○説明員(
内野仙一郎君)
社会保障を実施いたし、又実施いたさんとしておりまする國は十指に余るのでありますが、
民主主義國の殆ど全部がこれを採用し、又は採用せんとしているのでございます。この國々につきまして全部を全部細かく申上げるということは時間も許しませんので、若干の主要國を一覧表的に申上げてみたいと思つております。申上げまする順序は必ずしも現在世界の注目を浴びている國といつたところから始めませんので、むしろ歴史的な順序というところを主にいたしまして申上げますると、先ず第一は
ニユージーランド、
イギリス自治領でございますが、この國におきましては、
社会保障とは社会によつてフアイナンスせられるべき社会の義務であるという定義をば、理想に近い体系で全世界に先駈けて法制化し、実施しているのでございます。私の研究いたしましたところでは、文字通りの
社会保障の基本的な型を示しているのがこの國であると思われます。
イギリスの
ビバリツヂ・プランというものに、非常に深い示唆を與えたということが謳われておりますのも、極めて理由があることであると思われたのでございます。有名な
ビバリツヂ報告の最初の書出しのところに、これは
ニユージーランドの
社会保障を参考にした云々という文字が見えているように聞いております。本國におきましても非常に自慢していると申しますか、自分の國には立派な
社会保障があるということをは、私も直接
ニユージーランドの渉外館に勤めておられまするミスター・
チヤリスというお方から伺つたことがあります。私がこの
チヤリスさんにお目に掛つたのは一昨年の暮でございましたが、その当時はまだ
社会保障というものが、外國におきましてどのような姿で実施されておるかということが、余り審らかになつておりませんものでしたから、あちらこちらで聞きましたところによりますると、
ニユージーランドに非常に完成した
社会保障があるということでありましたので、私お伺いしたわけでございました。
チヤリスさんも立派なものができておるのを見たいという人が訪ねて來たということに、非常に好意を持たれたのかいたしまして、本國へ無線電信で
社会保障省の方から資料を飛行便で取寄せてくれたのでございます。從いまして
ニユージーランドの
社会保障の内容を比較的詳細に御紹介しましたのは、多分私が最初ではないかと思つております。但しこの
ニユージーランドの
社会保障と申しまするものは、前にもお話しましたように、
社会扶助の方を主眼といたしまして組立てられた
社会保障でありまするために、これを我が日本におきまして採用するという段になりますると、比較的完成いたしました
社会保險の数々を持つておりまする我が國の場合には、どの程度参考になるかということは相当疑問であると思うのでございます。併し非常に完成した
社会保障があるということは申上げられると思います。
次に
デンマークでございますが、これは大体我が國の四國程度の小さな國でありまするが、
社会保障に関しまする限り、相当長い歴史を持つております。併しながらこの
デンマークの
社会保障は、
社会保障という理念が
國際労働機関、或いはその他で問題になり始め、大体
社会保障というものがどういうものであるかということが定義付けられまする前に着手された
社会保障でありまするために、現在の
社会保障の理念からいたしますると、少し無理なところがあるのではないかと思われまする。その点は任意制度の上に強制色をも織り込んだ準任意制の基礎の上に組立てられておるということであります。それは全國に対して
健康條件と
資産條件とによる包括除外ということをば謳つたのであります。
デンマークのやはり渉外館に私お伺いいたしまして、そこのレフラーさんという事務官からお話を伺いましたところが、近く
デンマークにおいても、新しい型の
社会保障に切換える準備を進めておるということでございますから、近い將來に基本的な改正が行なわれ、本当の意味の完全な
社会保障ができるのではないかと思つております。
デンマークにつきましては後で些か細かく御説明申上げます。
次に
イギリスにつきましては、前に部分的或いはピツク、アツプしたものではありましたが、一應話をしてございますので、特に申上げませんけれども、大体が
ビバリツヂ・プランによりまする練り抜かれた構成が見られるのでありまして、我が國のように
社会保險を主にして、これから
社会保障を組立てて行くといつた場合には、最も参考になる制度ではないかと思つております。
次に
アメリカ合衆國は
社会保障を一九三八年から実施しておるのでありまするが、昨日も申上げましたように、この
