○末弘
公述人 公務員の
労働関係を、
一般の
労働者と同じような
法規で必ず取扱わなければならないかということにつきましては、私にも
一つの
意見がございます。しかしもしもこの際
公務員法を
改正して、
一般の
労働者の違つた取扱いをするというならば、本來からいえば、ほんとうに
國会あたりでひとつ
委員会を特別につくられて、今の
労働事情というものをお調べになり、また
外國の方々の実例あたりをもお調べになりまして、愼重に研究をして提案になられることが、本來の筋合いであると私ども感じております。その
意味において、今度のようにマツカーサー元帥の
書簡が與えられたことがきつかけとな
つて、どうも私そとから見ていると、
政府においても、十分に私が今希望するような
意味においての研究調査をされずに、今度の原案が出ているということに対しては、非常に私は遺憾に考えております。このことは今回の問題には直接
関係はありませんが、今年の初めから
労働組合側からしきりに
労働法改惡絶対
反対云々の運動が起り、しかも一面いろいろの政党の側では、
労働法を
改正しなければならないということを言われたり、あるいは今度の内閣もそういうことを言われておるやに新聞紙上で傳えられておりますが、これらのことを私ども見ておりますと、たとえばイギリスの例なんかで申しますと、こういう大きな
改正をしようというならば、非常に愼重なる調査をして、その調査の結果、ほんとうに何人も
納得できるような根拠を見出して
改正をしているので、そういうことをやらないで、
公務員法改正から何かこれに便乘して、
一般の
労働法までも何ということなしに
改正してしまおうという、そういうことをや
つてはいけないのであるということを私は考えておりますので、根本の考え方としては、今度のような形で
改正案が出て來たことに対して不満を感じております。しかし同時に実際問題として、今この機会において、その点についてただいまの土橋さんのような直接の
利害関係者から根本的な
反対論をお話になることはしごくごもつともだと思いますが、その点について私の
立場からいろいろこまかいことを申し上げても、この機会は不適当であるように思いますので、私はきようは、少くとも今の原案に対してこれこれの点だけは簡單に修正もできることであり、しかも非常に重要な点だと思う点を三点だけ申し上げます。これをぜひ実現方について、何らかお考え願いたいということを考えております。
まず第一の点は、今度のマツカーサー元帥の
書簡をよく読んでみればわかるように、決して
公務員の
組合に、
團体としての
意見を述べることを禁じておらないのであります。それでその
意見を述べる方法というものについては、いくらでも形式が考えられるのであります。大体
公務員の場合でも、そういうふうな
一般の
日本の
労働組合が行き過ぎだとか、いろいろなことを言うておられますけれども、私の実際見ておるところでは、実は
團体交渉の長年の習慣ができておらないために、
團体交渉がまずいのであります。
團体交渉の作法が惡い。
團体交渉のやり方がまずい。そういう点に対する批評があるのであります。
公務員の場合にも、
團体交渉の
一つの形式というものを考えればいいわけであります。それでこれはすでに皆樣御
承知でありましようし、それから現にこの
公務員法の問題が対日
理事会で問題になりましたときに、イギリス連邦の
代表であるパトリツク・シヨー氏は、特にイギリス本國及びオーストラリアにおけるこの
公務員の場合の交渉形式のことを詳しく紹介されております。この方法で交渉をなさしめていいのだ。そうしてイギリス
関係の諸國においては、すべてりつぱに成功しておるのだということを言
つております。これに対してアメリカ側の方も、非常に建設的な
意見を伺
つてありがたいという返事をされたということが、新聞紙に報道されておるのであります。この方法と申しますのは、この機会は詳しく述べる機会ではありませんから、お尋ねがあれば別の機会にいくらでも申し上げますが、私以外にもりつぱなこういうことの專門家の学者が方々の大学にもおられますから、資料ならばいくらでもとれます。簡單に申しますと、イギリスでは御
承知のようにこの前の世界大戰の中ごろから、
労働問題を解決するために、時の多分軍需大臣であつたのでありましよう。ロイド・ジヨージ氏、あの人の発案であわゆるホイツトレー・コンミツシヨンというものを方々の職場につく
つて、労資の混合
協議会的なものをつくつたのであります。これが間で非常に成功をしておるので、やがて
公務員の
労働組合において、これを
官廳の場合にもぜひ取上撮てああいう方法をやろうというので、遂に何らこれは
