○武藤(運)
委員 國立癩療養所の
施設並びに
生活改善に関する
請願につきまして、その
請願の要旨を
説明いたしたいと存じます。まず申し上げておきたいことは、この
請願は全國五箇所の
國立癩療養所すなわち栗生樂泉園、東北新生園、駿河療養所、菊地惠楓園、星塚敬愛園の入所
患者一同合計三千二百七十六名の共同
請願でございます。ただいま
委員長から簡單にという御注意がございましたので、御趣旨に沿いましてなるべく簡單に
説明したいと存じまするけれ
ども、かような
請願でございますから、多少詳細にわたるかもしれませんが、お許しを願いたいと存じます。
まず第一に申し上げたいことは、癩療養所に終身隔離されている
患者の立場についてであります。一たびこの病を病むや、終生癒ゆることかたき病苦と鬪い、牢固として拔くべからざる社会的因襲の重圧に苦しむ
癩患者は、か
つて健康であ
つた日の美しき夢と希望を失い、あたたかい肉身とのきずなを断
つて、この人生を癩
病院に終らねばならぬ悲しい運命のもとにありますが、なおその上に結核等を併発して、二重三重の病苦に苦しみ悩まねばならぬ実情は、全國五箇所の
國立癩療養所における死亡
原因の六〇%が、結核である統計を見ても明らかでございます。実はこの趣旨の
請願につきましては、從來も國会並びに政府当局に対しまして、再三いたしておるのでございますけれ
ども、いまだ十分にこれが実現せられておらぬことは、まことに遺憾と申さねばなりません。
第二、療養所の
医師看護婦その職員を増強し、
癩患者の療養
生活を安定していただきたいと存じます。現在結核療養所は、
患者六名に対して看護婦一名の割合でありますのに、癩療養所は
患者六十六名に対して看護婦一名というま
つたく比較にならない現状であります。國の
医療機関である國立の療養所において、このような差別的な扱いがなされるということは、
癩患者にとりましても非常に遺憾であり、看護婦が少いために、
患者が
患者を看護しなければならないという実情でございます。もつとも同病相あわれむという精神から、これを進んでいたしてはおりますけれ
ども、肉体的にはおのずから限度があるのでありまして、このような
状態に長く置かれますことは、決して療養
生活の万全を期するゆえんではないのであります。少くとも
患者二十名に対して看護婦一名、
患者八十名に対して
医師一名その他の職員を増強して、この療養所に苦しむ
患者の療養養
生活を安定していただきたいと存じます。
第三、療養所の職員の
待遇を改善していただきたいと存じます。
癩患者の日常より感謝しておるこれらの職員は、おおむね親戚知己の反対を押し切り、世の因襲的偏見と鬪いながら、朝に夕に
患者を献身的に看護し、あるいはよき相談相手とな
つて、物心両面にわた
つて愛の手を親しく差延べておるのであります。しかるに人員不足による労働過重と給與の不足は、著しくその
生活の基礎を脅かし、あるいは病に倒れ、あるいは心ならずも離職される場合も少くないので、職員の定着率はきわめて低いのであります。特に癩療養所は、おおむね僻陬の地にあ
つて、文化の惠みに浴すること乏しく、その子女の教育、就職、結婚等すべて人知れぬ悪條件のもとに置かれておることが、いよいよ前期の事情を悪化させておるものと
考えます。どうかかような実情を御了察くださいまして、適切なる措置を講ぜられんことを望む次第でございます。
第四、療養所に夫婦舎を創設していただきたいのであります。現在療養所に收容されておる夫婦
患者は、十二壘半の部屋に四組、あるいは三十六疊の部屋に十五組の夫婦が雑居
生活をしておるのであります。
引揚者、戰災者、避難民の場合のような一時的仮收容ならば、これでもあるいはがまんしなければならないかと存じますが、
癩患者は
病氣の性質上、悲しいかなここで一生を過さなければなりません。終生の安住地であるがためには、住居の安定感が絶対に必要であることは申すまでもございません。どうかこの実情をお察しくださいまして、独身者の普通舎にあ
つても、できるならば現在の收容定員一人当り三疊の割合にしていただきたいと存じます。
第五、癩療養所入所
患者の教育慰安
施設を
確立していただきたいと存じます。文化國家の建設が日本の目標であると同樣に、文化療園の建設を通じて日本再建に自主的に協力したいのが、
癩患者の切なる願いであります。この願いを達するためには、教育が先決問題でございます。そのためには宗教を普及し、学藝を奬励し、療養所内におけるあらゆる文化
施設を拡充強化しなければならないのでありますが、現在の癩療養所予算中には、
患者教育費がなく、名士を招聘して講話を聞くこともできなければ、読みたい図書も購入できず、社会と交流する唯一の途であり、希望である文藝の研究も外部の慈善團体または篤志家の寄付金を仰いで辛うじて維持するという、まことに不安定な実情であるのであります。
癩患者の教育費最低必要額等につきましては、
請願書に明細に掲げてございます。
第六、慰安金並びに作業慰労金を
増額していただきたいと存じます。現存の慰安金一人一箇月百五十円、これは一日五円の割合でありますが、これを三百六十円、一日十二円に
増額していただきたい。すなわち現在の二・四倍の
増額でございます。現在の作業慰労金一人一箇月平均百二十五円二十八銭、これは一日四円十七銭六厘の割合でございますが、これを百六十九円十二銭、一日五円六十三銭七厘に
増額していただきたい。これは現在の三割五分の