社会保障は全國民を直接の対象といたしました
社会保險を主にいたしておりませんで、労働者、
働らく人たちの
社会保險を主にいたしまして、それにその他の
社会扶助、或いは
社会サーヴイスといつたようなものを、困つておる人たちに支給しようといたしまする点で、
イギリス、
ニユージーランドに比べますると、些か未完成なものではないかと思われるのでありまするが、それは制度の上からだけ眺めてさように思われるので、実際問題といたしましては、現在の
アメリカのような好條件に惠まれておる國におきましては、十分効果を挙げておる立派な
社会保障だとも言えると思つております。
次にソ連邦でありまするが、ソ連邦は御存じのように、
社会主義國の
社会保障でありまする関係からして、
働らく人たちに対する給付は、他の諸外國に比べますると、非常に至れり盡せりというようなものでございます。これも後の各説項におきましてお話し申上げるつもりでおりまするが、ソ連邦の一九三三年の憲法の中に明かに謳つてあるのでありまして、
文字そのものは私忘れましたけれども、大体の趣旨が國民の健康その他社会不安の原因となるものに対しては、
社会保險を以て保護せられるのであるということが、憲法の中に明かに謳つてあるのでございまして、この点は我が國の憲法二十五條によりまする
社会保障云々の文字よりは、はつきりいたしておるのでございます。
次にフランスは一九四六年七月一日に大体
社会保障に該当する
國民保險と申す法律は、議会の協賛を経ておるのでありまして、ただその実施時期は、戰前であるところの一九三八年の生産に比べて、一二五%に達するまで、実施を見合せようということになつておるのでありまするが、法律の趣旨自身は、國民によつて可とせられておるのでありまして、近き將來におきまして、
社会保障が実施せられるであろうと想像されます。
又戰禍から免れましたスエーデンは、從來の
任意社会保險を切り替えまして、一九四六年六月二十九日の
一般強制労廃保險法と、いま一つは一九四六年十二月十八日の、
國民健康保障法と申す二つの法律が議会を通つておるのでありまするが、ただこれが実施は一九五〇年から実施しようといたしておるのであります。その他オランダ、
ベルギーあたりも大体これにならいまして、たとえ今回の戰爭におきまして非常な打撃を受け、こういつた
社会保險から
社会保障への進展も立ち遅れたとは申しながら、いずれの國も
社会保障への情熱を以て進行しておるのであります。
只今申上げましたのが、世界各國の
社会保障につきまして、私が観察いたしました程度のことをごく大まかに申上げたのでありますが、それではこれらの國々における
社会保障制度の面という点から総括して見たら、どんな工合になるだろうかと考えまして、一應総括的に申上げて見ますと、第一番に被包括者、つまり
社会保障に入つて來る人間はどういう者であるかと申しますと、各國とも、大体老幼男女一切の國民を対象としておりまして、國によつては資産の條件とか、
健康條件とか、或いは又一定期間その國内に定住していたのでなければならないというような條件はつけておるのでありますが、大体一般國民を全部含めるというのが原則になつております。
次に給付はどんなことかと申しますと、これは現在までありました各種の
社会保險が、
社会危險であると認めて支給しておりまする
保險給付と、それに
社会扶助の領域に入りまするいろいろの給付、これを合せて支給しておるのであります。これはこの二つの要素である
社会保險の給付と、
社会扶助の給付が一緒になつたものが、
社会保障でありまする関係から当然のことであります。そうして
金銭給付と
現物給付、この
現物給付は主として
医療サーヴイスでございますが、中には主婦が病氣で寢ている如き場合には、その家事の手傳いをさせるために、無料で派出婦を派遣するというような
サーヴイスまで含んでおりまするが、かような
現物給付と
金銭給付は所管を別にいたしました二つの省がこれを取扱つているというのが大体の原則であります。それで
金銭給付の方は、最低生活の保障という点に基準がおいてあります。一方
現物給付、即ち
医療サーヴイスの方は、医療國営の形でこれを実施している國が多いし、又
將來医療國営型ででこれを実施しようとしている國々が多いのであります。又併しこの各國とも
医療サーヴイスの面におきましては、お医者樣が相当強い反対をいたしておりますることからいたしまして、その診療報酬の問題につきましては、各國政府それぞれ悩んでいるというのが、現在の事情のように思われます。次に財源はどういうことかと申しますると、大体
