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説明員(大久保武雄君)
只今委員長からお示しのありました密航状況、拿捕船の状況並びに海上保安廳の強化対策という点につきまして御
説明いたします。御便宜のために本日印刷物を作りまして差出しておりますが、これで御覽願いますように、海上保安廳ができました当初、昨年海上保安廳は先ず九州の関門海峽におきまして一齊臨檢、檢挙を始めたのでありますが、当時は非常に九州
方面において檢挙されたものが多か
つたのでありますが、その後海上保安廳の船舶の配置状況或いは行動状況等が逐次先方にも分
つて参りまして、密航船がその特有の海上の機動力を発揮いたしまして、逐次密航船の内地上陸分野が非常に廣範にな
つて参
つたのであります。即ち
日本海
方面は山陰から舞鶴、更に昨年末は能登半島から伏木
方面に参りますし、本年になりましたならば、それが更に佐渡から新潟、山形縣
方面にまで達する、かようにな
つて参りますし、又九州の天草から鹿兒島、更に九州を迂回して豊後水道、紀伊水道、名古屋
方面、更に長駆いたしまして房総半島から仙台、塩釜
方面にも及ぶとい
つたような関係でございます。これらの密航関係は殆んど九〇%は朝鮮関係でございます。極く僅かに台湾関係が含まれておるのであります。そこで今年になりましてから、幾らか密航
状態が減
つております。勿論密航船が非常に小型の船舶になりまして、非常に集團密航をして参ります関係上、どうしても天候に左右される点が多いのでございまして、春から夏にかけましては非常に多いのでございます。冬の荒天時期になりますと減
つて参ります。本当は四月、五月は割合に少なか
つたのでありますが、六月になりましてからぐつとそれが増加いたしまして、更に七月、八月、九月、台風の影響にも拘わらず、集團密航が増加する傾向がございます。即ち集團密航の点について記載しておりますように、朝鮮の
治安問題からいたしまして、最近徴兵忌避或いは將來の
治安に関する見通しより、
日本に密航して参りますのが非常に増加しておる情報を受けておる次第であります。これに基きまして非常警戒をいたしておりますと、僅か二週間
程度で二、三百人の檢挙があるとい
つたような状況に相成
つておる次第であります。この外に相当の集團密航があるようでありますが、遺憾ながら海上保安廳の船舶がまだ十分整備しておりません点と、保安廳船舶の裝備が完全でないために、これを海上において逃走せしめておる
事例が相当多きに上
つておりますことは、甚だ残念であると申さなければならないと思います。尚又最近の特別の傾向といたしましては、密航密輸の犯人が、むしろ積極的に海上保安廳の船隊に対しまして抵抗するという傾向が多くな
つて参
つております。即ち大砲裝備が密輸船等についてございまするので、この船は
國警等と打合せまして、かねて手配中の船でございましたが、海上保安廳の警戒網を突破いたしまして、神戸の西灘に砂糖の揚陸をいたしてお
つた次第であります。この船舶は主砲といたしまして捕鯨砲の四十ミリ一門、予備砲といたしまして三十六ミリ一門、即ち合計二門の大砲を裝備いたしておりました。且つ裝填用の実彈二発を所有しておることが判明した次第でございます。これは沖繩縣の與那國島、これは台湾に一番近い所にある密航の中心地でございますが、ここを経由して参りましたものでございます。その後高知で逮捕いたしました密輸船の北見丸も、海上保安廳の船舶に対しまして積極的に抵抗いたしました。これに対しましては格鬪の後、これを逮捕いたしましたような次第でございます。更に捕鯨型の船團が北上中であるという情報に接しまして警戒をいたしておりましたが、この船團と覚しきものが五隻、捕鯨船型五隻、豊後水道の南方に現われたのであります。九月四日午後三時でございます。これに対しまして海上保安廳の港内艇の「きさらぎ」をして追跡をせしめました結果、足摺岬の東側におきまして、この船團に追付いたのでありますけれども、船團が或いは石を投げ、或いは漁網を流しまして、海上保安廳の船舶が接近することを妨害をいたしまして、遂に船團が北方に遁走をいたした次第であります。大砲を裝填しておりましたのが捕鯨砲でございまするし、あとから北上しました船團が捕鯨船型でございます。これらの集團密航につきましては、十分警戒をいたしておる次第でございます。更にこれは
一つの情報といたしまして、新潟縣及び山形縣の境に、百トン型の機帆船に二百名乃至三百名乗
