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公述人(高野清八郎君) 本
年度の
予算は三千九百九十億という天文学的の数字を示したものでありまして、これをこのまま実行して行けばもう
日本は破局であります。
日本國民は正に虐殺せられるの外はないのであります。それを数字的に詳しく議論をする計画でありましたが、先般
予算委員長閣下より
予算綱要を送
つて頂きまして、これは大変いい資料を提供せられました。我々
民間の人は極く粗末な新聞以外何の知識も得ることができないのであります。ところがその
予算綱要を拜見いたしまして、私は実に大なる建設的の議論を組織することができましたので、その案を本日持
つて参りました。これは直ぐや
つて貰わなければならない。速記録のできるのを待
つていられないと思います。でありますからその案を持
つて参りまして、極く大雑把な計算でありますけれども、骨子を現わしましてそれを
予算委員長閣下に差上げて置くつもりであります。
で、この
財政を
健全財政というようなことを盛んに宣傳しておるのでありますが、これは以ての外の話でありまして、これ程不健全な危險な
財政というものはないのであります。
健全財政ということは、ただ
只今、今日のこの
予算の
收支の辻褄を合せたということを以て恐ろしく得意にな
つて健全財政と称するのでありますが、それは本日だけのことである。もう明日から
物價は騰貴して行くのでありますから、この
予算が通過しましてこれを実施して行く内には、恐らく一ケ月以内の内にこの
予算を追加するようになる。昨年のごときは半歳経たないうちに倍額の
追加予算を出した。この
予算の項目を仔細に点檢して見ますというと、全部悉く挙げて
物價騰貴を誘発するものならざるなしであります。だからこれを実施して行く場合には、二、三ケ月に至る間に莫大な
追加予算が出ることは明らかであります。つまり辻褄を合せるだけで
健全財政と言えるのは二、三ケ月のことである。
予算は一年間のものを明年三月三十一日まで完全に実行するものでなければ
健全財政とは断じて言うことはできない。こういう不健全なものを拵えて
國民を欺き、
國民がその日暮しの貧乏をするということは誠に
誠意なき政治家の極であると、私は断言せざるを得ないのであります。一体
財政の、
予算編成の
方針に反する。すでに昨年占領軍司令官から
財政に関する指令を與えられておる。それによ
つて日本の政治をして、行くべきものである。然るにそういうことはかの……名前を挙げては惡いかも知れませんが、とにかく甚だ不明瞭な、不熱心な、不徹底な
日本の
内閣のために全然これを無視してや
つておる。その昨年の指令というものはどういうことを一体指令されたかと申しますると、長い指令でありまするが、その終いの方にこう書いてあります。「今や
財政の支配権は
一般國民の手に入つた。
日本が直面しておる危險は
インフレにあるが、
インフレの根本
原因は
政府がこの
インフレによ
つて財政を賄い、それに基く厖大な購買力が存在しておることにある。從
つて第一に
予算を縮小して紙幣の発行を最小限度に止めなければならん。通貨
インフレで
財政を賄うは政治的には容易な解決法であるが、結局破滅を招く。」こういうことを言われておりながら依然として厖大な
予算を編成しておる。この
予算が……五月二十八日の指令である。ところが六月一日にできた片山
内閣というものは二十二
年度本
予算に丁度倍額するところの厖大な
追加予算を出した。そうして
物價は或る種のものは半年間に十倍に増額さした。大体今日の世界の趨勢といたしまして、又
日本の当面しておる焦眉の大問題といたしましては、
財政を
整理、節減するということは第一の要件であります。全世界皆これに努力しておる。それからその
財政を
整理縮減することに当
つて、
日本のごとき最も痛切にこれを感ずるのは
物價の引下げであります。
物價を今日のままにして覆いてはどうしても
財政を
整理縮小することはできん。
財政の
整理縮小はできず、
物價の引下げができないならば、この
インフレをどうしても抑えることはできない。
日本も破局に陷るに決ま
つておる。現に昨年の二月、フランスの総理大臣ラマデイエ氏が、
物價が上るから
賃金を上げる、
賃金が上つたから
物價が上
つて、
物價が上つたから
賃金というような、これをやるように
なつたら、その國は破滅の前夜だと言うのです。だからフラン人などは絶対に