フラツト・レイト式、これは日本語に訳しますと、基同均一式ということになりますが、この基同均一式掛金によつている場合が多うございます。併し中には又所得税式によつている國もございまして、必ずしも軌を一にしておりませんが、何らかの樣式で國民の全部、又は一部から掛金を徴收しているのでございます。一方事業主から掛金を取る、取らないの問題につきましては、事業主に対しましては、
社会保險におけるような意味から、掛金をさせているという例はむしろ少い方でございます。尚、國だとか
地方自治團体からの補助金は、各國とも多額に支出されております。
最後に施行はどんな工合になつているか、これは國家が省であるとか、或いは局であるとか、それの
地方下部組織を新らしく設けまして事業を運営している場合と、一面又
デンマークにおけるように、
地域組合、或いは
職域組合を中心にして、この事業を始めているという國もございます。以上が各國の一
覽表的観察とそれから制度内容を総括して観察して申上げたのでございます。
以下各國をいささか詳しく申上げたいと思うのであります。最初に
ニユージーランドを申上げたいと思つておりまするが、これは一九三八年九月十四日の
総合的社会立法、即ち一九三八年の
ニユージーランド社会保障法、これによりまして運営しているのでありまするが、この内容は
國際労働機関の常務理事でありましたフエランという方が発表せられておりまする「
國際労働機関及びそれの対策」という報告書によりますると、次のように言つております。全國民に対して老齡、癈疾、疾病、失業及び一家の稼ぎ手を失つているということに帰因して生活に困つているというような場合に、
最低生活標準を維持し得る給付を支給しようとする全世界で最初の法律であると、この
ニユージーランドの法律を批評しておるのでありまするが、この意味は、今までその他の國々におきましても実際上の
社会保障はあつたかも知れません。例えばソ連邦とか
デンマークなどでは、実際上の
社会保障はあつたかも知れませんが、法律で
社会保障とし、又その内容を
近代的社会保障のセンスから取上げたものは、この
ニユージーランドが最初であるという意味でございます。この
イギリスの
社会保障の前例となつた
ニユージーランドの
社会保障がどうしてできたかということにつきましては、私かねがね深く掘下げて研究したいと思つておるのでありまするが、まだそこまでは手が届きませんが、大体
ニユージーランドにおきまする
社会保障の体系というようなものを、我が國におきます
社会事業家として有名な
生江孝之先生につきまして、いろいろその
実地視察談を聞かせて頂きましたのでございますが、これによりますると、ニユードーランドという國は、御存じのように、氣候温暖で、人口は適当な割合で分布されており、生活も非常に樂である、戰爭中におきまする食物のカロリーその他も、諸外國を引離して高いカロリーを保つている、又土着の人間である
マオリ種族というのがおりますが、これなどに対する取扱も極めて公平なものでありまして、マオリ族の中から代議士の方とか、或は又厚生大臣なども出ておるそうであります。これを以てしても
ニユージーランドが如何に人種というようなものに対する差別というものを、外の國に較べてより以上撤廃しておるかということがわかる訳でございまするが、而も
ニユージーランドに住んでおります
イギリス系の方々は、非常に家柄の良い方々から成立つておるそうで、
ニユージーランドに行つた場合には、むしろ祖先の話をしたらその土地の人は喜んでくれるというふうだそうであります。そういうようなことからいたしましてか、
社会政策が非常に発達いたしておるのでありまして、例えばあちこちの國で眺められまするところの労働者の住宅の如きも、長屋建のものは殆んどないということであります。その他各種の
社会事業、或いは
社会扶助というものが、元來非常に発達しておつたのでございまして、今日これからお話しようとする
社会保障のいろいろな給付というものは、今まですでに長いこと、この國において行われておつたのでありまして、一九三八年の
社会保障法ができて初めて実施されたという給付ではないのであります。むしろ新らしくできた
社会保障法は、今まであつたすべての
社会政策が行つておりまして給付を、ただ法制化したに過ぎないようなものであるという印象を受けたのでございます。併しやはりこの國におきましても、
イギリスの
社会保障ができまするときに、相当國民の間、或いは
