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賀來政府委員 ただいま政務次官から、どの点において
労働組合側、あるいは
労働者関係の
意見を今度の
改正案の中に取入れたかということについて、私から
説明をしろという御
命令がありましたので、私からおもなる点を申し上げたいと思うのであります。
第一試案と申しますか、労働省試案を発表いたしまして、公聽会の
意見を聞きますとともに、そのほか文書、あるいは直接なり、あるいは労務対策
委員会という労働
関係者がつく
つておられました
委員会なりの御
意見を聞いて参
つたのでありますが、
労働者側といたしましての御
意見のうち、採用いたしましたおもなる点を申しますると、第一は、第
二條第一号
関係におきまして、
現行法におきまして
使用者の利益を代表する者とありましたのは、なおやや詳細にする必要があるというふうな御
意見がありましたので、それを半ば取入れておる点であります。第二点は、労働省試案におきましては、幹部
組合の
規定を入れてお
つたのであります。この点は
現行法の
解釈からも出て参るのであります。たとえて申しますと、小学校の校長先生、あるいは鉄道の駅長、区長さん、これらの人々は、監督的
地位にあるとか、あるいは他の理由をも
つて、
組合には直接加入いたしませんが、自分らの利益を守るために
組合をつくる、こういうようなことは認められておるのであります。これを法文の技術上からいたしまして、特別
労働組合というのもおかしいだろう。そこで幹部
労働組合という名前をつけて、試案にいたしまして出したのでありますが、この点は労資双方とも非常に反対がありました。
労働者側のうち、課長さんのクラス、これは現在の状況におきましては、課長さんというのは、
使用者の利益を代表するようにも見えますが、非常に弱い
立場にある。特に銀行でありますとか、あるいは生命保険でありますとか、こういうようなホワイト・カラーの面におきましては、非常に弱い面がありますので、これらはひ
とつ組合をつくりたい、かようなことから、一部いい点もあるということは認められておりましたけれども、全体といたしましては、この点に非常に反対が強くありましたので、これは削除いたしたのであります。それら第三点は、
組合規約の要記載事項に関します
資格要件の点であります。この点は試案におきましては、相当詳細に書いてお
つたのであります。ところがこの点につきましては、
労働者側の相当強い反対がありましたので、これを
原則論に要約いたした点であります。これは第五條
関係であります。それから同じく第五條の第二項第七号に会計監査に関します
規定があります。これは試案におきましては、外部の入の会計監査を受けるようにという表現をいたしてお
つたのであります。これに対しては非常に反対がありまして、
労働組合に関しまする極東十六
原則の第十六には、職業的な会計検査人の検査に付すべきであると、かように書いてあるので、これは極東十六
原則に示された
通りにすべきであるという御
意見を取入れまして、本
法案におきましては、職業的な会計監査という言葉にいたした点であります。
その次は試案におきましては、知事が
組合規約に対して
勧告することができることを
規定してお
つたのであります。この点は反対がありましたので、削除いたしております。その次は、
組合資格は
労働委員会がこれを
審査せよ、こういう御
意見があ
つたのであります。試案におきましては、
労働委員会が
資格審査に当るのでなか
つたのでありますが、この御
意見は半ば取入れまして、本
法案におきましては、
資格審査という形はやりませんが、
労働組合がみずから本法の救済を受けようとする場合には、
労働委員会に証拠を
提出いたしまして、そうして立証いたしまして、その
組合であることを認めるというふうな形に、これを直したのであります。その次に、試案には
團体交渉拒否権の、拒否いたします場合の事由を、具体的に列挙いたしてお
つたのであります。たとえて申しますれば、長時間にわたり、不当に多数の人間が、著しく喧騒にわた
つた團体交渉はいけないというふうなことを書いてあ
つたのでありますが、これから將來
労働組合が現在の進んでおります道を
はつきりとりまして、
自主性の明確な、民主性の
はつきりいたしました
組合になりますならば、当然かような
状態になるものと考えまして、ただ正当な理由なくという程度にとどめまして、試案にありましたことは削除いたした次第であります。これは第
七條第二号に正当なという言葉を入れております。次には
團体交渉に應ずる義務を
使用者のみにせよ、こういう御
意見があ
つたのであります。試案におきましては、双方
團体交渉に應ずる義務があるというふうにいたしたのでありますが、この点につきましても、
意見もつともと考えまして、これは
使用者のみが
團体交渉に應ずる義務があるということに
規定をいたしたのであります。
次いで試案におきましては、交渉單位及び交渉
組合に関しまする
規定があ
つたのであります。これは御承知事の
通りに、アメリカにおきまして最も成功いたしました制度であります。そこでその筋の指導によ
つて、現に
公共企業体労働関係法におきまして、この点は詳細に
規定せられております
関係もありまして、日本の
労働組合運動の中にこの制度を取入れたい。現にアメリカで起
つておりますような、ああいうなわ張り争いは、まだ日本では二、三しか例が出ておりませんが、最近は第一
組合、第二
組合、極端には第七
組合、第八
組合までできまして、
團体交渉が非常に複雑にな
つておる。そのために
労働者自身
使用者側の乗ずるところになりまして、
組合が不利な
立場になる。かような
意味から、交渉單位及び交渉
組合の制度を入れることは適当はないかというふうな考え方から、試案に入れてお
つたのであります。ところが、これに対しましては、
労働組合側が、これは
組合分裂の原因になるものであるという
意味におきまして、少くとも現段階においては不適当であるというふうな
意見が強か
つたのであります。
使用者側におきましても、これは理解ができなか
つたと見えして、一部反対がありましたので、この單位制度は全文削除いたしたのであります。これは提案理由の際に大臣から申しましたように、現段階といたしまして最も適当な程度にとどめたという理由の大きな一つにな
