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辻井民之助君 私は、日本社会党を代表いたしまして、公務員に関する若干の重大問題について、総理大臣、労働大臣並びに
臨時人事
委員長に
質問をしたいと思います。
憲法第二十八條には、勤労者に対して團結権、團体交渉権及び團体行動をなす権利、すなわち
労働組合運動の自由を保障してあるのであります。しかるに、官公吏その他公務員に対しては、この憲法の保障する基本的人権を、國家
公務員法並びに労働
関係調整法等によ
つて、はなはだしく制限をいたしております。しかるに、今回
政府が
提案いたしました國家
公務員法の改正案並びに公共企業体労働
関係法案によりますると、この制限をさらに極端に拡大強化せんとしておるのであります。
この基本的人権の制限に対し、労働大臣並びに
臨時人事
委員長は、公務員は全体の奉仕者である、公共の福祉のためにはやむを得ない、これは決して憲法違反ではないと主張しておるのであります。私は必ずしも、この主張に全面的に反対するものではありません。しかしながら、労働階級のこれらの基本的人権は、勤労者にと
つて、その
生活を守るための実に唯一の武器であります。それだからこそ、憲法は、これを基本的人権として保障しておるのであります。
從つて、この重大な権利を制限するためには、
政府は当然公務員の
生活の保障をはかるべき責任があるのであります。この点に対しましても、
政府の二
法案に対する方針には重大な疑義を持つものでありまするが、それはあとで、あらためて
質問をすることにいたします。
次に、どうしてもやむを得ず公務員からこの重大な人権を制限する、取上げるためには、その範囲を極力縮小し、狭い範囲に制限しなければならぬと考えます。第一に申した問題につきましては、マツカーサー元帥の書簡にも、次のように述べられておる。「國家の公益を擁護するために、
政府職員に課せられた特別の制限があるという事実は、
政府に対して常に
政府職員の福祉並びに利益のために十分な保護の手段を講じなければならぬ義務を負わせている」、これは当然過ぎるほど当然なことであると考えます。しからば
政府は、この基本的人権を制限しながら、はたしてこの
政府の責任を果しておるかどうか。私は断じていなと言わざるを得ぬのであります。この事実を、ただ
給與の一点だけについて論じてみたいと考えます。
全
官公労働組合は、去る六月十二日に、
給與引上げの切実な
要求を
政府に
提出いたしました。その後数回にわたる交渉にもかかわらず、容易に解決の見込みが立たないために、遂に七月七日、
中央労働
委員会に対して、これが調停の提訴を行
つたのであります。しかるに、七月二十二日のマ元帥の書簡による政令二百一号の公布によりまして、
給與問題は中労委より
臨時人事
委員会に移されました。そうして今日に至
つたのであります。この間、実に半箇年を
経過いたしております。この半箇年の間にも、もとよりインフレはぐんぐんと高進を続け、
生活費は毎日高騰を続けて來ておるのであります。これに対しまして、民間における労働者の
賃金は、曲りなりにも物價に追随をして上
つて來ておることは、統計が明らかに示しております。
私は、このインフレ下に、六箇月間にもわた
つて給與をストツプされておる公務員の
生活の不安と
窮乏とが、いかにはなはだしいものであるかは、ここにくどく
説明を要しないと考えます。そうして、ようやく十一月の初めに至りまして、人事
委員会は新
給與ベースを決定して、これを発表いたしました。しかるに
政府は、財源がないとの理由で、ほとんどこの決定に一顧も與えず、いとも簡單にこれを拒否したのであります。そうして、
政府独自の立場より、一方的に新
給與べースを決定せんとしておるようでありまするが、これは実に重大な問題であると考えます。
臨時人事
委員会は、
從來の天皇の官吏たる古い官僚制度をぶちこわして、新しい国民の奉仕者、
國民の公僕たる民主的な公務員制度を打立てるとともに、さらに
給與、人事行政についての権限をあずかるところの機関であることは、申すまでもありません。現在の
臨時人事
委員会制度の上には、なお非民主的な点が少くない。
