに重点を置かなければならないのでありまして、ここに犯罪者予防更生制度を確立する必要があるのであります。即ち保護観察を中心とする犯罪者予防更正法の制定施行は、刑の執行猶予、行刑、仮出獄並びに少年保護の各制度の欠陷を是正し、現下の社会不安を緩和して、國家再建の要件を確立するため、必須緊急の要務であると存じます。
この法案の目的といたしますところは、具体的に申しますと、先ず第一に、保護観察の實施によりまして、犯罪をした者の改善及び更正を助けること、第二に、恩赦の適正な運用を図ること、第三に、社会正義及び犯罪予防の見地から、仮釈放、刑の執行猶予その他の関係制度の公正妥当な運用を図ること、最後に、犯罪予防の活動を助長することでありまして、この四つを目標として、犯罪を鎭圧し、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進するため、犯罪対策を確立せんとするものであります。その機関といたしましては、中央に、法務府の外局として中央更生保護委員会を置き、この中央更正森護委員会の地方支分部局として、各
高等裁判所の所在地に、それぞれ地方少年保護委員会及び地方成人保護委員会を置き、各委員会には、それぞれ事務局を附置することになつております。現在の法務廳の成人矯正局、少年矯正局及び檢務局恩赦課の一部は、中央更生保護委員会の事務局に吸收せられることになつております。尚地方の実施機関といたしましては、さらに、各
地方裁判所の所在地に少年保護観察所及び成人保護観察所を置くのでありますが、これは、現在の少年審判所━これは、家庭
裁判所の設置後、暫定的に存続している少年保護機関でありまして、各
地方裁判所の所在地に本所又は支所がありますが――この少年審判所と、現在各地方檢察廳の所在地にありますところの司法保護委員会とに、それぞれ代るものであります。即ち現在の少年審判所は少年保護観察所になり、現在の司法保護委員会は成人保護観察所となる構想であります。
保護観察に付されるべき者は、少年法により家庭
裁判所から送致せられた者、少年院(旧法の矯正院)から仮退院中の者、仮出獄中の者及び刑の執行猶予の言渡と同時に保護観察に付する旨の言渡を受けた者の四種類であります。保護観察におきましては、本人に対して遵守事項を定め、これを指導監督し、且つ、必要な補導援護を与えることになつております。若し、本人がこの遵守事項を遵守しなかつた場合には、仮出獄、及び刑の執行猶予の処分は、取り消すこともできるようにいたしまして、本人の更生を確保することといたしております。仮出獄及び仮退院の審査及び許可につきましては、本人の更生のためにも、社会の保護のためにも、愼重を期する必要がありますので、これについては、特に各地方委員会が愼重に行うことになつております。尚、この保護観察の制度を確立しまするためには、刑法、
刑事訴訟法及び監獄法の関係條項について改正を加える必要がありますので、これについては、別途御審議を願うことにいたしております。
次に恩赦に関する事項でありますが、恩赦法による恩赦が、公正に、行われるのみならず、本人の更生を促進する見地からも適正に行われるようにすることを目的といたしまして、中央更生保護委員会は、恩赦の実施及び恩制赦度の改善について常に調査研究を行うものとし、個別的な恩赦の申立に関する事務も、この委員会が行うことといたしております。
最後に、犯罪予防活動の助長であります。只今御説明申上げました保護観察その他の更正の措置も、もとより犯罪防止の目的を以て行うものでありますけれども、更に、一般的に犯罪者の発生を予防するため、科学的な調査研究を行い、世論を啓発指導する等必要な事項についても、この法律案によつてその具体化を期しているところであります。以上申述べましたように、この
法律案は、現下の犯罪問題解決のため必要な措置に関する重要な規定を含んでいるものでありまして、犯罪対策の確立上重要な意義を有するものと信じている次第であります。何とぞ愼重御審議の上速かに御可決あらんことを希望いたします。
