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大野政府委員 冒頭に述べましたような三つの支柱に基きまして、
米國の
外交政策が遂行されておるわけでありますが、今度の
北大西洋同盟條約の締結によりまして、この三つの指標のうちの第二のもの、すなわち地域的集團
安全保障に具体的かつ法的な根拠を與えたということが言えようかと思うのであります。アトランテイツク・コミンテイという言葉を
米國の言論界において使
つておるのですが、要するに大西洋協同体諸國と申しますか、これらの諸國がある種の政治的、軍事的な利害を共通にいたしておるという歴史的な、あるいは傳統的な観点からいたしまして、なるべく結合することがいいのだということが大分前からあるのでありまして、今度の條約の締結という問題も、やはり歴史的に見ますると、そういう点と結合しておるというふうに
考えてさしつかえなかろうと思うのであります。
從つて今度の條約の目的といたしておりますものは、ソ連圏諸國との
勢力の均衝を回復するために、強力な手段をここに確保せんとするにありまして、その目的を具体的に推定いたしますならば、第一に、
西ヨーロツパにおける侵略に対する不安を除きまして、これによ
つて経済回復を促進するということ、第二は、共産党による國内革命に対して警告を與えるということ、第三には、北大西洋諸國の武力を平時においても相当調整を加えまして、これを結集することによ
つて攻撃を未然に防止するということ、第四には、もし侵略あるいは攻撃が行われる場合におきましては、
西ヨーロツパ側が助力を獲得する
態勢にあるということを、心理的にも世界に確立するという点にあろうと思うのであります。そういう
意味から行きまして、今まで歴史上幾つかございました同盟條約の目的と大体似ておりまして、
戰爭を予防するという
性格が基本にな
つておりますが、また心理的な効果も相当ねら
つておる、かように論定してよかろうかと思うのであります。
以上述べましたところによりましてはつきりいたしますことは、
米國はこの條約調印によ
つてその傳統的な孤立主義を清算した。すなわち第一次大戰並びに第二次大戰によ
つて明らかにされました、
米國と
西ヨーロツパ諸國との間には安全という点において不可分性があるということを確認したということが言えようと思うのであります。
從つて米國といたしまして、これによ
つた一九三九年当時、
中立法によ
つて覇束されておりましたころに比べまして、はるかに自由かつ強力な立場からこの條約を
米國の対外
國策の一翼として、また今度の太平洋
戰爭が勃発いたしました直後において締結されましたリオ條約
——西半球
共同防衞條約をもう
一つの一翼といたしまして、積極的に世界政策に乘り出さんとする基礎をここで固めたということが言えようかと思うのであります。そこでこの條約は、大体十四箇條から成立
つておるのでありまするが、ここに二、三注目すべき点を御報告申し上げておきたいと思います。
第一の点は、この條約が國際連合を無視する結果になるのではないかという疑念であるのでありまして、この点につきましては
米國におきましてもあるいは世界の各國におきましても、相当注意を引くに足る議論があるのであります。この條約を見てみますると、十四箇條のうち、六箇所におきまして國際連合の
関係に言及しているのであります。そのいずれをと
つてみましても、國際連合の唯一性ということをうた
つておるのでありまして、非常に注意を拂
つていると言えようかと思うのであります。しかしながらたとえばケルゼン教授のごときは、國際連合による普遍的な
安全保障体制にかわ
つて、地域的な
保障体制の
発展を見るということは、結局國際連合の破産を
意味するということを指摘しておりますのは、注目に値すると思うのであります。
第二の点は、締約國が武力攻撃を受けた場合の
援助の義務に関する諸問題でありまして、この点はこの條約がまだ
関係各國との間に
交渉中であ
つた際におきましても、また
米國の議会におきましても相当問題にな