法律に根拠はないのでありますが、イギリスでりつぱに
——つまり言うと、
組合側から一定数の交渉委員を出させ、
政府からも交渉委員が出て、各
官廳ごとに、また
一つは統一的な
委員会をつくりまして、そうしてそこでどういうことを議題にするかが、ある一定の協定ができてきま
つております。そうして一定の方法によ
つてや
つておりますが、特に
給與の問題などにしても、そこで十分話合いをした上で
政府がそれを
國会に出す。究極の決定権は
國会にあることはむろんでありますが、その
國会に出すまでに十分その
委員会で檢討をして、そうして
労働者側の
意見を聞き、また
政府の
立場から
労働者側にも
納得をさせて、そうしてこの原案をきめて
國会に出すというような方法をや
つておるのであります。こういう方法をとることは、マツカーサー元帥の
書簡にありますように、何も
労働組合と
政府でことをきめてい
つて、
國会を圧迫するようなことにはならないので、現にや
つております。ぜひこの問題を考えていただきたい。これは私は実際問題としては、ほんとうは
公務員法の
法律の中に何らかそういう
規定を置くがいいと思いますが、もしもこの際それがいけないと思われるならば、あるいは附帶決議的に、そういうことを実際にやれるような道を開くことをおきめになるようなことも
一つの方法でありましようし、あるいは
人事院規則をも
つてそういうことをきめさせることもいいのでありましようが、いずれにせよ、
政府が一方的にいろいろなことをきめて、ことに
給與の問題などをきめて、上から天くだりに與えるという方法は、民主的だとか民主的でないとかいう
言葉の問題ではなくして、そういうことでは今のような、ことに
一般に
生活の苦しいときに
納得するはずがないので、やはり
納得をさせるためには十分交渉をさせるということを、こういうような方法であることができるんじやないかと考えますので、この問題をひとつお考えを願いたいと思います。
それから第二の問題は、今度の
法案で、いわゆる
労働三法をすべて
公務員からはずすということを考えておられるようでありますが、この点につきましては先日中央
労働基準
委員会——私ここでも会長をいたしておるのでありますが、そこで決議して
政府に建議をいたしておりますが、か
つて戰前、工場法の時代
——あの時代に工場法というものは、
政府の國営の工場にも
適用があつたのであります。ただ
政府の仕事だから
法律違反は起らないだろうというふうに頭からきめて、それでいわゆる工場監督ということを行わないのであります。
政府は惡いことをしないときめているのであります。そうして罪則と工場監督ということを行わないのであります。その結果、最も工場法違反的な現象があるのは役所であります。これは私は戰後
組合の要求によ
つて、二、三の実際の
官廳関係の職場を調べた実例があります。それなぞの中に、明らかに現在でもきわめて基準法違反明瞭だと思うようなことがざらに私どもに見えるのであります。それで先日中央
労働基準
委員会では
政府に対して、基準法を
政府ははずさないということを
原則で言
つておるのでありますが、もしもはずすならば、
公務員について、やはり
公務員に適当した基準法的な
規定を
公務員法の中につくれ、それから最も大事な点は、その基準
法規が完全に行われるために、監督制度を
はつきりしなければならない。今までの
経驗で、
政府が自分で自己監督をするというようなことではだめなのです。それで御
承知のように
労働基準法による基準監督官というものは、ある程度の地位の
保障が與えられております。地位の
保障が與えられておりませんと、昔の工場監督官のように、少し監督を嚴重にやると免職に
なつたものであります。私の弟子であるある法学士は、か
つて非常に誠心誠意私の講義を聞いて、感心した結果でありましよう。誠心誠意工場監督を嚴格にやりましたために、ただちに免職に
なつた。それで今度の基準法では、基準監督官の地位の
保障をや
つております。そこで
公務員法において、
公務員についても基準監督制度を
はつきりきめて、これはやはり自己監督をするのじやなくて、基準監督制度によるあの監督官、いわば地位の
保障せられた、ある程度
第三者的なものをして監督せしめるということをやらなければいけない。ところが今の
日本の役所は、何だか役所がそういう監督官などというものに監督されることを、いかにも権威に関するかのように考えておるのでありますが、これはそもそも非常な誤りである。ぜひとも監督ということについては、今の基準監督官のような、地位の
保障された
