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坂本(實)
委員 今般一週間にわたり出張調査いたしました関東班の調査結果の概要を御
報告申し上げます。
調査をいたしましたのは、埼玉、群馬、千葉の三縣でありまして、まず各
縣廳にて
縣廳係官、
食糧事務所長、
農業調整
委員、農事試驗場、経済調査廳等より、それぞれ関係係官の参集を請い、当該
縣下における
生産、
供出、
食糧需給並びに
轉落農家の
事情等について
説明を聽取いたしましたる後、
縣下各地の
実地調査をいたしました。
埼玉縣においては穀倉と言われる二合半領吉川町を、また群馬
縣下におきましては、
代表的な
農村五箇所を、さらに千葉縣にては君津郡金田村及び市原郡五井町を調査いたしました。これら調査の結果を要約して申し上げますと、次のようであります。
第一は、
供出割当の過重ということであります。これは御承知のごとく、事前割当をいたし、後に実收穫を推定して
補正するのでありますが、この
補正の
基準となります実收穫の推定が、現地側と
中央農林省側との間に相当の開きがあります。まず農林省側は、大体
作報の
報告を
基礎にしておられるようですが、
一般に反当收量においても高く、また風水害、病虫害等による減收を現地側よりも低く見積
つております。その上耕作
面積については、
作報が
縣下数千筆について実測を行いましてなわ延を檢出いたし、そのなわ延の比率を從來の全耕地
面積に乘じて耕作
面積を推計いたしますので、各縣とも從前より耕作
面積を
増加いたし、これに反收を乘じて全收穫高を推定いたしますので、
供出もまた当然強化いたしたことは事実と言われます。特に風水害等による被害地の減收高につきまして、
補正が
実情に即して十分に行われておりませんので、被害地は
保有米を割つた裸
供出がなされ、またはなはだしきは親戚、知人より借用ないしは買入れて
供出する等の事実がありまして、たとえば埼玉縣二合半領のごときは、このため協同
組合郵便局、銀行等より預金の引出し及び借入れは約一億円に上ると推定せられております。さらに群馬
縣下木瀬村のごときは、一昨年及び昨年の再度の水害により、数十町が砂礫に埋められ、まつたく耕作不能と
なつたにかかわらず、なお耕地として
供出対象にせられており、あるいは
災害保險の対象として共済金が交付せられた耕地についても、減額
補正が認められなかつた等の事例を見聞したのであります。この
補正の
基礎となる実收穫の測定については、最も科学的な方法によ
つて、公正妥当を期さなければならぬと存じます。
第二は、以上の
供出強化の結果、特に
災害地におきましては
轉落農家の激増を誘発し、ひいて
耕作放棄の傾向を生じ、
一般に
生産意欲が阻害せられている点であります。しかもこれら
轉落農家に対する配給
食糧が不十分でありまして、群馬縣においては、これに要する必要量十七、八万石と推定せられているのでありますが、これに対する割当は十一万石にすぎませんので、
轉落農家の
食糧は三、四月のごときは多きは半月、少きも、三、四日ないし一週間の欠配となり、これを調整するため、
食糧配給
審議会をつくり、各戸の
実情を精査いたしまして、幾つかの順位をつけ、あるいは二十日分、あるいは十五日分と、
実情に即した配給を行
つて急場を凌いでいるものが多いのでありますが、
各地とも今のところ六月以降についてはまつたく見通しを立てかねる状況にあるようであります。
第三には、かんしよ、または麦を主作とする
地帶において、かんしよ、麦については割当
供出量よりはるかに多くを
供出するにかかわらず、総合
供出が認められていないため、米についても同等の
基準をも
つて供出割当を受けるため、保有
食糧の米の比率が低く困却している
地帶もあり、これについては総合
供出、総合保有
食糧の
制度を考慮すべきものと考えられるのであります。
第四は、山間または海浜などの兼業
農家が、薪炭の買上げ停止や、海苔、漁業の不振、または
一般金詰り等のため、
農家経済がきゆうくつになり、ひいて飯米確保の上にも
支障を來たしている点であります。
第五は、裸
供出をした
農家への配給
食糧が、消費者價格をも
つて、しかも
一般消費者なみの二分七勺ベースとなり、價格上にも、量の上にもむりがあるということであります。
以上を総合いたしまするに、
供出の強化、減額
補正の不適正、九原則の実施等による
農家経済の梗塞の原因により、
轉落農家が
増加し、
耕作放棄の傾向を生じ
一般的に
生産意欲の低下が見られるのであります。しかしてこれらに対しまする現地側の意向といたしましては、適正な
補正が行われないので事前割当ということは意味がない。事務的に煩雜なばかりである。事前割当は目標を示して
農家の総合計画を立てさせるためであるといわれて來たが、事実上は総合計画はできない。超過
供出の法制化に付ては、的確なデーターに基いて
生産量を檢討し、超過
供出が可能である所から
供出し、また減收に
なつた所は、その対象からはずすこと、事前割当をやや低目に固定さぜ、超過
供出の余裕を残すこと。減額
補正を法制化し、收穫減には必ず
補正するようにすること。現在
地方補正と称するものは、超過
供出の裏づけのもとになされるもので無意味である。
保有米の優先確保の実行。などがあげられるのであります。
最後につけ加えて申上げたいことは、
農村の
実情の正確な
把握が非常に困難であるという二とであります。たとえば
地方や
生産量の算定につきましても、一部落内においてさえも幾段にもわかれ、これが正確な順位の設定が非常に困難であります。たとえば群馬縣邑樂郡
中野村の言によれば、同村と対岸の差があると称せられ、また千葉縣香取郡新島村と茨城縣潮來町とでは、反当
供出量に二斗の差があり、千葉縣はその二斗分だけ
供出が重く
なつているというのであります。したがいまして
供出の強化と申しましても、一率にそう
なつているのではなく、村により、部洛により、さらに各
農家によ
つて千枝万葉であります。
供出制度をスムーズに行わしめるためには、どうしても正確な
生産力の調査を
基礎とすることが必要だと思われます。また
農業が常に天候に支配され、工業
生産と異り、豊凶の差が年々著しいのでありますから、実收高を正確に抽出いたしまして、減額すべきはし、追加すべきはするようにいたしますことが肝要と存じます。
なお千葉縣山武郡千代田村においては、目下精細な
土地調査を行
つているさうでありますので、これができましたあかつきには、
作報の調査のやり方に対しましても、よい
資料を提供するでありましようし、また今後の
農村の
土地生産力を判定いたします上にも好
資料となるのではないかと存じますので、言申し添えた次第であります。
以上簡軍ながら御
報告申し上げます。