○
松尾参考人 私、
日本労働組合総同盟の
松尾喬であります。このたびの
料金の
値上げの問題につきまして、大体総同盟としてまとめた
考え方を申し上げたいと存じます。
通信事業というものは、文化的な
事業であるというふうに、私
ども考えておるわけであります。そうして國家
事業として今日まで経過して参りまして、現在の
國民生活と切り離せない文化的な
事業であるからには、その財源となるべき
收入は、一体全部利用者
負担とすべきものか、ないしは文化
事業という特質の
立場から、
國民のすべてが平等にそれぞれ能力に相應して
負担すべきものであるかは、
企業経営の
立場としても、また行政の
立場からも、
愼重に考慮を拂う必要があるのではないかというふうに
考えるわけであります。
考え方によりましては、この需要の度合いが、文化の一つのバロメーターとして受取れる事のではなかろうか。この
立場からすれば、今日世界の國々を通じて見まして、
郵便料金の高いということは、その國の文化の度合いが低いことを示すものではなかろうかというふうに、
一般的に
考えるわけであります。新しい
日本が平和的な文化國家として再出発します上においては、こうした
立場から、根本的なものとして行政の面でも十分
考えて行かなければならない重大な問題であると思います。こういう理想を貫くためには、実際的な処置が、今日の逓信行政の現実問題の解決の場合においても、一貫した態度として出て來なくてはならないのではなかろうか。今度の
郵便料金の
値上げが、二十四年度の
均衡予算、編成上の根本問題から來ておるものであることを
考えました場合に、インフレ
経済を收束せしめようとする点については、同意するわけであります。しかしながら
予算編成上の組み方あるいは
考え方について、
労働大衆の利益を守ろうとするわれわれの
立場から、いろいろと議論のあることでありまして、こういう点からの
料金値上げの問題と関連いたしまして、基本的なものにな
つて來るわけであります。しかしながら
経済的な自給態勢をすみやかに確立しようとするために、郵政
事業の
独立採算制をとることについては、一應了解できるのであります。そこで五十億に上る
予算編成上の赤字を克服するためには、
郵便料金の倍
値上げの問題につきましては、率直に言
つて、現在の
一般物價の上昇状総から
郵便料金を比較して見た場合には、必ずしも高くない。こういう事実を認めまして、必ずしも
値上げに
反対ではございません。しかしながら
値上げをするからには、得たる
收入というものを、單に消費してしまうようなことがあ
つては、断じてならないと
考えます。そのためには
施設の改善とか、あるいは
サービスの改善をはか
つて、
企業としての健全化のために、眞に
独立採算の本旨に沿い、かつ文化的な
事業として
國民生活を豊富にするように使用するということが、私
どもの建設的な
立場から言い得ることなのでございます。
料金値上げに関連しまして、さらに申し上げたいことは、收益をはかるために
料金を
値上げしようという
考え方は、氣のつきやすい、きわめて安易な方法として
考えられておるのではなかろうか。
料金値上げが現今におきましては、
郵便だけにとどまらず、
鉄道運賃も
値上げが確定されておりまして、その
影響するところが、
一般物價を
値上げさせる素因をつくり出して行くであろう。今日まで経
つて來ました経緯を
考えまして、さらにそういうことにな
つて來るのではなかろうかと
考えるわけです。こうした点が、勤労
國民大衆の
生活経済というものを、さらに逼迫せしめることになりはしないだろうか。さらに單一為替レートの決定に伴いまして、主食の
値上げも予想されます。こういう
状態におきまして、今回のとられようとする
措置が、
國民感情の上に非常に惡い
影響を與える。政治に対する信頼感というものを
低下せしめるような機会となるのではなかろうかと思うわけでありますが、同時にまた爲政者が、運賃や
料金が幾ら高くな
つても、利用者は利用するものであるというふうに安易に
考えられておる向きはないだろうか。そういうふうな
考え方の上に立つわれわれの
立場といたしましては、爲政者の思想と施策の貧困に対する反撥が、
大衆感情をして、さらに新しい民主主義的な
生活様式に陥れて行くことはないだろうかというふうにも危惧するわけでございます。
そこで
從來の郵政行政と申しますか、そういうものの実態について少し述べて見たいと思うのでございます。
通信事業は戰前から電話
收入が
收入の根源であ
つたが、戰爭による
施設の被害によ
つて、現在では当時の五〇%減少しておる
状態ではなかろうか。郵政の
関係は、戰災によ
つて施設が著しく惡くな
つておる。
從つて逓送が遅れ、利用するもの、あるいは取扱うものがそれだけ減少しておる。電話に至りましては、もともと戰前からも赤字であ
つたというふうに聞いております。こうした
内容で戦前は、データーにも載
つていますように、
郵便の赤字を電話
收入で補
つて、なおかつ
一般会計へ相当額の金額を納付してお
つた状態でございまするが、
戰後は、赤字続きである。こうした
状態を克服するために、今までも能率の増進であるとか、経費の節減に努めて來たと言われておるのでございまするが、しかし実際にこういう問題をどれだけ眞劍に実施されているか、またされたか、われわれといたしましては、はなはだ疑問な点があるわけでございます。行政の根本的な問題に触れまして、一体逓信
