○一万田参考人 きようここにまかり出まして、今後の金融政策というような点について
お話ができますことは、私は非常に光栄でもありますし、また欣快に存じます。
すべて経済政策は今後九原則のわくのうちでやらなくてはならぬ。九原則に対する批判はむろんあり得ると思いますが、これは今日の問題ではありません。九原則は、私が申すまでもなく経済の安定を所期しておる。経済の安定はどうすればよいか。結局インフレを收束する。インフレを收束するのにはどうすればよいか。いわゆるインフレーシヨンの起る根本の原因を取除くことが、インフレ收束のもとであります。むろん
日本の経済からそう急激にこの根本を除き得ない事情も認めなければなりません。しかしインフレを收束するのはその点にあるのであります。今回この九原則の一つとして
予算がああいうふうに編成されております。この
予算と、
一般の金融政策がどういう
関係を持つだろうか。これが一つの問題であります。この
予算で直接通貨の收縮になる金額と言いますか、
予算面から生ずる金額は、私が
承知しておる限りでは、三百二十七億ぐらいは收縮になる。これは主として
貿易資金特別会計の二百五十億の
日本銀行返金を中心とする金でありますが、これは收縮をいたす。のみならず、昨年に比していわゆる増税と言いますか、税金の徴收が約二千億近くふえております。これはやはり傾向としては大きなデフレ傾向をとる。もちろんその間において
大藏省証券を発行する。投資において
資金の調達をいたす。これが
日本銀行の引受けということが
從來通りでありますれば、これはインフレ的な傾向、この辺はいろいろと複雜な事情もありますが、大観いたしまして、今回の
予算はデフレ的の傾向をとるということは、これはいなみがたいことであると私は
考えております。そこで金融政策をやる場合に、一体どういうふうな目標をまず大観しておくかということが、もつとも必要である。私の大観する第一は、今日の金融と言いますか、いわゆる
資金量というものをこれ以上減してはいけない。大体今日の
資金水準には置かなくてはならぬ。これが一つの大きな
考え方であります。そうしますと、もろもろのデフレ的な傾向は、同時にこれを補う金融政策をと
つて行かなくてはならぬ、こういうことに相なります。同時にそういうふうにインフレの原因のもとを除く
予算が立
つておる。そこでこれはひとり
予算面、財政面ばかりではありません。経済自体においても九原則を実行して行かなくてはならぬ。言いかえれば、
日本の
産業が
從來ペイする基礎に立
つておらない。もろもろの形で赤字を出しておる。あるいはまた
政府の財政
資金に依存することが多か
つたのであります。こういうものは九原則に適應しません。こういうものが取除かれて行くにはどうすればよいか。結局経済におきましても、自分のペイしない原因がどこにあるのか。自分の足で立ち得ない原因がどこにあるのか。その根源、その病根を除いて行くという方向をとらなくてはならぬ。かりに今日それをいとうて、取除かないでおきましても、近いうちに單一為替相場が立てば、すぐにそれはいけなくなる。現在の國際競爭に耐え得るものではない。そこでまずこの根源を取除く。言いかえれば、企業の合理化ということはこの際あくまでやらねばならぬ。企業の合理化をやる。この建前は忘れてはならぬ。こういうふうなインフレの根源になる点を、財政、経済の両面におきましてまず取除くことをやる。そうしてこれをどういうふうにして大過なくや
つて行くかという点において、金融というものが非常に大きな役割を果しますし、また愼重にやらなくてはいけない。言いかえれば、病人が手術台の上に乘
つたのであります。そこで内科医として常に聽診器を耳にあて、手には脈をとりつつ、この病人の病勢が惡化したり、頓死したりすることのないように、健全なからだに回復するように配慮しなくてはならないが、同時に金融面におきましても、インフレは收束しなくてはならない。言いかえれば、少くとも今日の
資金量の範囲内でこれをまかな
つて行く。こういうことは九原則を実行する上において、やはり絶対の要請であります。そこで非常にむずかしい問題がもろもろと起るのであります。なかなか今後における金融というものが決してなまやさしくないということは、おわかりくださると思うのであります。
そこで、こういう場合にどうすればいいかということは、金融の政策といたしましては、まず蓄積
資金を培養するといいますか、できるだけ預貯金の増加、いわゆる蓄積
資金の増加をはかるということが、これがもう根本の大きな問題で、この増加いかんが今後の金融の問題を大きく左右いたします。特に
予算面で、税金で二千億以上も今回は徴税するのであります。そうしてみると、これは強制貯蓄に該当いたします。これだけ