つておるのであります。
その次の
不当労働行為の
手続に要する
期間を短縮せよという
意見であります。試案におきましては、いろいろ
手続をや
つて参りますと、九十日ないし百二十日くらいかかるのであります。これはそのかわりに、
労働委員会の処分いたしまする
手続が、
はつきりしたものにな
つてお
つたのでありますけれども、この点は
労働組合の主張するところが、
もつともであると考えましたので、本
法案の第二十
七條におきましては、これをぐつと短縮いたしまして、最長三十日程度にこれをとどめておる次第であります。
その次は、破産を法人である
労働組合の解散事由とするなという
意見であります。これは、
現行法におきましては、理由にな
つておるのでありますが、主張いたしますところを聞きますと、破産に
なつたからとい
つて、ただちにそれに從
つて労働組合か解散するということは、適当でないという考えからいたしまして、
法案の第十條におきましては、これを採用いたしまして、破産を解散の理由とすることを削除いたしておるのであります。
それから試案におきましては、
現行法の労働
協約の一般的拘束力の條項を削除いたしてお
つたのであります。ところが、これに対しましては、産別、全労働
会議、あるいは総同盟、全部を通じまして、これは復活すべきである、こういう
意見がありたのであります。從いまして交渉單位の條章を削
つております
関係もありまして、一般的拘束力の條項は、本
法案におきましては、
現行法通りにこれを残しておるのであります。
次い試案におきましては、
労働委員会の
委員の
資格を相当嚴重なものといたしてお
つたのでありますが、これについてやはり総同盟、産別ともに反対をいたしたのでありまして、これはご
もつともということからいたしまして、現在の衆議院議員の
資格と同一に、これを訂正いたしておるのであります。
その次は、労働
委員の罷免に関する問題でありまして、これは試案におきましては、所管大臣が罷免できることにいたしてお
つたのであります。これに対しましては、この罷免の際は、同じ
労働委員会の同意を要するようにせよ、こういう主張がありましたので、これを本
法案におきましては、
労働委員会の同意を要するということにいたしておるのであります。
またその次に、試案におきましては、
地方労働委員会のうち比較的閑散な場合におきましては、また
委員を選任いたしますのに、適当な
委員が選任できない理由もありまして、三人構成、すなわち労、資、公益
委員おのおの三名ずつにする予定をいたしてお
つたのでありまするが、この点につきましては、各地方労資及び中立と申しますか、第三者側の
委員も、こぞ
つて反対をいたしましたので、これを五人にいたしておるのであります。
それから試案におきましては
労働委員会事務局の
規定が明確を欠いでおりましたので、本
法案におきましては、この
事務局の
規定の明文を設けておる次第であります。
その次には裁判的機能をやる際には中立
委員、すなわち公益
委員だけがやるのはけしからぬ。やはり労資を弁護士あるいは檢事の
立場でその
審問に参加させよ、こういうふうな御
意見があ、
つたのであります。試案におきましては、中立
委員だけでこれをやることにな
つてお
つたのでありますが、この御
意見はご
もつともと考えまして、本
法案におきましても、
審問には労資がこれに参加することができる。かように
規定いたしておるのであります。
その次には
不当労働行為の処罰に判決確定後十日間の猶予を置くことは不要である。こういうふうな
意見がありました。これは試案にはさような
意味を
規定いたしておりまして、
使用者側が判決確定いたしました後に、その
命令に從うためには十日事間の猶予
期間を置いてやろう、かような考え方がありましたが、今回の
法案におきましては、これを削徐いたしておるのであります。
次に労調法に入りますが、試案におきましては、公益事業を総理大臣が議会閉会中といえども、緊急指定をやることができる。そうしてこれは議会が開かれましたときに追加してその承認を受ける。かようなことにな
つておりましたのを、それに異論がありましたので、その御
意見は
もつともということになりまして、今度は総理大臣が議会の閉会中に緊急指定することはこれを削除いたしまして、そうして國会の開会中に限
つて、また國会の承認を得なければ指定ができないということにいたしたのであります。労調法の
現行法の第九條では、労働争議が起りましたならば、行政官廳に届け出るようにという
規定があります。これに対しまして試案におきましては、予告
期間を置き、その前に届け出るようにということが書かれてありましたが、これはやはり
労働組合側の主張を容れまして、
現行法通りにいたしております。さらに試案におきましては調停申請をいたして参りましたときに、労調法の精神から見まして、まだ労資双方の交渉が本格的に行われていない、これは單にクーリング・タイムを経過するためにのみ、調停申請をして來たのだというふうな事例が多くありましたので、場合によりましては
労働委員会はこの調停申請を却下することができる、かような
規定を置いておりましたが、これには反対があ
つたのであります。特に産別は強く反対をいたしたのでありまして、この点は
もつともな
意見と思いまして、この点を削除いたしておるのであります。
それから一般産業につきまして、争議
行為をやります場合には予告してやらなければならない、こういう案を試案においては持
つてお
つたのであります。これにつきましては全
労働組合をあげて反対をいたしてお
つたのであります。そこでこの反対の
事情をくみまして、この一般産業の争議
行為の予告制は削除いたしておるのであります。
おもなる点は大体以上でありまして、
労働組合といたしましては、
現行法は不備であ
つても、とにかく一字もこれを
改正してはならないという反対の態度をと
つておりまする
組合と、また改惡と申しますか、彈圧法的になることは反対であるが、しかし
現行法には不備の点が幾多ある、試案に対しましても真摯な態度をも
つて、この点はいい、この点は惡いという御
意見を申された
組合とがあるのであります。いずれにいたしましても、以上申し上げましたような諸点におきましては、これを相当本
法案におきまして試案からは
改正をいたしておるのであります。以上で御了解を願いたいと思います。