つておるのであります。その問題の当在は第五條の規定にあるのでありまするが、この第五條の規定において、攻撃が行われた場合において、自動的に締結國がこれに対抗するために兵力を行使することになるかどうかという点にあ
つたのであります。この点に関しましては、二つの條約が私は比較対象の便宜を提供するものと思うのでありまするが、その第一は、今申しました一九四七年にリオデジヤネイロにおいて締結されました西半球
共同防衞條約の第三條、それからもう
一つの條約は昨年の三月に締結されましたブラツセルにおける
西ヨーロツパ同盟條約のうちの四條であります。そこでリオ條約の第三條におきましてはいかなる規定があるかと申しますと、米州の一國に武力攻撃が加えられた場合においては、すべての米州國への攻撃とみなす。よ
つて各締約國は攻撃に対抗するために相互に
援助し、協議機関にこれを諮り、そうして集團的に
措置を決定するということにな
つておるのであります。その
措置の中には、同條約の第八條に規定しておりまする兵力の行使ということが含まれておるのであります。しかしながらこの條約の第二十條を見ますると、兵力行使にはその
國家の同意を必要とするということに相な
つております。この相互に
援助し合う、あるいは攻撃に対抗するという場合における兵力の行使に関しましても、相該國がこれを承認しなければ兵力の行使が発動できないということに相な
つておるのであります。これと対蹠的な立場に立ちまするのが、今申しました昨年三月にできましたブラツセル條約であります。このブラツセル條約は英、佛及び
オランダ、ルクセンブルグ、
ベルギー、この五つの國によ
つて調印されておるのでありまするが、この第四條には、締約國が欧州において武力攻撃を受けた場合におきましては、他の締約國は全力をあげてすべての軍事的及びその他の
援助を行う、こういうような非常に直截簡明なる規定をなしておるのであります。
從つてこの二つの前例と比較いたしますると、今度の
北大西洋條約の第五條につきましては、
西ヨーロツパ側は
米國の自動的な参戰を規定するようなことを
希望してお
つたのでありまするが、
米國は議会においてかかる條項を存する條約に対しては非常な困難があるからということで、これを氣にいたしまして同意しなか
つたのであります。
從つて一時
交渉が相当な困難に陥
つたこともあ
つたのでありまするが、実際に條文の確定したところを見ますると、ブラツセル條約の自動的な規定よりは弱いのでありますが、しかし一般に予想されておりました以上に明瞭な字句を使
つておることは事実であると思われるのであります。すなわち第五條におきましては、欧州、北米
——これはアラスカを含む北米でありますが、北米における締約國に対する武力功撃の行われた場合は、それは締約國全部に対するものとみなされる。各締約國は各自自衞権を行使して、ただちに個別的及び共同して武力行使を含めた北大西洋地域の安全の回復維持のために必要な行動をと
つて、そうして被功撃國を
援助するということに相な
つたのであります。そこで問題になりまするのは、この條約の武力攻撃とは較であるかということであります。これに対しましては、第六條におきましてどういう攻撃がここにいわゆる武力攻撃であるかということを規定いたしておるのでありますが、その第一は、欧州または北米における締約國の領土、フランス領アルゼリア、第二が欧州における締約國の占領軍、第三が北回帰線以北の北大西洋地域、具体的に申し上げますと、西は
メキシコ湾から東はアフリカのスペイン領のサワラ砂漠を貫いた一線の北を指すのでありますが、これらの地域における締約國の諸島嶼、第四はこの地域における締約國の船舶または航空機に対する武力攻撃が、いわゆるここでいう武力攻撃であるという規定にな
つております。
從つてドイツあるいはオーストリア、あるいはトリエスト等、現在締約國の占領軍が駐在いたしております場合には、この占領軍に対する攻撃は、これをここにいわゆる武力攻撃とみなすということになるのみならず、それらの國の船とか飛行機、たとえばベルリンの空輸に從事いたしておりますところの
米英の輸送機等に対して攻撃が加えられた場合におきましても、これはここにいわゆる武力攻撃であると解せざるを得ないことにな