國民の金融機関に対する貯蓄というものは、どうしても少からざるを得ない状況にあるのであります。しかも今後経済界では整備が進んで行きますと、いろいろな問題がある。言いかえれば、これも九原則で、
日本國民が勤勉で、大いに働いて、そして大いに節約せよ、いわゆる
國民の耐乏生活ということをもとにして、貯蓄というものの増大をはか
つて行かなければならない。そこで私は、こちらさまにもお願いしたいのですが、私はここに貯蓄の増強ということを旗じるしに、今後夏にかけて全國的にひとつ行脚してみよう、そして
國民運動を展開しようと、今
考えております。なぜかならば、こういうふうな事態のもとにおいて、今日でも
國民の生活水準が低いのであります。しかもなおかつこれ以上に耐え忍んで國家のために貯蓄してくれ、こういうことを言わなければならない。貯蓄に限りませんが、九原則のこの苦しさを忍んでくれと言わなければならない。それを
國民の一人一人によく訴えまして、何ゆえにこの九原則というものを今日
日本でやらなくてはならないか、なぜ苦しまなくてはならないか、苦しんだ結果
日本は一体どうなるのか、言いかえれば、
日本の独立も、
日本の將來の繁栄も、この九原則の苦しみを一應耐え忍んで初めて來るので、將來は明るいんだということを、
國民の一人々々によく納得してもらうことが最も必要で、これは私の
立場から、貯蓄の増強ということを中心にいたしましてやるつもりにしております。これはしかし大きな政治、あるいは社会の問題で、たとえば昨年も税金で相当苦しんでいた。まして今度は二千億を増徴するという、ここにはいろいろな社会問題の頽廃があるのであります。社会惡のおもしろくない事態が生ずる。これはただ一例にすぎません。そうしてみると、税金を耐え忍べ、なぜ耐え忍ばなければならないかということをよく
國民に徹底せぬ限りは、はなはだ寒心すべきことだろうと思う。これは一つの政治の問題として、皆樣方に十分お取上げを願いたいと思うのであります。
こういうふうにして貯蓄を増す、
資金量をふやすということを
考えます。そして同時にインフレーシヨンを防止しなくてはならない。從
つて資金量に限りがあるということは、蓄積
資金もそうでありますが、
日本銀行からも新しい追加
信用は困難であるという前提がある。そうしてみると、この限られた
資金量をよく回轉させるということが大事なのであります。同じ
資金量でも、その回轉度合いによりましては、この
資金量を非常に大きくすることができる。言いかえれば、
産業用にまかなうことができるのであります。そこでこの一定の
資金量の回轉をよくするためには、金融といたしましては、
信用取引が行ける――いわゆる
信用が確立するということが根本であります。今日のようにすべての企業がお互いに未
拂いを続けて、そして一見モラトリアムみたいな状況にあるということは、実に私どもとしては耐え忍び得ない。何とかしてこれを除去することに力をいたしておるのでありますが、しかし企業の根本におきまして、ある
意味において、こういう場所でこういう言葉はおもしろくないのでありますが、わかりやすく言えば、道樂をし過ぎております。いくらでも道樂しておると、なかなか道樂からできた不始末は始末がしにくい。始末がつかずに、次々に道樂をし続ける。これではいかぬ。そこで、どうしても一定量の
資金で、回轉をよくしてまかなうというためには、この
信用を確立することが必要であります。まず根本においては今後不始末をしない。未
拂いと言えば普通石炭というようなことが頭に浮ぶのでありますが、石炭業者は今後未
拂いを生じないという
信用を確立することが必要であります。またそういうことを確立させることが
安定本部の使命だと私は思います。そういうことができないなら、何の
安定本部か、私は理解に苦しむのであります。そういうことをひとつ
はつきりやる。そうしますと、すでにたまつた未
拂いというものは責めてもしかたがありません。経済問題としてはもうすでに起つたこと、これをひとつ始末をいたしまして、きれいにし、今後はそういう未
拂いというものを生じないよう、
從來の未
拂いを清算する。ここにおいて初めて金融というものが円滑に行くのであります。手形決済が十分に行かなくて金融の円滑をはかろうということは、まことに不可能を求めるようなものであります。こういうことがあ
つてはなりません。こういうふうな
考え方で、今後
日本の経済界は、内科医が常に聽診器で聞き、脈を見るごとく、この九原則実施の上で経済界に大きな惡い
影響を與えないように、また混乱を生じないような形でも
つて金融をや
つて行こう。これが私が今
考えておる問題であります。