利害関係者の間にいろいろな物議を釀したと同じように、やはりこの國におきましても、
社会保障ができまするときには、相当な反対があつたかのようであります。その当時の
労働関係でありました
サーページという方が、大変に努力してこの法律を樹立したということが傳えられております。かような背景があつたればこそ、今日のこういつた完全な姿の
社会保障というものも組立てられたのではないかと考えております。この國の
社会保障を一口に申上げますと、大体次のようなことになります。
社会保障とは社会が賄うべき
社会的義務である。こういう定義の上に
社会保障の給付は人が生れたときから支給して、掛金はその人が大人になつたときから支拂わせるという根本原則に從いまして、全國民に対しまして老齢、癈疾、遺族、失業、家族手当、それから疾病の諸危險の給付を支給しまして、これが費用といたしまして、全國民が十六歳で登録されて成年となつたときに掛金の義務を負うということになつております。そうして掛金の高は收入の約五%を醵出させる仕組みになつております。
給付内容は概して高い基準に置かれておりまする
ミンステスト、
ミンステストと申しますのは資産調査と、日本語では訳しておりますが、
ミンステストによりまして、或いは又給付によつてはこの
ミンステストを行わないで困窮の度合に應じて差等をつけつつ給付を支給しようというふうになつておるのであります。只今極く大まかに述べましたが、少しく詳細に亙つて申上げますると次のようなことになります。
第一番に事業の運営はどういうふうになつておるかと申しますると、一九三九年四月一日に創設されました
社会保障省が
金銭給付を取扱います。一方
現物給付は保健省というのが取扱います。それでこの
社会保障省は
社会保障委員会というものによつてその運営を助けられておりまして、この委員会は大体
社会保障大臣の監督の下にありまして、委員は
社会保障省の首脳官吏及び三人の公務員法の下にある官吏として指名された者から成つておりまして、全國に十九人存在しております。これが事業の運営に当つております。
一方
金銭給付にはどういうものがあるかと申しますと、
老衰給付、これは
老齢給付と違うのでございます。
老衰給付、これはすべての國民が六十五に達しましたときには
ミンステストなしに年に十ポンドを支給しようというのでございます。それから
老齢給付、それから
廃疾給付、
寡婦給付、孤兒給付、
家族給付、
鉱夫給付、これは鉱山にありまする鉱夫に対する給付であります。それから
疾病給付、これは勿論手当金だけでございます。
現物給付の方は後で申上げます。
失業給付、それから
緊急給付、エマジエンシー、緊急なことに対する給付、それから
マオリ戰爭というものが大分以前におつたのでありまするが、この
マオリ戰爭に從軍した者に対する給付、
マオリ戰爭給付という以上の
金銭給付があります。この金額或いは
支給條件等細かく申上げておりますると、他の國々の事柄が申上げられませんので、簡單に素通りいたしますが、一方
健康給付、
現物給付の
健康給付はどういうふうになつておるかと申しますると、第一番に
國立精神病院サービス、
分娩給付、病院治療、一般医師による
健康サービス、專門医の
サービス、全時間嘱医の
サービス、医藥品の給付、
エツキス光線の給付、
マツサージ給付、
地方看護婦の給付、最後に
家事手傳人派出の
サービス、これは先程申上げました主婦が病氣で寢ておつて子供が沢山あるという家庭に対しましては、無料で派出婦を派遣しようという仕組でございます。
次に財源はどういうことになつておるかと申しますると、全國民すべての俸給、賃金及びその他の收入の各ポンド毎につきまして、一シルリング六ペンスを醵出せしめておるのでございます。大体この掛金の集め方は、所得税の掛金を集めるのと同じ方法でやられると言われておりまして、この掛金は
社会保障基金という特別会計になつております。先程も申上げましたように、十六歳即ち成年に達した全國民は登録をいたしまして、この
社会保障掛金の義務を負うことになつておりまして、この
社会保障掛金の義務というのは税金に準ずるごとき嚴格な取立てを受けるようで、例えばこの掛金を完納しておらないと國外に旅行する旅行免状も下付されない、船に乘つて行く場合、或いは飛行機に乘つて行くような場合には、國外の旅行は許可されないというふうになつております。
ニユージーランドにおきまする
社会保障につきましては、私が書きました各國の