つておるのであります。なお三月十八日に
米國國
務長官アチソン氏は談話を発表いたしております。これによりますると、國内飾命も、また外部から指導ないし指示され、かつ本條約の包含しておるところの地域において発生した場合においては、この第六條ま発動があるという
見解を明白にいたしておるのであります。もつともはたしてこの國内革命なるものが、外部からの指導ないし指示によるものかどうかというふうな判断が、事実において非常にむずかしいということがすでに大いに
論議されておる次第ではありますが、しかしそういう
見解を單的に表明いたしておることは、注意の要があると思うのであります。それからこの條約におきまして、いわゆる欧州というものはいかなる地域を指すかという点でありますが、この点につきましては、たとえば先ほど申しましたリオ條約の第四條におきましては、條約の適用区域が経度、緯度を明白にあげまして、きわめて明確に規定されておるのに比べますと、欧州の範囲につきましては、かなりあいまいであるという
論議が行われておるような状況でございます。もちろんこの攻撃の
性格に関しましても、アチソン國
務長官は、全面的な攻撃と國境紛爭などとの間には一線を画せざるを得ない。たとえばパール・ハーバーに対する攻撃と、パネー号
事件に対する攻撃とは、これは明確に性質は違うというふうに
考えて、その対処策もまたおのずから異ならざるを得ない、かように言
つておるのでありますが、これらの点は、今後この條約の実際運用上の実例がだんだんたま
つて來ませんと、判断いたしかねる、かように
考えられるのであります。なお
援助の範囲に関しましても、ただいま申しましたように、各國の判断にまかされておりまするので、おのおの程度を異にするということが理論的には言い得ると思うのであります。
もう
一つ第三に注意すべき点と申しますのは、締約國は單独または協同して、自助と相互
援助によ
つて武力攻撃に対する個別的及び集團的抵抗力を維持強化するという規定が第三條に置かれておるのでありますが、これはただちに
米國の武器的な
援助がこの條約の裏にあるかどうかということをわれわれをして連想せしむるのであります。もちろん條約上は、
米國がその條約に調印いたしましても、ただちに締約國に対しまして武器の
援助を行うという義務を持
つているわけではないということは言えるのでありますが、しかしながら
米國の今世界の政治経済において占める物質的な、あるいは政治的な
地位にかんがみまして、この問題は非常に大きな問題とな
つておるのでありまして、むしろ実体的に申しますると、この條約よりは、それと裏表をなしておりまするところの、
米國の締約國に対する武器
援助の問題が非常に大きな問題であろうと思うのであります。
米國の
ヨーロツパに対する武器
援助に関しまして、ある種の計画が目下
米國当局において
考案中と傳えられておるのでありまして、國務次官補のアーネスト・グロス氏と陸軍省のライマン・レムニツツア氏などが中心になりまして、目下具体案を檢討中と報ぜられております。その金額がどのくらいであるかということでありますが、これはただいまのところ経費は発表されておりませんが、大体第一年度におきましては十億を越え、場合によ
つては二十億に達することもあるという観測が行われておりますし、また第二年以後におきましても、武器
援助が継続されるものと見られております。この点に関しましては、
米國の言論界におきましても相当の議論があるようであります。たとえば
國会方面におきましても、上院議員のタフト氏であるとか、ブリツジエス氏あるいはホーエラー氏のごときは、この條約そのものについては別途議論してもいいが、その裏に当然予想されるところの
ヨーロツパ武器
援助というものの全貌を見ることなくして、とことんまでこの條約を檢討するわけに行かない、またそういう義務が非常に大きなスケールにおいて付着しておるならば、この條約そのものについても、必ずしもただちに賛成を表しがたいという
意見を発表して、注目を引いておるのであります。
