○
山崎道子君 私は、今回
京都市並びに
島根縣下に起りました
ジフテリア予防接種中毒事件に関しまして御
質問いたしたいと存じます。
すでにこの問題に関しましては
同僚太田典禮氏より、本議場において御
質問があ
つたのでありますが、可憐なる
犠牲者及び
家族の嘆き、
國民一般の不安は申すまでもなく、今や
世界の輿論は、
日本に
ワクチン製造の能力なしとさえ
不信を買
つているのでございます。この問題に関し
政府当局のなされた
答弁は、まことに誠意のない、不満足なものでありました。從いまして、
厚生委員会といたしましては、事の重大であることをもちまして、ただちに
愼重協議の結果、過
ぐる七日、
現地調査のため
委員長佐々木盛雄氏、
理事野本品吉氏並びに不省私が
現地に派遣されたのであります。私
たちは、本
事件は空前絶後の
惨事であり、実に
一大國難とさえ考えているのであります。私
たちは、
現地の
調査の御
報告をただいまいたしつつ、あらためて
総理大臣、
厚生大臣並びに
大藏大臣に対しまして、その
責任ある御
答弁を求めんとするものであります。
事の起りは、
新聞紙上ですでに御
承知のごとく、
京都市において、過
ぐる第二
國会にて成立し、本年七月より施行に相なりました
予防接種法に基き、全市の
乳幼児、
学童等に対し、十月半ばごろより
ジフテリアの
予防注射を
行つたのであります。しかるところ、十一月四日、五日の両日に
接種を受けた一万五千余名のうち、強烈なる
副作用を呈する患者が発生いたしまして、今月七日現在におけるその数は八百四十七名に達し、このうち
重症患者は実に三百二十八名を出したのでございます。これらは、ただちに市内の各
病院に
入院治療を受けましたが、昨十四日現在におきまして遂に可憐なる
生命が四十七名失われたのでございます。なお今後
相当の
死亡者が出るものと考えられるのであります。
現地におきまして、つぶさに
実情を
調査するとともに、
犠牲者の慰問を
行つたのでありますが、何分
犠牲者のすべてが、いたいけな
乳幼児でございますだけに、その
惨状は目をおおわし
むるものがあり、私も子を持つ親の一人としまして、実に同情の涙を禁ずることができなか
つたのであります。同時に、
予防接種法を
作つた私
たち議員としての
責任を痛感し、胸をかきむしられる思いがいたしたのでございます。
病院のベツドに横たわ
つております
幼児を見舞いますと
注射部位はくさり落ちて、
こぶし大の穴があき、中には骨が見えているほどひどいものもありますが、これよりも恐しいのは、
毒素による
あと麻痺のために、くび、のど、手足、背中、
横隔膜等の麻痺を來し、身体の自由を失うと同時に、食物を嚥下することすらできないのでございます。呼吸は困難となり、
ただ死を待つほかはないというかわいそうな
子供たちも、多数見受けられたのであります。
ある母親は六才になる長男を失いましたが、今回の
副作用の
原因を一日も早く突きとめ、多数の
生命を救
つてもらいたいと、進んで
愛児の解剖を申し出で、涙をのんで死体を研究の資にささげたのでありますが、今また、亡き子の妹が同じ症状に死を待つばかりという悲運に遭遇し、声を上げて慟哭いたしつつ、私
たちに対しまして、切々としてその心情を訴えられましたとき、たれ一人として泣かない者はなか
つたのでございます。あるいは
愛児の臨終に、「
母ちやんが悪か
つた、三千円の罰金を恐れて、金がないばかりに
注射をし、お前をこんな姿にした
母ちやんをかんにんしておくれ」と、狂氣のごとく泣き叫ぶ母の姿もございました。
枕を並べて、ともに不運を嘆きつつ、一日も早き回復をと、お互いに励まし
合つたのに、次々とべツドから、歯が拔けて行くように死んで行くありさまを見まして、ただじつとしていなければならない
親たちの胸は、いかがでありましようか。もし
大臣も代議士も、お子さんや孫がこうした
状態に
なつたといたしますならば、どういうお
氣持がなされるでございましようか。私は、今ここにあ
つて御
質問をいたしつつも、
現地の
惨状が胸に浮び、母の叫ぶ声が耳に聞えまして、ただ暗然といたすばかりでございます。当夜の宿舎におきましては
惨状の夢にうなされ、ほとんど眠ることもできなか
つたようなありさまであります。
各
病院では、
父兄代表から忌憚のない意見を聞いたのでありますが、不幸にして今回の
被害者は、そのほとんどが
生活困窮者に多いことでありまして、皆一様に経済的不安を訴えております。入院の
治療費はかさみ、
看護のため
家業はできず、
職場も休み、収入の道とてなく、この先長く退院ができぬ場合は、
一体生活はどうなることかと前途を悲観いたしておる
状態でございます。
被害者は一様に、
治療費の支給、