そこで、少し具体的な問題に入りますと、今日どういう程度の貯蓄ができるだろうかということが、先ほど申しましたように根本の問題であります。これにつきましては、いろいろな
見解があるのであります。これは貯蓄自体のとり方にもよります。しかし私の
考えでは、少くとも二千億見当は二十四年にもできるだろう。目標は二千五百億にしてもよろしいのであります。しかし二千億くらいには到達をしたい。内輪に見る人はなお少いのでありますが、大体二千億前後というようなところで、ひとつがんば
つてみよう、こういうふうに
考える。そうしてみますと、大体の
考えとしては、そのほかに
貿易の黒字が千七百五十億出ております。これも
産業資金にまわし得るのだ。むろんすでにきまつた使途は別であります。そうしますと、私は大体
資金量として四千五百億くらいの金は二十四年度に市場に持ち得る、こういうふうに
考えております。そうしてみると、大体千四、五百億の設備
資金と、二千億見当の、あるいは二千億以上の運轉
資金を十分まかない得る、こういうふうに
考えております。これは今申しましたような預貯金の増加いかんにもよりますが、しかし総じて見ますれば、
一般の人々が九原則を実施する場合におきまして、金融的に非常に困るだろうというような
考え方をしておる人が多いのでありますが、それは当りません。そう心配することは何もいりません。ただ問題は、今日の企業の状況を改善する点において、非常に困難さがあるということなのであります。これをずつと掃除をして行く、そこに困難がある。たとえば企業の整備ということは、先ほど申しましたように合理化をやる。人員も要すれば整理するのもやむを得ません。やはりこの整理も必要であります。その他設備あるいは機械も、いろいろ補修、補給しなくてはならない。こういうふうな点等々、企業を自分の足の上に乘せる努力、その点において非常に困難さがある。これは企業自体を離れますが、今日の購買力の
関係、あるいは海外の市場の要請等から、相当な手持商品があり、それがはけておりません。これは公團というようなものを見ればよくわかりますが、
貿易公團でも非常な巨額の手持商品がある。こういうふうな商品をなるべく賣れるように持
つて行くとか、あるいはまた一時これを
資金化して、そうしてこれから生ずるデフレの副作用をなるべく防いで行くというような処置において、むずかしさがあるのでありますが、しかし自分の足の上に乘つた健全なる企業において、
資金難を訴えるということは、今後において私はさせたくもないし、またそういうことはなくて済む、こういうようにお
考えくださ
つてけつこうだと
考えておるのであります。こういう点がどうもやかまし過ぎる。ここには
産業家はおられますまいが、
産業家から見れば、どうもやはりまだまだ私は
考え方が甘過ぎると思う。これは大体
昭和五年の濱口内閣当時の金解禁と似たような、今度為替相場が立ちますから、金本位に帰るとも、大ざつぱに言うていいのでありますが、あのときの
産業家の企業合理化の熱意と苦しさに比べますと、まだまだ今日はよほど甘い。これは一に、戰時中は何でもつくれば
政府でめんどうを見る。なんでも買い上げる。終戰後はインフレの力によ
つて、物を持ちさえすればもうかる。何でもつくれば賣れる。すべてそういう精神になれて來ておる。そこへも
つて來て、比較的急なカーブを切りまして安定に向うというところに、
産業家も、少し急に來たという
意味で、シヨツクを受けるのであります。しかし靜かに
考えてみれば、そこはひとつ思い切
つて、なすべきことはなしてもらわなければならぬ、こういうふうに私は
考える。
そこで、さらに当面の具体的の今後の金融上の問題について、触れてみたいと思います。それは第一に、
復金がああいうふうに
資金の融通をとめました。そこで
復金的なあるいは財政的な
資金でないと設備
資金がなかなか出にくい。そこで、どうすればいいかという問題に今当面しております。私の
考えでは、
日本の経済を維持して行く上において、そうして九原則の実施のわくのうちで、なおかつどうしても必要なる設備
資金は、
復金があろうがあるまいが、そんなことは私は問題にしておりません。出すべきだ、こういう感情を持
つております。そうしないと、
日本の経済というものは、これは非常な破滅が――破滅まで行かないにしても、非常な惡
影響をこうむります。
從來復金という形で出ておりましたから、やりやすいというだけの問題でありまして、この
資金を出さなければならぬということにおいて、私は一点の疑いもさしはさむ余地はない。そこで私は、この当面必要とする設備
資金には、私の方が中心にな
つてひとつこれを調達して、そうしてこの経済の運行に支障がないようにしたい。ただ問題は、こういう場合にそんならどれほどの設備
