○關谷勝利君 ただいま上程に相なりました
海陸貨物運賃調整に関する
決議案に対しまして趣旨弁明をいたしたいと存じます。まず案文を朗読いたします。
海陸貨物運賃調整に関する
決議案
政府は、國鉄並びに船舶
運営会の貨物運賃が政策を加味した低率運賃であるのに対して、機帆船の貨物運賃が採算運賃であるために、名目上低率な官業が不当に民業を圧迫している実態を調査し、直にこの不公正な事態を改善する
措置を講ずるべきである。
なお、このような不公正な貨物運賃体系が正常の事態に復帰するまでは、
政府は物資の海上輸送に対する競爭入札制を一時停止すべきである。
右決議する。
さきに國鉄の独立採算制を堅持いたします建前から、
國会は國有鉄道旅客運賃の六割値上げを
決定いたしたのであります。ところが当時懸念をいたされておりました事態が早くも現実の姿とな
つて、最も憂慮すべき事態が発生いたしつつあるのであります。それは貨物運賃の問題であり、陸と海との貨物運賃のアンバランスの問題であります。貨物運賃のアンバランスとその及ぼす
影響が
日本再建途上いかに大きな障害であるか、ゆえに
政府はいかにしてこれに善処すべきかについて、いささか申し述べたいと存じます。
元來、陸上貨物運賃と海上貨物運賃とを比較する場合、海上運賃の方が陸上運賃より安いというのが
原則であり常識であ
つたのであります。しかるに、現在は海運運賃が鉄道運賃よりはるかに高いという、ま
つたく逆なる奇現象が行われておるのであります。このアンバランスの
原則の
原因の一つは、海運の戰時被告が八〇%という壞滅的
打撃を受け、しかも残存船の大部分が非能率な戰時標準型船によ
つて占められている等の
理由によりコストが高くな
つていることは爭われない事実であるにしても、根本
原因は実に鉄道貨物運賃が政策上不当に低く置かれていることにあることは、すでに皆さん方御承知の通りであります。現行の鉄道貨物運賃は、その所要原價のわずか四三%を満たしておるにすぎないのでありまして、しかもなおその原價構成には税金、償却、金利、保險料等の、民間企業においては重要なる企業要素が含まれていないのであ
つて、いかに
國家の低物價政策のために不当なる低位にすえ置かれているかが分明するのであります。
海上貨物運賃についてこれを大別すれば鋼船運賃と木船運賃とがあるのでありますが、前者は船舶
運営会の
國家補償による低い政策運賃であり、後者は自営業者の採算運賃であ
つて、同一産業部門はありましても、
かくのごとく高低二つの價格が併存しているということは、他の産業にも類を見ざるところでありまして、まことに奇妙なる現象であります。たとえば若松・大阪間の石炭運賃が、自営業者の木船で運べば一千百二十五円、ところが船舶
運営会の総トン八百トン以上の鋼船で運びますと三百三十六円となり、鋼船と木船のコストの相違はあるにいたしましても、たかだか二割ないし三割程度と思われるのでありまして、かかるアンバランスのよ
つて來る根本
原因が
國家補償のあるなしにあると知るに及びましては、早急にこの幣を調整いたさなければならないことを痛感するものであります。
以上申し述べましたところによりまして、運賃界のアンバランスの現況、
原因を究明いたしますると、次の二つに要約できるのであります。すなわち、一方において國有鉄道並びに船舶
運営会は厖大な
國家の予算
措置によ
つてまかなわれ、かつそれぞれ低物價政策なる
國家の要請によ
つて、その運賃が不当に安くくぎづけされておるのであります。他方自営の機帆船業者のそれは、過去においてもそうであ
つたが、
國家の予算的裏づけはもちろん、その他一切の
政府補償から閉め出されておるのであります。
経済九
原則が実施されまして以來、各公團は
経済九
原則に名をかりて、かつ現在の不手ぎわな運賃ベースの間隙に乗じまして、最も安價な輸送
機関の選択に狂奔しておるのであります。端的に申しますれば、いわゆる大荷主は、荷物の輸送をなさんとするにあたりましては、政策的に最も安い鉄道に輸送を依頼し、それができない場合、次にまた政策的に安い
運営会の汽船に頼り、國鉄、
運営会の双方から閉め出されたものが切めて機帆船に荷物をまわすということにな
つておるのでありまして、幾回も指摘いたしまするごとく、その間に
政府の手厚い庇護があるとかないとかいう一切の事実は考慮に入れられておらないのであります。
將來、幸いGHQの好意によりまして外航配船が許可された場合を仮定いたしますならば、貿易外收入の源泉こそは大型鋼船であり、しかしてこれら大型鋼船の外航配船後におきまする國内沿岸輸送の担当者は、実に機帆船をおいてはないのであります。
以上、アンバランス運賃の
影響及びこれが改善の緊急性について述べた次第でありまするが、これが改善方法はしからばいかんと申しまするならば、まず考え得られまする
事柄は、基本的な考えといたしまして、第一、國鉄運賃を二・三倍とする。第二、船舶
運営会の大型鋼船運賃を一・八倍、小型鋼船運賃を二倍とする。第三、機帆船運賃をすえ置きとする。貨物運賃を値上げすることに対しまする
反対の
理由は、これが物價に
影響すると申すのがその主要なる
理由でありまするが、
かくのごとくにいたしますなれば、機帆船以外の
國家機関の收入はそれぞれそれだけ増加するはずでありまするから、その余剰收入を合算いたしましたものを、かりに運賃調整基金と名づけまして、この基金の中から、いわゆる重要物資に対しまして値上げ分相当額を還元いたしますなれば、少くとも運賃引上げによ
つては安定帯物資並びに重要物資の物價には
影響を與えなくて済むのであります。