賃金を上げない。こういう……これはあとで時間がありまするならばできる限りそれを御参考に申上げて履きたいが、そういう
方針でや
つて來ておる。又
日本でも、もう
一つドレーパー次官の六ケ條の指令というものがある。これを出した新聞もあり、出さない新聞もあるということです。一体
日本人は占領軍の指導を受けて行かなければならんという義務のある國でありながら、非常に鈍感で感じが鈍い、そうして政治に冷淡だ、不見識だ。それだからどんなに尊い、立派な指令が與えられても、政治の上に実現することはできません。何という不見識な
國民でありますか、政治でありますか、そのドレーパー次官がアメリカに帰りまして、本年五月二十日どういう指令を
日本のため與えたかと申しますと、「
日本政府はできるだけ早く
財政の
均衡を図るべきである。」この
均衡ということは、この本
年度予算の今日だけ辻褄を合わすということでは駄目だ。二、三ケ月後には崩れてしまう、そういうふうなことでは駄目だ。
健全財政とは一年間ずつと実行のできる
均衡予算でなければならん。健全な
均衡を図ることが必要だ。第二には「そのためには國庫の
支出を減らすことが肝要である」、これが第二。第三に「総司会部は
日本における米軍の占領費を減らすように引続き努力しなければならん。」第四は「
統制物價はできるだけ速かに生産費と関連させて、國庫補助金はできるだけ中止すべきである。」これは
日本の
財政に対して痛棒を食らわしたのであります。
日本の本
年度の
予算を見ると……去年からそうでありますが、
日本の
財政の特質として、誠に不正の目的によ
つて作られた
予算と見えまして、非常に不純のことが多い。第一不当の補助金が沢山あるということは何事ですか。要するに
財政の全般を通じて見るところは、
物價の騰貴によるためにこれだけ國費が殖え、三千九百九十億というような莫大の
経費が何によるかというと、昨年に比べて何程の仕事もしておらん、するのではない、例えば現在問題にな
つております
終戰処理費です。この
終戰処理費というものは去年の本
予算では僅かに二百五十億だけだ。それを本年は何のためにこういうことをしたか知らんが、款項に分けてありますけれども、
終戰処理に関する
経費は全部で一千六十億にな
つておる。昨年は二百五十億であつたものが一年経たない内にそれが四倍になるとは何か、即ち
物價の騰貴である。これは
物價騰貴のためにこういう弊害ができるのでありまするから、
物價の引下げをするということは実に
日本の
財政の爛額焦眉の急務であります。然らば如何にすれば
物價の引下げができるか。ここで私の案というのは、即ちそれであります。私は先ずこういう案を作
つて來た。これは直ちに実行して貰いたい。
これを先ず
委員長に差上げて置きまして、これを時間のある限り申上げたいと思うのでありますが、この
予算綱要を見まするというと、
所得税を軽減しまして七百三十六億という金を浮かばせるというのであります。これは実に無用のことである。大体
日本の
所得税ほど軽いのは世界のどこにもない。イギリスなどは高額所得になりますると、九七・五というものを納税しておる。アメリカでも夫婦に子供二人、これは標準家庭にな
つております。それで控除をして二千五百ドルの收入ある者は九十五ドルの税金を納めておる。一万ドルの所得ある者は千八百六十二ドル税金を納めておる。五百万ドルの收入ある者は四百二十七万五千ドルの税金を納めておる。丁度八五%にな
つておる。然るに
日本のこの度の高額所得ではこれを八〇%に引下げておる。敗戰國のこの四苦八苦しておる
國民が、何故に
所得税をそんなに引下げる必要があるか。これは実に如何なる階級に迎合するつもりか知らんけれども、実に有害無益の計画であ
つて、この
所得税改正を止めねばならん、止めてその七百三十六億の金をどうするかと言いますと、私はここに書いてあるように廃減税を実行すべし。つまり政治をするには今の
日本では一挙手一投足、即ち
國民の
生活を樂にすることと、
物價の騰貴を抑えること。この二大眼目をいつでも忘れてはならんのです。でありまするから、この七百三十六億を投じまして、
物價の騰貴を誘発するところの税金を廃止するのです。先ず第一は
増加所得税五億円、
法人税百三十億円、特別
法人税が五千四百万円、清涼飲料税が十六億四千七百万円、砂糖
消費税三億六千二百万円、
物品税が百七十五億八百万円、通行税が三十四億八千九百万円、入場税が九十四億八百万円、有償証券移轉税が一億四千百万円、これだけを合計しまして四百六十二億九百万円です。七百三十六億の金が浮いておるというのだから、これだけの税金を廃止してもまだ二百七十三億円です。それで同じく
