○
證人(
賀川豊彦君) 私は
修正案の
妊娠の
継続又は
分娩によ
つて生活が著しく窮迫する者ということにつきまして、條件的に
考えなく
ちやならんと思うのであります。第一はこの
優生保護法から來るものは実に立派なものでありまして私は大
賛成であります。けれども
経済的なるが故に、貧乏な家に必ず
中絶してもよいということは私は言い切れないと思うんです。何故ならば貧乏であるけれども私たちの知人に四十数年間満足に住んでおりまして、非常に立派な
家庭がある。若しもその立派な
家庭がどんどん産兒制限してしま
つたものならば、私は
日本の優秀な
家庭の絶滅が來る
心配があると思う。それで私は條件附きで
賛成するものです。
先ず第一に私はここに伺いたいことは、一体
日本の
食糧問題は本当に解決するのか、解決していない。これは例えば我が國の
耕地は六百二十万
町歩あ
つたものが四百万
町歩に戰爭によりまして減りました。けれども
山岳地帶は千五百万
町歩、原野が約五百万町、合計二千四百万
町歩くらいでありますが、これに対するに
西洋諸國では
山岳農業は随分盛んにし、いわゆる
樹木作物をや
つております。けれども
日本においては殆んど
栃木縣においてさえ「とち」の木は一本もありません。
却つて群馬縣の方があるし、
福島縣あたりにもある。「とち」の実が一本の木から恐らく一千粒くらい採れるのでありますが、これをほ
つたらかしておる。
秋田縣でもほ
つたらかしておる、恐らく私は事実ほ
つたらかしておる量は三千万石と私は
考えておる。三千万石のものを捨てて置いて、これは「にわとり」の餌にもなるし、蛋白
資源なり、
澱粉資源、油の
資源にもなろうというのに殆んどほ
つたらかしてある。それで果して
日本の
人口問題を解決できるか。大きな誤診である。この際須らく
山岳農業を盛んにしなく
ちや本当でない。
アメリカは御覧の通りに一九二〇年に若しも
アメリカの総
人口が一億九千五百万人であ
つたらばそれ以上発展しないということも嘘である。段々調べて見ると二〇何%しか耕作していない。
樹木作物については恐らくそれがずつと九割まで
食糧資源に替え得る。
日本においても、若しもこの
山岳地帶の、私共の永年主張しております
樹木作物「くり」、「しい」、「とち」、「かや」或いはその他の
沢山日本には
温帶の
関係で非常によいものがありますけれども手をつけない。私は是非この際
西洋の人がああ言うからというのでなくて、もう少し
食糧問題を
人口問題と並行して
考えて行きたいと思うのであります。
次に
アメリカあたりでは女学生が大学を出て
結婚するものが四割くらい、優秀な者は却
つて結婚せずして優秀でない者がどんどん子を生んで行くという
心配をしておるものもあります。マルサスもそう
考えておる。ところが私はこの
優生保護法は非常に結構だと思いますけれども、著しく窮迫する者の中にも優秀な
家庭がありますが、それに対する
憲法第二十
五條によるところの
保護法を十分徹底して頂きたい。そういうものに対して、
民生委員の方からこういう
家庭は多産であ
つても、これは
保護して頂きたいということを逆に訴えるだけの御準備があるならば私は
賛成します。然
らずして、ただ貧乏だから誰でも、彼でも、優等な
家庭でも皆産兒制限をするというならば絶対に
反対です。我が國の
食糧問題は今の場合は弱
つておりますけれども、必ずしも私は悲観しておらない。
日本の今の
耕地面積六百万
町歩に対し四倍のものがまだあるのだ。これに対する我が國の
農業者及び
食糧生産者は怠慢である。故に是非これらは努力をして、
食糧問題は内地において解決しなれればならん。例えば我が國における
農業でも、余りに
硫酸アンモニア或いは燐酸などを使い過ぎる。デンマークではた
つた二キログラムしか使
つていないのに、
日本では二十二キロもの
人造肥料を使
つている。それで
酸性過多の結果
水素イオンが段々惡化し減
つている。
近海魚も減
つてしまう。何億円も
戰前收入のあ
つたものが今では減
つてしま
つて困る。これは我が國の
一つの大問題であります。だからして
農業生産と
工業生産とが同時に
考えられ又
人口問題に
影響して來ると思う。最近の開墾などでも、私は我が國の一番大事な
國土のエロージョン、
腐蝕土を流してしまい、段々膠質が流れてしま
つて、そのまま放
つて置けば
人口の半分して支えられないと思います。そういう
意味でもう少し
眞劍にな
つて、ただ單に
農業は
農業政策、
人口は
人口政策だけという局部的な
研究でなくて、総合的な
研究をして頂きたいと思います。私は
日本において今の
人口が、例えば一億にな
つても、或いは一億五千万にな
つても、今の倍にな
つても、今の
山岳地帶を十分に手入するならば、我が國においては雨量が多いし
温帶三十四度線の上下に発達している國でありますから、
人口は保ち得る、こう
考えておりますが、それは今の間に合わない。間に合わないから部分的においては産制をする。それに対しては繰返して申しますが、優秀な貧しい
家庭に対しては
憲法第二十
五條によ
つて保護して頂きますことを必ず挿入して頂きたい。
それから更に進んで、
西洋諸國で問題にな
つております、丁度動物的な
考えか知りませんが、
人工受精の問題、
西洋では優秀な
家庭に対しては、そのスペルマをオヴアルムに挿入し、
人工受精ができるまで
考えられているのでありますから、私は
貧乏人なるが故に貧しい
家庭を
保護せずして、それを全部
中絶してしまうということは絶対に
反対、これは
國家が
責任を以て
保護すべきものだと思うのであります。更に逆効果の
心配をしております。だからこの第三條には同時に優秀な
家庭に対しては
保護をするということに対しての但書を入れて頂きたい。
もう
一つは我が國で一番
心配しているのは封建的「
いとこ同士の
結婚でありまして、今尚
日本では「
いとこ同士の
結婚を許しておりますが、我が國の
聾唖者、唖と聾の
不具者は十万人くらいあるということを推定されております。その七割五分というものは殆んど
いとこ同士の
結婚であります。それでこの「
いとこ」
同士の
結婚に対して何らかの措置をして頂きたい。すでにそういう
家庭において
聾唖者が出た、或いはその
外結婚によるところの
退化状態が現われた者に対しては、
優生委員会において監視をして頂きたい。或いは思い切
つて「
いとこ」
同士が
結婚する場合においては、必ず
民生委員、或いは
民生委員会の許可を得るという
ようなことをもお
考えおき願いたいと思うのであります。以上を以て私の証言を終ります。