第四の注目点は、加盟國の範囲についてでありまして、この條約の第一條におきましては、できるだけ加入を促進する趣旨で規定が置かれておるのであります。この点に関しましても、
米國におきましては二、三の異論があるのであります。すなわちできる限り包括的に多数の國を入れたらよかろうという議論が大体正統論なのでありまして、冒頭に申し上げましたように、その結果十二箇國の
政府がこれに加入することによ
つて調印を了したような次第でありますが、他面
米國としては、あまり
簡單に方々に手を廣げるというふうに
國策を解釈するわけには行かない。やはり
米國の傳統政策というものにも相当の考慮を拂
つて、加入を無制限に拡張するようなことは
考えなければいけないという議論もあるのであります。また第三の議論といたしましては、ジヨン・フオスター・ドユレス氏のごとき、この人は共和党の
外交顧問として重きをなしている人でありますが、先月のクリーブランドにおける演説におきまして、
米國がスカンジナビア諸國に対して大
規模の軍事
援助を送るというようなことがあるならば、
戰爭になる危險が非常に濃くな
つて來る。ソ連邦は、自分の本國領に対して直接かつ深刻なる脅威が加えられているというふうに信ぜざるを得ないような立場に追いやられるならば、これは
戰爭になる公算があるということを論じて、注目を引いているのであります。
第五の注意点といたしましては、この條約と既存の條約との
関係であります。この條約の第八條におきまして、本條約は既存の協定や條約とは何ら抵触するところなしと規定しておるのでありますが、これはおそらく一九四二年の英國と
ソビエトとの間に結ばれております同盟及び相互
援助條約、また一九四四年のフランスと
ソビエトとの間の同盟及び相互
援助條約などに対する考慮であると思うのでありますが、これらの点につきましては、
ソビエト側はこの條約の締結される前後を通じまして、これら二つの條約と抵触するということをあげまして、論難を加えているという状況にあるのであります。以上が、ごく概略でありますが、この條約を研究いたします上において注目すべき諸点であります。
しからばこの條約に対しまして、世界各國がどういう動きを
示したか、また現に
示しつつあるかということを申し上げたいと思います。西欧諸國といたしましては、
米國がこういう体制に新らたに
参加したという事実に対して、ま
つたく大きな
意義を認めておるのでありまして、
米國の歴史的なコミツトメントは、平和に対する大きな担保であるというふうに見ておるのであります。現在東西両ブロツクの軍事力は、その一般兵力についてみますと、東
ヨーロツパ側五百万以上に対して、
西ヨーロツパ側は本條約加盟國だけを見ましても、三百七十万前後といはれておりますが、この劣勢は
米國から今後給與される軍事的
援助によりまして、挽回できるものと西欧諸國は期待しておるかに見えるのであります。その結果といたしまして、当然二つの陣営の間に対立を激化するであろうということだけは、言えようと思うのであります。他面ソ連邦をして戰術の轉換をある程度
考えざるを得ない
状態に追いやることは、きわめて
考え得るところでありまして、かえ
つてこれによ
つて平和的に
ソビエトの間の
交渉が、妥結に導かれ得るという
希望を抱く向きもあるのであります。西欧諸國が
米國の本体制に対する
参加を、当初から
希望してやまなか
つたことは、先ほど申し上げましたブラツセルの
西ヨーロツパ同盟條約が五箇國の間に締結されました当時からの
米國に対する強い要望に照して明らかでありまして、その当然の展開といたしまして、今回
北大西洋同盟條約の締結が実現を見たということが言えようと思うのであります。
從つてこのブラツセル條約の基本的な
氣持は、やはり今度の
北大西洋條約の中にも相当盛り込まれておるというふうに
考えられようかと思うのであります。ブラツセル條約の予定しておりまする軍事機構であるとか、あるいは
共同防衞本制に関しましては、実際上は今度の條約に核心を吸收されたという観測が行われておるのでありまして、理論上は両者は並立し得る建前にあるのでありますが、実際は今度の新しい條約の中に、この
