○菅家喜六君 私は、ただいま
日程に上がりました大阪市における治安
事件についての調査の経過並びに結果を御
報告申し上げたいと存じます。
去る三月二十七日及び四月二日大阪市に惹起した治安
事件について、衆議院規制第五十五條の基きまして、
地方行政
委員会から
現地調査のため
委員河原伊三郎、久保田鶴松、立花敏夫の三君と不肖私の四名は、丸山調査員を帯同いたしまして四月十三日東京を出発、大阪に参りまして、十四、十五、十六の三日間にわたりまして現地において調査をいたして参
つたのでございます。両日の
事件の直接の関係者はもとより、大阪府当局、大阪市長、大阪市公安
委員会、警察局、消防局等につきまして当時の事情を詳細に調査するとともに、
事件発生の現場をわれわれ踏査いたしました。しかして、各
政党の代表、すなわち幹事長の御会同を求めまして、これらの
意見を求め、次に社会の輿論の動向を知りたく、大阪市において発行いたしまする各新聞社の代表者の御参集を願いまして、それらの
意見も聴衆しまして、
事件の真相を把握するに遺憾なきを期するために十分なる調査を遂げた次第でございます。しかして、あらゆる資料を整えて、十六日午後三時新聞記者との共同会見を最後といたしまして、十七日に帰京いたした次第であります。調査の具体的
内容、すなわち調査箇所、調査項目その他の詳細については、
報告書を印刷に付しましてお手元に配布になるはずでありまするので、私はここにきわめて概括的な結論だけを御
報告申し上げたいと存ずる次第であります。
調査の結果によりますと、警察当局の
弁明と主催者側との間に若干の齟齬があるのであります。けれ
ども、両日の大会後において、市中デモ行進の取締りに当たりました警察官との間に数箇所において衝突が起こり、ために双方にけが人の出たことは事実であります。宣傳されておりましたピストルの使用はなか
つたのでありますけれ
ども、警棒の使用による打撲傷、あるいはプラカードの破片によるけがのために流血の惨を見たこともまた事実であります。さらに消防タンクの出動によりまして、タンク車がデモ行進隊に解散地点におきまして放水したということも、これまた事実であります。
ここにおいて、われわれ調査員は、まず第一に鈴木警察局長の
弁明を聞くべく市役所に同局長をたずねましたところ、局長の
弁明によりますと、方の執行は嚴正公平であり、法規違反があ
つたがために、これを法規に基づいて制圧したものであ
つて、決して違反とは
考えない、將來も同じ
方針で取締りに当るつもりである、消防に協力も求めるし、また都合によ
つてはそのタンクによ
つて放水もする、もし消防が警察に協力をしないならば警察みずからが消防タンクを買い求めて、これらのデモの取締りに当たる、と言
つております。法を感情をも
つて考えるのは民主主義ではなく、相手方によ
つて取扱いを二、三にし、法に幅を持たせるということは、法の権威と警察に対する信頼をなくすることであ
つて、法を励行するためには多少の摩擦があ
つてのやむを得ないと
弁明をいたしております。また、四月二日の取締りが挑発的であ
つたというが、三月二十七日の例にがんがみて、相当その取締りにはくふうをこらし、衝突の
機会をむしろ少なくしたのであ
つて、問題の起こ
つた場所に一時多数の警察官を集合したために幾らか挑発的に見られたかもしれないけれ
ども、これは当日やむを得なか
つた処置であると言
つて弁明もいたしております。ジグザグ行進や、すわり込みをや
つて警察官の制止または指導に従わなか
つたために実力行使によるところの制圧を加えたのである、負傷者は、これは一人デモ隊ばかりではない警察官にもあるのであ
つて、プラカードの破片によ
つてけがした者もあるのであるから、必
ずしも警棒の制圧によ
つて受けたけがとは言い得ない、
かく鈴木局長は
弁明いたしておるのであります。
そこで大会当日の二人の
責任者に会
つて、私
どもはその主張を聞いたのであります。両日の大会の
責任者側の説明するところによりますと、警察当局はあらかじめ多数の警察官を配置して、必要以上の数を出勤させておる、消防自動車まで待機させる等、これは
計画的な彈圧であ
