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中原健次君 私はまず、
吉田内閣成立の前に先だちまして、いわゆる首班指名の投票の行われました当日のことを思い起すのであります。
吉田茂氏に対する信任の票とも考えらるべき百八十五票なるものは、はたして
國会の多数の信任を意味するでありましようか。
國会の多数に達せざる少数をも
つて、一應手続的には
吉田氏が多数を獲得したということによ
つて、首班と
決定されたわけであります。従いまして、いわば
國会の多数は、
吉田氏に対してはこれを信任せず、という
意思表示をいたしたと見ることも、また間違いではないと考えるのであります。そうであるならば、そのような特別の事情のもとに一應成立を見なければならなか
つた吉田内閣なら、その
吉田内閣は、
組閣を完了すると同時にはたしてその
吉田内閣が、この危局に瀕するわが
日本の國政を担当するだけの信任をもてるものなりやいなやについて、一應その信任を問うべき手続をとるべきものではなかろうかと私は考えるのであります。(
拍手)しかるにもかかわらず、
吉田氏は何らその手続に出ることをなさず、ただ漫然として、このまま、いわばほおかむりのままにおいて自分の
政策を行わんといたしておるのであります。従いまして、今回第三回
國会の
劈頭において、
吉田氏はその
施政方針の御
演説ができないということも、またあまりにも当然であるかとも考えるのであります。
今日、
國会並びに
政府に対しまして
國民が向けている注意は、一体何であるか。
國民が鋭く集中している問題は、いわゆる相次いで暴露されました、すなわち古今未曽有ともいうべき政界、
官界、
財界を通ずる
疑獄事件であることを、われわれは否定することができないのであります。そうであるならば、そのような醜惡限りなき状態を続けておりまするならば、今日の政界、
財界、
官界等に対して、はたして
吉田内閣は、これを言うがごとくに
粛正し浄化するだけの確信を持
つておいでになるのであるかどうか、このことについて首相の御
所信を承
つておきたいのであります。
なるほど
吉田氏は、第三回
國会召集の場合に、この
國会は各種案件を
審議する資格がないとか
意思表示をしておいでになられました。私もまた、その言葉を否定しようとは思わない。しかしながら、その資格なきがごとき今日の第三
國会、その第三
國会に、はたしてそのような認識を、ほんとうに心の底から持
つておいでになるとするならば、なぜ勢頭
國会解散の挙に出ずるの確信をお持ちにならないのであるか。私どもは、この間のあいまい模糊たる首相の
態度に対して疑惑なきを禁じ得ないものであります。(
拍手)
私どもは、その最初、今回の指名さるべき首班は、そしてその
内閣は、あくまで
選挙を管理する
内閣であるべきものであ
つて、國策を行うべき筋合いのものではないということを、その初めにおいて断じた次第でありまして、私どもの
見解によれば、この
吉田内閣は國策をいささかも行うべき資格がない、
吉田内閣はただちに
國会を
解散し、その信を
國民にたずねた結果として、その結果における多数党が初めて
國民の信任にこたえる國策を行うの資格あるものであるということを、われわれは信じたのであります。
しかるに
吉田内閣は、このまま、場合によれば、ほおかむりのままにおいて國策に手をつけようとするの
態度を持
つておることを、見のがすわけにまいらぬのであります。何となれば、昨日われわれの手もとに配布されました
國家公務員法一部
改正に関する
法律律案、それであります。
吉田内閣は、
國家公務員法の改惡をこの際断行して、まず
吉田内閣の施策の最初の小手調べとせんといたしておるようでありますが、はたしてこの
國家公務員法の
改正法律案なるものが、
國民のこれを了承すべきものであるかどうかについて、われわれは非常な異存をもつものであります。
何となれば、
國家公務員法の
改正のその一番基本的な問題とも言うべき、いわゆるマ元帥の書簡のそれでありまするが、マ元帥の書簡によれば、國家の公益を擁護する
ために
政府職員に課せられた特別の制限があるということのその事実は、
政府に対して、常に
政府職員の福祉並びに利益の
ために十分なる保護の
手段を講ずべき義務を負わしめていると、まずマ元帥は、その書簡の中に、明確にこのことを規定しておいでになるのであります。そうであるならば、
吉田内閣は、この
國家公務員法の一部
改正の
法律案を出す前に、この
政府職員の福祉並びに利益の
ために十分なる保護
手段を講ずべき義務を果すことをなぜなさらないのであるか。(
拍手)
この
公務員法の
改正問題に関連しましては、もとより、ひとり
吉田内閣のみにその責任があるとは申しません。これはその先、