第三者をして監督するようにしてほしい。それで監督事務というものは、そう簡單ではありませんから、
人事院で簡單におやりになるということを、もしも
人事院でおつしやつたならば、これはだめだとお言いにならなければだめである。これは相当
経驗を持ち、訓練されたものでなければできない仕事であります。そうして私この問題を思
つてみますに、もしも
公務員の
労働組合運動が非常に行き過ぎであ
つて不都合であるから、これを押えなければいけないというならば、一方でマツカーサー元帥の
書簡にもありますように、十分厚生福利、その
方面、すなわち基準法的な面を十分に充実しなければいけない。そうしてそれが十分正確に行われるということを
保障しなければいけない。それには監督制度を嚴格にしなければならないというところにつながるのでありまして、これは決してただ
労働三法を簡單にはずすのがいいとか惡いとかいう問題ではなくして、
公務員の
労働組合運動に何らかの整理を加える必要がありとせば、ぜひとも他面そういうことをやらなければいけない。そうして
日本の今までの役所は、その点において非常にいけなかつたということを特に頭に入れていただきたい。
それから第三に、今度の
改正案によりますと、
労働三法をすべて
公務員を
適用からはずすということになります結果、今のままで行きますと、
労働委員会というものは、全然
公務員の
労働問題に
関係がなくなるのであります。現に問題の政令が出ましてから以後、調停斡旋等もすべてやめろというようなことで、やらないことにな
つて、今日に及んで來ております。しかしながら実際にこういう実例がありますことを、
一つ御
承知おきを願いたい。実はあの
公務員の
給與の問題の大きな調停問題で、七月の末に大騒ぎをや
つておる、あの前から國立病院及び國立療養所の待遇改善の問題の調停を私どもの
委員会でや
つておつた、これもあの政令の結果やめた。しかしながら私どもあの國立療養所及び國立病院の
労働事情というものを調べてみまして、こんな怠慢なことを今まで一体
日本の
政府はどうしてや
つておつたか。こんなことをしたらば、この戰後の、さなきだに
國民の健康
状態が衰えるおそれがあるという状況のもとにおいて、待遇、施設その他の
関係から
日本のああいう公営の、つまり比較的安い値段で、あるいは無料で
國民のために療養をする施設としてわずかに残されておるところの國立療養所、國立病院というものは、その待遇及び施設の面から、もう現に崩壞しつつある。看護婦のごときは、ひどいところになると、定員の六〇%くらいしか得られないのであります。それから医者にしても食えないから來ない。それで非常に
労働過重になり、十分な能率を発揮しておらないのであります。それで私どもの
委員会では、幸い今の政令の間は調停斡旋等はしちやいかぬということにな
つておるというので、
労働組合法第二十七條によると、調査するという
権限及び建議するという
権限が今なお残
つているものをわずかに私ども利用いたしまして、さらに一層調査を進めまして、その調査の結果を厚生大臣にも、
人事院にも、またこちらの厚生
委員会の方にも、参議院の厚生
委員会の方にも提出したのがありますが、御
関係の方はぜひごらんを願いたいと思うのであります。そういうふうに、
公務員と申してもいろいろあるのでありまして、しかもそういう
日本國民の今後の
國民保健の重大な面の
労働問題というものが、お役所にまかせておけば非常な欠陥をも
つてほうり出される。これを見つけて來る者は
労働者である。そしてこれを訴えて行く場所というものが、もしも今度の
公務員法がこのままで行つたならばございません。
人事院に來たらよいじやないかと言うが、
人事院はパトリツク少佐もおつしやつたように、結局
人事院はエンプロイヤーであります。
労働委員会というのは御
承知のように、見方によ
つては中立委員のほかに
労働者、
使用者の委員もお
つて、あれはどうも勝手なことを言うて厄介な委員だと言われる方があるかも知れませんが厄介なところがあの
委員会の特長なんであります。つまりあすこにこそ訴えて行けるのであります。あれはやはり訴える場所として非常に適当な
一つの
機関なんであります。それで今度の國立病院、國立療養所の場合のごとき、実際に厚生省の事務当局においては、われわれの申し出しました建議書というものを非常にくわしい
理由がついていますが、非常にまじめに取上げて考えたのであります。ただそれを妨げるものは大藏省であります。大藏省は何もわからないで、ただ当面の赤字がどうだ、こうだというようなことばかり考えて、
國民がそのために死んで行く、
國民の健康
状態が下