つたと思う、デモ行進路のごときものも、ことさらに狭隘な道路を選んでおる、また解散の場所もすこぶる不適当な場所であ
つた、そのために摩擦と混乱を生じ、またそれを誘発した傾きが多い、と主催者側は述べております。しかも、警棒の使用、警棒による制圧というものが当日の混乱の
原因をつく
つたと主張いたしておるのであります。消防タンクの放水のごときはそのはなはだしいものであ
つて、このために流血の惨を起して、数名のけが人を見たというこの事実は断じて許せない、これは職権の濫用であり、人権蹂躪であり、目下訴訟を提起中である、と主催者側は述べておりました。鈴木警察局長の取締まり態度と指導
方針は大衆運動に対してま
つたく理解なく、これらの暴挙に対してはわれわれは忍びがたきものがあるのであるということを、こもごも両日の主催者はわれわれ調査團に訴えておるのであります。
ここにおいて私
どもは、大阪府における各
政党幹部の御参集を得まして、これらの
意見を徴しました。民主党の支部が中立的態度であるのほか、その他はことごとく鈴木局長糾彈の
意見に一致を見てお
つたのでございます。各新聞社の代表者の会合におきましても、ある
一つの有力新聞の幹部の人の
意見が異なるだけで、そのほかは全部一致して鈴木警察局長の取締りの行き過ぎを認めておるのであります。一有力新聞の幹部は取締りの技術はとも
かくとして、警察が違法の行為を行
つたとわれわれは認めるわけにはいかない、従來の経済事犯の取締りに対する鈴木局長絵への反感とこの度の
事件とを混同結合して局長を糾彈し、政治的にこれを取扱うことは注意すべきことであるとの自重説を述べられたほか、そのほかの
諸君はことごとく鈴木局長の行き過ぎを認定しておるのでございます。
ここにおいて、各
関係方面の
意見を洞察し、実地に現場並びにデモ行進路などを踏査いたしまして、当日の大会の記録、映画、写真、各新聞の論評、報道記事、嘆願書等の諸資料に基きまして、われわれが点検いたしました結果、総合的の
意見としてわれわれの
考えますことを申し上げたいと思うのであります。
われわれ調査員、もとよりおのおのその見るところは多少異な
つておるのでありますけれ
ども、その共通するところは、この
事件において、大阪市警察当局の取締りの態度・方法に遺憾の点があり、たとい明確なる法規違反はないといたしましても、取締り上妥当を欠き、行き過ぎのあ
つたことを認めないわけには行かなか
つたのでございます。すなわち、四月二日の大会に先立ち、大阪市民に対し四項目にわたるところの警告文を発しております。この
重大な警告文を発するにあた
つて、事前に公安
委員会に了解もなく、警察当局單独に発表いたしておるのであります。また、消防組織法第二十四条に基き、警察、消防両当局の間に相互協力に関するところの協定を結んでおりますが、その手続きあるいは執行において関係者との間に完全なる了解と円滑なる発動を見ておらないのであります。
何ゆえかかる不祥
事件が大阪市のみにおいてしばしば起
つたのでありましよう。もとよりデモ行進隊の方でも大いに自粛すべきものがありましようし、またその他の
原因もあ
つたでありましようが、結局鈴木局長その人、そのもの、すなわち彼の取締り
方針と態度があずか
つて力ありということに、多くの人が異口同音にこれを認めておるのでありまして、われわれ調査員一同も、この事実を認定しないわけには行かなか
つたのでございます。鈴木局長は日ごろ法の執行に厳であり、自己の所信は信念的に堅持するところがありといたしましても、その態度に独善的、高踏的なところが非常に多く、自己判断のみまことに強く、
関係方面なり輿論もしくは市民に徹底納得させるだけの用意を欠いてお
つたといわなければならないと思うのであります。この例証といたしまして、市民の代表機関たる警察
委員会における本件
審議の状況より見ましても、これを明らかに察知することができるのであります。
いかに法を正確に遵守し、公平嚴正に執行しようといたしましても、民主警察の実をあげるためには、相手方の了解を得、納得のいくような態度をも
つてくふうを凝らした警察権の行使であり、取締りであらねばならないのであります。大阪市民の警察であるところの自治体大阪警察は、市民各層の協力援助無くしては警察行政の円満なる遂行をはかり、その目的を達成することのできないのは、言うまでもないのであります。今回の
