○吉川兼光君 私は、これより
吉田内閣不信任決議案に
賛成する所信の一端を申し述べます。私が以下述べるところは、日本
社会党を代表する
意見の
一つであると解せられたいのであります。
吉田内閣不信任に関する
片山委員長の
演説は、完膚なきまでにその
意味を
説明しておると思うのでありまして、これに対しまする
植原悦二郎君の
反対討論を、ただいま拜聽したのでありまするけれども、その
内容はあまりにも空粗にして、噴飯以外の何ものでもないということを断言するものであります。(
拍手)彼は、明治時代にアメリカとかで勉強したそうでありまして、口を開くと、ただちに
憲法論のごときものをもてあそぶ癖があるのでありますけれども、遺憾ながら彼の
憲法論は、今や現代の感覚による新しき
憲法論ではないということを、私は断言してはばかりません。(
拍手)特に、
片山首班投票の際における当時の自由党が
片山さんに投票したことをも
つて、さも
憲法の常道ででもあるかのごとき御議論でございましたが、これまたその
誤謬の大なるものであるといわなければならない。
彼の議論の大きな間違いは、あの当時の
政治事情について、ことさらに目をおお
つておるという事実である。すなわち、あのときに自由党が
片山首班に投票いたしますその前に、いわゆる四
党政策協定というものがあることを忘れてはなりません。(
拍手)四
党政策協定をいち早く破棄したのは自由党ではないか。しかも、その自由党の破棄の
理由は、
社会党の
片山内閣の一枚
看板でありましたるところの炭鉱
國家管理法に対する
反対のための
政策破棄であ
つたということを、彼は忘れている。(
拍手)因果はめぐると申しますが、たまたま炭鉱
國家管理問題に関する疑獄について、
植原悦二郎君の身辺に疑惑の雲が起
つているという事実であります。牽強附会といわなければならないのであります。
吉田内閣成立以來三箇月の治績を見まするに、
片山委員長が論断いたしましたるごとく、
無為無策、無定見の連続以外の何ものでもない。現
内閣成立当時の英米その他の
外國新聞の論評にもありましたように、
吉田内閣の存在が一日長ければ長いだけ日本の
民主化が著しく
後退するのであります。それでは國際信用はますます轉落の一途であり、生産は興らず、日本経済の再建は断じて望まれない。大衆の
生活不安はますますつのる一方であるということを、われわれは考えざるを得ない。本日の
内閣不信任案が通過いたしましたならば、
吉田首相は、日本の
民主政治確立のために、何ら遅疑逡巡するところなく、ただちに総
辞職を行うべきであるということを、私は断言するものであります。(
拍手)
吉田首相が
政治家として祖國に寄與するところのただ
一つの途は、即刻
首相をやめる以外の何ものでもないということを私は附加したい。(
拍手)
吉田総理はなぜ総
辞職しなければならないかということの
理由について、われわれは数々これを申し上げることができますが、まず第一の点は、彼は
民主政治に対する理解が足りない。あるいは勉強が足りない。齢七十にして今さら勉強でもあるまいと言いますならば、
民主政治を解する
能力が遺憾ながらないということが適切な言い方であるかもしれません。(
拍手)
まず
憲法の解釈について、彼の見解はことごとく誤りであ
つたということは、すでに一般
國民大衆の知
つておるところである。第七條の
國会解散論を、さも学問的な正しい
意見ででもあるかのように振りま
わしておることは、諸君の
記憶に新たである。いま
一つ大事なことは、彼はややもすると
院議を無規する。また自党内におきましては党議を無視するところの彼は独裁
政治家ではないか。そういう者においては、われわれは断じて日本の
民主化は一歩も
前進するものでないといわなければならないのであります。(
拍手)
彼がいかに
院議を無視したかということは、いろいろの例証がありますが、最も大きなものは、第三國回において、遂に彼は
施政方針の
演説をやらなか
つたという一事である。野党各派によりまして、