事業というものは國家
企業体とするのか、もしくはそういう形を離れて、独立
企業体となるのか、現在までのところ明確を欠いておりまして、かような基本的なことが不明確であるということを、一つ重要な点としてわれわれは見のがしていないわけであります。そこでわれわれの
立場からいたしますれば、今日の逓信行政の
國民的な、しかも民主的なあり方ということを、確立しなければならないというふうに
考えるわけであります。そこで赤字と、
施設の戰災による老朽であるとか、あるいは現業人員の実際的な不足というような、これら累積いたしまするところの惡
條件によ
つて生じまする
郵便逓送の遅延、不確実ないしは不人氣、不信用というようなものに悩むこの
企業を、どうして
合理化し、かつ復興するかということが問題でなければならないと信じます。
企業合理化の問題は、單なる人員整理や、あるいはまた單なる
料金の
値上げによ
つての
増收対策からは、そう簡單には答えは出て來ないと思います。
合理化問題に関連いたしまして、データーを見ますと人員の推移が、戰爭中から非常にふえておるようでございまするが、これは戰爭中の貯蓄倍加運動によりまして、貯蓄
方面の人員が非常に増加したという現象が、今日なおその必要から続いているというふうに思うわけであります。そこで人員の問題でございますが、部内の人員の
合理化問題は、一体
逓信省の人的な構成が、いわゆる監督者的な
仕事をしておる者が非常に過員ではないだろうか、そしてその反面、現業の実
労働に携わる者が非常に欠員し、不足している。こういう実態が今日の
状態ではなかろうかと思うのであります。この
状態を大体逓信
関係の全國的な数字に表現しますならば、現業実務人員の方が五人に対して、監督者的
立場にある者が一人、五対一というような数字を示しているのではなかろうかと思うわけであります。そこでこの監督者的な
立場の人を極度に不足いたしておりまする現業
方面の実務に轉換させるということは、はたして可能かどうかという問題でございます。これはわれわれが調査しましたところによりますると、給與面を解決すれば、容易に解決する問題であるというふうな一つの結論を得ているわけであります。しかしながら現在の職階制の給與のわくでは、これはとうてい行えないわけであります。現在の職階制の給與のわくを是正し、解決するということが、先決であり、根本であると思います。すなわち現在の頭打ちにな
つておる職階制を打破
つて、そうして今申し上げましたように、監督者的な
立場の人を、現業
方面へまわすということでございます。これは実例を申し上げますと、末端では
仕事としては同じ
仕事をしながら、たとえば主事の肩書によ
つて給與面が違
つて來るというような
状態でございまして、こういう不合理な職階制による給與面を打破
つて、
從業員側の納得の行く給與の
状態に改善いたしまするならば、必ずしも不可能ではないと
考えるわけであります。
さらにまたこの問題に
関係いたしまして、他の
参考人の
方々からも、それぞれ指摘されておりまするが、今日逓信
関係で、非常に
サービスが行き届いていないという問題はしばしば伺
つたところでありまするけれ
ども、
一般需要者に接するところは、窓口とか、あるいは集配であるわけでありまして、こういう部分では非常に人員が不足しておりまするから、
サービスが行き届かないというような結果を見ているわけでありまして、これは私
ども日常利用者としての
立場からも、感じているところでございますし、同時に
從業員みずからの僞らない告白として聞いておる次第でございます。今回官側が実施しようとしまする行政整理による
首切りの実例について、一つの
参考になるような数字を持
つて参
つております。それはどういうふうに行政整理のほこさきが向けられているかということでありますが、ただいままで申し上げた
内容を裏書きするような数字が出て來ております。東京都内の落合長崎の局におきましては現在人員が、主事三名で、その他の主事以外の職務についている人が二十七名、こういうような現在人員の局に対して、今度の改正人員は主事が同じく五名であ
つて、その他の人員は十三名である。二十七名に対して十四名を整理するというような数字が出て來ております。あるいは赤羽におきましても主事は一名で、その他が十四名、改正人員ではやはり、主事は一名で、その他の人員において六名というような数字が出ている。こうした具体的な事実に基いてわれわれは申し上げているわけでありまして、こういう整理の仕方によ
つて合理化をはかるうというような態度では、
從來一日二回配達されておりましたような
状態が、人員の過少によ
つて、不足によりまして、一回しか配達されないというような事態をもたらしまするし、同時に、そういう形が惡化しまするならば、今日の逓信業務の停頓という、惡い
状態にまで行かないとは断言できないわけであります。いろいろ実例を申し述べたいのでございまするが、時間の点もございまするから、省略いたしたいと思います。
さらにまた
合理化の問題に関連いたしまして諸経費の節約でございまするが、諸経費の節約の中で、私
どもはこういうように
考えております。それは今日の逓信
事業の規定や手続というものが非常に複雑である。これを簡素化して、そうして使用する消耗品を節約するとか、ないしはそういうことによ
つて、物件費の節約をより以上はかる必要があるのではないかというように