物價の騰貴を誘発する物の中に最もひどいのは酒税です。この酒の税金を今年は四百五十七億円を取ろうというのです。それを半額に減らして二百三十億をそれに充てる。それでも尚七百三十六億の中、四十三億は残る。その四十三億で以てこれだけやりますと、この
消費税、
物品税、
法人税、通行税、こういうようなものを廃止すれば、必ず
物價の騰貴は抑えられます。
物價引下げとまでは行かないかも知れないが、
物價の騰貴を抑えることができる。
物價の騰貴を抑えることができるのでありますから、この
予算の中に五百十五億というような
價格調整費、そういうものは殆んど全部削ることができる、全部というわけにも行かないかも知れませんけれども、
予算に書いてある
通りに從いましても、今後の値上りに備えたものは四百三十六億ある、それは当然削
つてよろしい、値は上らんのです。四百三十六億だけ先ず削
つてそれを前の残つた四十二億に加えますと、合計四百七十八億になります。四百七十八億円は即ち本
年度の煙草の賣上げ代金九百四十三億の半額以上に
当ります。これで倍の値段に
引上げるという煙草を半額にするのでありますから、これで又この方の
物價の騰貴は抑えることができる。大体この酒や煙草というものは
生活必需品でないのだから、重い税金を課けてもよいということにな
つておる。学理上においても実際においても、それはもう
一般の通念にな
つておりますけれども、
日本の酒と煙草は余りにその税金というものがひどいので、非常に弊害が起る。この大なる弊害というものをどうしでも防がなくちやならない。酒の税金のごときは
終戰の年には十六億円であつたものです。それが今日は四百五十億に
なつたというのでありますから、丁度二十八倍です。三年間に税金が二十八倍だの三十倍だのということになれば、それは如何なる種類のものであ
つても、
物價の騰貴を誘発するところの恐るべき勢力であるに相違ない。又満洲事件の始まりました翌年の
昭和七年の酒税を見ますと、一億七千七百万円であつた。それを本
年度の酒税の
予算に比較いたしますれば二百五十倍だ。二百五十倍、そういう乱暴な殖やし方をするのでありますから、社会に非常な弊害が起る。例えば酒の密造のごときものは、これはもう実に驚くべきものでありまして、大体その
方面の消息通の話を聞きましても、全國五百万の農家のうち一戸平均二升ずつの「どぶろく」を作るといたしましても、一千万石の米が消耗されるというのであります。これはもう確かにその事実はある、そういうように社会に幾多の弊害を起すのでありまして、又これは必需品ではないが、多数
國民の需要するものでありまするから、酒と煙草というものは
物價の騰貴を誘発する最も恐るべき原動力であります。でありまして、今日は
日本も、もうこれだけの……戰時中から今日までに二百五十倍も上げたし、戰爭が終
つてから二年間に三十倍に近い増税をした。この頃は毎年々々二回、三回酒の税金を上げておる。酒と煙草は如何に奢侈品、嗜好品であるとしても、そういうことをやられて堪まるものではない。弊害の極致です。これを馬鹿の
一つ覚えのように奢侈品だからとい
つて社会の弊害も何も顧みずそういうことをやるということは、実に愚の骨頂です。だから酒の税金、煙草の税金は断じて引下げなければならん。半額にしなければならん。酒や煙草の
消費税を引下げますならば、立派に
日本の
物價の騰貴を抑えることができます。
それからもう
一つは、これは特別会計のことでありまして、余り数字の議論をする必要もございませんが、とにかくこうや
つて來まして残るところは鉄道の料金、郵便の料金の
値上げ、これは六百億か七百億の金であります。これも
物價の騰貴を根本として割出した数字でありまして、
物價がこれ以上上らんということならば、この
値上げをする必要はない。先ず差向きの穴埋めはどうするかといえば、
終戰処理費、即ち昨年は二百五十億であつた。これは本年は一千六十億にな
つておる。それから公共事業費、これが又実に恐ろしいもので、如何に土建
業者に多くの金を拂わなくちやならんものがということを痛切に感ずるのでありますが、本年の公共事業費は四百二十億、昨年の
追加予算まで入れて昨年の公共事業費は百四十億であつた、それを一年間に三倍にした。何でそれ程必要があるのか私は知りませんが、とにかく
物價の騰貴のためにそう
なつたということは爭われない事実である。若し
物價が上らないならば、この四百二十億の公共事業費も少くも三分の一は削除することはできる。