社会保障設計と申しまする本の大体三分の一を費やしまして詳細に書いてございますので、この方で御覧願いたいと思つております。
次に
デンマークでございますが、この
デンマークにおきまする
社会保障は、先程も申上げましたように、その発生が極めて古いのでありまして、一九三三年の頃から実施しております、この國は
社会保障は次のような四つの制度から成立つております。第一に
國民保險、この
國民保險は
疾病保險と
癈疾保險と老齢年金というものから成立つております。それから
災害保險、それから職業紹介及び
失業保險、それから最後に
社会扶助というこの四つの制度からこの國の
社会保障は成立つておりまするが、諸外國特に
イギリス或いは
ニユージーランドに比べまして、この國の制度には、全然
違つた基礎の上に組立てられてある点は、
地域組合を主にいたしました
組合組織を以てこの
社会保障が運営されておるということであります。これは
市町村單位の
地域組合を設けまして、これを所管大臣が認可して
公認組合となるのでございます。この
公認組合の組合員は、その地域に住んでおるすべての人と言うことになつておりまするが、資産関係からこれを二つの組合員に分けてあるのでありまして、
賛助組合員と
正規組合員との二つに分れておるのであります。
正規組合員と申しまするのは、掛金を拂つて決めてありまする一切の給付を全部が全部受けられるのでありまするが、一方賛助会員と申しまする方は、一定の資産以上を所持しておりまするいわゆるお金持でありまして、これらの人々は掛金だけは取られるけれども、給付は一時停止されておるという形になりまして、その金持が万一何かの事情で一定の資産限度以下に落ちた場合に、初めて給付の請求権が発生するというような行き方になつております点に特徴があると思われるのでございます。話が前後いたしましたが、この
デンマークに比較的完成いたしました姿の
社会保障が一九三三年当時から出來上つておりましたのも、やはり
ニユージーランドにおきまするような
社会的背景が
社会保障を打立てるべく完成しておつたと言えるのでございまして、最近
ニユージーランドの渉外館に行きまして、最近の写眞など見せて貰いますと、如何にも
社会事業の
デンマーク、ソシアル・
デンマークという言葉を如実に感ずるようないろいろな新らしい写眞を見せて貰いました。それによりますと、働く人たちが何千台という自轉車に乘りまして郊外を
厚生事業の一つとして、
保健施設として自轉車旅行をしておるような絵もありました。又一年に約二十日間ぐらいの有給旅行を許されまして、風光明媚な地に数多くのヒユツテが建つておりまして、ここで働く人たちが
保健施設を味わうことができるというような写眞を見せて貰いました。又そのときの話にも、我が
デンマークにおいてはお百姓さんというものを非常に尊敬しておる。
総理大臣にも曾てお百姓さんであつた人がなつた例もある。お百姓さんは決して嘘を言わないから我々わ尊敬するのだと言つておられましたが、嘘を言わないお百姓さんが
総理大臣になつたのでありますから、恐らく嘘は言わなかつただろうと思うのでございますが、又御存じのやうに
協同組合が、世界一の
協同組合組織を持つたものが
デンマークであるということはこれはもう周知の事実でありまして、
協同組合の観念は延いては
社会保障組合の観念にも及ぶわけでありまして、こういうよき背景がありましたればこそ、
社会保障も一九三三年の昔から樹立されておつたと思われるのでございます。給付の内容につきましては特別に申上げる程の変つたものはないように思われます。大体
社会保險が予定しております諸給付と、
社会扶助が予定しております諸給付が支給されております。
次に
イギリスにつきましては、断片的でありまするが、今まですでにお話がありまするので省略いたします。
次に
アメリカ合衆國の
社会保障について申上げますると、大体
アメリカの
社会保障は、二つの
社会保險と三つの
社会扶助と、更に又三つの
保健福利サービスからなつております。
社会保險は
失業保險と老齢及び
遺族保險の二つ、又
社会扶助は
老齢扶助、盲人扶助、それから扶養せらるべき兒童への扶助、この三つ、又保健及び
福利サービスは
兒童福利サービス、不具兒童への
サービス、
母子保健サービス、この三つの
サービス、以上八つのプログラムから
アメリカの
社会保障は成立つておるのでありまして、私が今かように申上げますると、すぐお感じになると思うのでありまするが、世界各國にありまするような
健康保險というものがこの國の
社会保障には欠けておるのであります。一昨々年でありましたか、やはり
