○古島
委員 これは実際はその無効たることを主張いたして、公訴棄却の判決を求むる旨の申立てをしたそうであります。当然公訴棄却をするなり、あるいはまた起訴状が無効であるということの宣言をせねばならぬものだと思うのでありますが、ひどいことにはこういう状況に
なつているのであります。五月七日付の追起訴状には「被告人森章は太平洋戰爭中埼玉縣大里郡折原村の村長及び農業会長を勤めていたが、当時から專横をきわめ、終戰後その職を追われたが、その後も常に暴力的傾向に出で……背後に……寄居地方において虎のごとく畏怖せられている相被告田中雄一郎を使用して、同地方における惡質なるボスとして一般から畏怖せられている者であるが」云々ということを書いてあります。これらは戰爭中にこういう村長なり農業会長をや
つて來たが、その時分からきわめて專横であ
つて、その職を追われた後もなおこういうことをや
つている。背後には虎のごとく畏怖せられている相被告田中雄一郎を使用してこういうことをや
つている。これまで書くということになれば、とうてい一般の起訴状ではないと思うのであります。その次の五月十三日の追起訴によりますと、これにも同樣のことが書いてあるのであります。すなわち五月の七日の日の追起訴によ
つてはつきりしておるにもかかわらず、また五月十三日に重ねて「被告人森章は太平洋戰爭中埼玉縣大里郡折原村の村長や農業会長を勤めていた当時から專横を極め終戰後も其の在職中の
犯罪て業務上横領食糧管理法違反の罪名の許に懲役一年六月但し三年間執行猶予及罰金二万円に処せられた者であるか」云々とこういうことを前置きに書いてある。こうなりますと、第一の事実のごときは、恐喝
事件を起訴するにはなるほど恐喝したらしいということが
見えることになるのであります。第二の五月十三日の起訴状によればかようなことが書いてありますから、やはり食糧違反なりあるいは経済違反をする人間であるということはただちにわかるのであります。こういうことを書いておいて、しかもこれがいかに保釈をお願いしても、保釈に対しては、
あとで追起訴をするのである、追起訴をするというような口実を設けて、いかにしてもこれは出さぬのである。もちろん法の上から申せば
檢事と判事との立会いがある以上は、
檢事が判事を圧倒するくらいな力のあることは望むところでありましようが、とにかく地方における
檢察事務は、一應は
檢察官の言うことを聞くのであります。
檢察官が強い反対を述べておれば、裁判官の方はこれに向
つて押し切
つて保釈を許すということはないのであります。しかもこの
事件はかように妙なことを書いだたけでなく、六月の十五日で日が切れてしまう。そこで五月十六日に勾留の更新をいたしまして、六月の十五日で第一回の三十日以内の更新の日が切れるのであります。そういう日が切れるところにおいてまた追起訴をするから、もう一度更新をするというようなことでや
つておるということを
うわさに聞いたのでありますが、これは
刑事訴訟法で明らかにこういうことは禁止してあるので、特別の場合には再度の更新ができるのであるが、普通の場合においては三十日の範囲しか更新ができないことに
なつております。しかも今日の情勢においては今まで五十日の接見禁止をいたし、その後においてもなお追起訴、追起訴というような口実で出さずにおいておるところをも
つて見れば、一ぺんの更新では済まない。さらに重ねての更新をするものではなかろうかと思うのであります。こういうことが事実行われておるとすれば、今の刑政長官の申す人権の尊重というようなことは毫末も
見えぬことになるのであります。私の申し上げることは別に誇張して申すのではないので、私はわずかにかような追起訴というものは無効であるという意見を述べたいので、それだけを借りて本日は材料に持
つて参
つたのでありますが、事実こうであ
つたとすれば、憲法の基本的人権というものの擁護もできません。あるいは
刑事訴訟法第一條に本法の目的はというので、基本的人権を保障しつつ
眞実を発見するというような、まことしやかなことを書きましても何にもならぬことになります。あるいは人身保護法において特に基本的人権を尊重しなければならぬということに
なつておるが、しかもこれは不法に
法律的の根拠のないような拘禁を対象として
考えた人身保護法でありますから、
檢事が勾留をいたし、そうして反対をいたして保釈を許さぬということをさせることは、
法律的な根拠がないことではありませんから、人身保護法の適用にも相ならぬと思うのであります。かかることが行われておれば、百の明文をつくり、議事を了して
法律をこしらえましても、何の役にも立たぬのであります。ことに法務廳は内閣における
法律の最高の顧問である。
法律をいかに運用するかということは法務廳の双肩にかか
つておる問題であります。かくのごとき事実がありとすれば、刑政長官はみずから進んでこれを
取調べて、はたしてそういう事実があるかどうか。あるというならば、これはその
檢事が実に職権を濫用するやり方であり、個人的の憎しみをこの被告の身の上に着せるというようなことでは、
檢事として公益の代表にはなりかねる人物だと思うのであります。どうかこの点をお調べ願いたいのでありますが、刑政長官みずから調べて、これを処置してくれるお覚悟がありますか、その点を承
つておきたいのであります。