○石橋
説明員 ただいまの問題について私から
説明させていただきます。原因について、これはジフテリアの毒素が残
つていたのでありますが、この藥はジフテリアの毒素にホルマリンを入れて無毒化して予防液に使うのでありますので、元は確かに毒素であります。しかしその毒素が全然ないことが藥に
なつたという証拠になりますので、この藥をつくりますときには、その毒が残
つていないかどうかということを必ず見きわめて、藥に
なつたことによ
つて初めて製藥会社がこれを藥として精製するのであります。
從つてジフテリア予防液に毒素が残
つているということは、一般医学
常識から、また一般の
関係している
人たちの頭からは、必ず残
つていないものだ——残
つていれば藥にならないのですから、残
つていたいものだという頭が、これは学界においても始終注意され、また檢査も嚴重にやることが常道にな
つております。
從つて今回
京都に起つた
事件で、
向うで委員会がありまして、ただいまの
京都大学の木村教授のごとき優秀な細菌学者が、やはりその原因について非情に迷
つたのであります。そうして、毒素だということをだれも言い出す人がない。またそれを疑う人も少か
つたのであります。この注射は四日、五日にされたのでありますが、私は十七日に行きまして委員会に臨んだのでありますが、だれ一人として毒素だと言う人はない。ことに
京都の
病院長などは、これはほかの細菌があ
つて、その細菌がおれの所で培養できたと主張しているのであります。そういう
状況でありますので、毒素だということは予研から黒川博士が行
つて初めて言いだしたことでありまして地元の大勢の学者はやはり原因についてどうしてもわからないというような
状況で、ことに一番混迷を起したのは、
京都で試驗に供されたワクチンの中に毒素がなか
つたのであります。それは、この一〇一三号というワクチンの、これは千本あるのでありますが、初め五百までは毒素がないのでありまして、五百以下に毒素の入つたものがあるのであります。ところが、この五百以上のものが使用されて残りの五百以下のワクチンが残
つておりまして、その残
つておつたものからこの檢査の材料を取りましたので、毒素のないワクチンを檢査材料に使つたというわけもあるのであります。
從つてジフテリアの毒素がこの原因であることをはつきりつかみましたのは二十日過ぎであります。また先ほど
治療の
関係が問題になりましたけれ
ども、この問題が起つたならば、当然ジフテリアの
治療血清を早く使えばよかつたということを民間で言われておりますが、これは人間としての実驗ではありませんけれ
ども、動物実驗におきましてはジフテリアの毒素をさしたあと、四十時間も経ちますれば、もうその
治療血清を持
つて行
つても全然
効果がないのであります。ですから四、五日に打たれたものを、その翌日毒素だということを発見して血清を使つたならば、血清は
治療効果があ
つたのでありますけれ
ども、すでに二週間以上もた
つておりますので、
治療効果はないのであります。私
どもも
関係方面に、血清を出してくれないかという陳情をいたしまして、それはアメリカの血清は非常に量が少くて單位が高く、強力でありますので、頼みに
行つたのでありますが、やはり同樣な
意見で、それは時間がた
つているから全然無効であるという結論であつたし、また私
どもの方の
対策委員会においても全然無効であるという決定があ
つたのであります。しかし万全を期する意味において、私
どもは血清をできるだけ集めて、そうして子供
たちに使うように現品を
現地に送り、また
指示もいたした次第でございますが、時期的にはすでにそういう状態であります。
それから原因の解明についての死体解剖の点でありますが、これは地元の
関係官もそれを勧めばいたしました。勧めばいたしましたけれ
ども、こういう事情でありますので、その子供をひ
とつ解剖させてくださいということについては、なかなか言いにくい
関係もありまして、第六例目の子供が初めて死体解剖を特志で許してくれました。それはやはり十一月の十七日であつたと思います。
京都の府立医科大学で実施いたしまして、そのときの解剖所見におきまして、多少原因について毒素を疑つた方がよいだろうというような解剖所見が出て、それから予研から参りました黒川博士のその後の徹夜作業によりまして、大体毒素であろうかということがわかりましたのは十一月の二十日前後ということにな
つております。
從つて治療については、当時は
治療血清をもちましても何ともいたし方ないので、特殊の
治療はないという
状況であ
つたのであります。
それから予研の
責任の問題でありますが、これは引抜かれたワクチンが八本とも無毒のものであつた。これは非常に不幸な事実でありますけれ
ども、無毒なものが八本引抜かれて來たので、実際は國家檢定を合格したのであります。そのためにこの一〇二三というワクチンの使用許可が出たのでありまして、この点については予研の方に手落ちはございません。そして先ほど申されました製造所において、たとえばモルモツトの試驗をや
つて、その間いろいろの操作をするのでありますが、そのことに関してなぜ監督する立場からそれだけ氣がつかなかつたかという
質問はごもつともなのでありますけれ
ども、この点についてはアメリカの当時
関係していた專門家も、このワクチンのつくられたころやはりまわられております。そして私
どもの方としても相当な学者が一緒について見ております。そしてそれはわからないのであります。これはどうしても
製造者が良心をも
つてつくるという点がございませんければ防止できないので、その点はたとえば食品の中に
ちよつと青酸カリを
通りすがりに入れられるというような
関係と全然同じでありまして、それは製造する人の良心によ
つて初めて間違いのない品物ができる。檢定の
方法にも限界がありまして、そのすべてのものを防止するだけの檢定は学問的にはありません。しかし私
どもの過去の実績におきましても、
昭和二十一年においては一千万からの小児に
予防接種をいたしております。二十二年には三百万の児童に
予防接種をいたしておりまして、その間そういう事例はありませんし、過去においてこういうジフテリアの予防液でも
つて、かくのごとき惨事を起したことは世界の防疫史にもないのであります。
從つてそこにやはり原因の究明について毒素を考えなかつた。それは一般の同業医の方はあるいは無
責任に申すかもしれませんけれ
ども、実際
責任をも
つて集つた
日本の有数な細菌学者、あるいはそれに関連した学者の全部の頭を集結いたしましても、やはり毒素であるという結論を得ますには相当の時日がかかつたということは間違いのないことであるのであります。以上で私の
説明を終ります。