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小野哲君
只今上程になりました
輸送サービスの
改善に関する
決議案について御
説明いたします。
先般第二回
國会におきまして、当院が全員一致を以て輸送力の増強に関する決議を行いましたことは、
諸君も御記憶のことと存じますが、その決議の
趣旨は、現今我が國の交通機関が極めて弱体であり経済復興の最大隘路な
つており、國民の不満は甚だしい。極力輸送力の緊急増強を図り、國民生活の確保に遺憾なきを期すべしという
趣旨であります。これに対し、当時の芦田首相以下
関係各大臣は、
政府は決議の
趣旨をよく了承し、あらゆる努力を傾けて輸送力の増強に邁進する旨の
答弁があ
つたのであります。運輸
委員会におきましては、引続き
政府の施策とその実績を注意し、第三
國会の開会と同時に
政府に対し輸送力の増強に関する詳細な
報告、
説明を
要求し、実績の調査を進めると同時に、当局を鞭撻しつつあるのであります。今
簡單にこの輸送力増強の決議の実施つき、
政府の
説明、
報告を聽取しました要点を申上げますと。
先ず國有鉄道に関しましては、上半期輸送実績、運賃引上げ後の状況と、貨物、旅客の減少状況、鉄道運轉用石炭の品質
改善の実績、労需物資の入手状況等でありまして、自動車に関しましては、燃料入手の状況、タイヤ需給の状況、資金融通の状況等であります。又海運に関しましては、船舶の建造、修理計画及び割当の状況とその集積、資材及び資金融通の状況、技術向上のための諸施策、労需物資入手状況、燃料入手状況、港湾諸設備の
復旧整備状況等であります。その他、海陸輸送力の
改善増強に関する諸般の
事項につき
審査を続けておるのでありますが、その詳細の御
報告は別の機会に譲るといたしまして、その結論を申しますと、
政府当局の努力にも拘わらず、資金資材等の不足から満足するだけの成績が上
つておらぬことは誠に遺憾でありまして、
政府当局の更に一段の努力を強く要望する次第であります。
さて今回
提案いたしました
輸送サービスの
改善に関する
決議案は、先般の輸送力増強に関する決議と密接な関連をもつものでありまして、先般の決議が主として設備の
改善等、物的強化を
要求したものであるのに対し、今回の
決議案は、輸送当事者の奉仕的熱意の昂揚等、主として精神的方面の向上を
要求しておるのであります。先ず
決議案を朗読いたします。
輸送サービスの
改善に関する決議
輸送機関は、経済の動脈、国民の足として、安全、迅速、正確、利便を確保しなければならない。
思うに陸上交通機関の從業員が一段と奉仕的熱意を以て事故の防止、荷主、旅客接遇の
改善等に努め、併せて國民の交通道徳の高揚を図るよう
措置することは現下最も緊急重要なことである。
よ
つて政府は速かに
輸送サービスの
改善に関する諸般の施策を樹立推推し、且つこれを本院に
報告するよう
要求する。
右決議する。
元來、輸送というものは物的
施設の整備だけでは決してうまく行くものではございません。その
施設を預かり、これを
運用して行く当事者の輸送に対する責任感と大衆に対する奉仕的精神の高揚が必要なのであります。最近鉄道当局及び從事員
諸君の協力によりまして、諸
施設の
復旧もその緒に付き、
サービスも漸次向上して参りましたことは喜ばしく不断の努力に対しましては感謝するものでありますが、國民のひとしく待望する戰前の状態に復帰し、曾ての國鉄の声價を取戻すことは、前途尚程遠い感を抱くのであります。殊に当今のような資金資材も不足がちであり、生活安定に必要な諸條件を満しにくい現
情勢下におきましては、並々ならぬ労苦を伴うことは察するに難くないのでありますが、物的設備の不足は或る程度仕事に対する熱意を以て償うことができることは、数数の事実によ
つて国鉄従事員みずからが我々の前に実証して來たのであります。曾て機関車修繕の所要時間を短縮するために、まだ熱い「かま」の中に濡れ蓆を被
つて入つた技工もあつたとのことであります。この技工のやり方は、或いは常識から言
つて歓迎すべきことではないかも知れません。
施設の不完全を補うために精神力を強要することは避くべきことでございましよう。併し仕事に対する熱意が然らしめたのではないかと思いますときに(
拍手)、おのずから頭の下る思いがいたすのであります。それと同時に給與の
改善、諸
施設の充実等のためには、
政府は更に一段の努力を傾けられることをこの機会に切に要望する次第でございます。(
拍手)
輸送サービスの
改善をいたし、明るい鉄道の再建に努力いたしておりまする一方、尚、荷物は運んでやるのだ、旅客は乗せてやるのだというような態度が、ともすれば一部の從事員の中に見受けられますことは遺憾でございます。(
拍手)又荷物を送れば、紛失や抜取りの事故もあり、汽車に乗れば、待合室や客車は窓ガラスや腰掛が壊れたままにな
