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佐々木委員長 次に先般京都大阪
方面にジフテリア予防接種副作用事件に関し実地
調査のため、
委員三名が十二月六日より十日までの五日間にわたり視察をして参りましたので、その報告をいたすことにいたします。
それでは私よりその報告のきわめて概要を申し上げたいと思います。京都市に起りましたジフテリア予防注射にからむ不祥事件の発生に対しましては、すでに皆樣その全貌は先般御了承のことと
考えます。そこで私
たちが参りまして見ましたときの模樣を、概略だけを申し上げることにいたします。
委員一行は七日の日に京都へ参りまして、府並びに市の
当局といろいろ懇談をいたしました後、患者の入
つておりまする各病院をまわ
つて実情を
調査して参
つたのでありますが、その惨状はま
つたく目も当てられないような状態であります。注射いたしました腕の局部がざくろのように腐りまして、またこぶしほどの大きさの肉がぽつかりと腐
つて落ちてしまいまして、骨までが現われておるというような患者が非常にたくさんありました。その後後麻痺の症状を起しまして、のどがはれ上
つて食事が通らぬ。私
たちが行きましたときも、すでにのどがはれ上
つて、おとといから食事が通らず、お乳も飲みませんということを母親から聞かされまして、涙を催したのであります。あるいはまたその麻痺のために腕がふらふらにな
つてしまうとか、あるいは腰がふらふらにな
つてしまうとか、首がふらふらにな
つてしまいまして、生涯を不幸な不具者として生きなければならぬというような、哀れな幼兒も多数見受けられたのであります。またある患者のごときは、ちようどわれわれが参りましたときに、兄弟ともこの副作用にかかりまして、六才になる兄の方がわれわれの参りました前日でありますか、死亡いたしましたが、弟の方がまた腕の肉がぽつこりと落ちておりまして、それをほうたいをしておる現場を見たのであります。この弟も元氣ではありましたが、つまり重体のようでありました。ところがその両親が、今度の
病氣の原因をつきとめて、再びかくのごとき不祥事件が起らないようにしてほしいというようなけなげな氣持から、進んで兄を解剖台に送られまして、きのうその手術が行われたあとであるというような現場などを見まして、一同非常な哀れを催したわけであります。そういうわけでありまして、その結果死にましたのが今日まで、十日現在におきましてすでに三十余名に達しました。さらに專門の医者並びにわれわれの視察からいたしまして、あと数十名の者が死亡するのではなかろうかと
考えられまするし、かつまた現在入院しております者も、私
はつきりは記憶いたしませんが、百二、三十名を出入りしておるのではないかと
考えるのであります。從いまして一生不具者とならなければならぬ者も、またかなり出て來るのではないかと
考えるわけであります。とにかくその現場は見るにたえないものであります。ところが今度の接種事件というものは、御
承知のように予防接種法というものができましたために、京都市におきましては、一般にはよくありますいわゆるマツカーサーの命令だというわけで、これを受けないときには三千円の罰金に処せられるというわけで、とても三千円の罰金などとられたのではたいへんであるからというわけで、罰金こわさに進んで自分の子供に注射さしたというような家庭が多いために、被害者の家庭は総じて中流以下ないし下層
階級のまことに氣の毒な家庭であ
つたのであります。そのために、子供が入院しておりますので母親が付添いをしなければならぬ。また母親だけでは足りないから、男親も付添しなければならぬ。ところが日雇い労働者などが多いために、付添いに病院へ來ておりますと、自分
たちが働くことができない。それで
生活費が全然入
つて來ないために、自分の着物を賣り、あるいはふとんを賣り、迫り來る寒さに対して自分
たちの着ているものをはいで病院の栄養費などに注ぎ込んでいるというのでありまして、子供は病床に病死をし、その家族
たちはまさに餓死寸前を彷徨しているというような重大な社会問題な
ども起しているように見受けて参
つたのであります。そこでこれに対する救助の対策といたしましては、京都市並びに府におきましては、大体それぞれ死亡者に対して一万円あるいは一万二、三千円のものをお見舞をし、あるいは重症者に対しては五千円内外、あるいは軽症者に対して三千円内外のものを贈
つておりますことは、この
委員会においても太田典礼君などから御説明された通りでありますが、もとよりそれでは足りませず、京都府並びに市