つた朝鮮人が接岸上陸を企図したけれども、海上に逃げ去
つたという情報も出ております。これらの点につきましては関係本部の船舶を総動員いたしまして、非常警戒捜索をいたしておりますような次第でございます。以上が密航密輸の状況でございまして、一年間における数字を申し上げますと、海上保安廳が昨年の五月創立いたしまして、本年四月の末日までの丁度一年間の検挙件数を申し上げますと、密航におきまして百四件、
人員二千六十四名でございます。密輸は九十件
人員四百八十五名、合計いたしまして、百九十四件、二千五百四十九名と相成
つておる次第でございます。
次に、拿捕船の状況について御報告申し上げます。
日本船舶の拿捕は昭和二十一年以來頻々として起
つておりまするが、その八月末日までの統計はお手許に差出してありますところの表にございますように、二十一年において合計七隻、二十二年において十一隻、二十三年においてぐつと増加いたしまして四十五隻、二十四年が八月末日までにすでに三十九隻に及んでおります。その後九月に入りまして、すでに又数隻を出しております。もう二十三年の約倍くらいに本年は達しはせんかというような状況でございます。即ち八月末日までの総合計は百二隻に及んでおります。この船舶のうち未帰還船舶総数は四十四隻でございます。未帰還船員の数は二百七十名に及んでおります。死亡者は九名でございます。未帰還船員は更に
調査未了のものがございますので、これより遥かに多きに及ぶものと想像されるのでございます。そこでこれらの捕獲されました船舶は、ソ連関係において三十五隻、中國関係に二十八隻、朝鮮関係に二十二隻の外、更にその後追加されましたものが、ソ連関係四隻、中國関係四隻、朝鮮関係九隻というふうに相成
つておる次第でございます。そこでソ連関係で拿捕されましたものは、從來主として北海道の根室区のノサツプ岬と千島との境におきまして拿捕せられておる次第でありまするが、最近は樺太と稚内の間におきましても数隻の拿捕船を出しておるような次第でございます。そこでソ連関係の根室並びに千島との間の水道は非常に狹隘であります。その上に岩礁が沢山ございまして、その根室のノサツプ岬と貝殻島との中点にマツカーサー・ラインが設定してございますけれども、これは殆んど航行が実際上非常にデリケートで困難でございます。そこで現在実際上において大型船がこの水道を通過していないという状況でございまして、北海道の網走
方面に参ります船は、ぐつと稚内を廻
つて行くとい
つたような状況でございまして、この迂回航路からいたしまして、現在船腹において約十万トン、バンカーにおきまして数千万円の
日本の余分の負担をいたしておりまするような次第であります。更にこの附近における漁業に從事しておりました漁船は年間二千隻に及び、漁獲物は二十億円に達してお
つたということが言われておりまするが、この
方面におきましては、殆んど
日本船舶が現在影をひそめておるとい
つたような状況でございます。
次に、東支那海の状況について申し上げますと、支那関係は本年に入りましてから急激に増加をいたしまして、而も六月、七月、八月において最もその拿捕状況が頻繁にな
つて参
つたのであります。最もそのうち重大なる被害を受けましたのは第一〇五号明石丸の撃沈でございます。本船はマツカーサー・ライン内において漁労に從事しておりましたところ、全然軍艦旗を掲揚せざる軍艦と覚しき、而も艦名を抹消しておりまする一艦が近付きまして、そうしていきなり射撃をして本船を拿捕いたしました。そうして随行を命じてお
つたのでございますが、随行途中においてこの軍艦が漁船を撃沈をいたしました。筏によ
つて逃れんといたしました船員に対しまして機関銃の一齊射撃を加えるとい
つたような残酷なる
攻撃を加えた次第であります。極く僅かの、四名の船員が救助せられました。この船員が帰國いたしまして、この被害状況が判明いたしたのでございます。中國から拿捕を免かれて帰りました船員或いは一旦拿捕されまして途中で命懸けで脱走いたしまして帰還しました船員並びに漁業会社からの陳情によりまする報告等を総合いたしまして判断いたしますと、これら拿捕されました船舶は最近若干の軽武装をして支那の軍事任務に服されておるものもある、或いは支那の將兵の軍需品輸送に從事しておるものもある、或いは支那軍のために漁撈に從事しているものもある、かような報告を受けている次第でございまして、未帰還船員の多数の家族を思いますと、一日も早くかような船員を安全に帰還せしめることが必要である。かように存じまして、海上保安廳ではこれらの船名、船員のリストを作りまして、過般外務省を通じまして関係
