○猪俣浩三君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程せられました
農業資産相続特例法案に対して
反対をいたすものであります。以下、その
理由を箇條書的に、ごく
簡單に申し上げます。第一は、本
法案は民法の均分相続制度の特例をつくることによりまして憲法第十四條、第二十四條に
規定せられましたところの
個人の尊厳と両性の平等との大精神を破壊するものでありまして、なお憲法第二十二條の職業選択の自由をも奪うような
法案であると考えるのであります。御承知のごとく、民法は憲法の大精神によりまして、相続制度について革命的な大
改正をなして、家督相続制度を廃止し、均分相続制度の温床を破壊いたし、ここに社会構成單位の民主化をはかるに
至つたのであります。
しかるに今農業資産につきまして特例を設け、指定せられましたところの一人に相続させるということは、家督相続の思想の復活でありまして、これはゆゆしき大問題であると思うのであります。ことにわが國のごとく、農村の人口が全体の四割を占めるのみならず、都会におきましては、勤労階級り大部分は相続するような財産を持
つておりませんから、こういう
実情から、本法が通過いたしますならば、わが國の七、八割の人たちが、民法のこの均分相続に反する相続をすることに相なりまして、憲法の大精神は没却せられることに相なると存ずるのであります。(
拍手)ことに、封建思想の残滓が濃厚に残
つておりまする農民において、また民主化を最も必要とたいしまするところの農村におきまして、その特例を設けることは、わが國百年の大計のために重大深刻なる問題と申さなければならぬと思うのであります。(
拍手)
政府当局は、この
法案は家督相続の観念で立案したものではないと言いますけれども、過般法務
委員会におきまして、わが党の石川委員の質問に答えまして、
政府委員は、胎兒——お腹の中にある子供でも指定相続人として指定せられることがあるということを認めたのでありまするが、胎兒や三つ、四つの子供を指定相続人にするということは、家督相続の観念をも
つてしまければ考え得られないことであります。
政府の
提案理由によりますると、農業を営む見込みのある者一人にする制度であるということに相な
つておりまするが、これは神樣とか大予言者でもなければ、お腹の中にある子供が農業を営む見込みのある者であるかどうかということは判定ができないわれでありますから、これはまつたく家督相続の観念でありまして、問うに落ちずに語るに落ちるということで、この
法案は家督相続の理念でも
つて提案されたということがわかるのであります。
かくて、農村におきましては長子相続制が行われ、農業資産相続人が物質的な背景を備えて他の備えてを支配し、ここに時日上戸主権が発生すると思うのであります。これは
昭和二十二年におきまして、社團法人であるところの輿論科学協会の調査によりますと、おやじさん方がもし農業資産を譲るとすれば何人に譲るかという輿論調査に、ほとんど大半は長男に譲るという答えをしている。そのまた
理由がどこにあるかというと、これは家の存続という観念から來ているということが
政府の提供しました資料によ
つて明らかである。すなわち、やはり昔の家の観念、長子存続の観念、これによ
つて維持せられるであろうことは火を見るよりも明らかでありまして、私どもがこれをいわゆる旧民法の家督存続の観念の復活と考えるゆえんは、ここにもその根拠があるのであります。この意味におきまして、私どもは本
法案は農村の民主化を阻むものとして
反対をいたすものであります。これが
反対の第一点であります。
第二点は、本
法案はすでに過去の思想とな
つておりますところの自作農創設という理念に拘泥しまして、わが國の農業経営に新しい構想を樹立することを阻んでおるところの
法案であろうと考えられるのであります。わが國の農業経営もやがて世界経済と連結するように相なりましたならば、現在のごとき原始的な経営、自給自足的な経営で立ち行かないことは明らかでありまして、ここの農民に
企業精神を振起するとともに、その経営も
企業化し、高度化しなければならぬことは自然の理であります。本
法案は二
反対歩以上の農地に適用されるのでありますが、かかる小規模な経営面積をそのまま固定化することは、それ自身非合法的でありまして、今後はできるだけこの小規模経営より大規模経営に統合しまして、集團的経営を考慮し指導しなければならぬと思うのであります。本
法案は、かかる構想に反しまして、封建色の濃厚な家産制度的なものを温存せんとするものでありまして、これは新しき農業経営のあり方とははなはだ相反した、非進歩的な
法案であろうと思うのであります。これば
反対の第二点であります。
