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眞鍋委員 私は必ずしも法務総裁のおいでを願わなくてもよいのでございます。御用がおありになれば御退席願
つてもけつこうなのでありますが、実は昨日
國家地方警察本部長官を本
委員会に出席を求めまして、
地方公安委員の権限についてお伺いいたしましたが、一向要領を得ませんので、
法務廳の長官に対して質疑をいたしたいと考えます。
事件は簡單なものでありますが、全國的な自治体
警察の研究課題となると思います。私は
徳島縣でありますが、
徳島縣下において話題をにぎわし、
事件の発生以來派生的な問題が発生いたしまして、今日まで半歳を経過し、今なおその解決を見ざる問題なのであります。
事件は
徳島縣國府町において、町長派と反町長派とにわかれ、これが原因とな
つて町長派の中部落の青年が、反町長派の府中部落の青年並びにお祭に出す屋台に対し、昭和二十三年十月十九日、氏神祭礼当日けんかをしかけたのであります。この
計画がうわさに上り、
警察署長はこれを憂慮いたしまして、両部落の神社総代を招致して注意を與え、警告を発し、当日は警官を派して適当な処置を講ずるから、万一の場合は総代も
警察に協力して欲しいとのことであ
つたのでありますが、府中部落の側からは、極力回避を誓い、なお当日の朝念のために青年二名を派遣して中の青年に対し、事なきよう懇請を兼ねてあいさつをせしめたのでありますが、当日何らの原因もなく中部落よりけんかを賣りかけて参りまして、府中の屋台は、はやし台に登
つているはやし子
たち五名をおろして待避せしめ、百数十名のかつぎ手は道路のわきに待避をしたのでありますが、一方中部落屋台は無抵抗の府中側に対して、傍若無人に激突数回、リーダーの指揮に
從つて府中の屋台に多大の損害を加えたのでありますが、この事実は臨監の警官も現認し、かつ
警察署として事前に注意と警告を発し、そして責任上周到なる処置を施していたのであります。府中部落といたしましては、ただちに現場において警官が鎭圧し得ずと
警察の無氣力、無責任をなじ
つて、口頭をも
つて大いに訴えたのであります。本件に対しましては、すでに
法務廳にあてて陳情書が到達しているはずであります。つきましては、これに対する御
意見も定ま
つておられると存じますから、この際明確なる所見とその対策を伺うことができるならば仕合せに存ずるのでありますが、ここに陳情書がありますから、一應読み上げます。
〔
高木(松)
委員長代理退席、
委員長着席〕
陳情書
一、自治
警察署管下の治安維持の責任の所在について
昨年
警察制度に大なる変革を來し、
警察の民主化を見るに至
つたことは、吾人の歓迎するところであります。しかしながら
警察の全機能をあげての民主化といえ
ども、それにはおのずからその制度並びに
職務権限の内容に限境のあるものと思われる。すなわち
警察の民主的あり方として、公安
委員会の有する権限は
警察の運営と管理である。この運営は主として行政面及び
警察人事等に関するものであ
つて、犯罪捜査のごとき司法権に属する事項は、公安
委員会が選任したる自治
警察署長が、直接の責任においてこれを行使すべきものにして、公安
委員会は犯罪捜査の権を直接に有しないものと思われる。今仮に犯罪捜査の権までも公安
委員会が有するものとするなれば、それは司法権を行使すべき自治
警察署長の選任権の内容に含まれている、すこぶる漠然としての間接的のものであると解せられるのが妥当であると思われる。しからざれば犯罪捜査についても、自治
警察署長は公安
委員会の隷属下にあ
つて、公安
委員会の指揮により司法権の行使をなさざるを得ない結果となるのである。かくては、自治
警察に責任を有する署長の上にさらに公安
委員会があるにおいては、署長たるの責任を完全に果し得ない場合が往々にして生ずるであろう。かくては署長はむしろ無用の長物たるの感を抱くのであると言うもあえて過言であるまい。いわんや三名の委員により組織せられた公安
委員会なるがゆえに、犯罪捜査にまで常に
会議制をも
つて臨まんか、事態急を要し、あるいは祕密を保持すべき犯罪捜査も、時として長蛇を逸するのおそれなしとしない。ことに公安
委員会は合議制なるがゆえに、たまたま
意見の対立を來すこともあろう。この場合三名中
委員長一名残り、二名の委員が
意見の対立を見たとき、
委員長の裁決により右とも左ともなり、その結果は、見方により合議制もまた
委員長の独裁制に等しき結果となるのである。しかして公安委員たるものかならずしも司法権の運営上專門的良識を有するものとは認めがたいのであります。
一面國家
地方警察の長と自治
警察の長とのことも、一應考慮を要するのである。すなわち司法捜査権においてその権限ないしは責任に大なる差異を生ずることを。公安
