○波多野鼎君
吉田内閣は今日に至るまで
施政方針を説明することなくして、
國会に臨んでおります。そうして
國会の民主的運営の慣例を蹂躪するの暴挙を敢て続けております。民主
日本建設の
責任を持
つた國会といたしましては、誠に遺憾の極みであります。私はこの点に関しまして三つの論拠を挙げて
吉田首相に質し、
首相の誠実なる
答弁を
要求する者であります。
第一の点は、
施政方針演義を時を移さずして行うことは
吉田内閣に対する愛撫的な信頼を聊かでも回復するに役立つのであろうし、かくして
日本民主化の実績を示す上において絶対必要であるということであります。
第二に、民主自由党が在野時代に闡明しておりました政策と、
吉田内閣が行わんとしつつあると推定される政策との間には、すでに相当大きな喰い違いを見せておる
状態であります。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)それ故に
吉田内閣が如何なる政策を採らんとするかということは全く不明のままであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)このことは
國会議員をして五里霧中に彷徨せしめ、延いてその
審議権を不当に侵害するばかりでなく、
國民をして昏迷の中にる陷れることであります。
第三点は、
施政方針演説を行わざることは、
吉田首相の希望に反しまして、却
つて国家
公務員法改正法律案の
審議を遅延せしめる結果を招くものであるということであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)
以下一々の論拠について聊か説明を加えます。(「ゆつくりやれ」と呼ぶ者あり)
我々がポツダム宣言を無條件に受諾いたしまして
日本民主化の大道を歩むということは、世界に誓
つた義務であります。この義務を我々は誠実に履行しなければならない。そのためには、あらゆる行動、我々の一挙一動、
政府の一挙一動、すべて民主化の方向に進んで行かなければならんことは明白であります。然るに、
吉田内閣が成立いたしました途端において、世界の輿論はこれを如何に見ておるかということが一つの問題となる。先日一議員の
質問に対しまして、そういう世界の
新聞がどのように言
つておるかというようなことについては弁明する
責任を負わんというふうに、
吉田首相はここで
答弁されましたけれども、それは聊か見当違いであろうと思う。と申しますのは、我が國は今申上げましたように、國際的な監視の中におりまして、
國民といたしましては、一日も早くこの監視の
状態から逃れ、完全自由の
國民となりたいという希望を誰しも持
つておるので、而もその完全独立の
状態に到達するためには、我々が民主化の方向に全力を挙げておるということを世界の輿論が認めて呉れなければならない。(「そうだ」と呼ぶ者あり、
拍手)認めて貰うように我々は努力しなければならない。でありますから、世界の輿論が如何に見ておるかということは極めて重大な問題であります。すでに我が國の
新聞にも報道されておる点でありますから詳しいことは申上げませんが、一、二世界の輿論が如何に
吉田内閣を見ておるかということについて事実を申上げて見たい。(「
簡單々々」と呼ぶ者あり)
簡單に申上げます。(「ゆつくりやれ、」「時間に
制限ないぞ」と呼ぶ者あり)一つは十月十六日附のニユーヨーク・ヘラルド・トリビユーンの社説であります。この社説の一部にこういうことが書いてある。「
日本保守主義者の指導者
吉田茂氏が
首相に選ばれたことは米人の支持する諸改革が
日本でまだ古い型の政治指導者の力を弱めるに足る程の効果を挙げていないことの証拠が、
吉田首相は太平洋戰争の時代に公職に就いていた多数の
日本人とよく似ておる。吉田氏は
日本に民主主義の土台を築かんとしておる米
人たちから喜ばれてはいない。若し
日本における米人の努力が成功するなら、吉田氏や保守反動分子間における彼の仲間のごとき人物は將來遥かに弱い勢力しか持ち得なくなるであろう。」まあこういうような
趣旨であります。(「分
つたか」と呼ぶ者あり、
拍手)更に続けて、「米人の
日本における努力の結果、質の良い新らしい型の政治家が生み出されるまでには、最短恐らく一世代の時代が経過せねばならない。……終戰後成就されたところを破壊するがごとき行動を阻止するため、注意してその人物を監視する必要があるであろう。」こうい
つたような
趣旨のことをトリビユーンの社説は書いております。同じく十月十九日のワシントン・スターの社説を御紹介申上げます。これによりますと、「新
内閣は成立の暁、それは恐らく総
選挙施行までの一時的な政権にあるに過ぎぬ留守居役的
政府であることを立証しよう」と言
つております。又十月十九日のロンドン・タイムスの社説の一部を申上げます。これによりますと、「ここ数ケ月來、
國会外の輿論は、吉田氏を、共産主義に反対すると同時に財閥勢力を破催し、労組を健全な
基礎に置かんとする
マツカーサー元帥の経済
措置にも反対する人物として次第に彼を押上げて來た傾向がある。」(
拍手)又更に「吉田氏は彼の第一次
内閣当時、連合國側の指令に從うと見せて、その実これを履行せぬように、すばらしい器用さを発揮した。併し現在吉田氏の
國会における立場は、かかる戰法が奏功するには余り弱過ぎる。吉田氏は、未だ旧