施政方針の
演説をなすべしとの決議は、十月十五日の本
会議場において司決されておるのでありますけれども、遂に彼はこれに應じない。また十一月十六日に、やはり本
会議場におきまして、
公務員法と新給與ベースは不可分の
関係であるということを
意味する
決議案がこれまた通過いたしておりますにもかかわらず、彼はこの
院議を黙殺いたしまして、依然として第三
國会の最終近くまで、
公務員法だけを通過せしめて、ただちに第三
國会を
解散に導く、という
態度を堅持して讓らなか
つたのである。しかしながら、諸般の情勢から、いよいよみずからの考えが間違
つておりますことを認めた場合において、彼はようやくわれわれの
主張に聽從いたしまして、第三
國会の終りにおいて、すなわち会期をわずか二日残したるところの十月二十九日において、不承々々に新給與を含むところの予算案を第三
國会に
提出したのであります。しかしながら、すでに余すところ二日の会期をも
つてしましては、この予算案を
審議することはむずかしいのでありまして、遂にこれが
審議未了となりましたことは、諸君の知るところである。しかして、これに伴いますところの新
給與法案のごときは、これを第三
國会に
提出なさずして、越えて第四
國会の十二月三日に
提出されたことを、われわれは知らなければならない。
すなわち、もし
吉田首相にいたしまして、最初から、第三
國会の当初において、わが党の
主張するところの
公務員法改正法案と新給與ベースとは不可分の
関係にあるということに彼が同意いたしておりましたならば、新
給與法案は第三
國会においてこれが成立いたしまして、今時分は、全國二百七十万の公務員に対するところの給與は、すでにこれが実行されておるはずであります。しかるにもかかわらず、彼はこのことを行わない。しかしてこの第三
國会の新給與の問題は、たな上げというような結果とな
つたのであります。
しかして第四
國会におきまして、やつと新給與の問題が具体的にな
つて参りました。しかるに一方におきましては、押し迫るところの年末のために、公務員諸君の給與の問題が俄然焦眉の急となりまするや、彼は第三
國会におけるところのこの給與問題に対する
吉田内閣のサボタージュはこれをたな上げいたしまして、知らぬ顔の半兵衛をきめ込みまして、その給與遅延の
責任は野党にあるかのごときことを新聞に宣傳し、はなはだしきは先般二十一日の本議場におきまして、その
責任は野党にあるということを放言し、ただちに野党側の抗議にあいまするや、これを取消したところのこの一事、も
つて吉田内閣、いな
吉田総理は、いかに無智無能なる、沒常識にして無自覚なる
政治家であるかということを、われわれは断ぜざるを得ないのであります。
また同じく
公務員法の改正にあたりまして、わが党が極力
反対いたしましたにもかかわらず、労働者の團結権、團体交渉権に極端なる制限を付し、さらにその罷業権を取上げることによりまして、公務員がみずからの力によ
つてみずからの生存権を
主張するところの最後の手段を封殺してしま
つたのは、だれであるか。これは
吉田首相が
政治家としての持論でありますところの、労働者は不逞の輩であるという考えから出たるところの労働者彈圧
政治以外の何ものでもないと、私は断言したいのであります。(
拍手)
吉田内閣が、このようなる労働階級彈圧の
政策を継続いたして行きまする場合、生産
復興に対する重要なる要素でありますところの労働者諸君の自主的な生産協力の意欲というものが妨げられるのであります。また一面におきましては、この労働者諸君の
生活窮乏につけ込むところの共産党その他の跋扈跳梁を來すということを、われわれは考えなければなりません。このような
事態を招きますることも、あげて
吉田総理大臣が、
吉田内閣の労働
政策が、何ら新しき感覚に立つものでないことの大きな原因を、われわれはそこに見出さなければならないと存ずるのであります。
また新給與ベースの問題につきまして、
政府は、諸君も御
承知のように、当初は五千三百三十円ベースを固く持しまして、第三
