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1948-06-26 第2回国会 参議院 労働委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十三年六月二十六日(土曜日)    午後一時四十分開会   —————————————   本日の会議に付した事件 ○一般労働問題に関する調査の件(東  寶爭議に関する調査報告)   —————————————
  2. 原虎一

    ○委員長(原虎一君) 只今より開会いたします。本日は一般労働問題に関する調査の中、先日來、柴田專門調査員東寶爭議に関しまして、調査をいたしておりましたが、今回右の調査が完了いたしましたので、只今よりその調査に関して、柴田專門調査員より報告することにいたします。
  3. 柴田義彦

    專門調査員柴田義彦君) 皆樣御承知の通り、目下東寶株式会社日本映画演劇労働組合、日映演との間に爭議が行われておりまして、爭議当事者の一方たる日映演の方から、当労働委員会に関しまして、当委員会の立場から労資双方の眞相を聽取し、該問題に対する適切なる処置を講ぜられたいとの要請がありました。当委員会といたしましては、愼重の態度を採ることになりまして、理事会を開いて相談することになりましたが、折悪しく理事二名も欠席しておられましたので、理事会を開くことが出來ず、当委員会各派委員打合せ会を開きましたところ、個別的は労働爭議に関することであり、國会の労働委員会としては愼重なる態度で進むことに意見が一致いたしまして、その結果、先ず專門調査員をして労資双方の眞相を十分に調査せしめ、当委員会においてその調査報告を聽取したる後に、当委員会として労資双方を各別に意見を聽取するや否やを決定しようということになりました次第であります。  專門調査員といたしましては、それ以前より労資双方の本部を訪問いたしまして、事情を聽取し、資料を蒐集してありましたが、更にその後、東京都労働委員会を二回訪問いたしまして、十一條違反提訴の経過その他を聽取し、東寶株式会社本社を三回訪問、渡辺社長馬淵労務重役北岡撮影所長勝山人事部長等と面談、更に日映演本部を二回訪問、労働組合の幹部と面談しました。更に砧の第一東寶撮影所を訪問して日映演の幹部数名と面談、長時間に互つて説明を聽取し、会社側よりは北岡所長、支配人、製作主任等と面談、更に日映演幹部の案内で、撮影所内諸施設を視察したのでございます。  次に、東寶第二組合たる全國映画演劇労働組合、全映演の本部並びに同東寶支部を訪問し、長時間に互り面談いたしまして、今回の爭議の全貌を窺い知ることが出來た次第であります。  では、これから右の調査の報告を申上げますが、一切私の意見を混えませんで、当事者より聽きました主張通りのことを、労資各別に御報告申上げるに止めたいと存じます。  先ず東寶株式会社におきまして、労寶組合が結成せられまして、第二組合、第三組合ができて、今回の労働爭議となりました経過の概要を申上げたいと存じます。  東寶の砧撮影所從業員の一部は、終戰後間もなく、昭和二十年十二月に、東寶撮影所從業員組合を結成したのでありますが、昭和二十一年二月には、当会社の全從業員を一丸とする東寶從業員組合が結成されたのであります。次いで昭和二十一年三月、給與制度全面的改正案協議交渉中に、突如組合側は爭議に入りまして、三月二十三日から生産管理に入つたのであります。併し右の爭議は僅かに十五日間で解決しまして、会社と組合とは新給與制度を含んだ團体協約を締結しまして、暫く昏迷状態にありました会社と組合との関係を明確に規定することが出來たのであります。以上を東寶労働運動第一期ということができます。次いで第一次の労働爭議の解決後、会社と組合とは、定期的に開催する経営協議会において全般の問題を協議することによりまして、極めて円滿順調な関係を続けておつたのであります。昭和二十一年四月に至りまして、前に述べました東寶從業員組合は発展して、同一企業の松竹、大映等を結集して、日本映画演劇労働組合、日映演という單一組合を結成しました。これが会社内でいうところの第一組合であります。この日映演は、昭和二十一年八月に産別に加盟しましたが、同年九月に日映演は、経済的要求を提示すると共に、日映演を唯一の交渉團体として認めることを要求したのでありますか、会社側経済要求にはほぼ承認しましたが、單位組合承認の件は、飽くまで從業員の多数決の意思によること、及び協約の内容は会社が希望する根本方針に合致することを承認條件として交渉を続けたが、両者とも主張を讓らず、交渉は遂に決裂して、十月十五日から十二月五日まで五十余日間の爭議となつたのであります。この爭議中、当初から産別加入に反対で、爭議を好まない営業関係從業員の一部が、爭議中の昭和二十一年十月、日映演から脱退して、東寶從業員組合を組織したのであります。これが会社内でいうところの第二組合であります。又同樣の動きが撮影所の一部從業員の中から起りまして、爭議中の日映演を脱退して、東寶從業員組合とは別に、東寶撮影所從業員組合を組織したのであります。これが会社内でいうところの第三組合であります。会社と労働組合は新たな労働協約を締結しましたが、この新團体協約はアメリカの諸種の団体協約を参考にいたしまして、平和條項を挿入したり、職区制を採用するなど、先が國労働組合運動史上に一エポツクを画したと当えると思います。かくして会社内には、三組合が結成せられたのでありますが、会社側は第一組合とは別に、新らしく生れた二つの組合とも團体協約を結びまして、ここに三組合鼎立のまま労働爭議が終了したのであります。爭議終了後、会社は撮影所を二分いたしまして、新東寶製作株式会社を設立し、第一組合員と第三組合員とをおのおの別々の職場において就業させることになつたのであります。