次に只今上程になりました犯罪者予防更生法施行法案の提案理由について御説明申上げます。
先に上程されました
犯罪者予防更生法案が成立しました場合、これを施行するにつきましては、この運用の適正を図るために、同法中二、三の事項について経過的規定を設けると共に、関係の深い法令について若干の改正を行う必要がありますので、それらの事項を取り纒めまして、犯罪者予防更生法施行法案として提案いたした次第であります。
この施行法案の内容について申しますると、第一は、予算上の観点からの暫定的措置であります。
犯罪者予防更生法案によれば、同法の施行は本年七月一日からでありまするが、本年度におきましては、同法に規定する中央更生保護委員会の委員の定数を同法の規定の通り五人とすること、各家庭
裁判所の所在地に少年保護観察所を設置し各
地方裁判所の所在地に成人保護観察所を設置すること、並びに、仮出獄又は仮退院を許す場合に地方少年保護委員会又は地方成人保護委員会の委員が個個に面接をすることは、いずれも、予算の関係上実施困難な事情がありますので、この施行法案において、これらの事項について、昭和二十五年三月三十一日までを限り、同法の趣旨に副いつつ別途適当な措置を講ずることといたしたのであります。
第二は、委員の任期に関する点であります。
犯罪者予防更生法案によりますると、中央更生保護委員会、地方少年保護委員会及び地方成人保護委員会の委員の任期は、いずれも五年となつておりますが、任期滿了の場合に全部の委員が同時に更新することは委員会の円滑な運営に支障を生ずる虞がありますので、これを防止するため、同法施行後最初に任命される委員については、その任期に長短の差を設けることといたしました。
第三は、保護観察の対象に関する規定であります。犯罪者予防更生法施行の際に、從來から少年法の規定により観察中の者、仮退院中の者、仮出獄中の者等に対しては、保護観察を行うことが相当と考えられまするので、施行法案ではその趣旨の規定を設けたのであります。
第四は、関係法律の改正であります。犯罪者予防更生法の施行に伴いまして、刑法、
刑事訴訟法、監獄法、恩赦法、少年法、
少年院法及び特別職の職員の俸給等に関する法律の一部改正を必要とするのでありますが、このうち、刑法と
刑事訴訟法の改正はそれぞれ別途の法律によることといたしまして、この施行法案においては、監獄法、恩赦法、少年法、
少年院法及び特別職の職員の俸給等に関する法律のそれぞれ一部を改正する規定を設けました。このうち、少年法及び
少年院法の改正は、いずれも、犯罪者予防更生法が施行されるまでの間のために暫定的に設けられていた規定を、削除するものであります。第五は、犯罪者予防更生法の施行と同時に現存の少年審判所を廃止しその廃止の際少年審判所の職員の職にある者が、直ちに新法の下における職務に從事し得るようにする規定を設けたことであります。以上申述べましたように、この施行法案は、犯罪者予防更正法を円滑に施行し、同法の目的を達成するために、必要欠くべからざる規定を設けたものであります。何とぞ愼重御審議の上、速かに可決あらんことを希望します。
次に只今上程となりました、
人権擁護委員法案の提案理由について、御説明申し上げます。
申すまでもなく、國民の基本的人権を擁護し、その伸暢を図ることは、新憲法の高く掲ぐる目標であります。この憲法の目標を実現することは、実に國家が担う最も基本的なる職務でありまして、これがために、今日まで種々樣々なる施策が採られて参りました。この國民の基本的人権の擁護ということは、極めて面の広い問題でありまして、考え樣によりますれば、國家のなす一切の施策は、これに直接間接に関係しているのであります。
刑事訴訟法、少年法等の改正は、その主なるものの一つでありますが、これ等の施策の外に御承知の如く直接人権の擁護を目的とする國家の官廳組織として人権擁護局が当廳に設けられているのであります。
人権擁護局は、官公吏又は一私人より個人の基本的人権が侵犯された場合、その救済のために適切なる措置を採ることを職務とするものでありまして、その局の下に