日本の再建に努力している勢力の最後の牙城とな
つている財閥や、官僚や、宮廷筋の勢力をこの上弱化するごとき
措置には、その何たるを問わず、挺身猛然と反対するであろう。」(
拍手)お隣りの中国の大公報の社説を申上げます。十月十一日附の社説であります。「絶対保守一党請負の
吉田内閣は、
民自党一本の二流人物を並べて僅かにその組関を完了した。が、この孤立
内閣は吉田氏にと
つては極めて制御し易く、又独裁に便にして、その氣魄、作風からい
つても、これがサーベルをペンに取替えた東條
内閣といえよう。」(
拍手)(「
異議なし」と呼ぶ者あり。)
この種の輿論は挙げようとおつしやれば幾らでも挙げることはできますが、とにかくこのように
外國において我が國が認められているということは、一日も早く完全独立を達成したいと念願しておるところの
國民全体にと
つて非常に大きな損害であります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)私は吉田氏個人が決して反民主的な行動を採ろうと
考えておいでになるであろうとは思わない。と申しますのは、組閣の当初におきまして、民主主義政治のルールを自分は作るのだということをはつきり申されておる。その志は非常によろしいのですが、併しその後なされるところは、民主主義のルールなるものは吉田氏独得のルールであ
つて、世界の民主政治に通用するルールではないというように断ぜざるを得ない。特に
内閣組閣の直後において、その
内閣の性格を示すべき
施政方針演説さえもやらないということは、決して世界に通用する民主主義政治のルールではございません。(「そうだ」と呼ぶ者あり)こういうようなことをや
つておりますと、更に今申上げたような世界の輿論が尚悪化して参る。悪化して参ることによる損害は
國民が負わなければならない。だから、私は
國民がそういう損害を負うことをできるだけ少く、最少限度に食い止めるために、今後吉田氏はその態度を改めて、議会の運営、政治のやり方について、本当に世界の民主主義に通じたルールを用いて頂きたい。そうして一日も早くかような世界の輿論における悪評を拭い去るように努力して頂きたい。これが
日本が完全独立を一日も早くするために絶対必要な條件であると
考えるのでありまして、そのために私は先ず時を移さず、
吉田内閣の施政の方針を明らかにされることを
要求するのであります。
第二の点は、民主自由党が在野時代に闡明してお
つた政策の中、いろいろございますが、例えば金融について弾力性のある金融政策を採るというような言葉によりまして、金融緩和、インフレ促進の結果をもたらすような金融緩和的な手段を採るであろう、こういう印象を
一般に與えてしま
つておる。ところが組閣後になされるところは、必ずしも金融緩和の方向ではないように見受けられる。又料飲店の即時再開の問題にいたしましても、米の供出後の自由販賣の問題にいたしましても、組閣
以來何ら
國民にはつきりしたことを申されない。在野時代に言
つてお
つたことがそのままできるとも言われないし、どうも諸般の事情からして、これはむずかしくな
つたとも言われない。だから最初申上げたように、
國民全体も昏迷のうちに陷れられてしま
つておる。不安がそのために高まりつつある。例えば取引高税のごときに至りましては、もうこれは廃止されるんだと決めて、商
人たちがそういうような行動を採りつつある。これによ
つて國家財政收入は更に減少の一途を迫るようなことにもなる。で、この際どうしても
吉田内閣としてなすべきこと、なし得ること、なそうとしておることは、これであるということを、明確にこの議致壇上を通じて
國民にお知らせになることが、民主政治の本当のルールではなかろうかと思うのであります。
それから第三点でありますが、
施政方針演説をやらないという
理由につきまして、
首相は常に、
國家公務員法の
審議を促進する必要上、これをやらないのだ、
施政方針演説をや
つておると、
國家公務員法改正の
審議が遅れるからやらないのだ、先ず何よりも先に
国家公務員法の
改正をや
つて呉れということを言
つておられる。併しこれはお
考えが非常に違
つておる。と申しますのは、昨日來の衆議院の本
会議の
審議の模様を見て見ましても、
施政方針を明らかにせられないために二日間を空費いたしておる。つまり両家
公務員法の
改正を早くするという
目的には副わない結果が起きておる。又我々この
参議院の議場において
國家公務員法案に対する
質疑應答を聽いておりましても、すべての
質疑者が、
吉田内閣の施政の方針が明らかにならなければ、
國家公務員法に賛否をはつきりさせることができないという
趣旨の
質問をや
つておいでになる。恐らく
吉田内閣の(「
簡單々々」と呼ぶ者あり)根本の
施政方針と関連なくしてこれを通そうといううことは無理じやないかと思う。(「謹聽」と呼ぶ者あり)若しも本当にこの
國家公務員法の
改正を早く仕上げたいとお
考えになるならば、むしろ進んで施政の根本方針を明らかにされることが却
つて有効ではないか。却
つてその方が早道ではないか。遠回りのようであ
つて、実は早道なんだ。というのは、これこそが民主主義のルールなんだから、どうかこの民主主義のルール、世界共通の民主主義にお乗りになることを私は切に
要求しまして、私の
質問を終ることにいたします。(
拍手)
〔
國務大臣吉田茂君
登壇〕