資金が必要であるかということが問題である。これはやはり
安本というようなところで、この九原則実施のもとで、一体二十四年度にはどういう
産業計画を必要とするかということを、
はつきり立てなければならない。こういうものが立たずにおいて、盲めつぽうに、あるいは個々のものがか
つてに整理をしたり、あるいはいろいろ積極的に増産
計画をしたりすれば、
産業というものがばらばらになるおそれがある。整理にしてもばらばらになるおそれがある。それではいけないので、
産業というものは一つの有機体でありますから、一つの事業のやり方が他の事業に
影響を與えます。それで、やはりこういう整理におきましても、一つの
産業計画の線に沿
つて整理をやる、こういう行き方をしなくてはならぬ。
安本でもおそらくこういう作業をしておることと確信しておるのでありますが、そういうふうにしてひとつや
つていただきたい。こういうふうにして、いくらの設備
資金が二十四年度にいるか、さらにそれが具体的に、第一・四半期の四―六の期間にどうしても出さなければならぬ設備
資金が、これは設備の補修、改善とかいろいろと概算がありますが、私は六、七十億あれば一應行くんじやないかという
見解をと
つておりますが、これは今市中
銀行にお頼みしまして、会社ごとにシンジケートをつくり、そうして出して、もしも
銀行に金が足りないならば、私の方から出します。これは
復金があろうが、なかろうが、出さなくちやならぬ。そうして將來通貨の膨脹を避ける
意味におきまして、
貿易の黒字から出ますあの
資金で、
産業にまわし得るわくのうちに振りかえていただく、こういうふうに
考える。もしも振りかえができぬということにな
つても、この
資金は必要であります。それはそのときに
日本銀行で腹をきめております。それはそれで適当に処理して行く。とにかく必要な
資金だけはあくまで出そう。これは設備
資金に対する当面の問題であります。これができれば、
一般が言うように、この二十四年度のああいう
予算が立てば、もう設備も改修も何もできぬじやないかというようなことが、ともすれば
新聞に出ますが、そういうことは絶対にありません。そういうふうな
考え方は、実に私は遺憾としておるのでありますが、そういうことは絶対にありません。
それからさらに未
拂いの問題。これも先ほど
ちよつと触れましたが、今後未
拂いは出さない。もう道樂はやめるということでありますれば、
從來の不始末は私は始末したがよろしい。これを始末しないと、先ほど申しました
資金量の確立ということは困難で、一定量の
資金をうまく回轉しなければならぬのに、言いかえれば洪水の泥水のようなもので、水源地では水があがるようにな
つておるのだけれども、まことに濁
つてどぶのような始末にな
つておる。これを澄まして清潔にして行く。そうすれば
信用も十分に行く。手形の
取引も確実に行く。これには未
拂いがあ
つて困るから、掃除をして、將來この
産業はもう未
拂いはしないから、もうできないから、こういう前提のもとで、この未
拂いも始末しよう、こういうふうに思
つております。それで今石炭についてもいろいろ考慮して、石炭ばかりではありませんが、大体の未
拂いについて適当な口からこれを立てかえまして、ずつと流して拂
つておりまして、近いうちには百億くらいの金がこの未
拂いの中に流れ込んで行くだろうと
考えております。これは結局最後は金融機関への返金にも相当なるのでありますから、未
拂いの金を出すとどつかに消えうせて、インフレになるというものでは決してありません。筋が立ちさえすればや
つてよろしいのであります。この場合は完全にひもつきできちつと未
拂いを決済して行こう、こういうふうに
考えておる。これが今日当面しておる問題の第二であります。
第三は、今後におきまして企業の合理化でいろいろ整理用の
資金がいる。これも私の
考えでは、企業の合理化ということは、今日の
日本の経済で絶対の要請であります。從いましてこの金を出し澁
つておいて合理化しようということは、羊頭狗肉であります。こういうふうなことではだめなんであります。合理化を要請する以上は、合理化に
所要する
資金は調達するにやぶさかでないのでありまして、これは出すように金融機関にもお願いをしております。ただ今後
資金は
復金的な
資金がなくなりましたから、すべて市中
銀行からいたします。從いまして相手方の
信用、企業の
信用ということがどうしても中心になります。この点については企業家の方に十分
信用を持つようにひとつしてほしい。これも合理化に
関連するのでありますが、そういうふうに行きたい。金融機関としては公共性に立脚いたしまして、金をもうけるとか、もうけぬとかいうことでは、この難局は乘り切れません。預貯金というものは自分の金ではないのでありまして、これは
