○
谷口弥三郎君
只今委員長がお示しになりました、
大阪の
脳神経病院並びに
京都における
ジフテリア予防接種の災害問題について、
調査をいたしました
報告を
簡單に申上げたいと思います。この十八日に私ども
草葉、
中平、
谷口の三
議員と、それに
草間專門員、
佐橋調査主事の五名の
一行が当地を立ちまして、十九日に
大阪に到着いたしまして、先ず
府廳に参りまして、府の
関係者、或いは市の
関係者、市会、府会の
議員の方とか、又は続いて
地檢の檢事正の
方々に、いろいろと
状況を
調査聽取いたしたのでございます。尚続いては
脳神経病院を
檢査に参りまして、
状況を見ました。翌日は
大阪の
ジフテリア予防血清を作りましたところの、
大阪日赤病院にあります
財團法人の
藥学研究所を
調査いたしました。続いては
京都府に参りまして、
京都府廳でいろいろと聽取してこの
状況を調べたのであります。先ず
大阪脳神経病院と申しますのは、
豊中市の長
興子百二十三番地にあります一
病院でございまして、大正五年に開設されて、
昭和十三年
以來大阪府の
代用精神病院と指定されておるのでございます。その
土地は西側に
沼地がございまして、小高い所に本部とか、住宅とか、そにれ接続をいたしたところの二
病棟があります。尚
沼地を隔てました低い
土地に、三
病舎があるのでございますが、この三
病舎に
浮浪者を入れて、今回の問題を起したところでございます。
同院の
收容定員は百六十三名というのでありますに拘わらず、
職員は医師三名、薬剤師一名、
看護人七名というのでありますが、その
院長なる方は昨年十二月
以來病氣で欠勤しており、副
院長の方が一人でや
つておるのですが、それが七十七歳でどうも運動も十分でないという方が一人でや
つておるのであります。
嘱託医がお
つたのでございますけれども、
嘱託の
顧問医は
終戰までは、週に二回程來てお
つたそうですが、その後は全然來ておらんような
模様でございます。実は
関係者が
收容されておりますので、正確なことが分らないのであります。
從つてそういう所における治療も、到底完全なものではないのではなかろうかというような想像がつくのであります。尚その上に、その
病院内は甚だしく乱脈な
状況でございまして、
理事長の
小川保夫というのは、
昭和十四年
以來病院の
経営に参画しておりますが、殊に
昭和二十一年の初め頃からは、殆んど
経営の全権をその方が握
つておるのであります。
事務長の
志水実之助と申しますのは、
無学文盲の方であ
つて、
看護婦長の
川上清子というのと相通じて、給食などに至りましては、余程その当時の
状況から考慮して、千二百カロリーくらいの
食事を支給してお
つたと思いますが、一部を横領いたしまして、常に九百カロリー
程度のものを連続して與えておる。
從つて患者は次々と
栄養失調に陥
つて、遂に多数の
患者を
死亡させた。而も
火葬費を節約するために、全部の
火葬をいたさず、
病院の
西北隅の
塵溜の中に、多数の
死体をそこに埋没してお
つた。或いは軍の
拂下げの衣類などもあ
つたが、
患者に與えておらんとか、
病院の
連合会の
配給品も、
理事長が、横領したというような
状況でありますので、聞きますところによると、その期間には約四十三万円程の
收入があ
つた筈にもかかわらず、
帳簿面の支出は僅かに十三万円位でありました。實に
人道をはずれた特別のことをや
つてお
つたのであります。ために
只今死体遺棄とか、
遺棄致死というような罪名で
收容されておるのでございます。特に氣の毒な一例を申上げますと、或る婦人が買物に出てお
つたところが、丁度その際に
浮浪者にその人が見られまして、
收容監禁されて
しまつたのであります。
從つて本人はなんとか家族に
通信をしたいというので、
通信をしたけれども、どうしても
通信が着かんと思
つておりましたら、實はそれは
理事長の方で燒いてお
つて、ただ一
部分が
残つてお
つたということを、捜査の時に見出したのでありますが、かあいそうにそのお方は既に死んでお
つた。死んで現在はおらんというような
状態であります。
今度の
事件が摘発されました
理由は、本年八月末頃に、
病院を脱走しました
患者が、
病院には
死体が埋没してあるということを、
檢察廳に告発しましたために、
檢察廳では容易ならん
事件と考えまして、
証拠固めをして、この九月八日に
同院を
襲つて、