増額であります。國会並びに
厚生省当局のあたたかい御配慮によりまして、
昭和二十三年度より癩療養所予算中に、慰安金の予算費目並びに
患者作業慰労金の予算費目が設定せられ、これは四月でありますが、当時の物償基準に基いて、慰安金は
患者一人に対して一箇月百五十円、一日五円の割合、
患者作業慰労金は
患者一人に対して一箇月平均百二十五円二十八銭、これは一日四円十七銭六厘の割合で給與されておるのでありますが、七月の物償補正によ
つて、七割ないし十割の値上りとなり、入所
患者の
生活は右の收入をも
つてしては、いよいよ不安な
状態になりましたので、ここに全日本療養
患者の收支
状態を御
報告申し上げまして、当局のあたたかい御配慮によ
つて、一日も早く慰安金並びに作業慰労金が適当に
増額されますようお願いする次第でございます。なおその詳細は
請願書に記載してございます。
第七、新藥プロミンによる治療をすみやかに全國入所入院
患者に実施をいただきたいと存じます。新藥プロミンの出現によりまして、長い間暗黒の地獄にもがき苦しんで來ました
癩患者にも、希望の曙光がもたらされたようでございます。プロミンはすでにアメリカでは癩の特効藥として確認せられ、わが國におきましても、実験の結果は好成績を上げておると
報告せられております。政府においても、この新藥対策については万全の策を講ぜられておるということを伺
つておりますけれ
ども、なお全國の入院
患者に対して、一日も早くこの新藥による治療が実施できますように、特別の措置をお願いする次第でございます。
第八、ほうたい。ガーゼの増配を早急に実施されたいと存じます。
癩患者は外傷その他による外科
手術を要する場合が特に多いのであります。現在ほうたい、ガーゼの配給割当は、四箇月分で辛うじて一箇月分の需要を満たす状況であります。それで
癩患者はやむを得ず死人の衣類や私物の古衣類などをさいて、その不足を補
つて来たのでありますが、各自の古衣類も、もはやま
つたく使い果している実情であります。癩病の特殊事情を御了承くださいましで、ほうたい、ガーゼの適正な増配をお願いしたい次第でございます。
第九、
施設の改善並びに
修理復旧を促進していただきたいと存じます。項目だけを申し上げます。一、
修理復旧をまず早急に実施していただきたい。二、水道
施設を完備されたい。三、冷藏庫を設けられたい。四、納骨堂を建てていただきたい。五、重病
患者の病室、いわゆる重病棟を増設されたい。第十、被服類や
生活必需品を早急に給與していただきたいのであります。癩入園
患者は、ここ数年來被服類等の給與が中絶されております。しかもほうたい、ガーゼが極度に不足しております結果、入園当時少しばかりあ
つた患者の被服類をさいて、これに使
つて参りましたことは、ただいま申し上げた通りでございます。もはやこれすらなくな
つておりますので、何とぞこの点に関する御考慮をしていただきたいと存じます。
第十一、
癩患者保護法を制定していただきたいのであります。現行の癩予防法は、遠く明治四十年の制定に属し、当時社会に横行した浮浪徘徊の徒を急速に隔離する必要から制定されたものであ
つて、その後三回の改正がございましたけれ
ども、隔離
患者の
保護対策の面が等閑に付されているので別に
癩患者保護法を制定し、入所
患者の
生活権を保護していただきたいというのが、この法律を制定していただきたいという趣旨であります。
なお
癩患者の希望要項を簡單に申し上げます。一、
癩患者の社会的取扱いに対しては、あくまで科学精神と人道主義の精神に基いて、
患者の基本的人権を尊重すべきことを規定すること。二、癩に関する正しい教育並びに啓蒙方針を科学的に
確立することを規定すること。三、療養所に入所して一定期間治療を受けた者で、
医師の診断の結果
病毒傳播のおそれなしと認定された者に対しては、本人の申請により軽快退所を許可をすることを規定すること。四、
癩患者の身上に関する祕密保持を嚴守すること。五、
癩患者が癩療養所に入所することによ
つて、その家族が
生活の保護を要する
状態にある場合には、保護を行わなければならないことを規定すること。六、職業を禁止または廃止された場合には、必要と認められる生業資金の交付を行うことを規定すること。七、必要以上の恐怖観念を一般
國民に與えないように配慮せられること。
最後に第十二、癩の根本的対策を
確立し、それを積極的に実施されたいのであります。以上申し上げました
請願の十二項目は、すべて癩療養所に終身隔離されている
癩患者の切実なる血の叫びであります。それぞれの項目の解決のためには、それに伴う相当の経費を必要とし、かつ現下の國家財政の困難を思うとき、そこに大きな隘路が存在することは、十分に認識しておるのであります。しかしながら
癩患者がこれをあえて
請願するゆえんのものは、國家の
癩患者隔離政策が所期の目的を達成するためには、入所
患者の
生活安定が絶対の條件であり、これなくしてはなお社会に存在する多数の
癩患者をいかに強制的に收容いたしましても、これが徒労に終ることを確信し、この悲しむべき病を根絶し、文化的祖國再建のための運動に協力せんとする
癩患者の切なる願いから、
請願をする次第でございます。どうかすみやかに政府が
癩患者の意のあるところを了察されまして、癩の根本的対策に思いをいたされ、積極的にこれが実施に奮起せられることをお願いする次第でございます。以上であります。