法務廳設置法第十三條に基き、昭和二十四年政令第百六十八号により、全國に百五十人の人権擁護委員を設け、同局の人権擁護の事務を補助せしむることといたしたのであります。この委員はすでに概ね発令を了し活動して頂いているのであります。然るに今回の
法務廳設置法の一部を改正する
法律案においては、國家行政組織法との関係上、現行の第十三條を削除することになりましたので、人権擁護委員については、是非ともその設置の根拠に関する法律を新たに制定することが必要となつたのであります。この理由の外に、何分にも人権擁護という事務は、全國津々浦々に亙つて存在し且つ極めて種類の多いものでありまするから、僅か百五十人の委員を以てしては、充分にその目的を果すことはできません。そこでこれを相当数増加し、全國に亙り、あまねく設置し得るようになすことが必要と思われるのであります。その上人権擁護委員の事務は、人権侵犯事件の調査、勧告その他その救済につき必要な措置を講ずることでありますから、これを法律上明確に定めて委員の職務内容を明らかにすると共に、その遵守すべき義務を定めてその運用に遺憾なきを期す必要があるのであります。これが本法案を提出する理由であります。
法案の内容について概略的に申上ぐれば、法案は、委員の設置区域、選任、定員、職務、任期、服務上の注意、その監督、解職及び人権擁護委員協議会、都道府縣同連合会その他所要事項について規定を設けております。その重要なる規定について、簡單に御説明すれば、この委員はその職務に鑑み、各市町村の区域ごとに置くこととし、その数は、全國を通じ二万人を越えない範囲で
法務総裁が定めるものといたしました。その選任は
市町村長が、その市町村議会の意見を聞いて推薦した定員の倍数の者の中から、
法務総裁が都道
府縣知事、弁護士会等の意見を聞い、て委嘱することに致しております。
この委員の性格について最も問題となるのは、これが國家公務員に属するや否やの点でありまするが、この点について法案は、委員には、國家公務員法は適用されないということにいたしました。これは、この委員は、実社会に活動しておられる方々に御願いし、その日常の仕事の傍ら、これと共にやつて頂くことになりまするから、これに國家公務員法を適用することは、相当でないと考えたからであります。然し、國家公務員法の適用はありませんが、委員は刑法上はもとより公務員であり、涜職罪、公務執行妨害罪等の各関係罰條の適用があるものと解します。委員は、給与の支給は受けませんが、実際の費用の弁償は求めることができます。委員の任期は、二年であり、その職務は、自由人権思想の啓蒙宣傳、人権侵犯事件の調査その他人権擁護局の事務を補助せしむると共に、又独立的にその種のことをなすことであります。委員の服務上問題となりますのは、それと政治上その他の社会的活動の関係でありまするが、この点については、委員は、その職務上の地位又はその職務の執行を、政党又は政治目的のため利用してはならなく、又その職務を公正に行うのにふさわしくない事業に関係してはならないということに規定いたしました。委員はもとより、
法務総裁の監督を受けることとし、
法務総裁は、委員が職務上の義務に違反した等の場合は、本人の弁明を開き、人権擁護委員協議会連合会の意見を聞いて解嘱し得ることといたしました。
委員の事務の調整、連絡、研究その他必要なることを行うために、大体從來の郡單位に人権擁護委員協議会を設け、更に都道府縣ごとに、その協議会の連合会を設け、人権擁護活動の活溌化と組織化を図りました。これらの会の内部組織については命令で定めることといたしました。
何とぞ愼重御審議の上速かに御可決あらんことを御願いいたします。
次に只今議題となりました
裁判所法等の一部を改正する
法律案の提案理由を御説明申上げます。
この法案は、
裁判所法と裁判官及びその他の
裁判所職員の分限に関する法律の一部を改正せんとするものであります。
裁判所法については、
