○證人(
小野清造君) 私
日本製鉄の小野でございます。それでは私から
鉄鋼の経理
関係のことについて若干申上げまして御参考に供したいと思います。
鉄鋼の経理は、大体御承知のように、現在いろいろな事情で非常に沢山の問題を包藏しておる現状でありますので、これを詳細に申上げますことはなかなか時間の
関係もありましてできないのでありますが、大体のことを概括的に申上げて見たいと、こういうふうに考えます。経理の問題はこれを大きく分けますと、損益の
関係と
資金の
関係と、こう二つに大体なるというふうに考えますが、
終戰後最近までの経理の大きな流れを見まして、その特徴的な点を大きく分けて見ますと、昨年の七月の公價改訂までの時期とそれ以後とに大体分けられると思いますが、昨年の七月の公價改訂以前の状態を申しますと、当時は非常に操業度が低かつた。從
つて原價的に見まして固定費が非常に割高に
なつて、
採算状態が非常に惡かつた。それからもう
一つは、
鉄鋼價格の改訂と一般物價の上昇との間に時間的なずれがあつたという、この二つの事情のために、昨年七月以前におきましては、経理
関係は損益の面で非常な苦境に立
つておつたわけであります。ところがこの点は、昨年七月の公價改訂によりまして相当
程度に改善されまして、それ以後は損益の面では相当樂に
なつたと考えるわけでありますが、一面におきまして、この公價改訂とそれから
生産量の増大と、この二つの事情によりまして、所要
資金が非常に大きな額にな
つて來ました。從
つてその
資金をやり繰りして行く、つまり金融操作の面で非常に困難な事情にぶつか
つて來たと、こういうふうな大体傾向に
なつておると思います。
それで先ず損益の面から大体どういうふうな
状況にな
つて來ておるかということを申上げて見たいと思いますが、丁度二十一年の八月に新旧勘定の分離ということが行われまして、それ以後
生産関係は新勘定の負担ということで経理をや
つて來ておるわけでありますが、その新勘定にその後ずつと赤字が出ておるわけでありますが、それが
鉄鋼全体といたしまして、昨年六月の現在で十四億五百万円という赤字が出ております。その赤字は七月に公價改訂がありました以後は、
業者によりまして若干の赤字の出ておる所もあるかと思いますが、まあ償却の問題がありますが、償却の問題を一應考慮外に置きますと、大体收支一杯々々に行
つておるのではないかと、こういうふうに考えております。從
つてその後はこの十四億五百万円という赤字はそう大して殖えていないというように、一應私共は考えておるわけであります。この十四億五百万円の赤字に対しまして、
業者が
復興金融金庫から融資を受けて辻褄を合せたものが、十億何がしであります。從
つてそれを除きました約四億何がしというものは借金もできませんので、結局
業者各個の資本の食い潰し、或いは
手許の操作というふうなもので辻褄を合せている。こういうような状態に
なつております。尤も新旧勘定分離以後の、その後できました赤字の総額といたしましては、実は十九億三千万円ばかりになるのでありますが、これに対して國家から補償を受けました分が五億三千万円ばかりあつたわけであります。それを差引いて、結局十四億五百万円というものは現在
業者の負担として赤字で残
つておる。こういうふうな状態に
なつております。総括的に見ますと、新勘定にそれだけの赤字が出ておるわけでありますが、それは経過的に見ますと、やはり大体この赤字の大部分というものは、昨年七月の公價改訂以前にできたものが多いのでありまして、その後は公價改訂によ
つて、
生産状態も相当改善されるということに
なつて、比較的損益の面では大きな赤字を出さずに済んで來たというふうな経過を辿
つております。これは昨年の六月現在の状態でありますが、その後の状態については、今申上げましたように大して大きな赤字は出ておるとは考えておりませんが、日鉄だけの状態を見ますと大体收支一杯々々に行
つておるというように考えております。ただその場合に問題になりますことは、償却の問題でありますが、これは現在御承知のように、公價の中に織込まれておる償却は、法定償却でありまして、これは帳簿
價格の七%という償却が認められておるわけでありますが、御案内のように帳簿
價格は現在のインフレの影響を受けない。非常に貨幣價値の高かつた当時の貨幣で表示されておるわけでありまして、從
つて固定資産の
價格というものは、現在の一般物價から見ると非常に安いところに抑えられておる。その非常に安いところに抑えられた帳簿
價格に対して、七%という償却より認められておらないというふうなために、その後の物價情勢に対應して適宜に資本の維持更新を図
つて行くというためには、到底この
程度の償却では足りないわけであります。そこでどうしても資本の維持更新を図
