○高久
参考人 私は
日本観光通訳協会の
会長を仰せつか
つております。
高久甚之助でございます。簡単に通訳のわが國における國際
観光事業についての歴史、現状、その他を申し上げてみたいと存じます。
明治維新からこちらたくさんの外人が参るようになりまして、おのずからこのいわゆる通訳案内業というものが生れて参
つたのでありますが、当初
外國人が言葉だ十分にわからぬとかいうのに乗じまして、かなりこの案内業者が不当なことをいたしたようであります。また十分にそういう案内をする人を教養するような
機関もあしませんでしたものでありますから、つい案内する人もいい加減な知識を持
つて外國人を案内するというふうなことであつたようであります。それがためになんないに従事する人はガイド——ガイドという営業自体には何もさげすむ
意味はないのでありますけれ
ども、ガイドとこう言
つて、いかにも低い
仕事のごとくに世間が考えるように
なつたようであります。ガイドを
日本字で外の奴、
外國人に奴隷として使われる者というぐあいに諧謔的に翻訳して、いろいろなものに吹聴する人もあつたくらいであります。そこで
明治四十年の七月になりまして、この乱れた案内業というものに対しまして、しかもまたこの案内業が
日本の外人誘致、外人接待ということに非常に重要な役割を持
つているとおいうことを
政府でも認められまして、内務省令が出たのであります。すなわち案内業者の取締規則というものができなして、それが
昭和二十年の十二月まで実施されてお
つたのであります。その間この案内業に従事する者は、必ずその省令に基づきました都道
府県に行われまする案内業者の試験を受けまして、免許状をもらわなければならぬということにな
つてお
つたのであります。そこで二十二年の十二月に廃止されましたのにつきまして、その廃止と同時に新しい
法律を設けて、そうしてやはり案内業というものを取締まらなければいかぬということを運輸省の方でお考えになりまして、運輸省が今この
観光通訳業監督官庁にな
つておりまして、
法律案をこしらえてこれを実施したいという希望を持たれたのでありますが、いろいろな事情でその年も、また去年も問題にはならなかつた。そてで一方業者相互といたしましても、自分の携わ
つておる
仕事が、きわめて國家的に重要であるということを考えて、業者が集まりなして、ときの
國際観光局の御指導のもとに、
昭和十三年に業者の組合でありまする
観光通訳協会というものが生まれました。その後今日に至るまで、互いに戒め合い、またお互いに教養を重ねることをして参りました。ことに二十二年の十二月に省令が廃止されまして、まつたくこの案内業がいわゆる自由職業になりました空白時代、このときにもしこれをこのままにしておきましたならば、いろいろな
人たちが、この
事務に従事いたしまして、また昔日のような弊害が発生するのではあるまいかという憂うべき
状態を協会の方でも感じましたので、協会の
活動をもう一層強化いたしまして、この協会によ
つて業者のそれぞれが一層自粛自戒をするようにいたしたいということで、いろいろな
方法を講じました。あるいは
講習会を開くとか、あるいはまた協会の
委員になるためには一定の資格試験を通さなければいいかぬ。ちようど前に内務省令によりましたガイドの試験のような、あるいはそれよりもう少し厳重な試験をいたいまして、協会の
会員のまつたもらう。協会の
会員にな
つておる者は、安心してこれを
交通公社その他のあつせん業者に御推薦申し上げるという
方法を講じたのであります。ところが御
承知の通り、両院の御賛成を得まして、今年の六月に案内業方ができあが
つたのであります。この
法律ができましたので、今度はまつたく案内業というものは國家の認められましたりつぱな
仕事であり、十分國家の監督をうけるということに相
なつたわけであります。これはやはりその
仕事をするためにには國家の試験を受けまして、そうして免許状をもらわなければならぬということになりましたことは、すでに御
承知の通りであります。かようにいたしまして、通訳業というものにつきましては、その重要性を認めて
政府の方でもいろいろな施策を講ぜられ、また業者の間におきましても、協会を通じていろいろとその健全なる発達に腐心しているわけでありますが、実際今どれくらい
仕事をしているにであろうかということをちよつと申し上げてみたいと思います。
先ほど申し上げました内務省令で試験を受けて免許状をもらいました者は約一千人と推定しております。と申しますことは、一旦受け取つた免許状をもらいましても、必ずしも
仕事に従事する者ばかりではありませんでので、またその中にはなく
なつた者もあるかもしれませんので、推定によ
つて一千人を越えていると思われるのであります。私