事件において、大阪警察当局が明らかに法規違反をなしたとは断定し得ないのでありますけれ
ども、一般市民の鈴木局長に対する糾彈の空氣というものは、まことに峻嚴なるものがあるのであります。警察
委員会においても、警察側の法規違反は認定しておりませんけれ
ども、不満と不信の
意見はまことに強いものがあるのでありまして、警察の行き過ぎをことごとく認め、將來に向
つて善処いたそうとしておる模様でございます。
そもそも本調査團は、現地において
事件の眞相を究明し、本
事件の
解決、あるいは関係法規の改善等について國会としてなすべきことがあるとするならばその参考といたすべく、
地方行政に関する國政調査のためにこれが調査に当た
つたのであ
つて、直接に
地方自治の
内容に干渉して当該
事件を黒白を決定し、
事件の
解決に当たろうとするものではないことは、もとより言うまでもありません。
事件当日の負傷者側からは、警察の職檢濫用、傷害を理由として、鈴木警察局長を相手取り、目下告訴を提起中であります。これは檢察と司法の問題であ
つて、本調査団の関與すべきでないこともまた言うまでもありません。それゆえ本
事件は、司法省の問題は別として、それ自身大阪市自治警察の問題であ
つて、まず第一に所管
責任者として大阪市公安
委員会がその
解決に当たるべきものであり、また消防との関連においても大阪市長が関心を持つべきであります。
從つて、私
ども委員は、現地において得たるところにより、また輿論の動向に察し、鈴木警察局長の態度に反省と考慮を促すことにとどめ、さらに大阪市長及び公安
委員会に対しては、新聞記者立会いのもとに最後の正式会見の際、右の極意を十分説明した次第であります。
なお今回の不祥
事件にかんがみ、近くに迫りましたメーデーの取締りに対し
重大なる関心を寄せ、かかる
事件の再発せざるよう特に留意されたき旨を要望したところ、大阪市長及び公安
委員会は、われわれ調査團の勧告と要望を了承し、これを認め、必ず近日中に自治体においてこの
解決を講ずるべきことを固く誓われた次第であります。
本調査團が現地において調査した事実及びとりました処置は大体以上の
通りでありますが、最後に本件につきまして関係法規に若干研究の余地あり、疑いありと思いまするので、その点を
報告の
通りにつけ加えたいと思うのであります。すなわち警察当局が法規に基づいて不法越軌の行動を正当なる職務執行の権限内で取締りを行
つたというその根拠、諸法例あるいは規則ないし協定等が、それ自体
欠陷あるいは疑義がないかどうか、またその解釈、運用において誤りがなか
つたかどうかという点であります。
その第一点は、消防組織法の第二十四條の規定による警察と消防との協力がこの種の大衆運動の取締りにも及ぶかどうかの点であります。
從つて、消防組織法の規定に基いて大阪市の警察並びに消防両当局間の結ばれた協定が、
法律的に、規定的に、これが正当であるかという点でもあります。
第二点は、相当嚴重な罰則を付した、この種運動を取締まるための
昭和二十三年大阪市條例第七十七号、行進及び示威運動に関する条例及びその運用の適否であります。
第三点は、警察官等職務執行法第四條及び第七條の実際の解釈及び運用に誤りがなか
つたかどうかという点であります。
第四点は大阪市警察当局の警棒取扱要鋼中の警棒使用方法の適否及びその運用いかんの問題であります。
第五点は、四月二日の示威行進等の取締りに関して大阪市警察局長が発した警告文中に掲げられた四項目中
の第一項に「警棒其の他の方法に依り徹底的な制圧を受くること」という文句がありますが、これがはたして適当妥当なるものであるかどうかという点であります。
以上の法規法令に関しましては一應五点の疑いがあるのでありますが、これは今後われわれに研究の課題として残された問題であると思うのであります。
以上概略を述べまして、大阪
事件の
報告にかえる次第であります。(
拍手)
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郵便法等の一部を改正する
法律案(
内閣提出)