つて行くためには、ここに認められております以上の償却をや
つて行かなければならんということになるわけでありますが、それをや
つて参ります場合には、税法の
関係がありまして超過償却として課税されるというようなことに
なつて参りますので、仮に
業者の損益状態にはそれだけの余裕があ
つても、法定償却以上の償却としては、実際問題としてはできないと、や
つてもそれだけの
意味がないというふうな実情に置かれておるわけであります。どれぐらい違うかということを例をと
つて申上げますと、日鉄の場合について申上げますと、大体日鉄は過去、支那事変の始まりました当時からのずつと
状況を平均して見ますと、大体
製品賣上高に対して、八%
程度の償却をや
つて來ておつたわけでありまして、それによりますと大体一・
四半期に、現在の
生産量で申しますと、少くとも五億
程度の償却をしなければならんというふうなことになります。ところが実際問題として、公價の中に認められております償却というものは、それの一割にも満たないというような現状でありまして、この点は今後の
鉄鋼業の
復興という問題と関連いたしまして、何らか適切な措置がとられないと、何年かの先には、
鉄鋼の
生産設備の大部分が役に立たないというような事態にぶつつかるということを、私共としては、非常に恐れておるわけであります。この点は差当りの問題としては、税法の改正によ
つて、更により以上の償却を認めるというふうなことになるか、或いは最近よく世間でいわれております資産の評價換と申しますか、再評價と申しますか、そういうような措置をするが、いずれかの方法がとられない限りは、この点は解決しないと考えておるわけであります。この点につきましては、
政府並びに
関係筋の今後の非常な御理解と御援助を是非お願いしたい、こういうふうに考えておるわけであります。
損益の概況につきましてはそういうふうな
状況でありますが、次に
資金の問題でありますが、この
資金の問題は先刻も申上げましたように、特に昨年七月の公價改訂以來、この
價格の上昇と、それからたまたま軌を一にして
生産量が非常に増えて來た。この二つの事情によ
つて資金の所要額というものは非常に大きなものに
なつて参りまして、これの調達ということに常に苦心をしておるわけでありまして、先刻來話の出ております二十四年度百八十万
トン計画というものの達成につきましても、恐らく一番
中心的な問題となりますものは、
資金問題であろうと、こういうふうに考えているわけであります。そこで一体
鉄鋼業の
資金が、今日どういうようにして調達されて運用されているかということを極く簡單に申しますと、
資金は御承知の
通り、運轉
資金と
設備資金と二つに分けて考えられますが、大体において、今日この運轉
資金は、基本的には賣上收入というものによ
つて賄
つて行くわけでありますが、この賣上收入の入
つて参ります道が現在大体三つあると思います。その
一つは、御承知のように、私共の
製品は、
生産と同時に公團に買取られるわけであります。その後問屋との商談が決りますと、それをもう一遍公團から賣戻しを受けまして、そうしてそれを問屋へ賣ると、その代金を問屋から回收するわけでありますが、この公團の
生産買取と同時に、
需要者
價格に相当する部分を
メーカーは公團から貰うわけであります。そうしてその後問屋の方にこれを
出荷いたしまして、問屋から代金を回收しまして、きれを公團の方に返して行くというような大体仕組に
なつているわけでありますが、それで大体その收入の源泉を分けて見ますと、第一は、問屋から回收して参ります賣掛代金、それから第二は、今の公團に対する
生産買取りによ
つて貰います
需要者
價格に相当するもの、それからもう
一つは、補給金に相当するものであります。これも現在公團を通して貰
つているわけでありますが、この問屋からの代金收入と公團に対する
生産買取代金と、それから補給金と、この三つの分で大体收入が成立
つているわけであります。この三つについてそれぞれ最近の金融事情によ
つていろいろ問題があるわけでありますか、第一の問屋の賣掛金の回收でありますが、これは戰前におきましては、
鉄鋼と申しますより特に日鉄あたりの
状況としては、非常に代金の回收
状況が惡かつたのでありますが、
終戰後はこの点に非常な努力を拂いまして、最近は回收
状況は非常によくな
つて來てはおるわけでありますが、ところが肝腎の問屋の金融というものが最近非常に逼迫しておるわけであります。それで私共は問屋の代金回收を促進するためには、どうしてもその或る部分を手形で以て取
つてやらなければ回收ができないというふうな実状に
なつておるわけであります。こういうことを申上げますのはおかしいのでありますが、大体問屋と申しますものは、一面において金融的な機能を持
つておるものでありまして、從前は問屋が