委員会に犯罪捜査の権ありとすれば、当然の結果として自治
警察署長の司法捜査権の発動抑止もあわせ有するのである。ここに実際問題としてわが國府町の公安
委員会は(全会一致にあらず、三名中二名)公安
委員会に犯罪捜査権もその権限内にありとして、自治
警察署長に対し捜査権の中止を命じたのである。ここにおいて自治
警察署管下における眞に治安維持の責任は果して何人に帰属するや、はなはだ疑わざるを得ないのであります。この点に関し責任の所在は公安
委員会なりや、自治
警察署なりやを明確にお示しを願い、將來われらの向うところを明らかにしたい。
本年二月十九日附
徳島新聞所載記事中「最高
檢察廳では公安
委員会に捜査権なし、また
徳島地方檢察廳も同
意見である」と福田次席檢事の談話的発表があ
つたが、國府町公安
委員会は見解の相違として、自説を曲げないのでありますことは、治安維持上國家的見地よりしてまことに見逃せない重大事項であると思われるのであります。
一、事実問題
イ、屋台の被害に関して昭和二十三年十月十九日当地大御和神社例祭の
執行せらるるにあたり、その事前に國府町自治
警察署長は、同署管轄内の府中、中両部落(ともに同神社の氏子にして、慣例によりそれぞれの部落ごとに屋台を出し神に奉仕する)の神社総代の出署を求め、公安と道路取締り上の見地よりして、当日の屋台責任者を選定の上届出方の注意と警告を発せられたのであります。そこで府中部落はこの指示に從い、屋台責任者の届出とともに、進んで当日万一紛爭等の生ずるおそれある場合は、屋台乗子を待避せしめるとともに、一切は傍観的態度をも
つて紛爭のらち外にあることを、口頭をも
つて同署長に誓約したのであります。しかして國府町自治
警察署長が事前に屋台責任者の届出を指示せられたことは、同署長としてはすでに両部落間の屋台に関し、紛爭の生ずべきを察知せられてお
つたものと思われるのであるがゆえに、この紛爭を未然に防止すべく行政的措置をとられたことは当然であり、またわれわれとしてもせつかく注意警告に対しては、特に円滑平和なる行事こそ神に奉仕するものの心構えでなければならない。しかるに相手方部落は、せつかくの署長の注意警告もこれを無視するのみならず、かえ
つて祭礼当日の朝に至
つてそのうちの一人が
警察署に出頭して、「今日わが部落民がいかなることをなすも、檢束または捕繩をかけたりしたら承知しない」と申し出、在署の
巡査部長より嚴しく訓戒せられた事実もあるのであります。しかしていよいよ神輿渡御の前駆としてわが部落屋台が縣道路(神輿御成り道の一方の終点)に待避中、何らの原因もないのに、中部落屋台が突如としてわが部落屋台に対し、数回にわたり激突を加えたのでありますがために、わが部落の屋台は多大の損傷をこうむるに至
つたのであります。しかしわが部落の屋台
関係者一同は、先に
警察署長に誓約せしことを忠実に実行に移したのであります。このことは現場に臨監せられし國府自治
警察署在勤の
巡査部長以下数名が現認せられておるのであります。よ
つてその夜ただちに自治
警察署長に対し、口頭をも
つて事情を具し、責任者に対する責任の追究その他善処方をお願いいたしておいた次第であります。このできごとを知
つた被害部落の同じ氏子で神輿
関係者である前町長原田量之氏が、事態を憂慮せられて、署長に陳情の半ばに出署せられ、
事情を聽取せられるとともに、善処方を同氏よりもさらに要望せられたのであります。その後被害部落の代表者等がほとんど退署後に至
つて、公安
委員長の大江榮一氏が出署、事の成行きをこれまた聽取せられたのであります。
從つて原田量之氏と大江公安
委員長との出署時間差は少くとも三十分以上であり、かつ出署の
事情も前記の
通りおのおのの立場においてであることは、何人といえ
どもこれを否定することはできますまい。
ロ、公安
委員会及び公安
委員長罷免問題について
國府町自治
警察署長は前記届出に基き両部落
関係者を招致取調べの上、一件記録を
檢察廳に送付せられるべく万般の
用意を整えられたのであります。しかるにこれを知
つた公安委員は、
委員長病臥中にもかかわらず、急遽に公安
委員会を開催して、同署長に対し、本件の不審理並びに取調べ中止及び
檢察廳報告中止を議決せられ、その旨依命があ
つたので、同署長は爾來本件の捜査ないしは記録の
檢察廳送致を見合わせて荏苒今日に
立ち至
つておるのであります。本件発生当時にも、公安
委員会の席上屋台
事件が問題にな
つたのであるが、大江
委員長が
警察にまかして置くよう申されたのであります。その後において川野國府町長(加害部落民)が大江公安
委員長が追放者(原田量之氏を指す)と同道して
警察に出入し、あるいは追放者と氣脈を通じているとかの
理由により、