つて行くというような根本問題は考えない。これは内閣が全体として根本的に考えるベき問題、それから
國会がまたお考えを願わなければならぬ問題である。私どもも
公務員の全体の調停その他の問題で、私どもの手から離れます問題についてとやかくは申しませんが、やはり
一つのそういう不都合なことを見つけて申し出して來るのは、これは働いておる人が一番よく知
つておるのであります。そういう人が申し出して來た場合に、公正なる
第三者が調べて、これを建議をするということを通してそういう不公正な不都合な
状態がなくなるようにということは非常に大事なことなんであります。私はぜひともこれは中労委だけでなく、地労委も含めて、
労働委員会の
労働事情の調査及び建議に関する
権限というものを
公務員についても残しておいていただきたいと思います。これを通して、
政府はやつかいなそういうことはおきらいかもしれませんが、いわば一種の民主的お目付役を全國に配
つておく方がよいのであります。そこで
労働委員会の調査報告が不
公平であるとか不公正であるとかであれば、世間が批評いたします。また皆さんが批評なさればよいのであります、決して
労働委員会は、みずからとしてはそういう不公正なことをするわけではないので、できるだけの公正なる
立場をも
つて調べる、この問題はかくあるべきである、こういう
意見を述べるべき
機関であり、述べなければならないと私ども思
つておるのであります。以上三点、時間がありますればもつといういろいろわしくお話し、殊に
最初のイギリス風の交渉
委員会の制度のごときは、ぜひこの際御採用願いたいと思うので、くわしく申し上げたいのでありますが、この際は申し上げないことにいたします。
最初に申し上げたように、終りに一言つけ加えておきたいのは、どうも
公務員法改正から何か全然りくつなしに、これにつなが
つて一般の
労働法規を
改正するのだというふうな空氣がだんだんできておるようであります。私どももむろん今から三年前に
労働組合法をつくつたときには、
日本にほとんど
労働組合がない、あるいは
労働運動のないような
状態で白紙の上につくつたのでありますから、その後の
経驗によ
つて労働組合法その他を
改正しなければならない面が多々あるということは十分考えております。しかしこれを
改正するについては、先ほども申しましたように、ひとつ
國会において
國会議員のみ、あるいはそれにそれ以外の專門家をも加えて、ほんとうに
公平な
立場から事実を調べていただきたい。そうして事実を調べたことに基いて報告書を出していただきたい。そうしてその報告書に基いて、ほんとうにこれはなるほどもつともだと、たれしも思うような
改正が行われることを、私どもぜひや
つていただきたいと念願いたすのでありますが、そうでなしに、今度の
公務員法改正の場合のように、何らか時の動き、力に動かされたまま、何ということなしに、りくつなしに法制を
改正して行くということは、なすべきではないと考えておるのであります。特にお考えを願いたいことは、今のところは
外國法を参照するというようなことが、アメリカ法の場合以外は事実
日本で行われておりませんが、
外國法の参照ということは、たとえばアメリカの今の
公務員制度がこうな
つておるというのにはあの國の歴史もあり、政治的事情、経済的事情、いろいろなことでああいうふうにな
つておる。それから紙の方にはああいうふうに書いてあるが、アメリカの制度だ
つて実際にうまく
行つておるか、
行つてないか、調べてみればよくわかるので、この点については私ども多少の事実を知
つております。それから世間ではよくタフト・ハートレー法が出たから、
日本も何かあんなことをやろうということを簡單に考えますが、ああいうものが出たり、また今度あれが廃止されるとか
改正されるということは、それぞれ非常に裏にいろいろな事情があるのであります。どうか十分に
日本の事情をお調べを願いたい。
外國の法制の比較研究もされたいのでありますが、これがただ條文の形の上だけをお調べになるというようなことでなしに、ほんとうに科学的に
外國の実例等をもお調べを願
つて、
日本の
労働立法をいかにすべきかということをぜひ御研究を願いたい。その上で
改正を実行していただきたい、こういうことをこの際つけ加えてお願い申すわけであります。時間がありませんので、簡單で意を盡しませんでしたが、申しました三点は、私は今のこの段階でも、何とかお考えになろうとすればできることだと、私は私の知
つておる限りの事情では考えられることであります。これはくだらないことのようでありますが、案外急所にふれておる大事な事だと思いますので、ぜひお考えを願いたい、こう考えます。(拍手)