その後、第二、第三両組合は、昭和二十二年四月に、全國映画演劇労働組合全映演という單一組合を結成し、産別系の日映演の容共に対して、反共の旗色を明らかにしたのであります。以上を東寶労働運動第二期ということができます。  右の第二次労働爭議は、昭和二十一年末に一應解決し、最も進歩的な労働協約として労資間に宣傳せられた労働協約が結ばれ、画期的なる職区制が布かれまして、イデオロギーを異にする組合が分れ、撮影所は組合の色によつて二分されたのであります。併しその時の割り切れない個々の措置及び新らしい意図は、新らしい矛盾として残されまして、それに対する適切な処置をなし得なかつたことと、最高潮に達しました労働攻勢、二・一ゼネストと共に、東寶企業は非常に難関に到達したのであります。即ち労資間に人事権経営権の問題が爭いとなり、單一組合と第二組合との対立が激化し、その結果二組合は二組合に関する團体協約第一條問題に関連して、二組合並存の職場である中部支社において、昭和二十二年九月に、第二組合員四十七名のロツクアウト問題を発生した。第二組合は中労委に提訴、種々なる経緯を経て、昭和二十三年二月中旬に、新團体協約締結交渉を前にして漸く解決したのであります。  次に、日映演は産別の生産復興運動に呼應して、昭和二十二年十月、生産復興会議案を会社に提示し、全映演は昭和二十二年六月に会社の経営不振の原因を取上げ、会社に対し具申書として、その対策を献策すると共に、第一撮影所の刷新等に付き申入れをしたのであります。而して会社側は、昭和二十二年十月末に、漸く生産復興対策を立案しまして、日映演に提示しましたが、組合の採用するところとならず、日映演は十一月に第一撮影所において、組合独自の生産復興会議を持ち、会社側を招請する形を取つたのであります。かくのごとくして組合と会社との生産復興に関する意図が合致しなかつたのであります。かくして、昭和二十三年末に、新團体協約改定期を前にして、前経営担当者は総退陣し、現在の重役陣となつたのであります。  新重役陣は、(イ)、経営権人事権の確立、特に解雇権の掌握、(ロ)、経営協議会の性格の変更、簡素化、組合の経営参加の制限、(ハ)、職区制を廃して部課長制とし、会社命令権の確立を骨子とした新労働協約会社案を立案し、先に両組合から提示された組合案によらず、両組合合同中継の形で、昭和二十三年二月十九日より改訂の交渉に入つたのであります。尚東實新社長は、就任後間もなく、東實の再建が、赤字の克服と、経営権の回復にあることを明らかにし、赤字克服のための最小限度企業整備人員整理の必要性と、労働協約改訂による健全なる経営を期待すると共に、労働組合の健全なる活動を切に希望し、企業整備に関しては企業刷新要項を昭和二十三年二月に発表したのであります。又團体協約改訂交渉中におきまして、昭和二十三年二月、集中排除の指定を受けましたので、会社は組合対にし、製作、配給、興行、三分割の意思を明らかにし、両組合がこれに反対したが、特に日映権は強く反対したのであります。又團体脇約改訂交渉中の本年二月に、会社は國鉄とのタイアツプによる「炎の男」を、経費節減のために製作中止を命じたが、日映権は直ちにこれに抗議し、同時に各労働團体は、協約改訂交渉中にしばしばこの中止の不当をなじり、会社に対して強い決議文を提出したのであります。併しこの團体協約改訂の交渉は、特に解雇権経営参加の二点において暗礁に乗り上げたのであります。尚会社は、労働協約改訂交渉のため、前協約の有効期間を組合の申入れによつて、一月、二月と延長したが、三月一ぱいで延長を認めず、四月以降に、若し協約の妥結を見ないときには無協約に入る旨を言明したのであります。日映演側は、四月以降も労働協約は今尚生きているとの解釈を故つております。日映演は、労働協約改訂交渉中において、しばしば社長の言明した人員整理を前提とした解雇権は全然認められないとし、本年三月二十四日、東實分会連合会の大会を開催し、その決議に基いて、二十五日の中協に於て、(イ)、組合案による労働協約の締結、(コ)「炎の男」の製作中止の取消、(ハ)、集中排除の名を藉りる企業分割の反対、(ニ)社長以下全重役の退社の四ケ條に互る要求書を提示いたしまして、團体協約改訂の交渉は遂に決裂の止むなきに至つたのであります。尚前労働協約有効期限の最後の日たる三月三十一日、前協約によつて会社は日映演本部と調整委員会を開きましたが、効果なく、形式的なものに終つてしまつたのであります。これにより先全映演は、日組演との合同経協を止め、單独の交渉に入り、会社と解合とは会社再建のため、何とかして妥結に到達するように努力しました結果、三月三十一日未明、漸く解雇権について会社側が若干の讓歩をして、円満に仮調印をして、新労働協約が成立したのであります。  これより先、昭和二十三年一月に、日映演の職場である演劇部門從業員の中に、反共を揚げ、会社再建を希望する分子によつて、再建同志会ができていたが、併しその活動は、日映演の組織の中での行動であつたのでありますが、三月三十一日に、再建同志会は突然演劇從業員組合を結成して、反共を揚げて、組合規約に嚴格なる資格審査採用を設けまして、同組合は、同日会社に対し組合の承認と労働協約締結交渉を求めました。会社側は全映演と妥結した、同文の労働協約によつて交渉し、四月一日にこれと協約を締結、仮調印をしたのであります。この組合と会社との協約の全映演の協約と異る重大な点は、この組合の協約には演劇部門に於けるクローズド・シヨツプを認めた点であります。  以上を東實労働運動第三期ということができます。四月一日より会社と日映演との前協約は無効となつた。日映演側では、今尚前協約は生きていると主張しております。