死体を掘り出して、
院長以下を
收容したということでございます。この二十一年の八月初め頃から九月の末頃までに、
佐藤勝他百八十四名の
浮浪者が、そこに
收容されたのでございますが、只今申上げましたような
状況で次々と栄養不良に倒れてしま
つておるのであります。その
收容時の
状況を
簡單に申上げますと、実に
大阪府におきましては、
昭和二十年十月頃から、二十一年七月頃までの間に、三千六百名余の
浮浪者を各
施設に
收容したために、いずれの
施設も殆んど満員の域に達してお
つたのであります。それにもかかわらず、全
國各地から
浮浪者が、
浪華の街を目指して、次々と集
つてきますために、何回繰返して一
齊收容をやりましても、つねに街頭には
浮浪者がおる。又
餓死者がおるというような
状況でありましたために、全機能を総動員して、八月十五日までに千三百九十二名という
浮浪者を
收容いたしたそうでございます。その際のことでございますが、
收容所不足に困
つておりました場合に、この
脳神経病院からいたしまして、
豊中市に今まで貸してお
つたところの、
病棟が返されたために、
收容余力ができたために、
自分の方に入れてくれというような
申込みがた
つたと言
つておる。
從つて一應大体の
分類をいたしまして、
精神病者らしい者をその
病院に送りまして、
收容後その
病院の
院長は、父母が附き添い、離すことのできん
幼兒の若干名以外の方は、全部
精神病であ
つたと診断いたしまして、
精神病院法によ
つて、正規の手続をして入院させたと
説明いたしておるのでございますが、この際大体の
分類によ
つて措置したということであれば、一應全員を仮
收所に
收容いたしまして、そうして十分観察した上で、
精神病であれば、
監禁をするのも宜しうございますが、そうでなしに、どうもこの
状況を見ますというと、直ちに全部を
精神病として、而も
精神病でない者までも
監禁をしておる。そういうようなふうの
食事を僅かしか與えなんだために、
栄養失調にな
つたというような形勢があるのでございます。殊にその
病院の組織から考えまして、それだけの
職員であれば、到底完全な鑑定とか
決定ということは困難であるくらいのことは、府の方におかれても分りそうなもの、判断がつきそうなもの、常識で考えられそうなものであるのに拘らず、府の方もそのままにしておられた
模様で、しかもその後数回、
査察員が巡視をしてお
つたのでありますから、もう少し立ち入
つてその
状況を見たならば、こういう
栄養失調などに陥るのであれば、かなりの日数がかか
つてお
つたのでありますからして、見出すことが容易にできたであろうと思われるのに拘らず、
査察員の
報告なるものが、ただ一度も
一行に対して、十分の会得することができなか
つたのでございます。
從つて我々出張しました者は、
市長並びに
知事に対しまして、三項目を揚げまして、そうして
行政措置についての
回答を求めたのでございます。ところが
市長、
知事ともにそれぞれ
回答がございましたが、その
回答の
内容は、これは時間を要しますからして省くことにいたしまして、特にこの三番目の所などにおきましては、
回答が極めて不十分と思
つております。それは第三の三項におきまして、我々はこの多数の者を、大
部分を死に至らせたという、これは可なりの
責任であろうと
思つて追及をいたしておりますのに拘らず、これに対する
説明として、
死亡率表を提出されたのでございますが、その提出された表たるや、
昭和二十年十一月から、翌年の十月までの
死亡率表でありまして、我々の指しておる時期の
患者は、僅かに一・二ヶ月しかその中に含まれておらんのでございます。
從つてこの表を以て、我々への
説明としては満足することができんのでございます。尚又ここでこの表を出した場合に、外の
病院の表を加えて、例えば
弘済院などでは非常に
死亡率が多いということを言
つておりますが、実際におきましては、
弘済院には
発疹チブスの
患者を入れてございますのと、而も非常に重態であ
つて、送
つておる途中で、すでに
死亡したというような者も入
つておるのでございますから、それと
浮浪者を同様な率で考えて
貰つては、どうもこの
回答文では十分でないと存じております。尚
堺病院の例も向うから出されておりますけれども、これも聞きますところによりますと、その以前に
死亡した者まで入れておるので、
死亡者が多いというので、この