裁判所書記の制度、司法修習生の採用、補充裁判官の員数並びに司法研修所教官及び
裁判所調査官の任用につき若干の改正を行い、裁判官及びその他の
裁判所職員の分限に関する法律については、裁判官以外の
裁判所職員の分限につき、若干の改正を行おうとするものであります。以上この法案の要点を御説明いたします。
第一は、
裁判所書記制度の改正の点であります。
裁判所書記は、現行法では
裁判所事務官の中から補せられることとなつておりますが、
裁判所事務官は、本來司法
行政事務を掌るものであるに反し、
裁判所書記は法廷に立会い、
裁判所の事件に関する記録、その他の書類の作成及び保管その他民事訴訟法、
刑事訴訟法等に定める事務を掌り、執務に際しては、職務上の独立を認められているものでありまして、司法
行政事務を担当する
裁判所事務官の職務内容とは全く異なつているのでありますから、
裁判所事務官を
裁判所書記に補する現行制度は、國家公務員法が採用しているキヤリヤーシステム(閲歴制度)と根本的に相容れないものがありますので、この点に関する現行法第六十條を改正して
裁判所事務官を
裁判所書記に補する制度を廃止し、新たに
裁判所に
裁判所書記官及び
裁判所書記官補を置くものとしました。
裁判所書記官は現在の
裁判所書記の職務をその職務内容とし、一応旧來の敍級制度に從い、一級、二級及び三級の三階級を定めました。民刑兩訴訟法の改正により、訴訟は民刑共公判中心主義と相成りました結果、公判手続の複雑化は延いて
裁判所書記(改正法の
裁判所書記官)の事務を質的に重要且つ困難ならしめ、又量的にも繁忙ならしめることとなつたのであります。そこで各
裁判所を通じて一定員数の二級及び三級の
裁判所書記官補を置いて、
裁判所書記官の事務を補助させることといたしたのであります。第六十條の二の規定がこれであります。從いまして、この
裁判所書記官補の新設は
裁判所書記官の地位を現在の
裁判所書記のそれに比し一段高いものとしたのでありまして、
裁判所書記として相当年限の総歴を有し且つ成績優秀な者のみが一定の任用試驗を経て、
裁判所書記官に任ぜられるようにいたしたいのであります。從つて、現在
裁判所書記たる者が、若し本法により任命されるとすれば、大部分、はこの
裁判所書記官補に任ぜられる建前になるのであります。附則第二項の経過規定は、この観点より立案されたのであります。以上の次第でありますから、
裁判所書記官の充実は即時には期待できず、差し当りは若干の欠員が予想されますので、本法施行後
裁判所書記官が充員せられ、
裁判所書記官の事務が本格的にも軌道に乘るまで、
裁判所書記官の職務の澁滯を避けるため、当分の間
裁判所書記官補として
裁判所書記官の職務を行わせることができる措置を附則第三項で規定したのであります。次に、第六十五條の勤務
裁判所の指定に関する改正規定は、右申述べました第六十條及び第六十條の二の改正規定に伴う当然の改正でありまして御説明するまでもないと存じます。
第二は、司法修習生の採用の点であります。司法修習生は、現行法では高等試驗司法科試驗に合格した者の中から、最高
裁判所が採用することとなつて居りますが、國家公務員法の改正により旧高等試驗令が廃止となり、高等試驗司法科試驗の制度は、昨年末で消滅いたしましたので、これに代る試驗制度を定める必要があります。そこで政府は別に
司法試驗法案を國会に提出いたしましたが、これに對応して司法修習生は、この司法試驗に合格した者の中から最高
裁判所が採用することといたしたのであります。
第三は、補充裁判官の員数の増加の点であります。合議体の
裁判所の長期間に互る審理を円滑ならしめるために設けられました補充裁判官の制度は、現行法ではその員数を一人に限つて居りますが、近時極めて長期間の審理を予想される事件が出て参りまして、一人では折角補充裁判官を置いた趣旨に副わない場合も予想されますので、員数を一人以上にすることができるように改め、合議会の員数の範囲内に制限することにしたのであります。
第四は、司法研修所教官又は
