○
塚本重藏君
前回の
委員会におきまして、
鹿兒島県の
災害状況を視察することを命ぜられまして、私と、それから
草葉專門員並びに
中原法制局第一課長及び
厚生省の
後援部の
丸山技官と
現地に参りまして、
現地の
岡元議員がこれに参加して頂きまして、一同が視察して参りました結果を御
報告申上げます。
問題の発生は
ジユデイス台風の
被害にあるのでありますが、この
ジユデイス台風はすでに一部この
委員会でも御
報告にな
つておりますから、極めて
簡單にいたして置きます。あれは八月の十四日頃から
台風の影響が生じて参りまして、十五日、十六日が最もひどか
つたようであります。そこで
鹿兒島県の全域に亘り強い風と、それから多量の降雨があ
つたわけであります。
委員会で指摘せられました問題の
一つでありますが、これは
鹿兒島県の
下姶良郡牧園町
大字高千
穗小字硫黄谷の問題でありまして、この
硫黄谷一帶は即ち
国立公園としての
霧島公園の一部であります。この
国立公園、
霧島の一部でありまする
硫黄谷に、この
霧島温泉としての集団
施設地区の
計画地域内に起
つておる問題であります。大体標高八百メートルくらい高いところの山の中腹にあるものであります。これは
霧島公園全体から見ましても、公園の利用上から
考えて、最も重要な地位を占めておるものであります。この
現地に行
つて見ますると、この
霧島温泉の背後にありまする山は西南に向
つて可なり急勾配の傾斜をなしております。そうして谷あいに、中央に中津川の上流をなしておるところの渓流があるわけであります。山の傾斜面は大体……、私共素人でありますけれども、温泉の背後におきましては、大体三十度の傾斜を持ち、更に県道がありますが、その県道の上部におきましては、四十度くらいの急峻な勾配を持
つているところであります。この
霧島温泉は聞くところによりますと、明治二十四年以来、この温泉が経営せられておりまして、今日では堀切達正という人が経営しておりますが、この温泉の経営は四代に亘
つておるとのことでありますし、
霧島温泉だけの建物の延坪数は千三百九十六坪余にな
つておりますが、そういう大きな旅館の
施設でありますから、大体一千人以上の客を收容し得る能力を持
つておるのであります。でこういう不祥
事件が起りましたことについて過去の歴史を少し調べて見ますと、昭和二年頃にこの
霧島館の前の山であります。向側の山に、南側でありますが、そこに傾斜しているところに今も跡を残しておりますが、一部崩壊いたしまして、そうして
霧島温泉の自炊舎の一部を破壞したことがあるとのことであります。その崩壊いたしました跡は今も少し窺い知ることができるのであります。更に
霧島館の後方におきまして、昭和十七年の八月二十七日も同様の一部崩壊があ
つて、そこでも温泉の一部が埋没いたしまして、そのことのために多少の犠牲者を出した、こういう事例が以前にあるのであります。そうして今度又本年の八月の十六日、即ち
ジユデイス台風が烈しく起りまして、それが通過いたしました直後の八月十六日の午後の六時前にこの大災害が発生いたしたのであります。どうしてそういうことが起
つたかということを私共は素人でありますが、
現地に参りまして少し見て、成る程と窺い知られる点が大分あ
つたのであります。一部の人の
意見を聞くところによりますと、ここの温泉の上、山の中腹に紀元二千六百年の記念
事業の
一つとして新しい県道を作
つたのでありますが、その県道がまだ完成しないで、中途のままで放棄されているのであります。これは高千穗から宮崎県に達しまするところの
一つの県道を
計画したものでありますが、途中の湯之野という所まで道ができまして、それ以後ができていない、湯之野までは一応の道の形ができておりまするけれども、本当にその道を県道として使用するような
状況にまでは完成していないようであります。災害が起りました前後を調べて見ますると、全く道は車などの通
つた跡は見られません。小石などもまだ道に充満しておるような
状態で草が生えている、こういう
状況であ
つて人も余り多く通行していなか
つたのではなかろうか、こういうように思われるような
状況を呈しておるのであります。そうしてこの災害が起りましたのは、その問題の県道ができたことが、そういう所に県道を作
つたということが、そういう災害を発生せしめた
一つの原因ではないかという疑を持たれておるのであります。併し私共が、素人でありますけれども、