健康保險に類似しました制度が案となりまして議会に出たことがあつたのでありまするが、これは
リンケル國民保健計画法というのが出たのでありましたが、一九四六年十一月十九日に第七十九議会に提出されたのでありましたが、これは議会を通過しませんでした。從つて現在も
健康保險、或いは諸外國におきまする
社会保障で行う
健康保險サービスというものは現在
アメリカにはないのでございます。御存知のように
健康保險と申しまするものが
社会保險の嚆矢として前世紀末にドイツに端を発しまして、諸外國において次々と採用せられ、日本のごときも長い二十年の歴史を持つておるのでありまして、
健康保險というものが
社会保險、從つてそれの発達した
社会保障におきまして極めて重大な地位を持つておるということは論を待たんのでありまするが、これが
アメリカにおきまして末だ欠けておるというのは、誠に遺憾なことでおりまするが、これも一面から見ますというと、完成した
社会保障を持つておるということは角度を換えて見ますと、余り自慢にならない話だとも言えるのであります。結局
社会保險とか
社会保障と申しますのは、社会的欠陷を補うための制度なのでありまするから、社会的欠陷のない社会であるならばこういうものは不必要なのでありまして、本來
社会政策とか、
社会保險とか、
社会保障というものでなくと、而もうまく行つておるのには及ばないわけなのでありますから、
社会保障の完成必ずしも自慢にはならんわけでございますから、
アメリカのような比較的社会不安の少ない國におきましては、現在ありまする程度の
社会保障でも十分ではないかとも考えられます。
次にソ連邦の
社会保障につきましてお話いたします。先程も申上げましたように社会主義を実践しております國によつて行なわれる
社会保障でありまするから、諸外國に比べまして、即ち資本主義の下に
社会政策を行う場合に比較いたしますと、極めて有利な條件の下にこれを組立ることができたのであります。從つて先程申上げましたように至れり盡せりの給付が支給されております。大体ソ連邦におきましては、
社会保險と申しまするもの、即ち
社会保障の前身であるところの
社会保險と申しまするものを極めて重大に考えまして、一九一七年に労農政権が樹立いたされましたその日から僅か五日しか経たない五日の後に政府は
社会保險に関する五大要綱宣言というものを発しておるのであります。これは第一には
社会保險を一切の被傭者及び都市村落の貧民階級に適用しなければならない。第二に保險を労務不能の一切の場合についてこれを認めなければならない。第三に保險料は全部傭主側において負担せしめ、被保險者は掛金をしないようにしなければならない。第四に一時的労務不能或いは失業に際しては賃金報酬の全額が支給せられるべきである。諸外國におきまするように、賃金の五〇%を支給するとか、或いは六〇%を支給するとか、我が國の場合は六〇%でありまするが、かようなことではなくて全額を丸々支給するのでなければならない。第五に保險期間の更正については被保險者の完全な自治性を認めなければならないという五大要綱の発表いたしまして、この
社会保險によりまして、労農政権の裏付とした感があるのであります。
以上のようなわけでありまするので、この國の
社会保險が各種の
社会保險部門を統一した一本立ての制度である。それから又被保險者の包括範囲が極めと開放的で廣汎である。
保險給付の内容が被保險者の十分満足するに足るものであること。被保險者が無醵出であるということ。こういう制度となつて現われたということも当然であると思われるのであります。ソ連邦におきまする
社会保險の予算は、その当時の他の諸外國に比べますると非常に厖大なものでありまして、聊か古い資料でありまするが、一九三七年の当時の收支予算が大体六十億ルーブル程度になつておりました。又ソ連邦におきまする医療制度も諸外國と極めてかけ離れておりまして、医療國営と申しまするものが文字通りの形で表現されておりますると、又その
給付内容も当時の
社会保障になりまする以前の
イギリスの國民
健康保險制度の医療内容に比べますると、非常な相違があつたということを
イギリスの專門家が言つております。例えば相当辺鄙な所で病氣を患つたという場合には飛行機に被保險者を乘せまして、相当の病院その他に輸送するというようなことまでやつておりましたし、又夜間サナトリウムという特別のものを設けまして、工場におきまして仕事が済んで帰る場合には自宅に帰らないで、直接夜間サナトリウムに入ることになつておりまして、そこで療養を受けて翌日又工場へそこから通うというような制度も設けてあります。