会社側においては四月八日、渡辺社長は、刷新要項の方針に從い、第一撮影所員二百七十余名の穴員整理断行を決定し、組合側と会見、交渉したのであります。組合側は会社の説明に対し、整理案撤回の上、撮影所改革案について協議したいと申入れがありましたが、会社は、会社側提出案は撤回しないが、組合側に意見があれば、次回に聽くということになつたのであります。会社の撮影所員整理案に対して、撮影所マネージメント・スタツフは、撮影所健全再興に関する具申書、年二十八本案を発表し、撮影所藝術家グループは、この案を支持し、これを以て会社と組合との調停を図つた。会社は藝術家グループの申入れを諒とし、考慮の上組合側と第二次交渉をすることにした。ここにおいて、四月十二日、会社側組合側第二次会見は、藝術家代表を入れて折衝しましたが、結局会社側は、経理上どうしても整理を断行する必要のあることを主張し、組合側交渉員は、その旨組合に傳達することとなつて別れたのであります。併し会社は、次回四月十五日、組合側の回答あるまでは馘首を断行しないことを約束したのであります。そこで四月十五日、第三次交渉を付なつたのでありますが、組合側は年二十八年案を堅持して、会社の整理案に絶対反対の立場を表明し、会社側は、二十八本案を以て整理案を引込めるわけにはいかないと主張しまして、結局交渉は、決裂したのであります。そこで会社は、四月十六日午前十一時、整理方針に從いまして、被解雇者に対して一齊に解雇通知を発送したのであります。以上を東實労働運動第四期ということができます。  日映演東京支部東實撮影所分会は、四月十九日附を以て、東京都労働委員会に対し、労働組合法第十一條違反として、東實社長渡辺銕藏氏を提訴したのであります。又日映演東京支部東實演劇分会は四月二十八日附を以て、東京都労働委員会に対し、東實演劇從業員組合を相手取り、労働組合法第二條に該当せず、労働組合として認め得ないものであるから、速かにその旨の決議と解散命令要求の提訴をしたのであります。更に日映演東京支部東實本社分会は、五月二十日附を以て、東京都労働委員会に対し、労働組合法第十一條違法として、東實社長渡辺銕藏氏を提訴したのであります。又日映演東京支部東實撮影所分会は、五月六日附を以て、東京地方裁判所に対し、東實株式会社を被申請人として、目録記載從業員が被申請人の被傭者として、業務を行うことを妨害してはならない。被申請人は、右の從業員に対し、賃金の支拂い、その他労働條件につき、從前の待遇を不利益に変更してはならない。被申請人申請人に通知して、これと協議することなく、事業場閉鎖、休業、事業の縮小、その他申請入の組合員の身分の甚大な影響を及ぼす経営上の改革を行なつてはならないとの仮処分命令を申請したのでありますが、日映演側は、將來本件解雇が無効であることの確認を求める本案訴訟を提起する準備をしていることを前堤としたる仮処分申請であります。これに次いで、会社側も、亦、五月十日を以て東京地方裁判所に対し、日映演東京支部東實撮影所分会を被申請人として、目録記載の各不動産に対する被申請人の占有を解いて、申請人の委任する東京地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏は申請人の申出により、右不動産申請人に使用させなければならない。執行吏は、申請人從業員たる被申請人組合員右不動産に立入ることを許さなければならないが、申請人が業務の整備上、右不動産の中、作業場、製品置場、倉庫等につき立入禁止又は立入制限を申出たる場合は、これに服さなければならない。又被申請入組合は、申請人右不動産において、業務を行う場合これを妨害してはならない。執行吏は、申請人の業務を妨害する被申請人組合員に対しては、右不動産より退去を命じ、且つ右不動産への立入りを禁ずることができるし、その他前各項の趣旨の実効を挙げるため適当な措置をとることができる。被申請人は、申請人に対して別紙目録の鍵を引渡さなければならないとの仮処分命令を申請したのでありますが、会社側は、將來所有不動産又は鍵に対する所有権確認及び会社経営権確認等本案訴訟を提起する準備をしていることを前提としたる仮処分申請であります。又四月十九日には、日映演東京支部東寳撮影所分会は、澁谷労働基準監督署に対して、田辺会長渡辺社長、並びに全重役が、労働基準法第三條、第二十二條、第八十九條各違反の告発をしたのであります。又六月八日、日映演東京支部東寶撮影所分会は、東京都労働委員会に対し、会社の労働組合法第二條、第二十一條、労働関係調整法第四十條違反の追訴をしたのであります。又五月二十九日には、本問題に関して側面より、日本新聞通信放送労働組合が、労働組合法第十一條違反として、東寶株式会社長渡辺銕藏氏を提訴したのであります。会社側は、六月一日より、第一撮影所工場閉鎖を行なつたのであります。併しその後も日映演の組合員は同撮影所内に毎日集合しております。六月十七日、第一撮影所において、会社側とそ日演東寶撮影所分会との会見が再開せられまして、正式の團体交渉ではありませんが、給料支拂撮影所再開について討議せられましたが、四月八日以前の線に帰つて、再建案を協議したいとする組合側の要求に対し、会社側は、組合が爭議行爲を止めて、再開可能の状態に入らなければ、閉鎖措置を解くことはてきないと一歩も讓らず、交渉は決裂したのであります。又一方東寳の株主有志は、六月十八日懇談会を開き、今回の爭議に関して檢討しました結果、撮影所解散論が強く主張せられ、定款中に映画製作並びに請負という目的事項を削除して、撮影所を解散するのが最も適当であるとの結論に達し、早急に臨時株主総会を開催するよう重役に要請するところがあつたようであります。  