現地を見ますと、県道を作りましたがためではなく、県道から可なり上の方に、この十五日、十六日の間に非常に豪雨がありまして、その豪雨のために、これは後に申上げますが、可なり大きな豪雨であります。そういうことのために山の中に自然に多量の水が生じて、その水が自然に或る地域に流出するような形を形成して行きまして、そこから山の肌に、何と申しますか、地層に下が多少岩のような形にな
つておりまして……、地質はよく知りませんが、それから上は割合に柔かい土であ
つて、そうしてその上に樹木が生え茂
つておる、こういう樹木が生え茂
つておりますその根の生えている少し下の方と思われる所に水が沢山流出いたしまして、そこに山肌と木の生えております土質の間を、そこを何と申しますか、水のために離してしまうというような
状況を呈して、そうしてその上縁の山土がずつと流れて落ちるというような
状況が呈せられたと見られるのであります。そういうふうに水が非常な力を以ちまして自然に多量流出して来たと思われる箇所が二、三ヶ所発見できるのであります。そういうことからいたしまして、上の山が崩れて来たために勢いその県道を乘超えて、その辺一帶を崩して
霧島温泉を全く崩壊せしめてしま
つた、こういうような
状況にな
つておるのであります。大体これは
前回の
委員会におきましても、公園部長から
報告のあ
つたことは大体間違いのないということが認証せられるわけであります。先に申しました水の量でありますが、大体十五日、十六日には、この
地方の降雨量は七百二十七ミリ以上に達しておる、これは福岡管区の
霧島測候所の測定によ
つたものであります。そうして又その風速も大体三十メートル以上であ
つたということが
報告せられておるのであります。併しこういうような災害が事前に予知することができなか
つたかどうか、こういう災害を避けることができたのであろうかなかろうかという問題でありますが、ここに写真屋さんが一人おりまして、この
事件の起りまする三十分くらい前に一家を挙げて避難している事実があるのであります。そういうような事実を
一つ我々は認識して行く必要があると思います。そこからこの
霧島温泉の従事員が、こういうことになりはしないとかいうことで、災害の起ります事前に県道にまで上
つて、そうして県道に流れて来る水を他にはかすべく一応の努力をしてお
つた、そういうところへ山崩れが来て、その水を外をはかそうとしてお
つた従事員は県道の一方の縁にずつと走り去
つた、そうして難を逃がれた、そうしてそのあとに山崩れが来て、すでに下にそれを連絡
報告する遑なく大きな山崩れがあ
つて多くの死傷者を出した、こういうようなことにな
つておるわけであります。
この災害によりまする大体の損害でありますが、人的損害は宿泊しておりました客が二十三人、そこの従事員が十一名、これが死亡者であります。それから重軽傷者が外に二十三名あり、その外に罹災者が三十九名、合計九十六名の罹災者があ
つたわけであります。それから建築物といたしましては、先に申しまするように大体一千三百九十六坪余でありますが、一千四十三坪余というものが埋沒せられてしま
つたのであります。
現地に参りますと非常に大きな建物であ
つたことが図面によ
つても想像できまするし、残
つておりまする材木等によ
つてもこれは想像できたのでありますが、それが全く地の底に埋められてしま
つて、そうして前に申上げました溪流を塞いでしま
つて、そうして向う側の山になだれ落ちておる、助か
つた者の一、二の人は、この温泉から向う側の山の中腹に飛んで、そうして命を拾
つたというような人もあるというふうに、この谷間全体を山崩れで以て蔽
つてしま
つておるのであります。併し私共が参りましたときには警防団その他の人々の活動によ
つて、尚その後におきまする流水のために多量の土砂というものは下方に押流されまして、そうしていわばそこに、人体発掘のためにそういう作業をやりましたために非常に整理せられたような形にな
つておるのでありますけれども、そういう現状を見て、その当時の災害の如何にひどか
つたかということが大体想像できるわけであります。
ここに起りましたこの災害を
金額に見積れば七、八千万円から一億に達するのではないかと、こういうことが言われているわけであります。時間の
関係で少し
簡單にして置きたいと思いますが、そこで災害の
状況はその程度に止めて置きたいのですが、これが問題は
対策であります。先にも申しましたように、写真屋さんが、これは非常事態が起るということで三十分前に避難しているような事実から以ていたしまして、若しそういうようなことを知り得るような人があ
つたならば、これは事前にこれを避難する
方法があ
つたのであろう、素人の写真屋さんがそれを知るくらいでありますから、
厚生省の公園部の中に適当な人があり、或いは建設省などの道路