國会の終りごろに
提出いたしましたるところの
追加予算の中にも、その標準をも
つて予算を組んでお
つたのでありまするが、われわれは、最低の賃金べースは六千六百円でなければならないということを党議で決定いたしておりました。しかるにもかかわらず、
國家財政の窮迫する現下におきまして、諸般の事情より、やむなく、不満足ながら六千三百七円ベースに改めまして、これを
吉田内閣に勧告いたしたのでありまするけれども、
吉田首相は、また増田
労働大臣は、がんとしてわれわれの勧告に耳をかさなか
つたのであります。しかるにもかかわらず、諸君すでに御
承知のような経過によりまして、國際
関係その他の情勢より推して、野党案の六千三百七円が最も普遍的な妥当性をもつものであることを知りまするや、いち早く豹変いたしまして、六千三百七円ベースとすりかえ、ただ実際給與のテクニツクの面において若干の異を立てることによりまして野党案剽窃論から免れようといたしておりまするがごときは、あまりにもわれわれ
國民をばかにしたるところの厚顔無恥の
態度であ
つて、その
政治的良心の麻痺状態は驚くに足るといわなければならないのであります。
さらに
政界、官界、財界の粛正
淨化の問題は、
吉田内閣成立当時の事情よりしまするも、現
内閣の最大命題の
一つでなくてはなりません。昭和電工、繊維疑獄、千葉無盡、炭鉱國管等に関する
疑獄事件は、いまだその片鱗を
國民の前に示したのみでありまして、その眞相は何ら明らかにされておらないという程度にしか進んでおらないのであります。しかるにもかかわらず、
國民の疑念は、これらの疑獄問題に関しましては、
政界、官界、財界が底知れぬどろ沼の中にあるがごとき考えにとらわれておると見なければならないのでありますが、
政府はこれに対しまして、何ら積極的な熱意を示しておらない。きわめて低調であるといわなければならないのであります。すなわち、それは何をも
つてしかるかと言いまするならば、急いで
解散を行わんとする事実にも、そのことをわれわれはとらえることができます。
すなわち、眞相の究明が最も公明に、最も力強く、公平に行われまするのには、わが党の武藤君を
委員長としておりまするところの不当財産取引調査委員会においてでなければならない。しかるに、この
解散を行うことによりまして、不当財産取引調査委員会の活動は
解散と同時にぴたりととまることを、
吉田総理は御
承知であるかと聞かなければならない。私は、こういうような重大問題を、ただ單に檢察廰のみにまかしておるということは、
國民を代表するところの
國会議員といたしまして、はなはだ無
責任であるという批評を浴びせられましても、これを避けることができないのではないかと考える一人であります。
たまたま昨日の本
会議場におきましてなされましたところの、わが党の花月純誠君の緊急質問の中に、重大なる発言がありました。花月君は、この発言をするにあたりまして
吉田首相が欠席しておりましたがために、特に
殖田法務総裁に念を押しでいわく、
吉田総理の答弁が聞きたいから、法務総裁からこの質問の要旨を
首相に取次いで、適当な機会に答弁するようとりはからわれたいということを申し傳えてお
つたのでございます。しかしながら、本日この本
会議が始まるまで、
吉田総理から適切な方法によ
つて花月君に向
つて答弁をなされたということを聞いておらない。こういうような重大なる前提のもとに、私は花月君の昨日の質問の速記録をここで読み上げておきたい。
花月君いわく、私は
吉田首相にお尋ね申しておくのでありますが、もし
解散直後において、あなたに属しておられる人々の中に相当多数の出血者があ
つた場合に‥‥。
政党を支配し、影響力を持ち、その党の名誉に関する云云、
内閣の運命に関する人々にそういう疑惑が與えられた場合に云々、さらに最も重大なることは、もしも
吉田首相そのものに何か問題が起
つたときには、どうなさるのかということを聞いておる。そうして、しばらく間がと切れまして、あの千葉無盡の問題を聞きましても、あるいは先般の百五十万円云々の問題を聞きましても、私はそういうことを考えてみたとき、一体この
