○竹村奈良一君 私は、本年度いわゆる二十三年度の供米が一〇〇%以上完遂され、そうして超過供出をも完遂いたしました裏に、全國各地の農民が現在いかに悲惨な食糧
状態のもとに置かれているかの事実を申し上げて、
政府の善処を要望したいのでございます。
その一例を申し上げますならば、たとえば本年度の供出に当たりまして埼玉縣に起こりましたところの一例でありますが、埼玉縣の事前割当は七十四万九千四石であ
つたのであります。しかるに、この事前割当を受けました埼玉縣におきまして、虫害、災害その他によ
つて非常な減收が起
つたのであります。これに対して
政府は、中央補正を行うことなく、地方補正わずかに三万石、そうして農家の保有から行うところのものを約二万石、一應認めたのでありまして、縣の全体の補正
要求額は十万石であ
つたのであります。ところがその後に至りまして、この地方補正並びに補正というものは取消したと言われ、事前割当とその上の超過分をも
つてまず完遂せしめるということを発表いたしまして、三月一日から三月二十五、六日頃に至るまで非常な督励が行われたのであります。
しかも、この督励を行うにあたりましては、檢察廳あるいは
警察、あるいはその他の縣の係官がいろいろ各個人を訪問いたしまして、督励という名にふさわしからぬところの非常な強制が行われたのであります。しかも、その強制を行われた現実の事実は、実に徳川封建
時代にも行われなかつたところの、われわれが見のがすことのでき得ない悲惨な事実が生まれて参
つたのであります。その実例は何であるか。
たとえば埼玉縣の吉川町におきましては、齋藤順造氏は、この督励にあた
つて、出す米のないものをお出さなければならないということを苦にして、首をくく
つて死んでしま
つたのであります。それからまだある。早稲田村の榎本彌平氏は、これも首をくく
つて死んだのであります。また吉川町におきますところの小原五郎氏は、この供出にあた
つて督励状が、もし米がなかつたならば他から借入れ、あるいはその他のものを買入れて供出せよということを言われましたがゆえに、この代替供出にとうもろこし等を買
つて供出せんとして六万円の借金をした。その借金の中の半額を返すために、かわいい娘を賣
つて三万円の金をこしらえて、そうして代替するところのとうもろこしを買
つて出しておるのであります。しかもそれ以外に、首をくくり、あるいは死ぬこともできない、あるいはまた借金をすることもでき得ないという人に対しましては、強権発動が百件行われておる。不供出罪で檢挙された者が三百八十名にな
つておる。しかもこの附近の二十六箇村にわたるところの人々が、借金を六千万円しておる。こういうような
実情があり、それゆえに、この二十六箇村におきましては、土地放棄が三百六十三町歩に上
つたのであります。
また、こういう実例は單に埼玉縣だけではない。千葉縣におきましては、この一部轉落農家の飯米をいかにして確保するかということのために、縣下におけるところの協同組合その他の農民團体が寄りまして、田植どきの農民の飯米をどうするかという問題に対していろいろ協議を行
つておる。また奈良縣生駒郡においては、昨年度のいわゆる
一般轉落農家に対する五千五十九石に対して、本年度はわずかに四千六百二十二石しか
政府は天下り的に割当てていないということに対しまして、いろいろな問題が起こ
つておる。そうしてその轉落農家の人
たちは、二分の一ないし三分の一しか配給を受けていないところの
現状であります。また宇陀郡においても、町村長並びに食糧調整委員等々が寄りまして、もしこの
現状を打開してもらえなかつたならば、何とかして
政府に対してお願いしなければならないとして、陳情團を派遣しようというような決議が行われておる。
こういうことが全國各地に行われておるのでありまして、その実例として、先般來農林省から発表されました、全國におけるいわゆる土地放棄の実態、この土地放棄は、農村に対する重税と供出の重みと、あるいは災害復旧のできないことが
原因して、戸数は二万四千七百余戸にわたり、面積は三千五百二十五町に及んでおる、こういうふうに発表されておる。しかしながら、われわれの見のがすことのできないのは、永年営々孜々として土にかじりつき、他に轉業することのでき得ないところの悲しい農民
諸君が、封建制
時代そのままの形で土にしばりつけられているところの、そうして奴隷的
生活をしいられているところの悲惨な事実を見のがすことはできないと私は思うのであります。
今日の食糧確保臨時
措置法におきますならば、事前割当は決して強制的にすることはできないといわれておる。先般の本
会議におきましても、この法案が通過するときには、事前割当は絶対にしないということが問題になり、しないという條件付であの法案ができている。しかるに納期が三月三十一日であるのにもかかわらず、三月中にこうした多くの人々を不供出罪でしばり、あるいは強権発動をした
責任をだれが負うかということを、まず私は聞きたいのであります。
もう
一つは、こういうきつい供出の督励のために一命を投げ捨てた人々に対して、一体
政府はどういうような
責任をとるかということをお聞きしたいのであります。
もう
一つは、本年度の食糧問題は二合七勺を完全に配給するということを言
つておりますけれども、それは單に消費者だけではなく、少なくともこうした轉落農家に対して十分配給する
責任が私は
政府にあると考えるのでありますけれども、これに対して具体的に配給するということを言明してもらいたい。
もう
一つは、こういう根本的ないろいろな
原因はどこにあるかと申しますならば、たとえば食糧確保臨時
措置法において、事前割当する場合においては完全なる地方調査の上にこの割当を行うべきにもかかわらず、実際は地方調査によ
つての基礎ができていない。だから、机上プランによ
つて、從來の出來高を中心として天くだり的に割当されておる。ここに問題がある。つまり一方において、いろいろな調査
機関だけ、あるいは取締
機関だけ、ふやすことによ
つては、完全なる供出は絶対にできない。少なくとも供出問題の根本的な
原因は、今日いろいろな生産物價と農産物價との食い違いが起
つておる。つまり米價が完全に生産費を償わないがゆえに、この供出問題は解決できないのであります。だから、問題は取締りによ
つて、あるいは強制的に米を出さすというよりも、少くとも農民が納得のいく米價を設定して、農民から自主的に喜んで供給さす方法に改める意志があるかどうかということを、
政府に私はお聞きしたいのであります。
しかも、なおつけ加えて、本年度は非常に暖冬異変で麦の收穫が減少しておる。天災地変によ
つて減少した場合においては当然補正を行うことが明
文化されておる。この明
文化されておる事実に対して、これからどれだけ多くの補正を行う用意があるか。
政府は、今度の麦の事前割当をどれだけ軽減する用意があるかということも、あわせて聞きたい。そうして、もしそういう用意があるのであつたならば、補正をやつた後において麦の減收が起つたならば、二十四度における食糧を
政府は完全に配給できる自信があるかどうかということも、あわせてお聞きいたしまして、私の
自由討議を終ります。(
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