第三点といたしまして、本
法案は民法のいわゆる均分相続制度とむりに調和せしめんといたしまして、指定相続人が他の共同相続人に対して賠償をすることに相な
つておりまするが、農家におきましては、農業資産以外の財産なんというものはないのが普通でありまするから、その賠償が指定相続人の非常な負担となることは明らかでありまして、農業経営者と
なつた瞬間に多額の債務者となるというような結果に陥るのであります。これを救済しようといたしまして、ここに特定の金融機関または國家から低利資金を融通するようなことわおやりになりますならば、農業経営上最も必要な資本を土地に固定せしめることに相なりまして、農業の高度化の阻害原因をつくることに相なり、永久にかような状態を続けることに相なりましたならば、日本の農業の高度化ということは得て望むことができないのみならず、なおその借金のためにいわゆる指押えを受け、強制競賣を受けるように相なりますならば、
法案の
趣旨ともそむくことに相な
つて來るのでありまして、いずれにしても適当でないと思うのであります。これが
反対の第三点であります。
第四点といたしまして、本
法案は農業経営の細分化を防止することを、ただ所有権の方面ばかりから考えてお
つて、ここに
法律上の技術を適切に利用することの考慮を欠いておるのであります。所有と経営を分離する近代経済理念をも
つていたしますならば、いわゆる均分相続制をとりながら零細農の発生を防ぐ道は多あるのであります。共同相続人として共同経営をさせて何が悪いのか。夫婦兄弟が共同経営して、どこに悪いことがあるか。
私は新潟縣人でありますが、越後の國では、妻や母が男より余計共同経営して働いておる。これを共同経営として何で不都合がありましようか。これをもしこの
法律でやつたならば、必ずや男一人の名義になることは明らかでありまして、これは共同経営にすることがかえ
つて適切な場合がある。かようなことによりまして、妻あるいは妹、あるいは姉さんというような女の権利を侵害するようになることは明らかであります。また越後の國の蒲原地方のように、三町歩も五町歩も経営しておるような農家におきましては、一人ではできないのでありますから、兄弟三人あるなら三人で共同経営をして何も悪いことはないのでありまして、むりに
法律の力によ
つて一人に限定するということは、どうも妥当を欠くと思うのであります。
なおまた均分相続制度にいたしましても、この所有を経営に結びつける
法律技術は多々あるわれでありまして、賃貸借の制度、あるいは信託管理の制度、あるいは現物出資の制度によ
つて共同経営する方法は多々あるはずであります。かようにして農村を
企業家することによりまして、ここに家計費と経営費との分離をはかり、わが國の農村を世界農村に比肩することのできるように高度に農村化する道が開けると思うのでありますが、本
法案はまつたくそれと
反対の
趣旨によつた提案せられておるみのであります。
なおまた農民の零細経営につきましては、農業
協同組合あるいは農地
委員会等に適当な管理権を與えることによ
つて、経営の細分化は幾らでも防げる方法があるのであります。さようなことにつきましても少しも考慮しておらないといううらみがあるのであります。かかる構想のもとに十分農民や学識経験者の
意見を聞きまして、
法律技術的にリフアインされましたことろの立法をしてもらいたいのでありまするし、また
國会におきましても、公聽会等を用意いたしまして
愼重審議してもらいたいのであります。かかる重大なる
法案を、十分
審議も盡さずして通過せしめるのは、農民を軽視するこれにりはなばたしきはないと私は考えておるのであります。こんな
法案を出すぐらいでありますならば、現行法のままにしておきまして、民法の原則に從いまして、その零細化はいわゆる生前贈與または遺贈というような制度によりまして、農民自身の自主的精神によ
つて処理させてけつこうなのであります。この
法案がないがために農民が零細化した農民に轉落したなんという実例はないという
政府の答弁を見ましても、こんな
法案を出すくらいならば、今の民法の原則を実行いたしまして、農民に自主的に
処理させた方がより適切であり、わが日本の農民をして自主経営に熟練せしめるゆえんであると思うのであります。
今
委員長の
報告を聞きましても、この
法案のはまだ幾多の欠点があ
つて、ただちにこれを
改正するようなことを言うのでありまするが、相続というような重大問題をたびたび
改正するがごときは、農業経営を安定せしめんとして、実はこれを不安定に置く
法案に相なるのでありまして、この点につきまして、どうぞ皆さんの良心に訴えて
愼重なる誤討議を願いたいと存ずるのであります。
私の
反対理由は以上四点であります。(
拍手討議