関係に少し経験を持
つている人というような者があ
つたならば、こういうことをもつと早く予知しまして、そうしてこういう災害を避け得たのではなかろうか、こういうことを
考えるわけであります。從いまして
厚生省の公園部に我々が希望したいのは、ただ
国立公園というものを指定し、そういう所に集団
施設を設置するというようなことを
計画し、奬励するということだけではなく、こういうような
方面にも意を用いて、今ありまする
施設の
規模だけではなく、私は全国の十五の
国立公園の中にはこういうような危險な地域に、そういう集団
施設を持
つているものが外にないとは言えないと思うのであります。そういうものを今日からよく
調査をして、こういう災害を再び
国立公園の中で起さないとい
つたような努力がして欲しい。そのことのためには常時そういう專門家が
国立公園の中に常駐しているというようなことも必要ではないかと
考えた次第であります。それからこの災害がありましてから、大体地元の警防団等が主になりまして非常に救出、発掘に努力しておられるようであります。八月の十六日から二十四日までの間に動員いたしました者の数が六千七百九十七名とな
つておりますが、この外にいろいろな
関係者が出動しているのでありますから、相当な人員を動員して発掘に努力せられたということは認めるのであります。先の重傷者の中で、県立の温泉治療研究所がありますが、そこへ收容せられている者が二十三名ですか、そのうち私共が参りましたときに退院いたしました者が七名で、現に入院している者が十六名ある、こうい
つたような
状況であります。それから先に申しました死亡者の三十四名の人でありますが、私共の参りましたときに大体三十二名は死体を発掘しておりますが、尚二名の死体が未発掘の
状態でありました。併しあとの二名につきましては、一名はどうしても分らない。それから一名は前に発掘いたしました骨というものが一人ではなく二人であ
つたのではなかろうかというような想像が下されるような
状況でありまして、あとの二名というものがまだ未詳の
状態であります。併し現場の作業といたしましては、あれ以上作業を継続することが不可能な
状態であり、あとの二つの死体というものを突きとめて参りますことは困難な
状態で、
現地における者の衆議によりまして、大体これ以上もう搜査することはできないというようなことで、この搜査は現に打切られているのであります。私共
現地に参りまして、尚一、二のそういう未発掘の死体があるということは甚だ遺憾でありますけれども、成る程
現地の
状況を見ますると、それ以上探す余地もないのではなかろうかというふうに見て取れたわけであります。私共はこういう事柄は、これは
厚生省の方は
現地を視察せられているのでありますから、よくお分りのことと思います。
それからもう
一つ、こういうような、大きな災害ではありませんでしたけれども、丸尾温泉の地区において、或いは新湯温泉地区において、多少の地辷り等があ
つて被害があ
つたわけであります。そこで公園の
計画についてでありますが、
霧島国立公園のこういう中枢地点に発生した災害のことでありますが、公園の管理運営の上に及ぼすところの影響というものは非常に大きいと思われるのであります。殊にさつき申しまするように、この災害では多くの人命を失
つた尊い経験があるのでありますから、この経験に基きまして速かに本公園の
計画、特に
霧島温泉の集団
施設地区に関しまする
計画について嚴に検討せられまして、例えば今後更にそういうような山崩れ等が起りはしないかどうか、地質上の検査も十分にしなければなりませんし、又地形それ
自体から申しましても、あのような急勾配のああいう土地において、そういう
施設を重ねて復活するようなことが妥当なりや否やというようなことについても、深い研究がなされなければならん。そうしてその地形に適応するところの
施設を作
つて行くように努めて貰いたいと思うのであります。それから駐屯員を置いて貰いたいことなども、先に申上げた
通りでありまして、そうしてこういうことを未然に防いで貰いたい、こういうように
考えるわけであります。それから予算につきましても、
一つの主人が経営しておりまする温泉でありますから、それに対して予算上の援助をするというようなことは不可能であるかも知れませんが、少くともそういう
国立公園の集団地区に発生した問題でありまするから、予算の上につきましても、
厚生省では相当
考えられる余地があるのではなかろうかと思うのであります。それから又あれを復活いたしまするにつきましても、資材の割当などにつきまして御盡力を願わなければならんことは言うまでもないところであります。それから県道の問題についても尚もう一度これを検討する必要がある。一体
