○受田新吉君 ただいま上程されておりまするところの
國立学校設置法案に対しまして、
日本社会党を代表いたしまして反対の意思表示する次第であります。
そもそも敗戰直後において、わが國のあらゆる
制度が根本的に切りかえられた中におきまして、その最も大きな構想によ
つて進められたものは教育
制度の改革でありました。そうして、第一に六・三制が義務教育として新憲法にはつきり
規定せられ、さらに新制高等学校、新制大学と漸次進められて來たのでありますが、今やその最終段階の國立新制大学を
規定する
設置法がここに上程せられるに至りましたことは、その根本精神においては私たちは十分賛意を表せざるを得ないのであります。しかるに、この重大なる教育の民主化の最後を飾るところの新制大学を國立として
規定するこの重要なる
法律案の
内容が、あまりにも早急の間に立案計画され、そうしてわれわれの前に提示されたものが非常にずさんな結果をもたらしているということにおいて、私たちはここに断固反対を表明する次第であります。(
拍手)
第一に、この
法律案の
内容を見ますると、その本則とするところは、わずかに十五條であります。この十五條の中に
規定されてあるところの、その命令への委任
事項がいかに多いか。今一々挙示するまでもなく、第七條におきまして「國立大学に附属の学校を置く場合においては、その
組織その他必要な
事項は、
法律又は政令で定める。」とされております。「國立大学に附属の学校を置く」という重大な
規定を、單なる政令で発した場合に、いかなる結果が起るでありましようか。その学校の独特の性格及びあらゆる角度から見て最も安全と思われるものは、やはりわれわれ
國会の
審議を経た
法律案として
規定する以外に断じて許されないのであります。
また第八條の、國立学校の学部に置かれる講座とか、あるいはこれにかかわるべき種々なる重要
事項を文部省令で定める、これまた大きな委任をしておるのであります。さらに第十三條におきましては、「各國立学校に置かれる職の種類及び定員については、文部省令で定める。」と
規定されておりまして、現在大学に置かれておりまする教授、助教授、
事務職員、技術職員あるいは教務職員のごときものを、單に文部省が
大臣の
権限において命令を発するという
規定を設け、特に定員においても、これを命令に委任しておるのであります。現に
内閣委員会に上程されておりまするところの
定員法と関連する問題でありまするが、少くとも各國立学校の職員の定員については
國会の
審議を経た後においてなさるべきであ
つて、文部
大臣がか
つてに各國立大学の適当なる定員を独断で
規定するようなことは断じて許さるべきことではないのであります。
さらに第十五條に、はつきりと命令への委任
事項として、「この
法律又は他の
法律に別段の定めのあるものを除く外、國立学校の
組織及び運営の細目については、文部省令で定める。」とされておりまして、学校
内部におけるところの
組織及び運営を、大学の自治性を尊重することなくして、
大臣の
権限において
規定するというようなことは、これまことに、われわれ
國民の最も憂えて來たところの大学の自治及び研究の自由を侵害する重大な
規定であるのであります。
私は、わずか十五條にしか及ばないこの本則的な
規定の中に、かくも数項にわたるところの根本的命令委任
事項があるということにおいて、最も現在憂慮されるところの官僚統制の強化、文部官僚が依然として各國立学校を統制し、かつ國立学校に対してその大いなる
権限を振りまこうとする、憂慮すべきものがひそんでいることを憂えるのであります。(
拍手)
皆さん、この重大なる大学自治の尊重、学問の自由、この
規定を單なる官僚統制によ
つて十ぱ一からげに縛り上げようとしたこのやり方そのものにわれわれは非常なる不愉快を感じます。
政府当局は、もう少し研究
審査の結果において、いま一歩進んだこれらに対するところの親切なる
規定をなぜ設けなか
つたか。たとえば定員
関係におきましては、國立学校
定員法のごときものを設定するとか、もしくは大学自治法、あるいは大学を
設置する基準、根本法のごときものを同時につく
つて、これらを並行的にこの
設置を進めらるべきではなか
つたか。この点において、文部当局、
政府当局は、いま一歩進んだところの親切な研究をしていただきか
つたのであります。
今や祖國
