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中村(俊)
委員 私は今の点について、一言だけ
法務総裁に
お尋ねいたしたいと思います。私の
法務総裁に
お尋ねし、また
希望いたすことは、
法務総裁が
法律についてお詳しくないということと、それから政党政派に何ら御
関係のないということが、私は非常にけつこうなことであると思う。この際私は御質問申し上げて結論をお願いしたいのは、近來檢察ファショの声が高いのです。そこでこの問題は田中君に嫌疑があるかないかということが問題にな
つているのですが、私は一種の檢察ファショの現われだと
考えております。一例を申し上げます。先般栗栖國務大臣が涜職の嫌疑で強制処分を受けました。これは私の
見解によれば明らかに憲法違反でございます。と申しますのは憲法第七十
五條に、「國務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。」という現定があるのでございます。訴追ということは、御承知の
通り起訴をするということでございますが、当時檢察廳の
考え方は、第十四條の國民は平等だという立場によ
つて、強制処分は訴追でないのだからいいという
見解を発表されたように思うのでございます。ところが憲法は、決して
刑事訴訟法の
規定を書いているものではありません。憲法は國の進むべき大綱を示すものでありますから、憲法の條章は、その精神が最も必要なものでなければならぬと、私は
考えております。
從つてここで追訴という言葉が使われておりますけれども、これを
刑事訴訟法上の起訴と同じものと解釈することは問題ないと思うのでありますが、起訴する場合においては、その在任中は内閣総理大臣の同意を得なければならぬと私は
考えている。これは國務の遂行の方が重大なのだ。かりに國務大臣に
犯罪の嫌疑があ
つても、國務の遂行に支障を來すために七十
五條で保護されているものだと私は
考えている。
從つて犯罪の嫌疑が濃厚であ
つて起訴しなければならぬ場合においては、内閣総理大臣の同意がいるのだから、捜査途上にある強制処分は断じてなし得ないと、私は確信を持
つてお
つたのです。この私の
見解を裏づけるもう一つの理由は、皇室典範の第二十
一條に「攝政は、その在任中、訴追されない。」という
規定があるのでございます。今の
時代でございますから、攝政と國務大臣と何らそこに区別はあるべきでありません。攝政は陛下にかわ
つて國事を担当するものであり、國務大臣は國政を担当するものであります。その國事を担当する攝政の在任中は、これは同意も何もなく、訴追は断じて許さない。その訴追を許さないという皇室典範の二十
一條の
規定を、
刑事訴訟法の解釈と同じく、訴追だけが許されないので、強制処分のみはできるのかという問題になるのでありまして、この
考えから言いましても、あの國務大臣を強制処分をしたことは明らかに憲法違反であり、檢察ファショの大きな現われであると確信いたしておりました。ところが当時栗栖氏は民主党でありましたので、民主党からああいう嫌疑者を出したために、わが党といたしましてはこの
法律上の
見解に明らかにしなか
つた。しかし幸いにしてこの私の
見解は京都大学の佐々木惣一博士並びに大石義雄等の憲法学者などが全面的に支持してくれた。
從つて私はこの問題については一種の確信を持
つているのですが、かくのごとく一種の檢察フアシヨというものが行われつつあ
つた。ところがこのたびの田中君の問題です。御承知の
通りあれは家宅搜索である。これは
刑事訴訟法の
應急措置法によりましても、これは
判事の
搜査令状を持たなければやれないという
規定にな
つております。しかもその
措置法の第七條の二項でありますが、「
檢察官又は
司法警察官は、
裁判官の令状がなければ、押收、搜索又は檢証をすることができない。但し、現行犯人を逮捕する場合及び勾引状又は勾留状を執行する場合は、この限りでない。」但書があ
つて、現行犯人の場合はよいけれども、その他の場合には
裁判官の令状がなければならぬということにな
つている。この
法律の趣旨からい
つても、嫌疑があ
つて初めてそこに搬査令状という強制的な処置がとり得るのだと私ら
法律家として信じております。ことに今政界、官界、実業界を問わず、疑獄がうず巻いておりまして、天下の視聽を集めている。現内閣は
法務総裁も御承知の
通り、まず綱紀粛歪ということを第一に掲げております。そのときにその内閣のもとで皮肉にも、こともあろうに田中法務政務次官の家宅搬索をするということは、これはよほど愼重な感度でやるべきだ、愼重であらなければならぬと私は
考えているのです。私はきのう
法務総裁が、突発的なことであ
つて、十分なる調査もなくお答えにな
つたことを責めようとは思いませんけれども、嫌疑がなくと家宅搜索がなし得るか、私は疑問を持
つている。何か嫌疑になるような証拠があ
つたから家宅搜索をしたのであ
つて、田中法務政務次官に嫌疑があ
つたとは思わないときのうお答えにな
つたように、私は直接聞いて知
つておりますが、それならば田中君に嫌疑がない場合には、任意に書類を提出させるという
方法をとらなければならぬ。第二の檢察フアツシがここに出て來たのだ。私はこれを非常におそれているのでありまして、從いまして今も條文を読みましたように、これは新しい
刑事訴訟法ではありません、古いのでありますけれども、現行の
刑事訴訟法にも、家宅搜索につきましては秘密を守らなければならぬというようなことは特に書かれてあるわけです。だから家宅搜索をやるということは、今も言いましたようにこういう強制力を用いるというときには、必ず嫌疑がなければや
つてはならぬことだと私は確信している。
從つてこの問題につきましては、第二の檢察フアシヨがここにあるのだ、しかも皮肉にも、最も檢察の中心である法務廳の法務政務次官の家宅をああいう強制的な
方法によ
つて、しかも田中君に嫌疑がないとしてああいう強制力をとられたということは、これは檢察フアシヨである。この点はきのう一應田中君に嫌疑がないということを維持するために、あるいは
法務総裁がそう言われたのかもしれませんけれども、それなら檢察フアシヨです。もしも檢察フアシヨでないというならば、田中君に嫌疑があ
つたからああいう強制力を用いたということは当然なことだと思われる。この点はいずれにしても
法務総裁としては、もしも田中君に嫌疑がないということを確信をも
つておつしやるならば、あなたはいわゆる政党政派に御
関係のない立場におられ、しかもむしろ
法律にしろうとであられた方がよい立場におられる方として、私は多大の期待をも
つて、断固としてこの檢察フアシヨを押えていただかなければならぬと思う。もしも檢察フアシヨでないのだということであるならば、はつきり田中君に嫌疑があ
つたから強制力を用いて家宅搜索をしたのだとおつしや
つていただくのが、正しい立場におられる
法務総裁の言じやないかと思うのでありますが、これに対するあなたのお
考えを伺いたい。