どもの方の通訳協会の
会員にな
つておりますのは、百七十五名でありまして、そのうち八十二名はこの前の省令に基いた免許状を持
つておる者でありまして、
あとは一昨年、昨年、私の方の協会の
会員たる資格試験に通りました者であります。しかるにこれたの
会員のうちで、実際に
仕事としておる者はどれくらいあるか。大体それを業としている程度に
仕事をしておる者はごくわずかでありまして、二十人内外であります。今のところ来る客が非常に限定されておるものでありますから、そてほど
仕事がないためでありまして、この二十名内外のうちに、婦人の方が六名おられます。
それからもう
一つ御
参考に申し上げてみたいと思いますことは、昨年執行いたしました協会の
会員資格試験の受験者でありますが、その受験者は七百五十二名という多数に上
つております。そのうち合格した者が九十三名でありましたが、この九十三名の内訳を考えてみますと、大学の卒業者が四一%を占めておりまして、それから旧専門学校の卒業生が五〇%、残り、中等程度その他の者が九%にな
つておちます。大半は相当の教養を積んだ者ということに相なるわけであちます。これを内務省令で免許状をもらつたものの大体私
どもの方でわか
つておりますものについて考えてみますと、大学を卒業した者が一五%、専門学校卒業生が三八%、中等学校その他が四七%とな
つておりますので、現在から申しますと、非常に割合が違
つております。そこでこれを見ましても、各自が非常にこの通訳業というものを重要観いたしまして、相当の学識のある者がその業に就こうというふうに考えて来たのではないかと思うのであります。この通訳業の國際
観光事業にたいしまして重要であるということは、私がいまさら申し上げるまでもないと思うのでありますが、ほかの國におきましても、この点に相当の注意を払
つているわけでありまして、一、二の例を申し上げますと、フランスでは
観光通訳ガイド取締り規則というものがやはり國家として設けてあります。成年の男女であ
つて、品行方正な者、そして
観光教育就業証書というものを持
つている者でなからばならぬというようなことをきまているようであります。まおまたトルコでは通訳業者が非常に信用があるというので、
一般の好評を博しておりますが、そのトルコではガイド十則とくものをきめて、これを必ず守らなければならぬということを申しております。十則の一は禁酒、酒を飲んではならぬ。二番はうそをついてはならぬ、正しいことを言え。三番目は相手の感情を尊重しなかれがならぬ。四番目は服装も態度も端麗であり、清楚でなければならぬ。また五番目は毎朝ひげをそれということを書いております。六番目はお互い同士不当な競争してはならぬ。一定の料金以外に不当料金をもら
つてはならぬ。八番目は商店と結託して不当な
仕事をしてはならぬ。九番目コミッションをもらうということをしてはならぬ。客を紹介したからとい
つて、その店からコミッションともらうということをしてはならない。十番は、いつも史実とくことを第一として、自分が威厳を保
つていなければならぬ。ということを厳重の申しておりますためか、トルコの案内業者は非常に好評を博しておるそうであります。この
日本におきましても、一番外人に接触し、一緒に泊り歩くガイドが、品格の上から申しましても、またその知識から申しましても、模範的の
日本人として、
日本人たる高い矜持を持
つてこの
仕事に従事するようにならなければならぬと思いなす。それにつきなしたは、業者相互が戒め合いまして、十分教養を積まなければならぬことは申すまでのないのでありまして、これについては運輸省の
観光部におかれましても十分の御指導くださることにな
つておりますし、また協会といたしましても、その点に一層の努力をいたしたいと考えておりますが、このガイドに対する
一般世間の認識を新たにしていただきたい。ガイドというものを卑しき
仕事である、こういうふうに思われておつたにでは、やはりガイドの方でもひがんで来る、みずから卑下することになりはせぬかと思われますので、大事な
仕事をしているものであるから、その
仕事に沿うように修養しなければならぬ。
外國人と一緒に歩いていると、いかにも卑しい
仕事をしているのでというような感じをお持ちくださらぬように、
一般世間の人の認識を新たにしていただきたいと私は念願しているのであります。この
委員会におきましても、いろいろ問題を取上げておられるようでありますが、
外客あつせん
機関の充実とか、あるいは接客
関係の
関係の者の教養とかいう点にも十分お力を注がれるように
要綱によ
つて拝見いたしておりますが、どうかこのガイドのりつぱな発達ということにつきましても、いろいろと御心配いただきたいと存じます。失礼いたしました。