裁判所調査官の任用の点であります。司法研修所教官又は
裁判所調査官は、その職務の性質上裁判官又は檢察官の経驗のあるものを以て充てることを必要と存ずるものでありますが、現在裁判官又は檢察者から司法研修所教官又は
裁判所調査官への轉官が極めて困難な実情にありますので、當分の間、特に必要がある場合に限り、裁判官又は檢察官をしてその他位にありながら司法研修所教官に、又裁判官をしてその地位にありながら
裁判所調査官に充てることができる道を開いたのであります。
第五は、裁判官以外の
裁判所職員の分限に関する改正の点であります。裁判官及びその他の
裁判所職員の分限に関する法律第十四條は、旧官吏懲戒令と相俟つて裁判官以外の
裁判所職員の分限及び懲戒に關し、規定したものでありますが、國家公務員法の改正及び官吏懲戒令の廃止により、裁判官及び最高
裁判所裁判官の秘書官以外の
裁判所職員は、一般職として同法が全面的に適用されることとなり、その懲戒手続等を特別に設けて置く必要がなくなりましたので、これを削除することといたしたのであります。從つて、この法律は、同條の削除によりその内容は、裁判官の分限に関する規定のみとなりますので、その題名を「裁判官分限法」と定めた次第であります。
第六は、施行期日の点でありますが、
裁判所書記より
裁判所書記官及び
裁判所書記官補への移行には相当の準備期間を必要としますので、
裁判所書記制度の改正に関する部分は、この法律公布の日から起算して三十日を経過した日から施行することといたし、その他の部分は、公布の日から施行することといたしたのであります。
最後に、附則第四項で他の法令中「
裁判所書記」とあるのはすべて「
裁判所書記官」と読み替えるようにいたしまして、
裁判所書記官の職務の執行に遺憾なきようにいたしたのであります。以上を以て
裁判所法等の一部を改正する
法律案の大要の説明を申上げました。何とぞ愼重御審議の上、速かに可決せられんことをお願いいたします。
次に只今上程に相成りました
刑事訴訟法の一部を改正する
法律案の提案理由について御説明いたします。本案は、大体三点から成るものであります。
第一点は、家庭
裁判所の開設に伴う改正であります。御承知のように、家庭
裁判所は、本年一月一日から発足し、家庭に関する事件の審判及び調停並びに少年の保護事件の外、一定種類の成年の刑事事件の第一審裁判をも行うことになつているのでありまして、この刑事事件の裁判については、當然
刑事訴訟法が適用されることになるのであります。ところが、
刑事訴訟法は、家庭
裁判所がこの種刑事事件を取扱うことを予想して制定されていなかつたので、家庭
裁判所における刑事裁判の円滑なる運用を図るためには、
刑事訴訟法に若干の改正を加える必要があるのであります。即ち、家庭
裁判所の裁判官が忌避された場合の裁判に関する規定、家庭
裁判所における特別弁讓人の選任に関する規定、事実の取調、勾引、押收、捜索、証人尋問などの嘱託は、
地方裁判所又は簡易
裁判所の裁判官の外、家庭
裁判所の裁判官に對してもすることができる旨の規定、勾引状又は勾留状の執行の指揮は、急速を要する場合には、
地方裁判所又は簡易
裁判所の裁判官の外、家庭
裁判所の裁判官もすることができる旨の規定、執行猶予の言渡の取消の請求は、
地方裁判所又は簡易
裁判所の外、家庭
裁判所に対してもすることができる旨の規定、家庭
裁判所の第一審判決に対しては控訴することができる旨の規定並びに家庭
裁判所の裁判官のした裁判の取消又は変更の請求に対する決定は合議体でしなければならない旨の規定などを整備することでありまして、いずれも、関係條文に家庭
裁判所という字句を加えることなどにより、簡單にその目的を達することができるものであります。
第二点は本國會に提出しております「刑法の一部を改正する
法律案」に関連する改正でありまして、この法案によれば、