次にフランスはどういうふうになつておるかと申しますると、フランスにおきましては終戰直後からすでに
社会保障へ切換えなければならないという運動が起つておつたそうでありまして、すでに一九四一年の法律によりますると、從前の雇傭如何に拘わらず六十五歳に達した賃金取得者に対しては、年に三千六百フランの手当金が支給されるというふうに改正せられておりまして、その当時からすでに
社会保障への動きが見られたのであります。これが一九四六年七月一日の全國民を対象にした強制
社会保險、即ち内容的には
社会保障であるところの
國民保險が議会を通過しておるのでありまして、ただ実施の時期が生産能力が一二五%になつた場合に初めて実施するということになつております。尚、一九四六年の現在では生産の高は一九三八年のまだ七〇%にしか当つておらなかつたそうでありますから、急にこの
社会保險が、
國民保險がすぐに実施されようとはちよつと考えられないのでございます。
それから最後にベルギーについてちよつと申上げますと、ベルギーにおきましては、すでにドイツの占領下にあつた間にも、労働者と雇主とが祕密でその國内のあちらこちらの地下で会合いたしまして、何とかして
社会保障の立派な案を拵えようとよりより協議したというようなことが、先だつて日本に視察に参りました米國
社会保障制度調査團の西ヨーロッパ諸國視察報告書と申す報告書の中に、かようなことが出ております。それでドイツが敗退いたしまして、本國が自由回復をいたしますると共に、僅か四ケ月しか経たない一九四五年の一月一日には、國民
社会保障事務局というものが設立されておりまして、現在では全國民の過判数は大体強制
社会保險制度の下に入つておるそうであります。併し今申上げましたように、全國民を未だ対象とする
社会保障にまで行つておりませんで、自営者とか、官吏、公吏、農夫、家庭使用人、船員等はまだこの強制保險から除外されておるそうでありまして、完全な姿の
社会保障の実施にはまだ間があるのではないかと思つております。單に
社会保障への第一のスタートが切られた程度でございます。
以上簡單ではございましたが、
社会保障の理念、それから諸國におきまする
社会保障の実情と申しまするようなことを申上げたのでございますが、各國共にそれぞれ自國の特徴をそれぞれ活かしております。又その歴史的発達も活かして現在の制度に織込んでおります。我が國におきまする將來の
社会保障制度の組立方も亦我が國独自の行き方を織込んで組立てたならばよろしくはないかと考えております。例えて申しますると、日本には御存じのように、十年ばかり前から國民
健康保險制度というものがありまして、これは任意制度の基礎の上に組立てられた
社会保險ではありまするが、現在この被保險者となつて入つておりまする人間の数から推しましても、全國民対象の
健康保險ということができるのでありますから、かようなものを中心にして日本の
社会保障を組立てるということも亦一つ考え得ると思つております。
アメリカは大体今回の勧告におきまして、
社会保障の第一歩の途を手を引いて示してくれた程度でありまして、本当の完全な姿の、
イギリス型の保障には、我々の力で以て組み上げて行かなければならないのであります。
社会保障の完成は、なおなお將來に残すところが非常に多いのでありまするが、今申上げましたように、國民の一人々々が社会不安というものを体驗いたしておりまする今日、その國民を代表せられまする方々におかれましては、社会不安の今日ほど深刻に感ぜられまする折から、日本独特の
社会保險を基礎にした
社会保障を御考慮願いたいと思つております。社会不安などと申しまする言葉も、私ども昔本の上で見ますると、誠にぴんと來ないところがありまして、何が社会不安やら分らなかつてというと語弊がありますが、体驗しなかつたものでありまするから、漠然としておるのでありまするが、今日のように、早い話が、朝日新聞のごとき手の取つて見ますると、社会情勢の反映であるところの三面記事のごときは、初めの上から、第一段から最後の廣告欄に至るまで殆んど全部が社会不安から出て來た記事ばかりでありまして、社会不安と凡そ縁のないのは
アメリカのブロンデーという漫画くらいではないかと思われる程社会不安というものが我々の身にひしひしと感じておりまする今日、國全体が一丸となつてこの社会的窒息を除去するように努めたいものだと考えております。
以上のお話で私の話を終ります。御清聽を煩わしまして有難うございました。