メーカーに対して或る
程度の金融の援助をするという実状であつたものが、最近は逆に問屋の金融を或る
程度メーカーで見てやらなければ代金回收ができないというふうな、全く逆な実状に
なつておるわけであります。日鉄の実状を申しますと、最近のごときは大体賣掛代金の四割までは手形で以て取
つてやらなければ回收ができないというような実状に
なつております。而もそうや
つて問屋から取りました手形は、全額が市中で割引等によりまして消化ができれば問題はないのでありますが、最近の実状では問屋から徴收するもののうちの一割乃至一割五分くらいのものは、市中で割引ができない。そのまま日鉄の手持に
なつて残
つて資金ができないというふうなことに
なつております。
その次に
生産買取でありまするが、これは
生産買取で公團に私共が
製品を渡しますと、これに対して
メーカーの方から手形を出すわけであります。これは品物を賣
つてその代金に対して、賣つたものが、手形を出すということは甚だおかしいのでありますが、いろいろな
関係で、例えば公團が手形上の請求者になれないというような事情がありまして、こういう変則的な方法を取
つておるわけでありますが、この
生産買取に対して
メーカーが出します手形を、いわゆる認証手形とい
つておるわけであります。実際は
生産買取ができますと、それに対する手形を出して、先ず
メーカーの方で、その手形を割引いてくれる銀行を探して、その銀行との間に話合がつくと、それを公團の方に出して、その手形を、公團が、これは確かに買取つたものに違いないという認証をいたしまして、そのことによ
つて市中銀行がそれを割引くということをや
つておるわけであります。この認証手形が、はつきりした
数字は覚えておりませんが、日鉄の事情から考えて見ますと、大体
鉄鋼全体で四十億くらいに
なつておるのじやないか。こういうふうに考えておりますが、日鉄だけで申しましと、大体十七各乃至八億くらいのものが出ておることと思います。この認証手形が、これは又最近なかなか市中で以て消化がつかない。これが消化がつきませんと、今度は公團から我々が
製品の賣戻しを受けました場合に、その代金支拂ができない。その代金支拂ができないということになると、この認証手形が期日に落ちないということに
なつて、金融上非常に厄介な問題が起
つて來るわけでありまして、この認証手形の制度をうまく運用して行くためには、やはりこの認証手形が順調に市中銀行で消化されて、そうして
メーカーの方で賣戻しに差支のないようなことに
なつて参りませんと、非常に運用上支障が起
つて來るわけでありますが、これは最近の実状は、甚だ遺憾ではありますが、やはり認証手形の若干のものが消化できないで、
手許に残
つておるというふうなところへ追込まれておるわけであります。
鉄鋼については、そういうふうなことはまだ起
つておりませんが、私共聞いておりますところでは、或る業種の認証手形が不渡に
なつたというようなことも聞いておるわけでありますが、こういうふうな事態が起
つて参りますと、今の公團の
生産買取方式というものにも相当大きな問題が出て來る。同時に又
業者の
生産にも支障が起きるというふうなことに
なつて参りますので、何とかこの認証手形だけは順調に市中で消化されて、そうして支障が起らないように持
つて行きたい。かように考えておるわけであります。
それから第三の補給金でありますが、これは大体四十日くらいの期間のずれで、補給金の支出を受けておるわけでありますが、その四十四日間の金融が、これがやはり
メーカーの責任において金融をして行かなければならんというふうな事情に
なつておりまして、実際の実状を申しますと、この補給金收入というものを見返りにいたしまして、
日本銀行が斡旋いたしまして、市中銀行にそれぞれ割付けて、それだけの金融をつけておるという実状であります。日鉄で申しますと、現在この補給金見返りの融資ということで我々に援助を願
つております銀行が、十六行に達しております。この多数の銀行の協調融資によ
つて、この補給金の時期的なずれに対する金融を見ておるわけでありまして、この補給金見返りの、協調融資につきましては幸いにして今日まで各銀行方面の格別の御援助によ
つて、先ず大体において支障がなく金融がついておるというふうな実状であります。ただ併し最近のように非常に全体の金融情勢が逼迫して参りますと、銀行の方といたしましては、この問屋の代金收入から出て参りますいわゆる商業手形、これの割引、それから
生産取引に対する認証手形の割引、それから補給金見返りによる協調融資、これが皆
一つの銀行に固ま
つて行くわけであります。從
つて銀行の
手許が窮屈に
なつて参りますと、例えば商業手形は或る
程度割
つているが、認証手形の方は余るというような事情も起きて來るわけでありまして、そういう面でこの運轉