裁判所は懲役又は禁錮刑につき、其の執行を猶予する場合に必要と認めたときは、その刑の執行期間中、被告人を遵守事項を定めて保護観察に付することができることといたし、且つ、保護観察に付された者が遵守事項を守らなかつたときは、刑の執行猶予を取消し得ることにいたしておりますので、かかる保護観察に付する旨の裁判の言渡につき、又刑の執行猶予の取消手続について必要な規定を刑事請訟法中に加えたものであります。即ち同法第三百三十三條を改正いたしまして、刑の執行を猶予し、被告人を保護観察に付する場合には、その裁判は判決を以て、刑の執行猶予の判決の言渡と同時に言渡すべきものといたし、そのことを規定いたしました條項を同法第三百三十三條の第三項として新たに加えたのであります。次に第三百四十九條の改正は、從來刑の執行猶予取消の原因は刑法第二十六條に規定してありますように、新たに刑に處せられた場合、又は前に他の罪に付き刑に處せられたことが發覺した場合等、比較的明瞭な事項でありますので、
裁判所は被告人及び檢事の意見を聽いた上、決定で直ちにその取消の裁判をいたしたのでありますが、今度刑法の改正によりまして、先に申しましたように新たに保護観察の期間中遵守すべき事項を遵守しなかつたことを、執行猶予取消の原因といたしましたので、果して執行猶予を受けた者が遵守事項を守らなかつたかどうかについては、
裁判所は愼重に事實の取調をした上で判斷をする必要がありますので、必ず公開の法廷で、原則として、被告人及び檢事の兩当事者を出席せしめて事実の取調をなすことにいたし、且つ、被告人はその場合弁護人を選任し得ることにいたしたのであります。又從來は執行猶予の取消決定に対しては、即時抗告をなし得るのでありますが、即時抗告の期間は三日と法定されているのでありまして、前述の如く從前と異りまして、今回の改正によつて保護観察期間中の遵守事項を守らなかつたことを理由として取消決定がなされるようになりますと、被告人が取消決定があつたことを知らず、從つて被告人の知なぬうち取消決定が確定して仕舞うというような場合もあり得るのでありまして、これでは被告人に対し酷に失しますので、取消決定に対しては普通抗告をなし得るものとすると共に、その期間を控訴の期間と同様十四日とし、且つ、期間の計算は、被告人が取消決定のあつたことを知つたときから起算いたすことにいたしました次第であります。尚第三百五十條の改正は、第三百四十九條、第二項、第三項及び第四項が新たに加えられましたことに基く整理のための改正であります。
第三点は、その他の改正でありまして、或いは解釈を明らかにし、或いは不備を補正し、或いは不要の規定を削るものであります。
このうちで、先ず、御留意を願いたいのは、第二百十八條の改正であります。これは、身体の拘束を受けている被疑者については、特別の令状がなくても、指紋の採取などをすることができることを明らかにしたものであります。
刑事訴訟法上、被疑者が身体の拘束を受ける場合としては、第百九十九條のいわゆる通常の逮捕、第二百十條のいわゆる緊急逮捕、第二百十三条のいわゆる現行犯逮捕、第二百七條のいわゆる起訴前の勾留が主なものであります。而して、これらの場合には、これら逮捕行爲などの附随処分として指紋の採取、その他本改正條文に掲げてある程度の処分は、被疑者の同一性を識別するなどの目的のためには、當然なし得るものと解しえられるのでありますが、なお、疑義の起きる余地のないように、この際、明文をもつてこれを明らかにして置くのを相当と認めた次第であります。次に、第五十五條第三項の改正でありますが、同項の規定は、期間の末日が日曜日、一月一日、二日、四日、十二月二十九日、三十日、三十一日又は一般の休日として指定された日にあたるときは、これを期間に算入しないことになつているのでありまして、これは旧