またこれは、最近われわれが調査いたしたところでありまするが、國鉄、すなわち鉄道総局におきましては、その自家用炭の海上輸送の請負契約にあたりまして、從來年間
運営会に約二百八十万トン、機帆船に九十万トンを、随意契約の形式をも
つて請負わしめて來たのでありまするが、本二十四年度におきましては、九
原則による独立採算実施のために、一・四半期ごとに競爭入札制をも
つてこれを競落せしむることをいたしておるのでありまして、しかも不当にも、先に述べた
國家補償のある
運営会の政策運賃と競爭入札するにあらざれば事実上落札することができないという不公正な
立場において不当なる運賃競爭を余儀なくせしめるという方法をあえてと
つておるのであります。
さらに驚くべきことは、名目上國鉄運賃が安價であるというだけの
理由で、從來機帆船にて請負わせておりました航路を、入札発表に先だち、ほとんど全量をあらかじめ國鉄輸送に振りかえてしま
つた後のその残量に対しましてこの方法をあえてしたことでありまして、この点最もわれわれの了解に苦しむ点であります。
このような不公正なる競爭があらゆる面から見て当然排除さるべきことは、ただいま説明したところにより、これ以上贅言を要しないのでありまして、これは当
國会といたしましては、すみやかに院議をも
つて警告を発せなければならないと存ずるものであります。もちろん、運賃の基本的体系が確立いたしましたあかつきには当然競爭入札を実施すべきであることは、ここに言うまでもないことでありまするが、現状のごとき事態のもとにありましては、第二・四半期以降においてもなおかつかかる種類の競爭入札を実施する意図ありとするならば、絶対にとりやめさせるべきものであると考えられるのであります。
なおこの際申し上げまして議員各位の御批判を得たいと存ずることがあります。それは、
かくも不当の取扱いを受けて、默々と
國家の最も強く要請する重要物資の輸送に当
つてまいりました機帆船に対し、五月以降突如その必要とする燃料油の割当を大幅に削減して、ただでさえ不合理な運賃競爭に悩んでおります機帆船を、今度は油を與えないで窒息死に至らしめるがごとき事態が惹起したことであります。すなわち、四月には一万四百九十五キロの割当に対しまして、五月が七千四百九十五キロ、六月が七千キロであり、これを換言いたしますれば、五月においては前月比が二九%減、六月においては三三%減とな
つておるのであります。さらに詳細に述べますれば、ただいま述べた機帆船全体の割当量のうち、主として石炭輸送に從事している中央機帆船
事業者に対する割当は、四月六千キロ、五、六月とも三千キロでありまして、五、六月の割当は、四月に比して実に半減という、想像しがたい割当減少であります。
この燃料油の割当削減によりまして、機帆船業者が致命的
打撃を受けることはもちろんであります。しかもこのことは、
國家全体から見ますれば、それ自体としては重大な
影響を意味しないと考える向きがもしありとすれば、それこそ重大な錯誤でありまして、機帆船業は、わが國沿海の特殊な事情から興るべくして興
つた産業、いわゆる中小企業とも称すべきものでありまして、民族産業と申しますか、零細資本の結集であります。しかも特筆大書すべきは、この種産業は、現在補助金とか、助成金とか、あるいはいかなる名目にしろ、
國家から一銭、一厘の補助を受けずして、独力で今日を守り、その個々の実態は弱小産業ではありますが、結集すれば國鉄の輸送力に比肩すべき輸送実力を持
つておりまして、現在においては、わが海運界に不動の地歩を占めているのであります。その機帆船を人間にたとえて申しますれば食糧とも言うべき燃料油を突如として人為的に削減せられましたことは、その永年営々辛苦して積み上げました蓄積資本、その從業員、その家族を暗澹たらしめる結果となるのでありまして、
國家としてとるべき施策ではないと存ずるのであります。
なおまた産業面に対しましても、きわめて大きなる
影響があることが予想されるのであります。それは、機帆船が運ばなければ、まず炭鉱、特に北松地方一帶の炭鉱業者においては貯炭の増加を來し、またこのことは、ひいては出炭面に制約を加えて、石炭の出炭減を來すのでありまするし、一方配炭公團の配炭面から見ますれば、現状のごとき燃料油の割当、すなわち輸送力の減少により、西部
日本に対する石炭供給は、その配当量に対しまして三〇%の減少となる見込みでありまして、またこの場合公團が炭鉱から買い上げる量は、五月中には十一万四千トン、六月中には十四万トンをそれぞれ減少することとなり、またこのように石炭買上げを減少することは、ただちに炭鉱業者の
経済的破綻を招來する結果となり、
かくして一つの波紋は次なる波紋を呼び、実に終止するところを知らないという事態に立ち至るのであります。
以上述べたところによりまして、運賃の不合理と燃料油割当削減という両面の圧迫攻撃を受けて氣息奄々たる機帆船を救う道は、申し上げるまでもなく、すみやかに運賃体系の正常化に向か
つて善処
努力を傾倒すると同時に、運賃体系が正常に復帰するまで無辜の彼らの死を早めないためにも、何よりも先に機帆船業者に対し、少くとも過去一箇年月割平均割当量一万一千三百キロを下まわるようなことなく割当を実施し、それぞれ業者をして希望を持
つて輸送力増強、ひいては産業
復興に寄與せしめるよう
措置することが最も肝要であると信じて疑わないのであります。
何とぞ
政府当局はこの事態に対し適切なる
措置を講ずるよう強く要望いたしますとともに、全員の御賛同と御支援をお願いいたしまして趣旨弁明といたしたいと存じます。(
拍手)