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内村清次君 私は
日本社会党を代表いたしまして、
政府提出の
日本國有鉄道法案に反対を表明いたす者であります。以下その理由を申述べます。
本法案は、厖大なる
日本國有鉄道の複雑なる機構を円滑に
運営するものといたしましては、余りに粗雑であり、且つ又非民主的である。特にその法案の作成
経過から見ましても、法案そのものも実に未完成な点が多く、
公共企業体の
能率的且つ自主的
運営上に欠陥多き点につきましては、
審議過程に
政府みずから認めておるところであります。而も我々の最も虞れる官業における官僚主義の温存が殊に脱却されていないことであります。この法案が当初に目標といたしまする
能率的な
運営も、ただ單なる空文に終るのみでありまして、單に
公務員法改正に伴う改正のための改正であると思えるのであります。この官僚主義的な
條文と幾多の
労働者に対する抑圧的
規定は、非
能率的な結果をもたらす以外の何ものでもない。その点改正の主要問題について先ず第一に
指摘される点であります。本法案には
労働者代表が全く認められておらず、その
監理委員会におきましても、一應は運輸業、商業又は金融業について廣い経験と知識を有する云々とな
つており、
労働者代表は認められておりません。我が國政治、けいざい、文化、の動脈である
國有鉄道を日夜多大の労苦を以て動かしておりまする國鉄
從業員の辛苦の生活を反映せずして、何で民主的でありましよう。
能率的である
運営であると言い得られないのであります。このような非民主的な、一方的な経営監理側のみを代表する企業体に対しましては、断乎として反対せざるを得ないのであります。
次に、
職員の任免が一方的でありまして天降り的であります。それはこの下部の意向を代表せず、特に勤労者の基本的人権である罷業権を剥奪し、團結権、團体交渉権の制限など組合の自主的行動を制限し、
労働者の生活に不便をもたらし、一方的に脅威を加えて生活不安に陥れているものであると存じます。例えば第二十九條に、勤務成績不良、心身の故障の次に、「その他その職務に必要な適格性を欠く場合」とか、「業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じた場合」等は、総裁が勝手に免職することができると
規定してありまするが、これらの
規定は、法文の運用
如何では全く一方的な首切りの
規定を、事前に本法案の中に刷り込んだものであるのでありまして、勤労者の立場からしまして、絶対に承服し兼ねるところであります。
次に、この法案は第三十三條におきまして、
労働者の基本的権利であり、労働保護法である労働基準法が、明白な判定の基準もなく、その上その認定は
事業主たる
日本國有鉄道の一方的判断のより完全に侵害されております。特に当法案は
民間で言いますると、会社の定款のごときものでありまするが、その中に予め
労働者に一方的に不利なことを
規定することは、凡そ世の常識を逸脱したものであると信じます。企業の円滑なる
運営は労働行政の面から崩れることを虞れる次第であります。又二十六條及び十二條によ
つて、
職員の政治活動の自由の基本的人権の行使が殆んど不可能にまで制限され、ただ投票権を持つに過ぎなくな
つております。又給與の点につきましても、ただ他の國家
公務員及び
民間事業の
從業員の給與を考慮して定めるとのみ
規定されてありまして、非常に生活を不安定なものとしております。かくのごとく一方では
職員の当然享受すべき基本的人権が無視せられ、制限されておりながら、その任免から給與についてまでが、全く天降り的に一方的な決定に委ねられております。このことは全く片手落ちな
労働者を圧迫する法案であると思うのであります。
第四章の
会計の各條項を檢討いたしましても、私共は何らの
能率的な企業採算の独立制とか、その合理的管理であることを認めることができないのでありまして、從来
通りの國庫依存、國庫納金の範囲から一歩も出ていないのであります。即ち経営
能率の向上のためには財務管理の
自主性が必要でありまして、運賃は公正報酬の原則に立ち、特に低物價政策によ
つて生ずる赤字は当然國家の負担とする代り、営業收支は恰かも企業
会計方式として、又
予算の議決、決算の
報告も、
事業計画を基本的に立てて、國庫と独立
会計のけじめをはつきりとさせることが必要なことと思います。それであるのに、この法案にはそのような近代化した改正などは少しも見られない。若し改正の意図が本当に経営の
能率化にあるのであつたならば、この点にこそ重点が置かれるべきであると確信いたします。このような点におきまして、この法案は極めて不十分なものと認めます。
次に、財務管理、業務管理全般に亘りまして、
監理委員会の指導が極めて力が弱く、まるでお飾りの
委員会のごとき感なきにしもあらずで、例えば
委員が名誉職であるがごときは、そのことを実証しているものであると信じます。一方的に経営管理側の代表のみが名誉職として行うごとき
委員会で、到底満足にあの複雑な厖大な國鉄機構の管理を、権限と責任を以て満足に行い得るでありましようか。これらの点につきましても、極めて不満足な点が多少ございます。
最後に、本法案は、これと表裏一体をなす
公共企業体労働関係法案も上程されたのでありまするが、本
國会には
審議未了にな
つておる次第で、この点からいたしましても、本法案も
政府において十分に完備し、眞の
公共企業として社会の福祉、産業の興隆のために、眞に
能率的
運営のでき得る法案として再提出を希望いたしまして、本法案に反対を表明する者であります。