地方において六月十八日、日映演東寳撮影所分会から会社側に対し、個人の試案として、友好團体出入禁止、解雇者問題については特別委員会を設けて、別途に檢討すること等を條件として、團体交渉を開き、作業再開の方途を見出したいとの申入れがありましたので、会社側は、これに対し六月二十一日北岡所長から回答することとなり、檢討中であつたのでありますが、日映演側は、六月二十一日になつて、突然右の申入れを取消して参つたのであります。尚第一撮影所製作主任は、解決の機会が來たものと思うので、マネージメント・スタツプとしても積極的に努力すると言つており、株主有志からは、撮影所解散の声も強調せられたてる折柄、重役側、組合側及びマネージメント・スタツプの間に、事態收拾をめぐつて微妙な動きが認められるに至つたようであります。尚東京都労働委員会は、本日までに総会一回、小委員会九回を開きまして、個人審査を行なつているようであります。  最後に東寶が馘首を断行したのは、もとより赤字克服を理由としているのでありますが、近き將來の外資導入の前提として行なつたように認められるのであります。以上が、昨日までの東寳労働運動第五期の経過でございます。  次に労資双方の主張を各別に御説明申上げます前に、御参考のため、東寳株式会社の沿革並びに事態概要を簡單に申上げて置く方が御便宜かと存じます。東寶株式会社は、昭和十八年十二月十日、株式会社東京寳塚劇場資本金六百九十二万円、全額拂込済東寳映画株式会社資本金四百五十万円、全額拂込済とが合併して、資本金千百四十二万円を以て設立、映画、演劇、各劇場及びこれに附帶する事業関係を包含、多角経営によつて、映画演劇を通じて日本文化向上発達を理想としましたが、昭和二十年三月九日、株式会社梅田映画劇場資本金五百万円、株式会社南街映画劇場資本金二百五十万円を吸收合併し、関西方面における企業を拡張し、資本金千八百九十二万円としたが、更に昭和二十一年十二月十日増資し、資本金四千万円となし、更に昭和二十三年四月十日、三倍増資を決定、資本金一億二千万円の会社として今日に及んだものであります。次に、東寶株式会社の事業は、映画の製作、配給、興行及び演劇興行の四種になつております。製作は、撮影所二ケ所、第一撮影所、人員千百七十名、新東寶撮影所、人員五百七十四名並びに第二附属映画技術研究所、人員五十五名で当つているのであるが、新東寶撮影所は、現在新東寶製作株式会社として別個の会社になつたのであります。配給は、会國五支社の配給部課を統轄して、自作作品洋画フランス、英國、ソ連映画配給販賣を行つているのであります。人員は四百七名であります。興行は、全國五支社の興行部課を統轄して、直轄館及び共同経営の一切の経営及び委任、劇場の賃貸を行つているのであります。從業員は二千三百七十九名であります。演劇は、日本劇場日劇小劇場帝國劇場、有樂座を直営し、東京寶塚劇場、米第八軍接收中を管理しているのであります。尚演劇、演藝、映画、音樂、舞踊等の興行と、東寳舞踊團その他の專属劇團があり、隨時各劇團等と契約をして、公演を行う外、劇場賃貸等を行い、又舞台大道具、小道具、衣裳等の自己生産をなし、藝能事業として進駐軍関係慰問公演各種藝能人を契約し、和洋音樂、演藝等の提供を行うているのであります。以上で大体東寳の沿革と東寶爭議の経過とを申上げた次第であります。これから、会社側労働組合側の主張を各別にここに要約して申上げたいと存じます。  先ず会社側の主張より申上げることにいたします。これからは会社側の言い分でありまして、私の意見ではございませんから、念のために申添えて置きます。終戰後興行收入は急激に増加した、過去の安價な材料のストツクと、旧作品の蓄積のために比較的にインフレ物價高の影響を受けることなく、又資金的にも、いわゆる新円事業の花形として投資の対象となつて、証券取引においても花形株として尖端を切つたものであります。然るに昭和二十二年上半期の頃から、映画演劇界にも危機が現われて参つたのでありまして、インフレに伴う諸材料の暴騰は、ストツクの枯渇と共に、経費の面に反映しまして、物價の上昇に隨伴する労働攻勢、復員者の職場復帰完全雇傭とに結果する人件費の増大等には、支出の著しい増加を招いたが、これに対し收入は物價統制によつてマル公の入場料として常にインフレに遅れて上昇し、その上に驚くべき入場税の高率は、業者の取得金を異常に圧縮しまして、昭和二十二年七月末、第三十期の決算は遂に赤字千百万円となつたのであります。この趨勢は、昭和二十二年を経過し、今年に入つてますます増大する傾向にあるのでありますが、これは敗戰後必然の結果でありまして、一東寶、一映画産業特殊原因ではありませんが、東寶産業に特にこの結果が大きく現われましたことは、東寶企業経営者として、又從業員として深く反省しなければならないことであつて、今回の企業整備は、各部門に対する経理的分析の結果、大乘的な立場から行われたものであつて、東寶企業再建のため、不可避のものであります。最近各期の損益計算は、次のようでありますが、勿論この数字は公的のものであつて、これを第三十一期、昭和二十二年八月一日より二十三年一月三十一日までに例を取れば、実際の損失は実に七千八百万円であります。第二十七期、昭和二十年八月一日より二十一年一月までより、第三十一期昭和二十二年八月一日より二十三年一月三十一日までの損益状況、二十七期の收入三五、五六六、三八七・〇五円、支出三四、三七五、 ○三三・七四円、益一、一九一、三五三・三一円、二十八期の收入九八、八一九、八七四・〇六円、支出九六、九六一、七一六・五八円、益一、八五八、一五七・四八円、二十九期の收入一八九、四八三、一四〇・九四円、支出一八六、七四七、六二七・三七円、益二、七三五、五一三、五七円、三十期の收入二四二、三四六、八四八・四九円、支出三五三、三〇〇、七九一・八二円、損一〇、九五三、九四三・三三円、三十一期の收入五三九、八二七、八三五・一六円、支出五五二、三八二、〇八一・三四円、損一二、五五四、二四六・一八円、右の第三十一期の実際の損失七千八百万円の赤字を部門別に見ると次の通りであります。