回答はあまり当てにならず、十分に我々の目的を達することはできなんだのでございます。
要するに先ず第一、遺傳と環境との犠牲とな
つて、
精神病とな
つたような人々、並びに
浮浪者などを、あまりにも
私利私慾追及のために、
人道を無視した最惡の
行爲をしております
経営者に対しましては、
檢察当局の判定に信頼するのでありますが、私どもは
本件発生に直接
関係のある当局の諸氏、特に
査察員に対しまして、今少し同情のある態度と、愛情の発露が欲しか
つたと思うのでございます。
從つて、將來かかる
事件の二度と繰返されませんために、速かに
精神病院法の
改正を行な
つて、これら不幸な
患者の
保護施設を急速に講じて貰わなければならんと存じておるのであります。
第二には、
浮浪者、特に
浮浪兒童に対する、愛護の手をもつと完全に延べて頂きたい。無論その当時は、まだ
兒童福祉法はできておらなか
つたのでありますが、折角
兒童福祉法もできた以上は、こういう方面にも特別な注意を向けて、要る
費用は
國庫が十分に出して、將來こういうようなふうの、
浮浪者はすぐ死んでもいい、
監禁してもいいというふうの氣持が心の底に潜んでおるような人間がおらんように、
一つ大いに進めて頂きたいというようなことを思
つておるのでございます。尚この
脳病院につきましては、外の行かれた
方々から十分
お話があろうと思いますから、私はこのくらいにして置きたいと思います。
それから次に、
京都市における
ジフテリアの
接種の結果、酷い障碍を起した問題について申上げたいと思います。
京都市におきましては、本年の十月十七日から十一月の二日までの間に、九万七千人から
ジフテリア予防注射をいたしたのでありますが、その第一回の
注射においては、何ら
副作用などは起らなか
つたのでございます。ところが、本月の四日、五日の両日に一万五千名余りの方に第二回の
注射をいたしましたところが、その中で五百二十八名という者に、いろいろと
副作用を発生したのでございます。殊にその発生しました五百二十八名の者は、六才以下
乳兒期の者のみでありまして、殊に二才以下が多いのでございます。
模様は、
注射しました後で、早速その
局部が腫れて参りまして、赤くな
つて來ます。
水疱ができて來ます。而もその
水疱の大きいのは、茶碗くらいの大きさに達しておるのでございます。尚その上半身、手が全部腫れます上に持
つて來て、頸から胸の
部分から下肢にかけて、ひどい浮腫を起しまして、殆んど
半身火傷というようなふうの
程度になるのであります。熱も高い者は四十度から出るというような
状況で、
患者は消化不良とか、下痢とか、
尿量の減少というものを來しまして、この五百二十八名の中、二十日までに七名程
死亡いたしておるのでございます。尚その他にも、百十八名という
重症者が
残つており、尚数名くらい死にはせんかというような
状況でございました。その方の
死亡の
診断書を見ますと、無
尿症、或いは
腎臓炎とか、
消化不良症とか、
全身衰弱とかいうような病名で
死亡いたしております。その
原因をよく伺
つて見たりしますと、
注射した
局部の消毒が惡か
つたとか、
注射上の問題では絶対にないようであります。やはりこれは、その
製造所に非常な問題があると思われます。何故かと申しますと、この
製品は
大阪の
日本赤十字社藥学研究所の
製品でありまして、それからその際に用いた
國家檢定番号は四種類あるのでありますが、その四種類の中の千十三番というのに限られておるのでございます。而も千十三番というものは、三百七十五本程
使つておるのでありますから、少くとも四、五千人くらいの人に
注射されておると思うのであります。ところが実際に起
つておるのは、五百二十八人というのでありますから、全部ではないということが分る。
從つて私共の考えからいたしまして、先ず
日赤の
研究所を
一つ調査する必要があるというので、
日赤の
研究所に参
つて見ました。ところが同
研究所は、
大阪の旧歩兵八聯隊の兵舎の一部を改造してや
つておる木造の
研究所でありまして、
細菌製剤の
製造所としては、余程注意いたしませんと、その
操作中に雑菌の混入の虞れがあるような場所でございます。而もそこは昨年初めて
ジフテリアの
予防注射液の
製造を始めたというのでありまして、その上に運惡く所長兼
主任技術者であります
秋山靜一という方は、昨年來病氣をいたしておりますので、この