芦田内閣が、いわゆるマ元帥の書簡に対する解釈といたしまして、世評その書簡を、あるいは示唆と申し、あるいは勧告と申しておるにかかわらず、
芦田内閣は、これを命令なりと解釈いたしまして、いわゆる八月危機に備えるとか申し、その立場から、あわただしくも政令二百一号を公布いたしまして、しかしてこの政令二百一号によりまして、わが
國民に保障いたしておるはずの基本的人権を根こそぎくつがえすかのごとき、いなむしろ、くつがえすの暴挙をあえていたしたのであります。その
芦田内閣の措置をそのまま受取りまして、そのままそつくり
吉田内閣がまたそのあとを踏襲せんとするの挙に出ておることを、われわれははなはだ遺憾と存ずる次第であります。ことに、このマ元帥書簡に関連いたしまする政令二百一号の問題のごときは、今後非常な
関心をも
つて、きわめて愼重にこのことは取扱わなければならない問題であるにかかわらず、
吉田内閣は、それを何ら苦慮するところもなく、安々と
國会に上程するの挙に出ておるのであります。
本來新憲法は、
國民の基本的人権に対しては、きわめて周到なる保障を約束いたしておるのでありまするが、この問題を軽々しくくつがえして何ら顧みるところなきがごとき
態度は、今日民主主義國家建設のことを言われておりまする段階において、はたして許さるべきことであるかどうか。われわれは、この問題について、あくまで抗議なきを得ないものであります。しかるに、マ元帥の書簡の最も重要なる一点であるところの、國家
公務員に対する生存権確保の問題にいささかも触れるところなく、ただひたすらに官業労働者の彈圧にこれ努めて、そうしてわが
日本の資本主義的経済再建を意図いたしまする者どもが、その欲するがままの
政策を確保せんとする意図に出ておるということは、これまさしくマ元帥の書簡に対する、まごう方なき背反
行為であると、われわれは断ぜざるを得ない次第であります。(
拍手)
今日置かれておりまするわが
日本の経済諸事情のもとにおきまして、きわめて大切なる一点は、いわゆる賃金問題の安定処理でなければならないと考えておりますが、この賃金問題に対するその安定への処理方策について、はたして
吉田内閣は、その確信あるものをお持ちにな
つておいでになるかどうか。われわれは、この点はなはだ疑いなきを得ないものであります。今日置かれているきわめて重要なる問題、すなわち價格
政策並びに賃金
政策問題に対しては、
吉田内閣の処理の基本的
方針が明確に表明されなければならないものであると考えるのであります。しかるにかかわらず、
吉田内閣は、この問題に対して何らの施策を持たないばかりか、きわめて重要であるべきはずのインフレーシヨン処理問題等については、その初めから、
民主自由党そのものの中に、インフレーシヨンに対する基本的な処理方策を持たなか
つたばかりか、
吉田内閣そのものが、すでにこの問題に対して何らの施策を表明しておらないということとの関連において、私どもは、このマ元帥書簡を得たりかしこしとして、ここに労働階級彈圧の積極的
態度に出ることに対して、わが
日本の一千万労働階級の名において
決定的に抗議をいたすものであります。(
拍手)
さきに、電産並びに
石炭あるいは日立等々の各産業部門から、賃金問題の処理については、これらに対する紛爭をいろいろ余儀なくいたしている現状でありますが、今日
吉田内閣は、どのような基本的な考えを持
つて、この賃金安定処理問題に対して臨まんとしておいでになるのであるか。われわれは、このことについて
吉田内閣の誠意を疑うものであります。
さらに、このような諸事情のもとにおいて、今や問題として取上げられておりますものに、
人事委員会の
給與改訂に関する勧告書の
提出問題がありますが、この
人事委員会の
給與問題に対する勧告書に対して、はたして
吉田内
内閣は、どのような御
所信を持
つておいでになるのであるか、もちろんわれわれは、この
人事委員会の
給與ベースのそれに対しまして、必ずしもこれを全幅的に承認するものではございません。もちろん、この賃金基準の数字は、いまだなおかつ、はなはだ不満足であるけれども、しかし
吉田内閣は、この
人事委員会の勧告に対しまして、必ずしも誠意ある
態度を示しておらないというこの現実を、われわれはまた、あわせて指摘せなければならないのであります。
吉田内閣は、この当面する諸問題に対して、はたしてどのような
見解を持
つてこれに当ろうとしているのであるか。しかも、
施政方針の
演説をすらあえてなし得ざる
吉田内閣が、相次いで起るこれらの直面する重大問題に対して、これをどのようにあんばいせんとするのであるか。われわれは、この問題に対して、
吉田総理の責任ある
答弁を要請する次第であります。(
拍手)
〔
國務大臣吉田茂君
登壇〕