共同防衞体制であるとか、軍事問題等が吸收される結果になるであろうという観測が行われております。なお調印に至りまするまで最も波瀾を見せましたのは、北欧諸國の
参加問題でありまして、
米國は
從來積極的に北欧、ことにスカンジナビア諸國の
参加に働きかけて参
つたといわれていますが、
米國が
参加國以外には軍事
援助を提供しないという
態度を明らかにするに至りましたので、まずノールウエーは北
ヨーロツパ三國間のみの、すなわちノールウエー、デンマーク、スエーデン、この三國間のみの同盟條約案を放棄してこの新しい條約に
参加し、またデンマーク及びアイスランドも平時においては軍事基地を要求しないとの
保障を
米國から得ることができたので、ノールエーに同調するに至
つたのであります。
二大陣営間の國際的対立が激化するにつれまして、スエーデン及びデンマークもますます苦境に追いこまれ純
中立的立場の維持は次第に困難の度を加えるだろうという観測が行われております。ポルトガル及びスペインの
参加問題に関しましても、相当の話題が提供されました。
米國はポルトガルの戰略的價値にかんがみまして、ポルトガルの
参加を重要視してお
つたのでありまするが、この國は一九四〇年七月、スペインとの間に相互
援助條約を結んでおりまして、これと
北大西洋同盟條約との対立を顧慮いたしまして、でき得るならばスペインの
参加を
希望したのでありますが、結局スペインとの間にある種の了解が成立したとおぼしく、またデンマーク、アイスランドの場合と同じく、
米國から平時にはアゾーレス群島の軍事基地を要求しないというギヤランテイーを得たので、遂に
参加するに至
つたのであります。スペインの
参加については、
米國はこれを支持する傾向を
示してお
つたのでありますが、その前提といたしまして、まず一九四六年の國際連合のスペインに関する決議が再檢討されるということが先決條件とな
つておるのであります。すなわちこの決議におきましては、國際連合の全加盟國はスペインに駐存する大公使を召還すべしという決議にな
つていたのでありまして、スペインの
希望にもかかわらず、この問題がまず解決されなければ、スペインをこの同盟條約に
参加させることはできないという立場が強くとられましたために、フランコの
希望は今日まで実現を見ない状況にあるのであります。しかしながら同様に独裁的な体制をと
つておりまするポルトガルを加盟せしめた
関係もあり、スペインの加盟につきましても、アチソン長官はその加盟には実質的な障害はないという言明をいたしておる事実にかんがみまして、
米國初め
民主主義諸國の動向と今後の政策を察知するに足るのであります。
北大西洋同盟條約のソ連邦に與えた
影響につきましては、本條約の締結が発表されまするやいなや、ソ連邦といたしましては、一月二十九日の外務省声明によ
つてこれに非難を加え、越えて三月三十一日に
参加七箇國に対しまして、正式の抗議を行
つたのであります。またノールウエーに対しましては、不侵略條約の締結を提案し、トルコに対しましてもある種の警告を発し、あるいはフインランド及びスエーデンに対し、論難を加える等の
措置をと
つて來たのであります。過般ソ連邦におきまして、
政府とソ連邦共生党との間に高級人事の交流があ
つたのであります。この
眞相の把握ははなはだむずかしいのでありますが、一説によりますると、
外務大臣であるとか、あるいは
貿易大臣、國防
大臣、
國家計画
委員会議長とい
つたような頭株の更迭によりまして、ソ連邦といたしましては、この條約に対する政治体制をますます整備しようという動きを
示しているのだというのであります。これも相当の理由があるように思われるのであります。ソ連邦といたしましては、今後におきましても、自國の國防力を充実させようと努力することは明らかであろうと思うのでありますが、対外的には東
ヨーロツパ諸國、北朝鮮及び自國の
勢力圏内にある隣接諸國に対する把握力を一段と強化して、あらゆる事態に備えるという
態勢をとりつつあるかに見えるのであります。また各國の共産党も今度の條約に関しまして、もしこの結果