製作配給部門の損失四千十万円、映画興行部門の損失千五百七十万円、演劇部門の損失二千二百三十七万円、即ち会社が最も收入に期待している製作配給部門が、会社赤字の最大を占めているところに問題の焦点があるのであります。  一、製作と配給  製作配給部門の收支の原則は、製作所の製作原價が、配給部の上映收入に対し五〇%を維持しなければならないことであります。然るに、第三十一期について見ますと、月平均上映收入四千七百七十四万円、月平均作品原價三千七百七十三万円でありまして、この比率は八〇%に達するのであります。特に第一撮影所の原價は、第三十一期中に製作された作品僅か七本である、その原價は、直接費五千百九十八万円、間接費五千九十八万円、計一億二百九十六万円、一本平均原價は、一千万円から最近に至つては一千二百万円前後という数字になつている。而も一本の作品が挙げた收入は平均一千万円前後であつて、收益の上る筈がないのであります。この赤字補填は、他社作品、古物、新東寶作品等の收入であります。  二、映画興行  映画興行部門は入場税率の引上げ、一般購買力の低下、電力制限による興行回数の減少等、客観的の悪條件に大いに影響されて收入は著しく規制され、ほぼ極限に達したる観がある。尤もこれを表面的に見ると、第二十八期からの趨勢は、インフレ高進の影響を受けて上昇している。問題は支出が收入の増加を超過している点である。即ち支出の増加の原因として、(1)、昨年四月の物價改訂を契機として始まつた諸物價の異常な高騰の影響を受けて、固定費たる人件費及び物件費が不可避的に急激に膨脹したこと。(2)、比例費においては、番組費が自社作品の不足による他社作品の購入のため増大して來た等が挙げられるのであります。かくのごとくして收入の増加は、逓減的にあるに対し、支出の上昇は逓増的傾向を示して、その差が興行收支の不健全化を招いている現状であります。  三、演劇興行  演劇部門第三十一期、二千二百三十七万円の赤字の原因は、ほぼ映画興行部門と同じであるが、特に支出は固定費たる人件費、演劇部門における人件費は、他部門のそれと違つて人件費が経費の主体となつており、本部人件費、出演費、仕込費等はいずれも人件費に含まれる。その極めて多大な過剩率によつて影響されている。舞台人件費、契約者人件費及び收入の一六・五%を占める本部費中の人件費は、当然規制されなければ收支のバランスは望むべくもないのであります。  四、他社との比較  東寶企業と各同業会社との比較については、各場合、各條件を勘案しなければ劇險であるが、例えば人件費については、直轄主義と請負主義との経営方法の相違等にも拘わらず、同業各社が一應黒字であるのに、東寶のみが赤字であるということは、十分重要視すべきことであります。映画製作費についてこれを見れば、各社一本当り製作原價比較、東寶一千万円、新東寶七百五十万円、松竹六百万円、大映五百万円、東横七百万円であつて、東寶第一撮影所の製作原價が特に過大であることは明らかである。  次に、最近の一般の経理概況を見ると、本年二月は、製作配給部は收入五千二百十八万円に対し、製作原價は四千二百八十五万円であつて、この比率八二%に及び、三月も亦收入六千九百四十二万円に対し、製作原價は八〇%たる五千五百三十二万円を占め、最悪の赤態が少しも修正されていない。  映画興行部門も亦本年二月は、收入四千三百七十六万円に対し、支出合計四千五百四十万円で、この赤字は覆うべくもない。三月は辛くも二十九万円の黒字を生んだが、收入五千百五十三万円に対し、支出五千百十四万円を以て適正とすることができない。演劇に至つては、二月に二百三十万円、三月に三百八十四万円の赤字であり、全部門を通じて、第三十一期の悲運が続けられているのであります。  次に、会社の人員が各部門とも如何に過大なものであるかを例示するため、他社との比較をすると、製作配給部門においては、一人当り收入は松竹、大映共に三万円以上であるのに、東寶のみは僅か二万二千円であつて、收入に対し、如何に人員数が過大であるかが分るのであります。  又興行関係においては、一館における平均従業員数を比較すると、東寶三十人、松竹二十二人、日活二十四人であつて、実際に人員の過大を物語つているのであります。特に最近の第一撮影所の二、三の例を引用すると、例えば、大作たる「女優」が、二月末の收入累計九百二十五万円に対して、支出は総原價製作原價、プリント費、宣傳費が一千九百三十万円、これに本社費及び配給費を附加すれば二千百八十三万円、尚これにインフレの上昇に伴う價値下を計上すると、二千七百九十八万円となつて、一千八百七十三万円の赤字となるのであります。この総原價一千九百三十万円の内訳は、製作原價一千五百三十七万円、プリント費二十六万円、宣傳費百八十七万円であつて、最も多く製作原價の過大が原因しているのである。「女優」の收入予想は、曾て封切当時一千六百万円、観客動員数三百八十万人前後としていたが、現在の実績よりすると、これを動員数二百六十万人乃至二百七十万人、上映收入は一千百五十万円前後に修正せざるを得ない。一本の作品がかくのごとき状態であつては、如何に全体の收支がアンバランスであるかが分るのであります。「戰爭と平和」においては、二月收入累計一千五百万円に対し、支出は、総原價一千五百十六万円、本社費、配給費を附加して、一千三百十五万円、價値下落を加えて一千六百七十八万円の状態である。  前にも申上げましたように、作品原價は收入のほぼ五〇%によつて賄われない限り企業が成り立たないというのが原則になつているのであるから、撮影所の原價は最高七百五十万円程度に止めなければ絶対に不可であります。