○豊澤豊雄君 私は、各党各派を代表いたしまして、ただいま上程になりました
塩收納に関する
決議案の
趣旨弁明をいたします。
この問題は、先週全國の塩業者が
集まりまして、それに
國会議員が数十名列席して、業者の血の出るような叫びが、こうして各党各派の
決議案とな
つて生れたものでございます。まず、その
決議の
内容を読み上げます。
塩收納に関する
決議
主食とともに
國民栄養上欠くべからざるものに食塩がある。
政府は、この重要性を認めて專賣法をしき、
塩收納及び販賣の権利と義務を定めていた。しかるに一昨年末、
政府は、製塩用の石炭配給を極度に減じ更に本年九月には加算賠償金を中止し、更に十月二十三日には
塩收納を中止した。
この法を無視した
政府の
態度に、業者の驚駭は言語に絶するものあり食塩生産の前途に非常な不安を感じ、且つ收納停止による資金難は労働問題を惹起し、このままに時日を
経過すれば日本独特の製塩場は廃止のやむなきにいたる。
政府は、速やかに收納を開始し、塩田持続のための石炭配給と賠償金増額をすべきである。
右
決議する。
以上の
通り、この問題は、一見ものやわらかな感じしか與えませんけれども、塩が、われわれの日常生活上、栄養と勤労意欲の向上のために、一日も欠くべからざる生理学上の問題であるということを考えますときに、非常に重大な問題にな
つて來るわけであります。ところが、このような塩は、外國では、岩塩であるとか、鹹湖であるとか、天日製塩であるとかいいまして、ごく
簡單にとることができるのでありますが、わが國は、四海海に面しながら、塩をとることが非常に困難で、世界では独特な方法、すなわち塩田法という、おそらくその地方でなければわからないような、コストの高い製塩法をとらなければならない現状であるのであります。
ところが、
政府は專賣法をしいて、そのコストの高い塩業を代々保護して、その業者
たちも、自分がつく
つた塩は必ず適当な値段で買上げてくれるという安心のもとに続けて來たのであります。戰時中におきましても、北支から多量の塩を輸入しながら、なおかつ極度の増産を要求した。これはもちろん、軍部が爆彈の原料であり、毒ガスの原料であるというような軍事上のことからではあ
つたけれども、そういうように
政府が奨励をしたことには、かわりないのであります。敗戰後も、
政府は、外國からの塩が來なく
なつたので、これまた奨励をしたわけであります。このように、一貫して
政府は塩を増産することに努めて來たわけであります。
ところが、最近になりまして外國塩が入
つて來るようになりますと、このように保護をして來た
政府は、まま子扱いに、手のひらを返したような
態度に出て來たのであります。すなわち、一昨年までは年々七十万トンからの石炭を配給してお
つたのに、わずかに二十三万トン、昨年は実に五万トンという石炭しか與えなか
つたがために、塩飢饉が生じて來て、これは数学で表わすよりも日本
國民の全体が感じたように、非常に苦しい塩飢饉を生じ、これに乘じてやみ屋が横行するというようなことに
なつたのであります。
これによ
つて、
政府がいろいろとくふうをして、現在それが緩和されたかの今日、九月には、一万五千円で買上げていた塩の價格に対し、一挙に九千五百円というものすごい切下げぶりを発揮し、業者が驚いている。そのあとから、十月二十三日には、もう塩を買上げすることは中止したという指令を全國に発したのであります。これは明らかに專賣法の無視であります。今までの
法律を無視して買上げを中止した。
ところが、この業者の叫びに対して、
政府は実に冷たか
つた。しかたがないという言葉
一つで、これをしりぞけて來たのであります。昨年も、石炭がだんだんと少く
なつたときに、業者
たちが
政府に対して陳情に來た。工業塩は輸入しなければならないけれども、食塩だけは、ぜひ内地で生産さしてもらいたい。もし万一のことがあ
つた場合に、日本は食塩のためにゆゆしき問題が起きて來るということを陳情しましたところ、
政府は、それは考え方が間違
つておる、日本はもはや戰爭を放棄したのであるから、安い塩を外國から買えばよいのである、そういうような考え方をすることはいけないと、こういうように、冷たくはねつけたわけであります。
しかしながら、これは驚くべきことであ
つて、なるほどわれわれは、戰爭を放棄して永久の平和を願い、塩がほんとうに外國からいつでもや
つて來るのであ
つたならば、それは塩田をつぶしてもよいのであります。しかしながら、われわれは戰爭を放棄したけれども、アメリカが戰爭を放棄したことを開かない。ソ連が戰爭を放棄したことを聞かない。そうして現に風雲が非常に急を告げている今日、あるいは他の國に内乱が生じておる今日、はたして内乱、騒動が絶対に起らないということは保障できない。そうしたときに、七十万トンからの食塩を、はたしてだれが保証してくれるかということを考えたときに、われわれは、どうしてもこの食塩だけは内地で生産しなければならないと思うのであります。
ことに、日本の塩田法は特別であ
つて、いるように
なつたら、またつくればよい、というようなものではない。外國の製塩法であ
つたならば、——鹹湖であるとか、天日製塩であ
つたならば、もちろんそれでよいのでありますが、わが國の製塩法は、外國とは異
なつた塩田法であ
つて、もし半年もこれを休止せしめたならば、塩田には草が生えて、もはや再びこれを使用することができないようになるということを、特に
政府の人は、とくと考えておいてもらわなければならないのであります。
現在、塩買上げが中止になりまして、業者は金がなくなり、それに労働問題が起きて、
労働者たちが各地に蜂起して、もし
政府が専売法を無視するならば、われわれがつく
つた塩はどこへでも出してやるのだ、いわゆる塩の生産管理に移ろうとすることさえ見えております。なお悪質のものになりますと、たとえば、そこいらで見るところの赤旗グループなんかは、お得意の植民地政策をひつさげて、それ見よ、連合國は日本に対して植民地的政策をと
つておるではないか、エジプトを見よ、インドを見よというような、実に恐ろしいデマを飛ばしておりますし、それを聞いた業者
たちは、困
つておるがために、占領政策に対して一種の疑いを持
つておるものもなしとしないのであります。われわれが、どんなに口をすつぱくして、そうじやない、終戰後塩がなく
なつたときに、連合國は増産せよと言
つたじやないかと言
つてみたところで、その声が耳に入らないのであります。このような重大な問題が起きておるときに、もし
政府が塩買上げを始めなか
つたならば、ゆゆしき問題であるとともに、
政府に、そうした共産党の人が言うような考えがなか
つたとしても、結果においては、そういうようなことが起こり得るということを、特に考えてもらいたいと思うのであります。
そこで私
たちは、ぜひ
政府が至急に塩を買上げてもらいたい、即刻買上げを始めてもらいたいと同時に、買上げただけではいけない。賠償金を適当なところまで引上げてもらいたい。もう
一つは石炭を配給してもらいたい。しかも、よい石炭が少なければ、今山に何十万トンと積んであるところの亜炭であるとか格外炭であるとかい
つたものを多分に與えてでも食塩の自給自足をするように
政府が要望して、私の
趣旨弁明を終りたいと思います。(
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