委員長罷免の議を國府町議会に提議せられたのであります。町議会は事の重大性にかんがみ、公安委員並びに
警察署長の出頭を求め、事実を審議せられたのであります。川野國府町長がいう追放と、同道
警察に出入しとは前顯の事実を歪曲せられたことと思われるが、証人の証言はその当らざる旨を述べられたので、罷免問題は否決せられたのであります。しかしてこの町議会の席上藤田公安委員(加害部落民)は「中村(加害部落を指す)の有志から穏便に済ますよう」にとの依頼もあ
つたので云々と述べられたのであります。事態右の
通りでありますがゆえに、最後の手段として公安
委員会多数の力により不審理決議をなして、本
事件をうやむやの間に葬り去られんとしたものと思われます。しからざればこの見やすぎ一方的不法行為について、司法捜査権の発動を阻止し、円満解決の方途として公安委員があるいは個人の資格においてでも調停の労をとり、明朗平和裡に結末を告げられてこそ
警察の民主化もまたうなずけるでしよう。
ハ、自治
警察署の辞職勧告と町議会について
國府町公安
委員長(大江榮一氏辞任、堀井義雄就任)は自治
警察署長に対し辞職を勧告した。その
理由は、單に心機一轉のためで、別に
理由はないと申しているが、いかに人事の任免の権を有してお
つても、任免にはおのずから序あり、なかんずく罷免に関しては、最も愼重を要すべきはいまさら論ずるまでもないところである。しからざれば常に右顧左眄してその職に晏如たるを得ない結果、公正なるべき
職務も完全に遂行しがたいのが通例である。いわんや
警察官のごとき特に治安維持の重責を負うものにあ
つてはなおさらであることは、社会通念上何人といえ
ども否定せないであろう。しかるを國府町公安
委員会はこの最も重大なる人事の任免に関し、單に心機一轉のためとの
理由においてこれを行わんとするは、あまりにも軽卒であり、怪訝の念も生ずるのである。
從つて國府町議会は、公安委員のこの挙を知るや、議会にその出席を求め、証言を聽取するも、依然として他意なき旨を述べられたので、公安委員その者に対し不信の声起り、ついに公安委員に辞職を勧告するの議決をなすに至らしめたことは、みずから墓穴を掘るの挙に出たるの結果を見た次第であると思われる。
ニ、屋台
事件とその仲裁について
本件について國府町議
会議長大貝麻義外二名の有志が居仲停調の労をとらるべく申出があり、わが被害部落は條件を付して調停を依頼したのである。ところが仲裁者と被害部落の代表者とが会見の席上、町議
会議長である仲裁者は、その談話中に「本紛爭は町政に
関係してお
つてなかなかむずかしく」云々と言われたこともあるが、被害部落民としては何ら町政に関連性を有するものでない。紛爭は紛爭、町政は町政であると述べ、紛爭の單純性をも
つて解決を望んだ次第でありますが、前顯の
通り、公安
委員会が不審理議決をなされた直後、仲裁者からも調停の手を引く旨の申出があ
つたのであります。
ホ、屋台
事件と
檢察廳について
屋台
事件にからんで公安
委員会が司法捜査権の発動を阻止せられたこと、ないしは最高檢察及び
徳島地方檢察廳においても、公安
委員会に捜査権なしと解明せられており、また屋台
事件について被害部落より捜査権なしと解明せられており、また屋台
事件について被害部落より捜査方の陳情もいたしてありますが、
事件発生後すでに六箇月になんなんとする今日、なお何ら調査に着手せられたことを聞かない。もつとも被害部落よりは、さきに調査方の陳情はしてあるが、正式の告訴状は出しておらなか
つたのであるがゆえでもあろうから、四月四日付をも
つて新たに告訴状を提起した次第であります。ここに事実を具して治安維持上格別の御配慮をお願いするとともに、左記事項について特に明確なる御回答を煩わす次第であります。
記
一、公安委員並びに
委員会に與えられたる運営管理の範囲内に事犯の捜査を命令し、中止し、停止し、
檢察廳に
報告を中止せしむる等、いわゆる捜査権限が含まれるやいなや。
二、含まれないとするならば、本件のごとき公安
委員会の行為を匡正し、
被害者を救済する
方法いかん。
三、
警察を政治から擁護する建前上、公安委員と町首長とが連絡の上、
警察の運営管理に介在し、辞職の強要、罷免の手続等は許されるものなりや。
四、町首長が直接縣
國警隊長に対し、公安
委員長を帶同して署長の更迭辞職の強要等をなし得るものなりや、かつこれらは政治に関連せるものと解せられざるや。
以上であります。これは昭和二十四年の四月
徳島縣名東郡國府町府中の大御和神社総代岸野理三郎と同じく宮北虎吉並びに屋台
関係者七名から、今申し上げました
通り東京最高
檢察廳官、裁判所長官、
法務廳総裁にあてて陳情書を出してありますので、すでにこれらの件についてお考えなり、また救済策もおありになることと存ずるのでお伺いする次第であります。