刑事訴訟法の規定をそのまま踏襲したものであります。そしてこの規定のうち一月一日、二日、四日となつていますのは、從前は、一月三日及び五日が一般の休日になつておりましたので、四日を休日に準じて取扱うことは意味があつたのでありますが、國民の視日に関する法律が實施されました今日におきましては、一月三日及び五日は、いずれも國民の視日になつておりませぬので、四日を特に掲記する意味がなくなつたのであります。しかし一月三日は、國民の視日にひ指定されておりませぬが、一般官廳の休暇日に指定されており、國民生活の現実においても正月三箇日の一日として特別の意味をもつていますので、この際、一月三日を休日に準じて取扱うことといたし一月四日を一月三日に振り替えたのであります。尚、第九十七條第一項に「勾留の期間の更新」の規定、第四百二十九條第一項第二号に「保釈」と規定を加えたのは、本來かくあるべきであつた不準を補正したものであります。また第四百六十八條第二項後段の「この場合には、第四百六十三條但書の規定を準用する」旨の規定を削つたのは、先に、第四百六十三條但書を削る改正をしたのに伴う整理に過ぎないのであります。以上で大略でありますが、提案理由の御説明を終ります。何とぞ愼重御審議の上、速かに御可決あらんことを御願いいたします。
次に只今上程になりました民法等の一部を改正する
法律案の提案理由を御説明申し上げます。
先ず第一條は、民法を改正する規定でありますが、その第一は、第三百六條中第二号と第三号とを入れ替えることであります。現行民法では第二号に「葬式ノ費用」第三号に「雇人ノ給料」と定めてありますので、この兩者が競合する場合には、民法第三百二十九條の規定に從い、債務者のために葬式の費用を拂つた者が雇人の給料を先んじて弁済を受けられるわれであります。併ながら、葬式に費用は飽くまでも個人的なものであり、もともと本人の家族又は縁者が負担すべきものであつて、且つ、商法第二百九十五條によりますと、会社の使用人の給料の先取特権については、葬式の費用に優先せしめているのでありまして、この商法の規定との釣合いから申しましても会社の使用人以外の雇人の給料の先取特権の順位は当然勤労者の生活確保の見地から会社の使用人の給料と同一の順位といたしその債権を保護すべきものと考えますので順位の変更を規定した次第であります。
第二は、第三百八條を第三百九條とし、第三百九條を第三百八條とする件でありますが、第三百條乃至第三百十條は第三百六条の第一号乃至第四号の順を追うて規定してあり第二号と第三号を入れ替えました關係上、法文の体裁を整える意味に於て、第三百八條と第三百九條とを入れ替えた次第であります。次に入れ替えた後の第三百八條の改正でありますが、本條は雇人給料の先取特権は、最後の六ケ月間の給料につき存することを規定し、但書に於てその金額は五十円を限度としたのであります。雇人給料の先取特権を認めて勤労者の生活を保障しようとする趣旨は明らかなのでありますが、この條項は明治二十九年民法制定以來一度も改正されていませんので、時代の変轉に伴い、この規定の意義は無用と申すより、むしろ立法の趣旨に副わないので、勤労者保護の目的は全然達せられていないのであります。この故に但書を削り、金額の制限を設けないことにいたしたのであります。先に申しました商法第二百九十五條の規定には、会社に対する使用人の給料の先取特権につきましては、金額に制限をいたしておらないのでありまして、この均衡から申しましても、但書を削るのが相当と考えたのであります。
次に第二條は民事訴訟法を改正する規定でありますが、現行民事訴訟法第五百七十條第一項第六号は有休産休に対する強制執行につき官吏、神職、僧侶、公立私立の教育場教師の職務上の收入、又は恩給についてのみ差押禁止物として保護しておりますが、工員その他雇人等の勞務者が受ける報酬その他の收入を除外する理由はなく、當然保護されて然るべきものと考えますので、第六号を改め官吏、神職等の職務上の收入の外、工員、勞務者、雇人等の給料等をも差押禁止物に指定して、これを保護しようとする趣旨であります。
終りに附則について御説明いたします。この改正條項は前に述べました勤勞者の生活擁護の目的を持つものでありますから、その実施は急を要するものと認めまして、公布の日からこれを実施することといたした次第であります。何とぞ愼重御審議の方速かに御可決あらんことを御願い申上げます。