つておる。又最近は車輌や架線の故障が多くて時間に遅れる。かような不愉快なことは
諸君がたびたび経験されておることと思うのであります。これでは決して國民の鉄道をして、國民に満足な
サービスを提供しているとは言えない。國鉄責任者は常に、國鉄は國民に愛され、親しまれる鉄道でなければならないと言
つておりますが、運賃が上る割合には
サービスの方は余り
改善せられないとあ
つては、愛されようと望むのは無理と申さなければなりますまい。
試みに、國鉄貨物輸送の
現状を見ますと、終戰直後の混乱に比べて次第に
改善されつつあるとは言え、荷物事故件数は恐るべき数字を示しておるのであります。盗難や、不着や、紛失などの事故は、二十二年度は十七万件に上り、
昭和十年頃に比較して四倍となり特に悪性事故は二十七倍の多きに及んでおるのであります。この数字は荷主の申告のあつたものだけでありますから、申告しないで泣寝入りした事故の件数はどれ程あるか測り知れないと存じます。これらの事故の原因は、
施設の悪いことにもよりましようが、原因の中には、荷扱いの不慣れや不親切、受授の不確実へ責任所在の不明確等によるものがあろうと思うのであります。而して事故のあつた場合、荷主が損害賠償を
要求いたしますと、調査には幾十日もかかり、賠償額を少くすることばかりを考え、民衆が泣かされておる場合が多かろうと察するのでございます。國鉄は荷物事故の防止に全力を盡し、一旦事故を生じた場合は親切敏速に調査し、責任を回避するようなことなく、正当な賠償をすることが望ましいのであります。又荷物損保険制度を確立し、一般に廣く宣傳普及を図ることが、荷物輸送の安心を確保するため何よりも急務であろうと存じます。その外、貨車の配給を公平適正にし、貨車一車を貰うのに多額の費用を必要とするようなことはないようにし、文運送店の指導監督を強化いたしまして、荷物の集配を親切確実にすることなどが肝要であります。
次に旅客輸送の面を見ますと、終戰前後にあつたような超殺人的混乱、無秩序は漸次
改善されて來ましたが、未だ通勤通学時の混雑は目を蔽わしめるものがございます。これについては速かに客車の増結をするとか列車の増発をするとかの手を打つことを考えなければなりません。又停車場の
復旧のできていない所が多い。旅客は待合せの間、風雨にさらされる。汽車に乗れば窓硝子が壊れているし、腰掛が破れている。誠に旅客の待遇が悪いのでございます。車内の公安の維持も漸次良好にな
つては参りましたが、未だに事件のあとを絶たないのは遺憾であります。資材、
予算の
関係もあるとは存じますが、いま少しく旅客を大切にする精神が欲しいのでございます。又終戰似來、旅客列車のスピードが著しく低下いたしました。これは、あながち石炭事情にのみ籍口することはできないだろうと存じます。戰前は東京から大阪まで六時間半であつたものが、当今は十一時間、門司までが十九時間であ
つたのが二十六時間半、鹿見島まで二十七時間半であ
つたのが三十七時間、札幌まで二十五時間であ
つたのが三十三時間半という工合に、著しく速度が落ちておるのであります。これがため緊急要務者は多大の時間と体力の浪費を余儀なくされております。旅客列車の全般に亘り、できるだけスピード・アップの工夫をするように要望いたしたいのであります。不完全な客車を整備して旅客に迷惑をかけないように、思い遣りの籠つた配慮が望ましく、長距離旅客列車には必要に感じて成るべく寝台車、食堂車の復活を考慮するの外、暖房も最少限度に設備する必要があります。これから冬季厳寒の候に向い、夜行列車に暖房がないのは老幼婦女、病人にとり堪え難い苦痛であります。石炭事情もありましようが、極力他の方面で節約して、極寒の間だけでも暖房を通すように工夫をして貰いたいのであります。
その他
輸送サービスの
改善につきましてはいろいろ
要求すべき
事項も多いと存じまするが、要するに輸送の衝に当る責任者及び從事員が國鉄の使命をよく理解されまして、公僕精神に徹して奉仕的熱意を傾けて、本当に國民に愛される鉄道とするために努力反省を怠らないことが根本問題ではなかろうかと存ずる次第でございます。又地方鉄道も、自動車も、國鉄と並んで國民の重要な交通機関でありますから、本
決議案の
趣旨に副うて、一層
サービスの
改善を図るよう、
政府において指導監督を強化するように
要求するのであります。
交通機関において
サービスが
改善せられ、從事員の態度も規律正しく、親切であり、輸送の秩序も整然として参りますれば、自然と旅客公衆の側においても節度、礼儀が守られて、交通道徳の高揚と相成るのであります。又これにより終戰後急激に低下した國民道義心の向上に資することも多大でありへ特に今後平和日本再建を背負
つて立つ青少年の社会教育に貢献するところが極めて多いと確信するのであります。
かような
趣旨を以ちまして、本
決議案を
提案いたしたのでございます。何とぞ御
審議の上、御
賛成あらんことを希望する次第でございます。(
拍手)