製造に携わ
つておらんのであります。而もその
製造の際には、これは二十
リーテル入りの
コルベンがなか
つたために、五
リーテル入りの
コルベン四瓶で次々と、或いは
ジフテリア菌の培養をいたしますとか、或いはフオルマリンで無毒化いたしますとか、或いは
明礬を入れて、
ジフテリアの
明礬トキソイドを作るというような、
操作をいたしまして、
最後に
無毒試驗の結果、これは千本の小さな瓶に分注したのでございます。そうしてこれを包裝して置いて、その千本できた中から、八本だけを
檢定に出してお
つたのでございます。これは八本を出すという場合には、四本の
コルベンから出たのを、例えばA・B・C・Dとうようなことに分けて、二百五十本ずつに分けて、そうしてそのおのおのから二本ずつくらい取出して、
檢定を受ければきつと惡か
つたのが見出せたろうと思いますけれども、そのままどの瓶か分らんやつを八本程取出しまして、そうして
檢定に
使つたというような
状況が分
つたのでございます。尚
篤志者のお蔭で、七名
死亡した中で、一名程
死体解剖をされたそうでありますが、その
死体解剖の結果から申しましても、別に
細菌性の
状況は全然なしに、言換えれば敗血症みたいな
模様はありませずに、又
水疱なども化膿もしておりませずに、ただ内蔵に点々と出血しておる点がありますとか、或いは
肋膜炎とか、
腹膜炎とかという
状況を起しておるとか、
出血性の
扁桃腺炎を起しておるというような
状況で、毒物による
死亡ということがはつきりいたしておるのでございますから、これはどうしても四本の瓶のどれか一瓶にそういうようなふうの、十分無毒化されておらなか
つたものがあ
つた結果というふうに思われるのであります。
京都市におきましては、このために非常な一般の恐慌を來しまして、折角第二回
國会において、通過いたしました
予防接種なども、今後は絶対にや
つて貰いたくないという声が頻りとはびこ
つておるのでございます。尚
注射をいたしました
開業医者並びに府の衞生
部長あたりに対しては、非常は迫害的の電話とかいうのが参りまして、そうして皆戰々兢々としておるような
状況でありました。
從つて、一日も早くこれは十分なその
理由を一般に発表すると同時に、今後我々はこういうように
製造所と、
檢定機構とに対して
改正をお願いしたいと思うのでございます。
まず今後やります場合には、二十
リーテルの
檢定とかいうのよりか、或いは五
リーテルでも結構でございますが、その作りました一壜々々について、壜から
藥液を
査察官が來まして取
つて、その取
つたあとはそれを封緘しておきまして、そうしてその封緘した
あとはそのままにしておきまして、若し合格しましたらそれを分注するというように、分注前にその壜のやつを、
最後の壜のやつから
檢定材料を取上げることが必要ではなかろうか。尚
政府は面倒であるけれども、
注射前に一回いよいよでき上
つておる包裝したものから、或る一定の数量を取
つて再
檢査をして、何ら
故障がないということを認めた時に、初めて
注射をやるというような式にすればよくはなかろうか。
それから第二に、
査察官をもう少し余計殖やされた方がよくはなかろうか。聞きますと、
査察官が長くそこで監督をしておられんために、
あとの
状況が分らんということでありますが、少くとも
査察官が
行つて、或いは壜の中から
藥液を取出すとか、封緘をするとかいうことを、確実にや
つて貰うように、又
行つた場合には、必ずどういう工程で作
つたかというようなことを、よく注意するだけの余裕と、人数を置いて頂きたい。言い換えれば
政府は速かにこの
檢定機構を
改正すると共に、
査察官を殖やしまして、そうしてその
査察官は
國庫の
費用によ
つて、それを
使つて、今後こういうことが又起らんように是非急速にや
つて頂きたい。尚全体の市民に対しましても、十分なるその
状況を知らせ、今後は決して心配なしに
注射ができるということを言わん限りにおきましては、今後
予防接種は
京都市のみならず、ひいては全國的にも皆が怖が
つてやらんようにな
つてしまうだろう、こういうように考えられるのであります。
ここに
接種しました時の、ひどい
患者の
故障の
状況の図面、繪を描いたやつを
貰つて來ました。
それから私からの
報告はこのくらいにいたしまして、
あとはどうぞ不備のところを、一緒に行かれました
方々から補足して頂きたいと思います。