方面に、船舶並びに船員の返還方につきまして正式の文書を提出いたしましたような次第でございます。尚朝鮮関係におきましては、主として済州島附近において拿捕されたものが多いのでございまして、これらの拿捕船はその原因といたしましては、マツカーサー・ラインを越えたか越えんかという点にかか
つているわけでございます。この点につきましては一應
日本側といたしましては、マツカーサー・ラインを正式に遵守する責任がございますので、船舶に対しましては航海日誌を完全につけること、或いは十分に天側をすることというような点につきまして、十分
注意を喚起しているような次第でございます。ただマツカーサー・ラインを越えたが故に、これが直ちよ撃沈されるか、或いは拿捕されるかというような点につきましては、いろいろ國際上の判断があろうかと存じますが、
日本側といたしましては一日も早くこれらの船舶並びに船員の返還保護につきまして万全を期したいと
考えておりますような次第でございます。
海上保安隊の強化状況につきましては、本
委員会におきましてもしばしば御激励を頂きまして、海上保安廳といたしましても大いに御趣旨を体しまして
努力をいたしてお
つた次第でございます。御承知の
通り海上保安廳は昨年の五月一日、木で作りました木船、旧海軍駆潛艇二十八隻を以て出発いたしました。この二十八隻の船は戰爭時代に海軍が大体港内及び港外、即ち港の附近が潜水艦が哨戒する
意味におきまして作りました極く間に合せの船でございまして、約二時間ぐらい保てばいいというので作りました木造船でございます。それを終戰後におきまして二十八隻引継ぎました。すでに終戰四年に達して今日まで使
つておるのでございますから、この船が如何に不完全でありまして、使用に困難を極めておるかということは御想像願えるだろうと
思つております。この非常に老朽しまして船を以て、先般の
新聞にもちよつと出ましたように、海上保安隊の船舶は、最近煙幕を張
つてまで闘爭をいたしまする密航船や密漁船、或いは海賊船に体当りをしているというような、前線が行詰
つて、せつぱ詰
つた、こう思われるのでございます。そこで非常にこの船隊の不利を痛感いたしまして、その後しばしば関係
方面並びに予算等におきまして折衝を重ねて参りました結果、現在までに五十三隻の警備船に持つことにな
つた次第でございまして、この中の三十五隻が木船でございますが、残りの十八船は鉄船でございます。これらは比較的速度も優秀でございまして、約十二ノツト乃至十三ノツトは出るのでありまして、木船の八ノツトと比較いたしますと、幾分海上保安廳の力も強化されたと
考えられるのであります。更に今年度の予算におきまして、海上保安廳は六隻の新船と十隻の高速内河艇を新造することに相成りました。鉄船におきましては七百トン級二隻、四百五十トン級三隻、百八十トン級一隻でございます。これはいずれも十五ノツトの速力を有しておる次第であります。高速内河艇は十隻を新造いたしまして、これは十八ノツト
程度は出るつもりでございます。更に予算が許せば本年度におきまして数隻の内河艇及び船舶を追加いたしたい、かように
考えており、目下考究折衝をいたしておりますような次第でございます。來年度におきましても、この海上保安隊の装備強化は絶対に必要な点でございまして、海上におきましては、船舶が出合いましたときには、全く一対一の裸相撲と同じでございまして、こちらの速力が遅ければ絶対に相手に追付けませんし、装備が弱ければ、これは殆んど問題にならないとい
つた状況でございます。急に
援助の依頼もできない海上におきましては、どうしても船舶自体の性能装備というものをよくいたしませんと、警戒任務は完遂できないのであります。勿論現場の職員には現在持
つておるもので最大能率を発揮できるよう
努力をいたしておりますが、來年におきましては、計画といたしましては新船を十六隻、高速内河艇を四十隻
程度造りたい、かように
考えておる次第でございます。いずれ又來年は予算において本
委員会の御支援を頂きたいと思いするが、尚今後におきましても極力強力に
努力いたしますと共に、更に超短波その他の新式無線装備を完備いたしまして、來年におきましては、海上
治安に飛躍的な
事態を招來いたしたい、かように
考えておる次第でございます。