当局から再三陳情に参られまして、厚生
当局ともいろいろ折衝され、厚生大臣も大藏大臣も非常にこのことについて考慮を拂われました結果、厚生大臣の交際費の全部をも割いて、約百三十万円程度のものが見舞金に送られたような次第でありますが、もとよりそれでは足りません。すでに京都府並びに市
当局から出しております対策費は千五、六百万円を超過をしているようでございます。これに対して
國家がどの程度の補償をするかというようなことも重大な問題であろうと
考えるわけであります。もとより今度は予防接種法という法律によりまして、
國家が強制的に接種をし、そのためには三千円の罰則規定まで設けて、強制的に行
つた接種の結果がかくのごとき不祥事態を巻き起したのでありまして、ドイツにありましたリユーベツクにおけるBCGの注射のために八十数名の犠牲者を出した当時におきましても、ドイツの
國家はこれに対して生涯を
保障するほどの補償をしたということも、正確には知りませんが、承
つておるようなわけでありまして、この問題に対して
國家がどれほどの補償をするかということは、將來の予防対策の上におきましても、重大な問題であろうと
考えるわけであります。從いましてこれらの点につきましては、
委員各位からさらに御
意見の開陳があると
考えまするが、さような次第であります。
なおさらに、災いのもとをつくりました注射液をつく
つております大阪の日赤の製藥所へ翌日参
つてみたわけであります。ところがわれわれの非常に意外に
考えましたことは、人命に関する重大なる藥をつく
つておるところでありますので、さだめし完璧の裝置があるであろうことをわれわれは期待して参
つたわけでありますが、現場へ一歩足を踏み入れてみますと、ま
つたくわれわれの期待と相反しまして、その設備等のあまりにも乱暴であることに、われわれはしろうとながら驚いたような次第であります。これは軍の兵舍のあとにつくられた、にわかづくりのバラック建の製藥所であります。この中で獸医学校を出られました方が主任となられて、あと中学校卒業程度の方二、三名が補助員として、この細菌の操作に当
つておられたようでありますが、たとえば密閉した細菌室の暗室な
ども、なるほど電氣をつけて入
つてみますと、完全に密閉されておるようでありますが、一たび電氣を消しますと、壁のファイバーのテックスの張
つたところに一分あるいは二分ぐらいのすき間がありまして、風の日などは相当の塵埃な
ども舞い込んで來るのではなかろうかとすら思われるようなところであります。平生はおそらく土足でここに出入してお
つたのではなかろうかとすら、われわれは疑いを抱かざるを得なか
つた状態であります。そこですでに皆さんも何回となく
政府当局から御説明を承られましたので、御
承知とは思いますが、このジフテリアの注射液は四つのびんでつくられまして、その中の
一つのびんについてのみ、この製藥所はモルモツトの自家檢定をや
つたわけでありますが、他の三つのびんにつきましては、このモルモツトの自家檢定な
ども行
つていないのであります。なぜさようなことをしなか
つたかということにつきましては、一方的には申し上げることはもとよりできませんが、あるいはモルモツトの入手がきわめて困難であ
つたということが
一つの
理由であるというようなことは、大阪府の防疫課長もこれを認めておるようであります。あるいはまた一回の一びんの檢定料が二千四百円とかするというので、その会社の経営上、経費の支出が困難であ
つたというようなことすら、疑われておるというような状態でありまして、わずか数頭あるいは数十頭のモルモツトのかわりに、何十万という人間が動物試驗に供せられたとすら
考えざるを得ないようなわけでありまして、この点につきましては、われわれしろうとながらきわめて遺憾に感じた次第であります。そこでこれに対しましても、大阪府の衞生部長あるいは防疫課長からいろいろ承りましたが、
行政上の大した措置もとられていないようでありまして、現在は京都市の警察が、警察力でも
つてこの事件の眞相を取調べているというようなわけでありまして、そこに何ら
行政的な責任も果されていなければ、措置もとられていないということにつきましては、一行きわめて遺憾に
考えた次第であります。そういうわけでありまして、私からもいろいろ
当局に
質問を申し上げたいこともたくさんありますが、これは今後各
委員の中から御
質問が出ると思いますので、一應私は省略いたしまして、きわめて大ざつぱでありましたが、現地に参りました実情についての報告は、この程度にとどめておきたいと
考えます。