最近の大作である「面影」について見ましても、三月末の製作原價は一千九百六十万円であつて、これにプリント費推定百五十万円、宣傳費同百万円を加えると、実に二千二百万円の巨額に達する。收入は、封切後末だ月が浅いので的確には言えないが、大体動員数三百三十万人、從つて上映收入は一千四百万円程度であろう。原價に配給費、本部費を附加し、インフレの價値下落を加えたとき、この映画の損失は実に巨額である。かかる撮影所の製作態勢を修正することは、企業の存続のため眞に止むを得ない次第であります。以上のような意味において、今日「災の男」の製作を中止したが、営利会社が明らかに損失を予想しつつ製作するがごとき愚は絶対に許されないことである。「災の男」が中止されたとき、すでに支出された経費は、百二十五万円に及ぶものがあつたが、かかる損失は無意味なものであります。  以上で大体会社の赤字の現状を説明いたしましたが、この赤字の原因は、業者共通のものも多いのでありますが、東寶に限つて赤字を出している最大の原因は、穴員にあるのでありまして、企業死活のための緊急避難として、人員の整理を実行することになつたのでありまして、一部労働組合指導者の排除とか、労働組合運動の圧迫を目的とするものではありません。東寶が企業分割することになりましたが、この際、独立後の各部門が健全なる運営ができるようにすることが経営者の責任でありまして、この意味において、集中排除による会社分割前に、過剩の人員を整理し、分割後の企業運営を容易にして置くことは、会社の現状から絶対の要請であります。容共産別系の日映演と、反共の全映演とが、会社の各部門において対立並存したるがために、会社の人事交流は、澁滯し、経営協議会の頻繁なる二重開催は、中央経営協議会においてのみでも八十数回に達し、これがために経営上の支障と冗費とは甚大なるものがあつたのであります。当時の経営主脳部は、インフレに隨伴する賃上要求を主とする、経営協議会の應接、経営採算を無視した過大なる賃上要求と、そのための無理な金融工作に寧日なく、経営本來の業務に專念する假もなかつたのであります。又強烈な組合の攻勢は、戰時中の非能率的な人員並びに戰後復員した多数の人員等をすべて包含せしめ、完全雇傭の旗印の下に、両組合の並存によることは勿論であるが、人員整理は愚か、配置轉換も困難にし、不生産的業務の増加、不生産的人員の増大となり、延いては能率と技術の低下を招き、勤労意欲の向上も生産上の刺戟も見られず、他社に比して膨大な余剩人員を温存しつつ、経費の膨脹のみ鰻上りとなり、会社の経営はただ一途破局に突進するかのごとくでありました。而して第二次爭議の結果、本來一事業体であつた撮影所も、不合理な原因によつて二分した結果、両撮影所の設備や人員の部分的凸凹を招き、経営上種々なる欠陷と冗費とを生ぜしめるようになつたのであります。他方昨年度の労働協約によつて、組合は不当に強力な経営参加権を握りましたが、特に第一撮影所においては、映画の製作企画は、組合の強力な組織力によつて、会社経営者は絶えず圧迫され、撮影所の浪費と非能率とによつて、インフレ下における映画製作費は加速度的に高騰し、遂に一本の製作原價千数百万円、若しくは二千数百万円に上るに至つたことは、すでに申上げた通りであります。東寶赤字の最大原因は、ここにあるのであります。他の会社の一本の製作原價は大体六百万円内外でありまして、ひとり第一撮影所が最近千数百万円の製作原價を費すことは、全くその非能率と浪費とに基くものであります。ここにおいて昨年十二月二十六日、渡辺社長就任と同所に、企業刷新要領を社内に示しまして、各般の対策を示したのでありますが、第一撮影所に対しては、月二本の製作を確保し、平均製作費六百五十万円を以てすべきことを命じ、本年二月にこれを七百五十万円に緩和したのであります。然るに第一撮影所の組合は、会社の製作費切下げの命に反抗し、常に世上に対して、会社は藝術と文化を無視するものであると悪い宣傳を行なつたのであります。入場料が制限され、且つ十五割という苛烈な重税が課せられ、電力制限、定員制嚴守等によつて入場人員が四分の一も減少しつつある今日、製作費の膨脹は当然赤字を生じたのであります。  その後、会社は日映演と労働協約の改訂の交渉をしたのでありますが、前に申上げました経緯の下に、その交渉は決裂し、四月一日以降、無協約の状態に入つたのであります。かくして会社は從業員約六千二百名の約六分の一弱である約千円の人員の整理を断行することを決意し、四月八日、先ず第一に、会社赤字の最大原因をなす第一撮影所人員整理を発表したのでありますが、その整理方針は、会社人員整理の一般方針によつたのであります。その解雇基準は次の通りであります。A項、老朽者、五十五歳以上、B項、不急不用の部門に属する者、C項、契約者にして契約期間満了した者、D項、嘱託、臨時雇傭者、E項、病弱にして勤務に堪えない者、F項、勤務成績不良者、G項、從業員として職場規律を紊す者、H項、技術技能不良の者、I項、右各項に抵触しないが、冗員整理上年齢その他を考慮し、轉職し易い年と認めた年少者にして勤務年数の少い者、J項、技術者にして契約者とするを至当を認めた者、K項、その他当該部門において、過剩人員で配置轉換の困難の者、而して特に第一撮影所人員整理につきましては、その整理の理由は、更に左の会社別映画製作能率及び製作費比較表によつて、その整理の止むなき事情を了解することができるのであります。会社別映画製作能率及び製作費比較表、昭和二十二年度、從業員数東寶第一千二百人、新東寶六百人、松竹千二十人、大映千三十人、製作本数東寶第一、十三本、新東寶十六本、松竹四十二本、大映四十二本、一本当り從業員数東寶第一、千百十一人、新東寶百四五十一人、松竹二百九十一人、大映二百八十二人、一本当り原價東寶第一、一千万円、新東寶七百五十万円、松竹六百万円、大映五百万円、右の表に示しているように、東寶第一撮影所の製作能率は、他社に比較しまして三分の一以下であります。