國民の
資金であります。從
つて金融機関としては、この
國民資金をいかに
國民産業に役立てるかという観点において、
運営をや
つて行かなくちやならぬ。そういう公共性に立つことを十分
考えておりまして、今後は一層その
立場を深めて行
つて、今日の難局を金融上からうまくや
つて行きたい、かようにも
考えております。
それからその次の
資金的問題としては、
貿易資金というふうな問題ですが、
日本の
産業が
貿易に依存するのはもちろんである。たとえば二十四年度においては約六億に近い輸出を
考えなくてはなりません。
從つて貿易資金が増大をします。まして今日の企業においては相当みな商品を持
つておりまして、販賣ができずにおります。これもやはり轉換をしてなるべくそういう商品が海外向けに行くように、企業自体も輸出
産業に切りかえなければなりませんが、商品もなるべく輸出の方に向けるようにして行く。そうなりますとやはり
貿易資金というものがたくさんいります。そこで
貿易手形というものは前から再割りすることにな
つておりますが、
從來若干の條件をつけてや
つております。これは商業手形というような
意味合いで、たとえば期限を六十日間にする。それから完成品の手形でなければならぬ。それにLCがついておる。こういう條件がついてお
つたのでありますが、私はこれを
貿易資金の状況から判断いたしてこういう條件をとりまして、たとえば期日が六十日でなくても、
日本銀行法で言います九十日でよろしい。それから
日本銀行としては完成品なりやいなやということは見ない。これは市中金融機関にまかせる。こういうふうにしましてたとえば
日本銀行としてはLCがついておる
貿易手形であれば、いつでも再割りする。いわゆるつうつうで金を貸してやる。金を買ういう観念に私はかえました。
日本銀行として金を買うことは当然なすべきことであります。從
つてLCのついておるものならよろしい。從
つて今後
貿易手形が割れないということは大体において生じない。こういうふうに
考えております。これがまた一つの問題、さらに中小工業の金融ということ――やはり特に轉換期における中小企業というものは相当苦難の道を進まねばなりません。しかしながら今日の事態において中小工業なるがゆえに金融面、いわゆる経済的意義においてこれを救済することは困難であります。これは九原則の許すところではありません。九原則というものは常に自分の足でやるということを言うておるのでありますから、救済的
意味を金融面にかぶるわけには参りません。從
つて中小企業自身においても、自分の
信用を高めまた経営の能率を上げて、十分金融機関の相手に持
つて行くように仕組みを
考えて行かなければなりません。しかしそれかと言うて企業自体ばかりにそういう負担を持ち込むことも十分でないのであります。從
つて金融面でもめんどうを見ようということで、さしあた
つて私どもがや
つておりますことは――中小企業金融というのはいろいろあります。たとえば地方
銀行なんかそういう金融をや
つておる。大
銀行でも相当小口の金融を持
つておりますが、すべてこれが中小企業金融であります。何か特別の金融機関でやらないと、中小企業金融でないかのように思われると大きな間違いで、
銀行の貸出しの中の相当の部分は中小企業金融であります。その中小企業金融が多い少いということを、單に
中小企業專門の貸出し機関だけを見て話されても、実は迷惑する次第でありますが、しかしいずれにしてもこういう方面にむろん力をいたして参りますが、私の方としても中小企業に
関係の深い興銀、勧銀、商工組合中央金庫に特に金をお預けして、この金を中小企業にまわしてくださいということをずつと
從來から頼んでや
つておる。これは非常に成績がよろしいのであります。大体二箇月ぐらいで回轉をしております。その金が約十億に上
つております。これをさしあたり倍額くらいの二十億くらいのところに持
つて行く。二十億となればこれは二箇月で廻轉いたしますから、
年間にすれば二百億くらいのものになりましよう。相当な金になるのであります。これも倍にすると申しますが、別にわくを設けておるわけではない。それがほんとうによく回轉するなら何も心配せぬでもよろしいのでありますから、そのうち状況を見つつふやしてもよろしい、こういう
考え方をいたしております。いろいろ問題がありましようからあとで御
質問を受けてもよろしいのでありますが、インフレを收束しても、なおかつ財政面は
産業をまかな
つて行くというふうな、なかなか困難なる状況にある。これを両方よく見つつ親切に金融を見て行こうというのが、今日の金融政策のごく大筋にな
つております。さように御
承知を願います。