戰爭の発生した場合には、ソ連とともに戰う旨を声明して、世界を驚かしたのであります。ソ連を主軸とする國際的提携の
態勢をこれによ
つてますます鮮明化して、資本主義陣営に対する警告を與えるという
態度をと
つたわけであります。東亜に関しましても、この
影響は免かれないものと見られるわけであります。
なおこの條約に関連いたしまして、地中海にも同じような條約をつくるべきであるという議論が行われたのであります。すなわちベビン・イギリス
外務大臣はこの條約の締結に関連いたしまして、最も大きな形で集團的
安全保障の組織が開始されたことを
意味するが、地中海諸國、ことにギリシヤからイランに及ぶ地域にある諸國の独立と領土の維持保全については特に関心を拂うべきものであ
つて、
從來その独立と領土保全を支持して來たわれわれの行動は、今後の政策を表わすものであると述べ、少くとも英國の地中海及び中東地域に対する関心をこれによ
つて示したわけであります。英佛は一九三九年、トルコとの間に相互
援助條約を締結しておりますし、
米國もまたすでに
トルーマン主義によりまして、ギリシヤ、トルコ両國の独立を
保障している以上、今後
北大西洋同盟條約加盟國に対して、東地中海條約に関する何らかの宣言程度の
措置及び
援助の強化は期待されないではありませんが、すでにイタリアは
北大西洋條約に加盟しておりますし、また
將來スペインも加盟を許されると予想されます次第でありますから、地中海
防衞の
態勢はすでにできあが
つているとい
つても過言ではないのであります。これらの國々を含む地中海條約を別に締結するとは、今のところ認められないのであります。またアラブ地域を含む東地中海條約は、スペイン問題の解決を見るまではその
可能性に乏しいというふうに観測されるのであります。
太平洋同盟條約案という
お話が、先ほど來この
委員会においてしばしばあ
つた次第でありますが、今度の同盟條約締結に刺激されまして、東南アジア諸國における共産党の拡大に対しまして、英連邦であるとか、フランス、
オランダの
関係諸國が何らかの具体施策を講ずる必要があると認めることは事実でありまして、ことに英連邦
関係諸國がこの問題についてきわめて熱心であることは、昨年十月の英帝
國会議及び本年に入りまして、去る二月二十八日ニユーデリーにおいて開催される予定であ
つた東南アジア四自治領
代表会議——もつともこの
会議はビルマの内乱によ
つて中止のやむなきに至
つたのでありますが、三月八日には、イギリス
政府は諸高官を特に派遣しているのであります。さらに四月二十三日から十日間にわたりまして、ロンドンにおいて英帝
國会議を開催する予定であること等、一連の動きがそこに現われているのでありまして、これはいずれも英連邦諸國間の結束による反共陣営の確立を、企図するものであると見られているわけであります。しかし今のところイギリスとしては、英連邦以外の諸國と
太平洋條約のごときものを締結する意図から、かかる会合を持
つているのではないものと思われます。これは主として反共陣営の確立を企図するという点に重点があると思われます。これをも
つてただちに
太平洋同盟案の提唱というふうに結びつけるのは、必ずしも正しい見方ではないと思われます。すなわち特にインドネシア、佛印等における政治的不安にかんがみまして、イギリスが
太平洋條約の締結に関して、かりにその必要ありと認めているといたしましても、まだかなり消極的であると見られております。
また
米國はこの問題に関しまして、去る三月二十三日アチソン國
務長官が、
米國は今
太平洋條約締結について討議することに特に関心を持
つていない、この問題は公式に考慮される段階にまだ達していないという趣旨をはつきり述べている点から見ましても、今急にこの問題が具体的なところまで進んで行くというふうには観測できないのであります。この間にあ
つて、
オーストラリアその他若干の國々が、かなりこの
太平洋同盟條約案なるものに対して積極的な意図を持
つているということだけは注目に値しようかと思うのであります。
以上をもちまして、この條約の主要なる点と、これをめぐる國際
関係に関する御報告を終りたいと思います。