資金の金融というものを全体的に見ますと、最近は非常に円滑を欠いているようなわけでありまして、幸いに補給金の協調融資がうまく行くかと思うと、今度は認証手形が残
つておる。認証手形がどうにか割れるかと思うと、今度は商業手形が余
つて來る、こういうような、いたちごつこの
関係に
なつておるわけでありまして、どの
一つが行き詰
つても、結局
メーカーの金融を圧迫することに変りはないわけでありますので、この点今後の金融情勢にもよると思いますが、どういうふうに
なつて行くか、私共としては非常に懸念しておる次第であります。
それからもう
一つの
設備資金の問題でありますが、これは特に二十四年度の百八十万
トン計画というものに関連して非常に大きな問題にな
つて來ておるのでありますが、先程も
安定本部の方からお話がありましたように、百八十万
トン計画に対する
資金的な裏ずけが現在まだ決ま
つておらない。從
つて若しこれを
資金の調達ができなければ百八十万
トン計画を下りるわけではないが、或いは百五十万
トン、六十万
トンというふうに
生産計画を変えなければならぬかも知れぬというふうな実情にあるように伺
つておるわけでありますが、私共としては、
採算関係もあり、
業者としての経営的な立場から見てどうしても二十四年度は百八十万
トンに持
つて行きたい。從つい百八十万
トンに持
つて行くために必要な
資金、これは何らかの方法で
一つ調達できるように御配慮を願いたいと考えておりわけでありますが、この点について私共は從來
復興金融金庫から融資を受けて來ておつたわけでありますが、この
復興金融金庫が新年度においては財政の
関係で殆んど新規の貸付はどきない。まあ既往の貸付の回收その他で多少の残務は残るだろうと思いますが、積極的に從來のように貸付をして行くことは全然望みがないということに
なつたわけでありますが、然らばそれに代
つて誰がこの
設備資金を
供給するかという点になると、まだこういうふうにするというはつきりした方策が立
つておらないように考えるわけでありまして、いずれは何とかの方法ができるものとは我々期待しておるわけでありますが、併し一方
資金の
需要の方から申しますと、これはもう差当り金が要るわけであります。で、特に私共非常に心配しておりますことは、すでにこの第四・
四半期において二十四年度の百八十万
トン計画に対する
設備資金の一部として融資を受けておるものがあります。例えば日鉄で申しますと第四・
四半期で約五億円の融資を受けたわけであります。この五億円の融資がいずれも二十四年度の百八十万
トン計画に対する
設備資金の一部分に
なつておるわけであります。從
つて今後その金が暫くの間後の分が出ないということに
なつて参りますと、折角第四・
四半期に融資を受けました分までが、結局用をなさないというふうなことになる虞れが非常に多いのでありまして、その
意味において結局は何らか復金に代る
設備資金の融資機関ができるにしても、それができるまでの間、
設備資金の
供給者が空白になるということになりますと、この百八十万
トン計画に重大な支障が來るわけであります。仮にそういつた根本的な方策が立たないとすれば、それが立つまでの時期をどういうふうにして凌いで行くかということについては、これは格段の御配慮をお願いしたいと考えておるわけでありまして、差当り第一・
四半期の日鉄だけで申しましても、この百八十万
トン計画と即應ずるためには十一億くらいの
設備資金が要る。これは情勢によ
つて若干圧縮できるかも知れんと思いますが、一應計算して見ますと、十一億くらいの
資金が要るわけであります。ところが現在のところではこの十一億の金の出場所がない。從
つてこれが出ないということになると、どういうことになるかということを申上げますと、大体十一億の
資金が第一・
四半期は出ない、第二・
四半期でなければ出ないということになりますと、
銑鉄で十二万八千
トン、
鋼材で九万
トンくらいのものが
計画から下廻る。それだけのものが
計画量に達しないというふうな大体結果が出て來るような計算に
なつております。そういうことに
なつて参りますと結局百八十万
トン計画に大きな罅が入
つて來るわけでありまして、私共としては何とかそういう事態の起らないように、第一・
四半期の所要
設備資金について一時の繋ぎにしろ、何とかこの
資金の
供給が順調に行くということを念願しておるわけでありまして、この点につきましては私共としては勿論あらゆる努力をするわけでありますが、同時に
政府並びに
関係筋におきましても、格段の御配慮をお願しなくちやならんとこういうふうに考えております。
甚だ簡單でありまして、経理の全般を盡しておりませんが、本体私共の一番今問題に
なつておると思われる点を、極くかい摘んで申上げた次第であります。