栄養品の配給、薪炭の
増配当等を望んでおりますが、今日までのところ、これらの希望はまだ容れられてはおりません。その多くは家財道具を売り拂い、寒空を控えて冬の衣類さえも手放して
療養費に充てている始末でありまして、子は毒薬のために病死し、親は子の
治療費のために今や餓死に瀕していると申しても、あえて過言ではないのであります。
しからば、今回の
不祥事の
原因はいかなるところにあるかと申しますと、
ジフテリア毒素が残
つている
ワクチンを
注射したことにあるのであります。すなわち、
厚生省檢定合格証紙を貼付してある
薬品を
法律に基いて強制的に
注射した結果、かかる
惨事を引起したのでありまして、
國家檢定合格証紙を信用し、しかも適法に
注射を
行つた医師の側には、断じて
責任はないのであります。
しかして、この猛毒を含む恐るべき
毒殺注射薬は、
大阪市にある
日赤医薬学研究所で
製造され、去る九月十六日付をも
つて國家檢定に合格しているのであります。
檢定合格証紙をは
つた薬品が、なぜかかる未曽有の
惨事を起したのか、ここに問題があるのでございまして、
調査の結果、次のことが判明いたしているのであります。すなわち、その
製造工程に誤りがあり、
毒素が残
つているものがあ
つたこと、
毒素が残
つていても、
動物試驗を
規定通り嚴重に行えば未然に発見されたはずでございますが、
製造者はこれを省略したこと、
製造者に不都合のことがあ
つても、
國家檢定を行うのであるから、不良品はここで発見されなければなりません。ところが、
不幸國家檢定に合格し、この恐るべき毒藥が
合格品として販賣されたようにな
つたのでございます。
どうして、かかる結果に
なつたかと申しますといささか専門的に相なりますが、二十リツトルが
檢定単位でありまして、
同一の條件において同時に
製造された二十リットルを、二十グラムずつ千本の
小びんに詰めるのでございます。この千本の中から八本を拔きとり、
厚生省に送
つて檢定をするのでありますが、今回の場合は、四個の
びんで
製造したものを一括して、第八号という
同一の
製造番号を付して
檢定の申請をいたしたのであります。四個の
びんで
製造いたしましても、
最後に
同一の
びんに移してまぜ合せるか、あるいは
製造工程の中途におきまして
同一の
びんに混和すればいいのでありますが、
最後まで四個の
びんで別々につくり、それとまた別に二十グラム
づつの小びんに詰めた結果、八本を檢査品として拔き
とつた際、四個の
びんの製品全部にわた
つて、まんべんなく拔き
とつたことにはならず、四個の
びんの中で、あるものは拔きとられ、あるものは拔きとられなか
つた結果、かかることにな
つたのでございます。
なお
研究所は、旧
大阪八連隊の
松下兵舎を改造したものでありまして、建物は粗末で、しかも不潔であり、
無菌室あるいは
培養室なども、
ほこりだらけ、
すき間だらけでありまして、いくらでも外部から雑菌が入る
心配があるのであります。しかも当所は、
昭和二十二年の四月に
ジフテリア・
ワクチンをつくることを
許可されておりますが、今日まで四十回の
檢定を受けまして、実に十八回の不
合格品を出しておるほどの
不良メーカーであります。人的に見ましても、きわめて貧弱でありまして、所長が長い
間病床にあるために、一獣医が、わずかに
中学卒業程度の二名の助手を
使つて行つている
実情でございます。人間の
生命を左右する
注射藥を、かかる貧弱な所で
製造している
状態に、私は驚いた次第であります。
そこでお伺いしたいのは、かかる
不良メーカーに何
ゆえワクチンの
製造を
許可したかということでございます。彼らは、細菌と取組む崇高なる
科学者として当然行うべき
ワクチンの
自家檢定も、四個の
びんのうち一個のみ行い、他はこれを省略いたしているのであります。試験に供する
モルモットの
入手難と、あるいは高價な
檢定手数料等が考えられるとともに、長年
ジフテリア・
ワクチンはすでに使用され、何ら
心配なき段階にあるをも
つて、いささかなれすぎていたことから注意を怠
つたところに、今回の
不祥事の
原因があるのでございます。換言いたしますれば、可憐なる
乳幼児が、
モルモットのかわりに
ジフテリアの猛毒によ
つて殺されたのでありまして、
帝銀事件以上の
惨事と申さねばならないのであります。(
拍手)
ただいま
製藥責任者は
警察当局の取調べを受けておるとのことでありますが、
厚生省は、当
研究所に対して、いかなる
処置をとる
おつもりでありますか。また、かかる貧弱にして不都合きわまる所に大切な
ワクチン製造の
許可を與えたことに対し、いかなる
責任をとられる
おつもりでございますか、お伺いいたしたいのであります。