日本が平和的に文化的に高らかにその巨歩を踏み出そうとするときに、新制大学が、その名ばかりを得るにとどま
つて、その実が、かの六・三制そのもののごとく、あの一昨年出発したばかりの六・三
制度が今や重大な危機に瀕したるごとく、この誕生とともに、あるいはその轍を再び踏まんとすることを私は深く憂うるものであります。
最後に、特にこの教育危機と言わるるときに、新制大学を國家が保障する立場において
予算的措置を十分に講じてしかるべきである。昨日、本
会議において遂に可決せられましたるところの文部省
設置法案の大学学術局の
事務の
規定の中において、大学教育及び学術の研究に対して
國庫が補助をすることができるという
規定が掲げられてありましたが、少くとも國立の学校に対してその経費の一部を補助するごとき精神を文部当局が持
つているということに対して非常な不満を抱くのであります。國立の学校の経費は、義務教育とともに全額これを
國庫が負担するくらいの大きな勇氣を持つべきである。同時に、この新制國立大学のあまたの学校の中には、各府縣において非常な爭いの結果生れた学校があるのであります。そして、いろいろな陳情、請願、あらゆる政爭の結果、遂にやつと目標に到達して、この
設置法の中にあげられたのでありまするが、このような困難なる段階において、地方各府縣が教育の地方分権という立場からも総合大学
設置に猛烈なる運動をして生れたこの大学が、教育の根本的な根拠であるところの
予算的措置を得られないために生みつぱなしの運命になることは、まことに憂うるに足るところの元凶が私は十分この
法案の中にひそんでいることを憂えるのであります。(
拍手)
皆さん、與党の各位は、この
法案に対しましてほとんど無條件で御賛成をなさ
つたのでありまするが、私は最後に一言申し上げたい。今や世界に最も誇るべき文化高き國家となる立場からは、大学の研究はより高度でなければならない。しかるに、新制大学の学制の研究がいささか低下する懸念があり、しかも今度の学生募集において、その定員に達せざるところが相当あるやに懸念される現段階において、何ゆえこの
法案の中に、あの大学の最も研究に蘊蓄を傾けるところの、学校教育法に
規定されている大学院の
設置を
規定しなか
つたか、そうして勤労者のために、晝間の働きの疲れの中にもめげずに努力しようとするこれら勤労
國民のために、学校教育法に
規定されておるところの夜間学部の
設置を何ゆえ行わなか
つたか、これらの点についても
政府当局に非常に不用意があ
つたことを遺憾に思うものであります。
なお、文部省直轄の諸学校のほかに通信省及び運輸省、農林省等のそれぞれの
所管の学校をこの國立学校の文部省
所管に移そうとする努力をせられたことに対しては心より敬意を表し、國全体の教育に
統一あらしめるというその苦心のあとを十分認めるものでありまするが、しかしながら、以上申し上げました、この
法案全体を流るるところの大学の自治性破壞及び学問の自由、教育の機会均等を侵害する諸種の
規定、並びに文部官僚の統制の強化が非常に憂慮されるような、あらゆる命令への委任
事項に対して心から遺憾の意を表するとともに、
予算的措置において十分でなき根拠をここに確認して、少くとも
政府は、この
法案に対して
予算の考慮が拂われておることが少か
つたと断言せざるを得ない意味において、新制大学の將來にいささか暗影を投ずるその結果を確認するものであります。
私は、ここに新制國立大学が輝かしきスタートをすることを心より待望した一人である。しかるに、その輝かしきスタートに当
つて、その運営の点において、その
予算的措置の上において非常に遺憾の点があ
つたことにおいて、この
法案に賛意を表することができないのであります。ここにわが社会党を代表いたしまして、少くとも
政府は、この
法案が多数をも
つて成立せらるるにせよ、これに対して十分これを生み育てるところの努力がなさるべきことを心から覚醒し、自覚し、反省する用意を
要望し、同時にわれわれ勤労
國民に対して教育の機会均等を十分付與することを熱望し、よ
つても
つてこの
法案の根本的なる
修正をなさるべきことを念願したのであ
つたが、その
修正をするのにはあまりにも多量の
修正を要するをも
つて、
修正を省いて反対の意思表示をした次第であります。
以上簡單でありまするが、
國立学校設置法案に対する反対の討論を終る次第であります。(
拍手)