国立公園の中にありまする道路の管理、そういうようなものについても十分に行われているのかどうかというようなことについて、まあ深い疑問を持つわであります。
それからもう
一つ、私共の感じましたことは、災害救助法の発動の問題でありますが、こういうような災害が起
つたときに、勿論災害救助法を適用いたしているのでありますが、その災害救助法の適用について、この前におきましては、
現地とそれから県庁との間の連絡が一時途絶えておりましたけれども、割合に早く復旧いたしまして、連絡がとれるようにな
つたのでありまするけれども、その場合におきましても尚
現地の牧園町長、そういうような者に知事のいわゆる権限、災害救助法による許された権限を事前に強力に與えて置いたならば、もつと適当なる
処置が取られたのではなかろうか、こういうようなことも
考えられる。この点では
現地におきまして、又翌日県庁におきまして知事なりその他の人とも話をいたしまして、可なり強くいろいろ検討をして見たのであります。私共の
考えでは、
現地の知事なりその他の人々の
考えておる災害救助法の適用については、尚考慮をしなければならん問題があるのではないかということが、
厚生省自体にいたしましても、
地方庁に対しまする通達に欠けておるところがありはしないか。それから又
現地におきましても、こういうことに対しまする事前の訓練というものが十分にできていないのではなかろうかというようなことを思うのであります。そういう点で私共が教えられるところがありました。
厚生省でも
現地の視察をして参
つておられますから、私共に申上げました点につきまして、お気付きにな
つたかと思うのであります。ただこういう災害だけでなく、各地に起る風水害等に対しまする災害救助の問題と
考えて、災害救助法の発動、災害救助法の運用等につきましても、平時から相当熱心な訓練というものをする必要があるということを
考えるのであります。そうして事あ
つた場合における万違算なき
措置が取られなければならん、こういうふうに
考えるわけであります。
それから又私あの土地を見まして、いろいろ
国立公園の
あり方について
考えさせられた問題があるのですが、それは單に
国立公園というものの、ああいう
施設というものが單なる
一つの
事業であ
つてはならないということであります。ホテルの経営にいたしましても、或いは大衆が何と申しますか、利用し得るようないろいろな
施設につきましても、もつともつと親切な
計画が立てられて充実を図
つて行くようにしなければならん。それから道路にいたしましても、そういう
状態であ
つて、
国立公園におけるところの管理というものが甚だ不十分であるというようなことが
考えられます。殊に終戰後今日いわゆる観光
事業の問題がやかましく取上げられておるときでありますが、今のようなああいう道路の
状態では、外人を誘致するということも程遠いものだということを
考えます。これは道路並びにホテルの
施設等についてこれが特に
考えられるわけであります。
それから尚私はこの機会に
厚生省に、これは国全体として
考えなければならん問題でありますが、
国立公園それ
自体の維持、管理、運営というものが十分でないのであるから、こういうことまで的が届かんと思いますが、私はもつと
国立公園とかいうような
一つの小さい地区に限
つてのそういう努力をすることだけでなく、本当を言えば、
日本の国全体を挙げて
一つの世界の公園である、こういうような立場で広く
日本の国立の美というものを十分に尊重し、これを維持して行くというような大きな観点に立
つての仕事をやらなければならんのではないか。例えば至る所に松喰虫が発生して沢山松が荒されておる、そういうようなところをそのまま放置しておる。多少の研究が続けられておるのであるかどうか知りませんが、あれをあのまま放置して置いたら……。そうして
国立公園と
国立公園との間を繋いだその中間にいろいろなやはり景勝地があるわけでありますが、その景勝地がすでに荒されておる。そういうような点についても何らの手が盡されていないというようなことも感じて来たわけであります。私共は
国立公園の
あり方について検討すると共に、広くそういう視野に目を注いで、
日本全体の国土というものを美化し、それを保存して行くというような
方面にも意を用いなければならんと
考えて来たわけであります。時間の
関係で尚大事なところを相当省略いたしましたが、この程度で私の御
報告を終りたいと思います。