次に、かかる人間の
生命にかかわる重要な
藥品の
メーカーに対しましては、藥事法の精神と
規定に
從つて、常時嚴重に綿密なる
監督指導を行い、間違いなきを期さねばならぬことは申すまでもないのでございますが、
政府当局並びにこれが第一次の
監督者たる
大阪府
当局は、はたしてこの点に遺憾なきを期したのでありましようか。私は、この点に関して、
当局は行政上の
責任を痛感し、
國民に対してその不明を謝し、その罪を謝すると同時に、
強制接種等の特殊な
ワクチンのごときは、
國立製剤所を設置し、または國が
責任あるメーカに委託して
製造をなすべきが当然と考えますが、
総理大臣並びに
厚生大臣のお考えを承りたいと存ずるのでございます。
次に、
大藏大臣にお伺いいたしたいのでありますが、前に申し述べました
通り、
京都市における
惨状は目をおおわし
むるものがあり、すでに四十七名の
幼児がその
生命を奪われ、なお多数の子供が
病院のベッドに呻吟し、数千の
家族が
家業を離れ、
職場を放棄いたしまして、ひたすら
愛児兒の
看護に当
つておる
実情でありまして、これがため
京都府市においては、今日まですでに二千万円に達する
経費を支出いたしておるのでございます。なお今後、おそらく数千万円の
経費を要すると考えられます。
これについて思い起しますことは、一九三〇年、ドイツのリユーベツク市におきましては、
結核予防のため約三百名の乳兒にBCGを内服せしめましたところ、六十八名の
死亡者を出した
事件が突発いたしました。しかし、これは
國家の強制ではなか
つたのでございます。にもかかわらず、
ナチス政権下においてすら、この
治療費は申すに及ばず、その生涯のせいかつの保障をいたしておるのでございます。まして、
文化國家として
再建途上にありますわが
日本といたしまして、この
治療費あるいは
生活費はもとより、そのすべてを補償することは、当然国家のなすべき義務と心得ますが、これに対しまして
大藏大臣は、今回この
惨事に対し、国家がその
経費を全画的に負担する
意思があるかどうかを伺いたいのでございます。(
拍手)なお今日、病状は回復したように見えておりましても、一、二年後において、今回の
中毒が
原因とな
つて発病いたした場合におきまして、当然
國家の
責任と思うが、この点に関しても
お答えが伺いたいと存じます。
私は、
國家檢定合格の
藥品を使用し、
法律に基きまして、しかも
罰金付きで
國家が
予防注射を強制いたしました以上は、その災害に対しましても、
國家がこれを補償いたすことが当然であると考えられます。(
拍手)災厄の当事者または地方自治体にこれが負担をさせることが断じて適当でないことは、申すまでもございません。これによ
つて國民の不安を除去いたしますと同時に、
世界の信用をも回復することになるのであ
つて、この際幼き
犠牲者の冥福を折る
氣持をも
つて、また
家族に謝罪する眞心をこめた、
責任ある、明確なる御
答弁を承りたいと存ずるのでございます。またその補償はいかなる
程度においてなされる
おつもりか、これまたあわせて伺いたいと存じます。
次にお尋ねいたしたいことは、
國民全体の福祉のために、
予防接種法に基き、罰則を設けて、
國家が強権をも
つて予防注射を行わしめまする以上、万が一にもこのために被害をこうむ
つた者に対しましては、
國家がこの損害を償うことが当然でなけれぱなりませんが、この点に対し、この際
法律をも
つて國家補償の
規定を設くる御
意思があるかどうか。これは
國民保健上まことに重大な問題でありますがゆえに、
総理大臣より
お答え願いたいと存ずるものでございます。
占領軍の援助によりまして、
傳染病発生率はとみに減少し、
画期的法律である
予防接種法も施行せられまして、
健康日本の
事業もようやく緒についたやさきにおきまして、今回のごとき
事件が発生いたしましたことは、返す返すも遺憾千万のことでありまして、
かくては
予防接種に対する国民の協力を得ることはできず、
かくては、
注射を受けて死にました
幼兒のみなちず、
ジフテリアの
注射を受けないで
病氣によ
つて死んで行く数百万の
幼兒の出ることを考えますとき、私
たちは、この点を明確にいたし、
せつかくの
法律の施行できない
心配を除去いたして行かなければならないと思うのでございます。この際すみやかに、これがよ
つて來るところの
原因を究明し、その
責任の所在を明らかにいたしまするとともに、
國民の
予防接種に対する不安と
不信を解消し、災いを轉じて福となす
処置を講じられんことを希望いたし、
責任ある、御親切なる御
答弁を、
犠牲者の心を体してここに要求いたしまして、私の
質問を終りたいと存じます。(
拍手)