事態が起り、
選挙の最中にどういう
態度をおとりになるかということをこの際聞いておきたいということを、彼は言
つておるのである。
しかるに吉田さんは、自分の名前がここに明らかに出ておりますにもかかわらず、この問題に対する何らの答弁をこの時刻まで行わないといいますことは、彼はこれらの疑獄に対する
國民の疑惑が、花月君の表現によりまして、
吉田首相みずからの身辺に及んでおるにもかかわらず、これに対して一言の答弁もできないだけの
理由があるのかどうかということを伺いたいのであります。もし
吉田総理が、この問題に御答弁をなさることなくして第四
國会が
解散された場合、われわれは
國民大衆とともに、花月君のこの質問に吉田さんは答弁するだけの身の明しを立てる自信がないものであると解釈してもさしつかえがないかということを、私は伺
つておきたい。(
拍手)
諸君、世上ややもしますると、
吉田総理大臣を目して自由主義者であるごとくこれを言うのである。その
一つの
理由といたしましては、彼はかの戰時中において、その言論が反戰的であるという
理由のもとに、時の憲兵隊に拘引されたということをあげるのである。しかしながら私は、実は新聞記者時代に、今を去る約二十五年前、彼が奉天の総領事をいたしておりますときに、彼に会
つたことがある。その当時、私とともに吉田さんに会いましたところの同僚が、はしなくも今日
議会の傍聽に來て私に注意された。私は、実はそれ以來二十数箇年にわたりまして、吉田さんの言動にきわめて好意ある注目を怠らない一人である。しかるに彼は、戰爭中に憲兵隊に拘引されたという事実は、私もこれを知ることができます。しかしながら、それは彼が、日本の当時の國力の充実したるところの日本の力を背景としまして、外交官として、欧米至るところにおいて、あるいは支那におきまして、彼が傲然と構えて白たびをはいて張學良その他を鼻の先であしら
つてお
つたときのその
態度は、私は決して自由主義者の姿であるということはできないと思うのであります。
ただ單にそればかりではない。彼の人生観には、そういうような、たとえば自由党の総裁といたしましては、自由党の党議を無視して、自分の考えをも
つて、自分の個人的なる
関係をも
つて内閣を組織して、党の長老をそでにしても、恬としてものに動じないところの考え方、また彼が一國の
総理大臣といたしましては、このいわゆるポツダム宣言による無條件降伏を甘受いたしておりますところのやむを得ない
國際情勢に、ややともすると反駁しかねまじき
態度をも
つて接するところの、その不遜なる
態度、たとえばそれは、
佐藤官房長官の既往にもその事実があるのではないかと考えられるのであります。あるいはまた、永田氏の安本長官のオーケーが來ないというちまたのうわさ、これはうわさでありますから、私はあえて事実とは申し上げませんが、こういううわさにも、彼がややともしますと、佐藤君が運輸次官時代に、
大臣に昇格しようとしてオーケーが與えられなか
つたという風評も、当時生んだのである。ややともしますると、オーケーがもらえないような人物を、オーケーのいらないポストであるからというので、党内に多数の有為なる人材があるにもかかわらず、それを一擲いたしまして、これを重用するというような、こういう摩擦を党の総裁としていたすことは、これはきわめて重大なる
民主政治破壊者の
資格を具有するものでなければならないと思うのであります。
私からいろいろ申し上げたいことはありますけれども、私は二十数年來、
吉田総理に好意を持つところの一人の知人として申し上げますが、彼はこの際言語道断なる
解散を考えず、すべからく総
辞職をいたしまして、いわゆる
政治家として、あるいはできるならば
政党の総裁もおやめになりまして、眞にその元氣の続く限り、まず
民主政治を第一ページより繰返して勉強されたいということを申し上げまして、私の
賛成演説といたす次第であります。(
拍手)