右の表の中、会社側は六月十五日附を以て、左の通り訂正して参りました。從業員数東寶第一、A、千百四十八人、東寶第一、B、九百五十三人、新東寶七百十五人、松竹千九十七人、大映千八十二人、製作本数東寶第一、A、十三本、東寶第一、B、十三本、新東寶十六本、松竹三十三本、大映三十三本、一本当り從業員数東寶第一、A、千六十人、東寶第一、B、八百八十人、新東寶五百三十六人、松竹三百九十九人、大映三百九十三人。Aは三月十五日現在の東寶撮影所全員の数、BはAの人数から東寶撮影所のみにあつて、他の撮影所にはない部分、現像動画、教育映画、資料調査等の百九十五人を除いた人数であります。  昭和二十二年度は、ストライキのために、東寶の製作能率は、一時低下するの止むなき期間であつたにしても、その低能率と、高製作費は全く論外であります。これが第一撮影所人員整理を第一に断行した理由であります。然るに四月八日、第一撮影所に対しまして、二百七十余名の解雇を通告いたしますや、撮影所の日映演分会は、急遽年二十八本の製作をする故、解雇を中止すべしと主張したのであります。併し昨年末、社長の製作方針指令を無視し、会社の経理状態が遂に最後の段階に追い込まれて、絶体絶命の境地において整理案決行の意思を表示するや、忽ち掌を飜すがごとく、能率増進を誓うと雖も、それは時すでに遲いのであります。且つ又社長重役の退陣を迫り、会社の中止を命じた作品の製作強行を声明しつつある撮影所の組合が、現状のままにて鋭意会社の方針に副うた製作に精進するがごときことは到底信ぜられないのであります。尚又松竹や大映が年四十二本又は四十四本を製作しているのに、二百人も多くの人員を擁する撮影所が二十八本を作ることは何の誘りにもならぬのみならず、今日においては前に申上げました赤字克服の必要と共に、独立後の撮影所の製作原價を引下げ、企業に安全性を與え、且つ優秀映画を製作し得る経理上の余力を與えて置く必要があるのでありまして、二十八本製作案と、人員整理は現状においては当然並行して実施されねばならぬのであります。而して第一撮影所の現在人員は、千百四十八名でありますが、会社の経理上並びに作業上必要とする人員は八百名であり、冗員約三百四十余名がありますので、今回の整理には、前述の解雇基準によつて二百二十四名を整理し、この外に契約者にして契約期間満了を待つて契約解除をする予定者が四十六名ありまして、他は配置轉換によつて処理する方針を採つたのであります。今回の会社側の馘首措置は、前に繰返して申しましたように、当面の赤字克服のためにする最後的手段としての冗員の整理であります。從つて冗員の整理に際して、特に労働組合員たるの故を以て、或いは正当なる労働組合運動をなしたる故を以て解雇せんとするの意思は毛頭ないし、又現に実施していないのであります。たまたま組合幹部が解雇されているのは、一定の解雇基準に該当しているからであつて、組合幹部が基準に該当する場合に冗員の整理をなし得ることは当然であります。而して基準項目は先に列挙説明した通りであつて、毫末も労働組合法第十一條違反に該当するがごとき項目を有しておらないのであります。然るに此の会社側の措置について、尚労働組合法第十一條違反の疑いありとせらるるゆえんは、要するに会社がしばしばの声明において、赤字、赤旗両面の整理を断行すると声明し、或いは反抗分子を一掃すると言明した事実、現に組合幹部が一部馘首されている事実、これら幹部の解討基準該当事実の挙証が不明確であること等に存するものと思います。右に対する会社側の見解は左の通りであります。  会社が経営上の立場から、極端なる共産党フラク活動による秩序の破壊、経費の濫費を防ぎ、赤字の根源を一掃する必要を痛感していることは事実である。從つてできる範囲においてこれを断行したいと考えたことも明白であります。併しこのことは何ら十一條違反ではない。なぜならば、正当なる労働組合運動を彈圧しようというのではなく、況んや健全たる労働運動の弱体化を図ろうとするものでないからであります。又組合幹部のみが如何なる場合でも解雇せられないということはあり得ない。第十一條はかかる旨を規定した條文ではないのであります。又我々は基準該当事実に対する会社側挙尭によつて十分穴員整理の対象となし得るものと考えますが、若し不十分なりとすれば、次の証明によつて、これを明白ならしめ得るものと信ずる。この証明は、合法政党たる共産党の名誉のために敢えて行えことを欲しないけれども止むを得ないのであります。  今回馘首せられた組合幹部にして、組合が特に十一條違反の疑い濃厚なりと称している人々は、盡く共産党員乃至その有力なる支持者である。これらの組合幹部が如何なる行動を過去一ケ年有余に互つて継続して來たかを述べることにいたします。  周知の通り東寶第一撮影所組合は、日本における有数の赤色労働組合であり、共産党員並びはシンパ約五百五十名以上を擁し、組合員の絶対過半数を占めているのであります。但しこのことのみを以て敢え異議を狭むものではない。即ち人々が如何なる信條に有するも又如何なる政党に加入するのも自由であるからであります。併しながら事実上は、組合は完全なる共産党フラクレヨンの活動によつて非党員の発言は全く封ぜられ、共産党の一方的支配に任ぜられた。即ち組合運動に名を藉つた共産党宣傳の政治活動の具に併せられたのである。新東寶分離問題、從つて撮影所の経営方針、企画立案のごときも、一見労働協約に定められた各種委員会を通じて合法的な経営権に参加したと主張するが、実情は、共産党フラクの一方的党営権侵害となり、秩序破壊となつて現われたのでありまして、生産復興会議、入党申込、ロケーシヨン、残業の投票、このために会社は経営上多大の障害と赤字とを生むに至つたのであります。