終戰処理費の一千六十億も三分の一以上は
整理することはできる。その外に
予算の計上に、いや煙草補正特別補給金とか何とかいうものがありまして、悉く
物價の騰貴を前提とした
経費です。こういうものの大部分はいずれも削除することができるのでありまするから、鉄道及び郵便料金値上の六百億や七百億ぐらいの金を浮かすことは易々たるものであります。これは是非とも実行しなければならん。私はいろいろの税金を九つも廃止せよと言う。酒の税も半額にせよ、煙草の税も半額にせよ、鉄道、郵便料金の値上を止めてよろしいというような沢山の金の要ることを申しますけれども、これがために
政府は一文半銭の
財源の調達を要しません。痛くも痒くもないことである。ただそういう頭の置き方さえ変えればそれでいい。それでもうこれだけの
経費の節減かできる。これだけの民力の休養はできる。これだけの
物價の抑圧をすることができる。余りに
日本の政治家の諸君は智慧がなさ過ぎる。
財政のことは分らなさ過ぎる。こういう立派な案が痛くも痒くもない、一文半銭も要らないのに、七百何十億という税金を減らし、九つに上るところの……
日本の
租税は十七種あります、その品の九つまで廃止してしまうのでありますから、これによ
つて税務署の役人樣の
経費は半額以下で済む筈です。もうそれで
行政整理ができる。とにかく
日本では
行政整理、
行政整理と言うと、何だかそこの役人を必要でも辞めさせなければならんように
考えるから、非常に困難を感ずる。行政を行政だけで
整理しようということは、それはできないことである。すべて
財政に関連を持つたわけでありまして、
國家の政治の根抵は即ち
財政にあるのです。
財政の
整理をしなければ
行政整理は断じてできないのであります。で、私が今申しまするように、税金の十七種あるものを半分以上の税金を廃止せしめるならば、それで税務署の
経費は浮んで來る。大体ドールトン藏相は昨年
議会で演説しましたように、新らしい税を設けても、それがために
経費を要するならば、その税金は失敗である。
日本などは、
日本の大藏大臣樣のおやりになることは、昨年などは非常に、前年に六倍、七倍するところの
重税を課して、
國民の
負担力では拂えないようにわざわざさせたり、一万四千人の税務官吏を増員し、九十何ケ所の税務署を創設して、そうして猛烈な苛斂誅求をやる。そんなことをやることは國長いじめに過ぎない。丁度帝政時代のフランスが拠金の十分の一乃至三分の一しか國庫の收入はなかつた時分であります。官吏が腐敗横暴を極めればそういうものである。
日本の
現状は丁度革命以前の帝政フランスの
財政に彷彿たるものがあります。こんな役人万能の行政費ばかり嵩んで
國民を苦しめることばかりに力を入れるというような劣等の
財政策の政治は、近代のどこの國の政治にも見ることはできないのであります。
まだいろいろ申上げなければならんことがありまするが、簡單に結論をいたします。それで、どこの國の実例も少しは見なければならん。イギリスなどはどういうことをやつたかと申しますると、先ず國費を減す点において、
財政整理の点におきまして、この戰爭は終りました当時は六十億六千三百万ポンドの
予算でありましたのを、その翌年は五十四億ポンドに減らし、その翌年は三十八億ポンドに減らし、本年は三十一億八千万ポンドに減らした。その外に
議会で可決せられて七月一日から行われる明
年度予算は二十九億七千六百万ポンドかになる。とにかく三十億を割つた。
終戰の時の半額以下に減らしたのです。それのみならず戰爭の終つた翌年できた
予算は、労働党
内閣多年の公約によりまして三億三千万ポンドという減税をした。今度大藏大臣が迭
つてクリツブス藏相によ
つて又減税をしました。それ
はつまり
物價引下のためでありまして、この私が今
物品税や入場税を全廃せよということを言つたと同じ論法です。その趣旨によりまして興行税、劇場、サーカス、スポーツの入場税は一シルリング以下のものは無税、一シルリング以上の入場料を取る所では、その税金を半額にする。又購買税、
物品税のごときものは、或る種類のものは五〇%から三三%に引下げた。それから最高一二五%のものは一〇〇%に引下げた。すべてこのように
消費税を約二割五分平均引下げまして、それでイギリスは一〇%の
物價引下げをやるというのです。大体イギリスは戰爭以來今日まで
賃金の
値上げということを絶対にしないのであります。で、本年の春
議会に
賃金釘付け政策というものを提出いたしまして、