相当な批判のあること事実でありますが、とにもかくにも政界、経済界、学閥等の影響を防いで、
内閣よりも
相当独立した機関であることは、これを認めないわけには行かないと考えます。この
臨時人事
委員会が五箇月間
相当苦心研究をして決定しましたところの
賃金ベース——この
内容の
金額の批判は別といたしまして、この苦心に対しましては、
相当これを認めなければならぬと考えます。
わが社会党が、片山
内閣当時、同じ全官公の
給與の問題に関する
中央労働
委員会の決定を
政府に迫りまして、全面的に承認せしめたことは、なお
諸君の御記憶にも新たなところであろうと考えます。
中央労働
委員会は、いわば
政府とは完全に独立した機関である。しかるに
臨時人事
委員会は、比較的独立性が保たれておるとはいえ、総理大臣に直属する、いわば
政府内部の機関であります。この機関が決定したものを、
政府みずから拒否するというようなことでは、せつかく新しくできました人事
委員会の権威というものは、どうして維持されるでありましようか。これでは、全國二百七十万の全公務員の人事
委員会に対する信頼は、ま
つたく地に落ちるのほかはない、といわなければなりません。
次に、人事
委員会が決定をいたしました六千三百円の
給與ベースでありまするが、
政府がのむことができないほど高過ぎるかというならば、断じて私は高過ぎない、低過ぎても高過ぎはしないと考えるものであります。(
拍手)全官公が今
要求しておりまする額は七千三百円であります。これも私は決して高過ぎるとは考えない。しかしながら、経済復興が容易に進まず、一般の勤労者がはなはだしい
窮乏の
生活にあえいでおりまする今日、公務員といえ
ども、また最低の
生活に耐えるべきであると考えます。かような見地から、社会党におきましては、全國工業從業員平均
賃金、あるいは消費者物價指数、その他あらゆる信用するに足る統計や資料に基きまして、最も合理的に新しい
給與ベースを算定し、決定したのでありますが、これによれば、七月から十二月までの
給與額は六千六百円であります。これによ
つても、人事
委員会の決定が断じて高過ぎるとは考えられないのであります。
しかるに
政府は、財源を理由にして、これを拒否したのである。財源によ
つてこのような
給與を決定せんとするのは、本末轉倒であるといわなければなりません。現在のこの最低
賃金は、公務員がその
生活を再生産するための、絶対的な、何らのゆとりもないところの最低の
生活費であります。
政府は、物資を
購入する場合、
予算がない、財源がないの理由をも
つて、一くれの
石炭といえ
ども、生産費以下の價格によ
つて入手することができるであろうか。断じてできないはずであります。財源がないというのは、資本家的な立場に立
つているがためでありまして、勤労階級の立場に立ちますならば、確かに困難であることは認めるが、断じて財源を見出せないはずはないとわれわれは確信いたします。(
拍手)この点につきましては、やがて
追加予算案の
審議にあたりまして、具体的にこれを
諸君に示す考えであります。
民間企業においてならば、資本家は財源を理由に労働者側の正当な
要求を拒否することも自由でありましよう。そのかわり、資本家階級に対しては、労働者にもまた、その正当なる
要求を貫徹せんがために、最後の武器たるサボタージユ、ストライキ等によ
つて闘うことが許されているのであります。しかるに吉田
内閣は、公務員に対して、全体の奉仕者、公共の福祉を理由にして、憲法の保障する
生活防衛のための唯一の武器を奪い、手も足も縛り上げておいて、食うこともできない
給與を一方的に押しつけんとしているのであります。吉田総理大臣が、労働者の指導者を不逞のやから呼ばわりをしたことは、実に有名であるが、これでは、公務員を不逞のやからどころではない、まさに奴隷扱いせんとするものであると言
つてさしつかえないと考えます。(
拍手)
憲法十八條には、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。」と規定している。私は、吉田
内閣のかくのごとき態度は、マツカーサー書簡の
趣旨にも反し憲法を躊躇するものであ
つて、か
つての東條軍閥以下の日本軍閥のフアシヨ的な態度と何ら選ぶところがないと断言してはばからないものであります。