考えておるわけであります。もちろんこういう点はすでに実施されておると思うのでありますが、その成果を見ていないとするならば、やはりこういう点に着目をして行かなければならないのではないかと思うのであります。
さらに今度とられまする
増收対策でありまするが、はたして
料金の引上げによ
つて、
増收が可能であるのかどうかという問題でございます。私
どもは冒頭述べましたように今の物價の
状態から勘案いたしまして、今回の
値上げには必ずしも
反対するものではございませんが、しかしながら今計画されているような
増收対策で、はたして
値上げによ
つて増收が可能であるのかどうか、この問題でございます。御
承知のように
施設が老朽いたしておりまするし、もはや今日の
状態では、
一般需要者の利用は限界点に達しておる傾向がありはしないかと思うのでございます。
郵便小包にいたしましても、今日の
経済事情では送るべきものがないという
状態ではなかろうか。具体的に申し上げますと、戰前には都市に居住しておる自分のむすこや娘に、農村から農作物を送ることもございましたでしよう。あるいは商店が商品を
郵送する、あるいはデパートに参りましても、買えば小包にして送
つてくれるほど、
サービスをする
状態であ
つたと思うのでありますが、今日は必ずしもそういう
状態でないと思います。そういう
意味合いからして、需要の範囲が限界点に來ておる傾向があるように思うわけであります。そこで
料金が幾ら
値上げにな
つても、はたして需要がそれに並行して行くかどうかということが、問題であろうと思うのであります。私
ども最近事実として知
つたところでありますが、納税の問題に関連して、区役所が令書あるいは督促状を、
郵便局を経ないで、区役所の雇員を煩わして配
つておるというような実例もあるわけであります。これを数字に現わしますれば、たとえば
書状として出す場合に、一通五円でそれを二百通出すとすれば千円の
郵便料金がかかる。これを日給二百円ないし三百円の雇員一人に一日のうちに確実に配達されることになりますと、片方は千円かかり、片方は二百円ないし三百円で済むというそろばん勘定にな
つて参りまして、ここに飛脚的
郵便の復活という傾向が、現われて來つつあるのではないかと思うのであります。かように需要者の利用が限界的に來ておると
考えられます以上は、幾ら
料金を上げても、取扱うものがなければ、結局
増收にはならないわけでありまして、そういう点を私
どもは危惧する次第であります。
さらにまた、現在部内で局ごとに
増收対策として、報奨
制度というようなことが実施されておるようでございます。もちろん
増收対策はけつこうでありますけれ
ども、この
制度では取扱い物件を増大するために、
個々の
從業員諸君が極度に
労働強化をしいられるという傾向があるので、この点は十分注意されなければならないと思います。また需要度の高い地域と、低い地域とがありますが、現在では一率に局ごとの報奨
制度を実施されておるようでありますので、こういう点も、十分調整されなければならぬ問題であろうと思うのであります。今度の
独立採算制にいたしましても、
料金の
値上げにいたしましても、逓信
事業の
企業としての價値を高め、あるいは健全化をはかり、復興をはかることが最も必要であろうと思います。財政の
内容をよくして行くためには、單に
料金の
値上げによる
増收対策ということだけではなく、部内における郵政行政の本筋について十分
考えなければならぬと思います。特に
料金ということも大切でございまするが、どうして取扱うものをより多くして行くか、需要をどうしてより以上高めて行くかということが、根本的な問題であると思います。
次に逓信
企業の再建という問題でございますが、これはひとり逓信
事業だけが先行して諸般の施策を整えて再建のコースを突進しようとしても、今日の
経済事情との関連を抜きにしては、再建は
考えられないのであります。そのためには
施設の改善であるとか、
サービスの改善、あるいは
全逓四十万
從業員諸君の納得と協力を得られるような
企業合理化が、今申し上げました
一般経済の再建と並行して行われなければ、実が結ばないであろうというふうに思うわけであります。
最後に、今回の
値上げの
個々の問題についてでございまするが、
從來第四種は産業保護という建前から、第三種は文化の
向上というような目的から、比較的安い値段でこれが行われて來たのであります。ことに
日本が文化國家として立ち、あるいは現在の
経済事情のもとにおいても、なおかつ
経済再建をしなければならないというような、こういう
考え方の上に立ちまして、第四種なり第三種なりに着目されておりまする配慮の度合いを、より高められまして、恒久的な施策を立てて再出発されなければならないのではなかろうかと思うわけであります。
結論といたしましては、冒頭に述べましたように、総同盟としては、
独立採算制の問題については一應了解できる。好ましくないけれ
ども、
一般物價の上昇の度合いから
考えてみまして、今日の
郵便料金は必ずしも高いものとは
考えない。
從つて必ずしも
値上げに
反対するものでない。しかしながら
値上げするからには、その
收入を單に消費してしまうというようなことでなくして、逓信
企業の健全化のために活用されるべきが、至当であろうということを申し上げる次第でございます。以上が私の
意見でございます。