○石井
委員 農業資産相続特例法案につきまして
日本社会党を代表して討論をいたすものであります。この法律は
農林省としましては、民法の均等相続のもとにおいて農村の
資産が分割され、
農業経営がばらばらになり、どうして
農業経営を維持して行くかというところを非常に
心配されて法律を立案されたのでありまして、この意図するところにつきましては、いろいろとわれわれとしてもこの点をくみとらないわけではないのであります。しかしながら今の憲法は、御
承知の
通り、
日本の封建性を打破する長子相続制を打破するという大きな論点に立ちまして、憲法制定をしたのであります。しかるにこの均等相続制が農村にどういう影響を與えたか、
農業の細分化に対して農民がいかに処置をして行くであろうか、こういうようないろいろなる問題が、まだ民法実施後非常に短い期間であり、何らこれらについてのいろいろと農村の新しい、それらに対する対処のしかた、あるいはそれによ
つて引起されたいろいろの混乱、これらの問題が何ら現実には提起されておらない。つまり農林当局が
心配をするようないろいろな問題についての解決点、あるいは困難なる問題等が、いろいろとまだ発生をしておらない。私は民法の制定のときにおいては、法務
委員として参画したのでありまするが、このときにおきましても、法務
委員の間に非常に論議があ
つたのであります。しかし
自分といたしましては、この問題はおそらく農民がいろいろの
立場から、
一つの大きな解決策を考慮するという、また解決するために努力するであろう。そういうふうに
考えて、さように先々までも取越し苦労しない。農民がいろいろ
考えるところ、行き方等を見まして、そこでおもむろに立法をするということがいいのではないか。何から何まで一々おせつかいをしてやるというのでなく、自発的に、創意とくふうのもとに解決点を求めるようにしたらいいのではないかというような論議をいたしまして、あの当時相続あるいは遺書につきまして、何らかの項條を入れようということについて反対をいたしたのであります。つまりまだいろいろと新憲法の実施、民法の実施日浅くありまして、これに対するところの弊害、あるいはこれに対するところの解決策につきまして、いろいろと経驗を積まず、また実施を経ておらない。こういうときにおきまして、こうしたらばよろしかろうというだけの思いつきで、かような重大立法を制定することはいかがであろうか。もうしばらく実際的なる実証を見まして、その上に構想を立てるべきが正しいのではなかろうかとまず
考えるものである。
その次にこの問題は
竹村委員、あるいは吉川
委員その他の方々からも質問がありましたが、
農業資産相続人として指定された者はいいが、そのほかの人々、あるいは長男であるかもしれない、あるいは次男坊でもあるかもしれない、これらの多数の家族がある。こういうときに、それらの人の身の振り方を
考えないで、
農業経営を保つことには努力するが、他のはみ出された人々の問題を何ら考慮に入れて置かないということにつきまして、質問があ
つたのでありますが、この点についての考慮がされないで、この法律が漫然と制定されるということは、他日大きな災いができるのではなかろうかと
考えます。この点について農林当局におきましては、
日本が貿易國家として発展をする、あるいはその他
日本の國が
將來成長して、農村の多くの子弟がその方面に振向けられるということを仮定いたしまして、そういう希望のもとにこの法律を立案されておりまするが、われわれの見るところにおきましては、明治維新この方、人口の膨脹のはけ口が、さいわいに
日本の近代工業の発展と相マツチいたしまして、人口を吸收して行
つたのであります。しかしながら大東亞戰爭を契機としたところの
日本の戰爭の敗北、これらにおきまして、
日本の近代工業的な発展というものは一應頭を打つたというような形に來ておるのです。明治維新この方六十年の
日本のあの発展の夢を、あの発展のはなやかさを追
つて、こういうことがこの
日本においてはまたあるであろうという建前の上に、農村人口問題、相続問題を
考えることは、非常に危險があるのではなかろうかと
考えるのであります。はなはだ遺憾でありまするが、支那におきましては中共の勢力が満州方面、またその勢力のもとに朝鮮もさようなことである。
日本の貿易國家としての
將來の建前は、非常に幅が狭くな
つて來ておる。こういう状況を
考えるときにおいては、むしろ農村に多くの子弟が逆もどりする状況になるのではなかろうかと
考えられるのであります。こういうようなときに、これらの多くの農村人口あるいは
日本におけるところの人口を、どう処理するかというところの
一つの建前なくして、一局部だけの解決策を
考えるということは、はなはだ政治としまして、また大きな立法としまして問題になるのじやなかろうかと、われわれは
