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安孫子政府委員 食糧管理法第九條以下の問題についての経過を申し上げてみたいと思います。九條に基きまする精励で輸送統制の規定があるわけでございますが、この輸送統制に関する違反事件が起きまして、それでこれが裁判ださに
なつたわけでございます。その問題が上級裁判所に参りますについて、被告側は、
食糧管理法は侵略戦争遂行のための立法であるから、実質的に無効であり、また形式的に見ても憲法第九十八條によ
つて失効すべきものだ、また
食糧管理法第九條は高度の委任を行
つている、しかもこれに基く命令に違反した場合の罰則が設けられている、これは行政権の司法権の侵害であるのみならず、人民の基本的人権を侵犯する違憲行為である、ということを抗弁いたしておるのであります。また他の違反事件においては、人民は新憲法第二十五條によ
つて最低生活を維持する権利を持
つている、
政府はこの最低生活を維持することのできぬような
配給事情のもとにおいて、しかも
食糧管理法に基いて廣汎な制限を行
つている、かくのごときはまことにけしからぬ点だという観点から、いろいろ抗弁をいたしたのであります。私
どもの見解は、
食糧管理法は必ずしも戦争途行のための立法ではない。あるいは戦争遂行の過程において制定せられたものではあ
つても、
食糧管理法の第一條にも示している
通り、國民食糧の確保及び國民生活の安定をはかるためのものである。戦争終了後の現
段階においても、ま
つたくさように
考えているのでありまして、戦争中に制定されたゆえをも
つて、ただちに違憲であるという議論は、どうしてもま
つたく根拠がないと
考えます。また新憲法の九十八條に違反するということも妥当ではないと
考えておるわけであります。また憲法二十五條の問題については、
政府は
配給によ
つて國民生活の最低を維持すべきにかかわらず、
食糧管理法によ
つて極度の統制を行
つていることは違憲であるという事項に対しては、憲法十二條に示す
通り、國民の自由及び権利は國民の不断の努力によ
つて保持するものである。現在の
食糧管理法による統制も、國民の不断の努力の範囲にほかならないのであると
考えている。また
食糧管理法第九條が大幅に委任を行
つていることは否定はできませんが、これをも
つてただちに違憲であるということも、また疑問である。すなわち現在の経済統制法規の根幹である臨時
物資需給調整法は、
食糧管理法以上の委任を行
つているのである。現在のような混沌たる経済情勢のもとにおいては、各種の統制法規に委任立法による臨機の措置を認めて、これによ
つて不測の困難を防止することが必要であると
考えているのであ
つて、委任立法は必ずしも違憲ではない、こういうような見解を実はと
つているわけであります。構想いたしましたこの過程におきまして、
関係方面から
食糧管理法の違反問題に関する件として、
安定本部の総務長官並びに
農林大臣あてにマーカットから紹介が来ているのであります。日本
政府はこれに対するいかなる措置を講ずるつもりであるか、これは公式の書面でありまして、あとでお配りいたしたいと思いますが、そうしたことをや
つております。公式の書面が來ますと同時に、われわれといたしましても、事務的に向うといろいろ折衝いたしたわけであります。向うでもいろいろ見解がわかれましたが、結局違憲ではないというふうな見解を向うとしてはとりました。また、こちらの裁判所側におきましても、いつでありましたか、これは違憲ではないという判決があ
つたと記憶いたしております。しかし司令部としましては、かくのごときは違憲ではないが、適当ではない、ここにアメリカ的な思想をとり入れまして、こういう公聽会制度というものを併用することによ
つて、違憲的な色彩のものが相当薄れて行くという見解を実はと
つて來たわけであります。この救済の道をこの九條について試みることによ
つて、九條は
はつきり違憲の法規ではないという結論を出すということにな
つて、実は今回の改正に相
なつたという経過であります。