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説明員(深見吉之助君) それでは最近問題にな
つております法隆寺の五重塔心礎空洞の問題につきまして、今までの経過を
説明申上げます。法隆寺の五重塔につきましては、法隆寺の委嘱を受けまして、法隆寺國宝保存事業部が民間團体としてできて、その事業部においてこれは施行して來ておるのでありますが、工事の施行の重要な点につきましては、法隆寺國宝保存協議会において諮問をして決定することにな
つております。それで最近におきまして、去る五月の十八、十九の両日、現地におきまして法隆寺國宝保存協議会を開催いたしまして、五重塔の再建に伴う諸般の協議をいたしました際、心礎の空洞は、これは十分に調査した上砂を以て埋めて置くということに
委員会の決定がございました。それに基きまして、八月の上旬に現場工事事務所において工事を施行いたしたのでありますが、その際
從來五重塔の心礎の空洞は、柱が入
つていたものが腐
つて空洞ができたという定説にな
つてお
つたものに対して、調査の結果若干疑義が生じまして、或いは当初から空洞であ
つたのではないかというような結果が現われて参りました。それで学界におきまして、その問題について相当関心のあることであるから、そのまま埋めてしま
つたのでは困るであろう、改めて再調査をする必要がありはしないか、こういうことに相成りまして、八月の二十二日、三日学界の権威の
方々約十名を法隆寺にお集りを願
つて、法隆寺の五重塔の心礎の調査
研究会をいたしたのでありますが、その際結論といたしまして、もう一度調査再発掘して、砂を出しまして調査をしようという決定にな
つております。
只今その工事を進めておるわけであります。それに伴いまして、
從來学界で問題にな
つておりました心礎の礎石の中に埋没してございます器物の公開をこの際して欲しいということが再び大きな
要望として唱えらりるようにな
つたのであります。この問題はもう大正十五年に心礎の中にそういう貴重なものが秘めてあるということを発見いたしまして以來、学界におきましては、常に公開に対する
要望があ
つたわけなんでありまして、今回五重塔再建に当りましても、予てからこの問題について学界では是非公開をして貰わなければならないという議論がありましたので、法隆寺國宝保存事業部といたしましても、再三法隆寺の方にその問題について掛け合をいたしまして、又この春焼失以後におきましても文部次官名を以ちまして、前京都大学総長の羽田先生を通じまして、正式に法隆寺当局に心礎器物の調査をお願いしたのでありますが、その際にもその心礎内にあるものは、創建者が永久の貴物としてこれを五重塔の生命と共に秘めたものであ
つて、その五重塔は未だ信仰の中心として生命を保
つておるものである以上、創建者の精神を継承して、今日自分としてはこれの公開をするわけにはいかないというのが住職のお
言葉なのでありまして、去る八月二十三日調査團の決議といたしまして、この際是非これの調査を許して貰うように当局としてもう一度
交渉しろという決議がございましたので、二十三日の午後、私が法隆寺さんにお目に掛かりまして、再びそのことをお願いしたのでありますが、その際にも、以前羽田先生にお答した
通り、そのことは
承知するわけにはいけない、こういう
お話でございました。それで更に、然らば大正十五年に、その埋藏が発見せられましたときに立会いました一部の人によ
つて、その実体が究められておるということが言われておりますので、そのことについて一部の学者に対してでも、その結果を公表して頂くわけにはいけないのでございましようかということを重ねて申しましたところ、これに対しましては、何分
考えて置くという
お話があ
つたのであります。それで事業部といたしましては、先に文部次官名で羽田先生を通じてお願いしておる事情もございますし、羽田先生も先般私がお目に掛か
つたときに、もう最後の
機会であるから、是非自分としても改めてお願いをして見ようと思
つておる。こういう
お話もございましたので、近く羽田先生にこのことを煩してお願をして頂きたい、こう
考えておるような事情でございます。当初九月の十五日までに心礎空洞の調査を終えて、二十五日に心柱を立てる立柱式を行うという予定にな
つて、新聞等でもそういうよ女に出ておるのでございますが、事業部からも現地に、十分愼重にするように申して送りましたところ、一昨日通知が参りまして、調査は約十日間延期をして、立柱式も十月の上旬に行うことにして、調査の万全を期するということを申して参りました。その間に更に我々としてはできるだけの手を盡して見たい、こう
考えておりますが、ただ心礎の内部の再調査という問題は、現在のところ法隆寺当局の
決意が固いから困難ではないかと、こういう私は
考えなのであります。これについての現在までの経過は以上でございます。