凡そ正当なる労働組合運動とは、労働組合法第一條に明記せられている通り、経済上の地位の向上を図り、究極においては産業の興隆に有するにあります。勿論政治運動がすべて禁止せられているわけではなく、この経済上、社会上の地位の向上、或いは文化発展のためにする隨伴的政治活動が容認せられていることは承知しておりますが、少くとも共産党のごとき一政党が、その政綱政策を実現するがために、組合員中の共産党員を組織化し、日夜一般組合員の意思を拘束し、組織的威圧を以て非民主的行動を行うことは、本來の正当なる組合運動をしているのではなく、組合に名を藉りた政治活動であると断ぜざるを得ないのであります。然りとすれば、これらは労働組合ではなく、極めて非民主的であり、且つ政治結社とも言うべきであつて、労働組合法第二條、又極東委員会によりなされた十六大原則中の第十四項によも違反するものとして、解散せらるべき組合と考えられるによつて、労働組合たる資格を有しないものとさえ考えられるのであります。仮に一歩を讓つて、労働組合であるとするならば、その活動は明らかに正当なる組合活動の範囲を逸脱したものであつて、権利の濫用であります。その結果、会社が一ケ月間に互つて不当に経営権及び人事権を圧迫せられたのであるから、会社がこれらの組合の首脳部を経営秩序の保持上馘首し得ることは当然であります。右の理由によりまして、会社は当然これら正当ならざる組合活動を当時行い來つた組合幹部を、穴員整理の際、経営権の名において馘首し得るものと考えるが、今回採つた会社の方針は、しばしば申しましたごとく、穴員整理であつて、その間設けた一定の整理基準に該当する者に限つて確雇することとした。從つて組合幹部或いは共産党員と雖も、多数解雇を免れているし、被解雇者は幹部乃至共産党員の極めて一小部分に過ぎない。この意味において、今回会社の行なつた整理は、極端なるフラク活動を防止する趣旨から言えば、極めて不徹底とならざるを得なかつたのであります。併し右のごとき会社の経営方針と全く背馳した行動をなす者は、たまたま組合の主脳部乃至組合員と雖も、穴員整理の際に、他の者に先んじて排除することは経営者の当然の権利であります。尚会社が四月二十日附で解雇を実断することを改めて闡明して以來、組合は大要次のような防衞態勢をとり、今日、五月八日に至つているのであります。  (一)、表門並びに裏門に嚴重なバリケードを築き、鉄條網を張り廻らしている。(二)、表面に面するガラス窓には柵木を打ちつけ、飛込みの出來ないようにしている。(三)表門を入ると直ぐ撮影に使用の風洞、二馬力大扇風機を設置し、砂、灰、等を用意し、目づぶし戰術に出ようとしている。(四)、オープンセツトから所内中心部に入る部分は、戸又は堀を利用し、通行阻止を図つている。(五)、撮影所周囲の各所、凡そ二十ケ所に「危險」の立札をし、感電による危險感を與えようとしている。高圧電流を通ずるという宣傳もあるが、そのことは実際には行い得ないと会社側專門家は言明している。  又日映演はかねてから「労働者の連帶性」と称して、主として産別系の諸組合と連繋を保つて來ているが、今次の東寶問題に関して、外部の友誼團体の動靜を具体的に述ぶれば次の通りであります。  (一)会社は経営上の信念によつて、國鉄労組提携作品「炎の男」の製作中止を決定したが、それに対し外部の諸組合は猛然と反対運動を展開し、即時撮影開始を会社に迫り、すでに十数通の決議文を社長に提示し、今尚この運動は続けられている。(二)、撮影所において、去る四月八日解雇宣言を行なつて以來、外部の友誼團体の撮影所への來訪は日を逐うて増し、連日所内においてインターナシヨナルを合唱し、時に赤旗を先頭に押し立てて示威運動が行われている。(三)、外部團体の所内出入の最も著しかつたのは、四月二十三、四、五日の三日間であつて、その間は約二十人前後の應援隊が滯留又は宿泊し、組合の称する非常警備体制につき、物々しい情景であつた。(四)、四月二十八日には、外部團体は連合して東寶撮影所共同防衞委員会を結成し、その代表は北岡所長に会見し決議文を提示した。(五)、五月一日には、砧メーデーと称し、会社が所内立入を拒絶したにも拘わらず、外部の團体は組合の指導の下に約一千名が入所し気勢を挙げた。(六)、それ以來、五月七日までの実状は、比較的その数は減少しているが、連日三、四百名が撮影所に來訪しに、その大部分は赤旗又は赤色組合旗を擁し、所内はさながら外部諸組合の交驩場たるの感を呈している。(七)、撮影所組合員幹部は、組合の指令一つで外部團体を数万人動員せしめ得ると言つていることを附言いたしたいのであります。  以上で、大体会社側の主張を、全く在りのままにお傳えすることができたと思います。次に……
  4. 原虎一

    ○委員長(原虎一君) 大分時間も経ちましたので、本日はこの程度でめ止て、次回に労働組合側の見解を聽くことにいたしたいと存じます。ではこれで散会いたします。    午後三時三十分散会  出席者は左の通り    委員長     原  虎一君    理事            堀  末治君            栗山 良夫君    委員            天田 勝正君            千葉  信君            山田 節男君            紅露 みつ君            深川タマヱ君            奥 むめお君            竹下 豐次君            姫井 伊介君            中野 重治君            岩間 正男君   説明員    專門調査員   柴田 義彦君