考えるのでありまして、これだけの大きな立法は、その農村人口、
日本の人口のにらみ合せと、並びに
日本の経済の発展過程というような國際的なにらみ合せ、それらも
考えていたさなければならない。こういうことについて何らの構想、何らの
考えも練らずに、木に竹をついだごとく局部療法的なこの立法をされたことは、はなはだ当を得ないものであ
つて、もう少し大きな構想、大きな
基礎がつくられ、その上に問題の解決がせらるべき問題ではなかろうかと思うのであります。
もう一点、いつも論じられておりますが、一番われわれが
心配しているのは、この
農業資産の指定であります。この指定がまた簡單に取消される。つまり被相続人に
農業資産の相続すべき者の指定の活殺自在の権があるという問題であります。これは新憲法のもとにおいて、その財産が、
農業経営が被相続人のもとにあるもの、
自分の財産権であるから、與えようと與えまいと自由自在であるという
意味において、この指定を取消すのも指定するのも自由だという構想のもとに出た。それを当局としては、善意をも
つて解釈しているようである。そういう指定というものは漫然としないで、
自分の家の
農業経営の実態とにらみ合せてやるであろうから、指定したりまた取消ししたりして、家をもむようなことはあるまい。こういうふうに当局では、その点については善意をも
つて定めているようでありますが、われわれが最近農村において問題にし、
心配しているのは、過日も質問いたしたように、農村におきましては長男が一番早く嫁をとるのであります。大体長男が
農業経営の責任者になる。ところがあとの子弟の行くはけ口がないという状況におきまして、一番問題になるのは嫁をもらうと非常に嫁いびりが多い。そしてこれをめぐ
つて家庭の爭いが多いということであります。そこで二男でも三男でも、あるいは姉妹というようなものは、嫁に行くについていろいろと親に注文がある。冠婚葬祭等についていろいろの経費を要する。こういう実態がどこの家庭にも現われているというのが、今の農村の各家庭の
実情である。
〔
委員長退席、松浦
委員長代理着席〕
こういうときにおきまして、農村の経営は困難にな
つて來る。しかし冠婚葬祭の費用等はふえて來ている。そこで親とすれば、なるべく経費をかけて嫁にやりたい。家の
農業経営の責任を
將來持つべき
立場にある者は、さようなことによ
つて経費を使うのは、
自分が一生他の者のために奴隷的な地位に追い込まれる。これをかれこれ言うと、嫁等をめぐ
つて家がもめる。そういう場合に、この指定権をめぐり、お父さんがだれでも指定ができるのだということをめぐ
つて、相当大きな争いができるのではなかろうかと
考えているわけであります。均分相続でありますけれども、幸い今の民法を國民は了解しないから争いは起らないと言われておりますが、多くの身上をわけてしま
つてもしかたがないからというので、均分相続の民法が相続の法則によ
つてあまり実施せられないと思いますか、今後この法律等もよく知られて來まして、そういう家庭環境、経済環境のもとにおきましては、非常に多くの問題が発生するのではなかろうかと思います。おそらくこれら指定権の自由性をめぐ
つて非常に爭いができるのではなかろうかと
心配するのであります。こういう点をめぐりまして
考えるときに、非常にこの法律は当局の誠意と善意があるのにもかかわらず、
將來において多くの混乱を招くような形が発生しようと思う。今われわれといたしましても一番大きな
考え方は、
農業の経営を早く子供に渡す、だれか適任者があつたならばそれを渡してしま
つて、冠婚葬祭を簡易化させることが、農民の負担を軽くするということである。こういうふうにしてある既成事実、ある具体事実をつく
つて爭いの余地なからしめるようにして、その上に
農業の経営問題、他の子弟の身のふり方を
考えて行くことが、何よりも必要ではないか。こういうような行き方、
考え方をつく
つて、その上に足らざるところがあつたならば、立法の措置に及ぶというのが適当ではなかろうかと
考えるのでありまして、法律をつくりまして、これでもう十分だと
考えますれば、意図するところと非常に違つた結果が出て來ると
考えているわけであります。
日本社会党といたしましては、まだ新憲法の実施後日浅く、新民法の実施もまた日浅い。
日本の経済における農村の変化も非常に大きい。また農村におけるところの冠婚葬祭等のいろいろな問題をめぐ
つて、農村はどうあるべきかというところの研究点が多い。これらをしばらく研究し、
資料を集めまして、その
基礎の上に
日本の人口のあり方という点をも含めた、大きな構想の上にかような立法をなすべきだと思います。小手先的な木に竹をついだような忙しい立法では事を仕損ずるのではなかろうか、かような見地に立ちまして、本法案は当局の善意は十分にくみとりますが、反対をせざるを得ない次第であります。