賃金を上げない。こういうように税金を減じて
実質賃金を殖やすのであるから、
賃金を上げないということを労働党
政府が
議会で可決したのであります。そうすると英國の労働組合、七百五十万の労働組合の代表者はロンドンで大会を開きまして、この
政府の
賃金釘付け政策はよいか惡いかということを表決に付した。そうすると賞金釘付け政策がよろしいと賛成しました者は、五百四十二万一千、
反対した者は二百三万二千です。それで
賃金を上げないということを英國の労働組合が可決しておるのです。健全なる政治をする國の
財政というものは、社会の現象というものは、この
通り立派なものである。
日本などのざまは何事です。大体……もう
一つフランスは最も
インフレの激しい國でありますから、最も
物價の引下げに力を盡しております。それで昨年の一月の二日、ブルム
内閣によりまして
物價の引下げを断行した。続いて一月の末にできたラマデイエ
内閣によ
つて又
物價の二割五分引下げを断行した。それでゼネストが全面的に行われましたが、又それにも拘わらず、三月二日に又三割五分の
物價の引下げをしました。そこで労働攻勢が激しくなりました。その時分共産党も入閣してお
つて援助しましたけれども、あのコミンフオルムができて攪乱を始めて來ると、共産党は
内閣を脱退して、それからこの内乱暴動を指導して來た。そこでいよいよラマデイエ
内閣ももう堪らなくなりまして、十一月末に辞めました。そうするとシユーマンという人は、そういう大英断をした人で、田舎の弁護士でありましたが、それが大藏大臣になりましてからのやり方は、非常にフランス人に信用を高めたものと見えまして、大した有名でもない人が
内閣を組織することに
なつた。その華々しい仕事の仕方を
日本の政治家諸君の御参考に供したいと思うのです。シューマンという人は、大統領から
内閣組織の大命を拜受しましたのは十二月二十二日の朝です。これは今の
日本とも違いまして、四派です。四派の連合
内閣を組織したのでありますが、二十二日の朝大命を受けますと、その翌日の二十三日の晩にはもう組閣を完了しておるのであります。それから四日、五日、六日と三日間閣議で案を練りまして、いよいよ激しい労働攻勢、内乱の必然の形勢に
なつたから、この労働攻勢を乘切らなければならんというので、二十七日には労働團体に交渉した。交渉したけれども、それは断乎として撥ね付けられた。それで仕方がないからいよいよやるということにな
つて、翌日は先ず……元來フランスには人間が三人集まると、その中の一人は共産党だというのです。それ程共産党の旺盛なところでありますから、それがストライキを指導するということになれば、これは容易ならんことでありますから、そこで先ず警察の中にも沢山の共産党がいるのだから、それを
経費節減の名によ
つて警察の警部級の者六十六人、巡査、刑事二千人、それだけの者を二十七日に免職した。それから三十八日には八万人の軍隊を召集しまして、その数日前に召集した十万の軍隊と共に、十八万の軍隊を
政府は握
つたのであります。それは二十八日。そうして準備が成ります。と、翌二十九日、
議会にフランス防衛法という労働攻勢を乘切る法律案を出した。その法律はどういうことを書いたものであるかというと、爭議をした者は六ケ月以上五ケ年以下の懲役に処し、一千フラン以上五万フランの罰金を科す。爭議をやれというお話をした者でも、爭議を煽動する演説をした者でも、爭議をやれというビラを貼つた者でも、プラカードを立てた者でも、看板を立てた者でも、皆同じで、若し不法の家宅侵入をしたり、暴行をしたりした者はその罪を倍加する、こういう法律であります。それでシユーマン
内閣は、この案を以て労働團体に交渉した。こういう案を作つた。とにかくそれを二十九日に下院へ出しますと、下院は夜晩くまで議論をしたが、共産党は千百八十八人挙
つて反対しましたけれども、結局それは一日で下院を通過して、翌三十日上院に送つた。上院も朝から晩まで非常に大議論をしたけれども、結局それを承認して可決して、即日この法律を実施したのです。それでシユーマン首相は、労働総同盟の代表に向
つて言うのには、諸君の要求する
賃金の
値上げは絶対拒絶する。
賃金は上げない。又爭議中の
賃金は拂わん。併しながら諸君が潔よく職場に復帰して、その職務に從事して、ストライキを止めるということであれば、諸君の爭議中の
生活費何程かはおれが出す。こういう交渉をしたのです。それを肯かなければ、今の六ケ月以上五ケ年以下の懲役です。そうするとさすがの労働総同盟も動搖して來て、先ず共産党系でないもの百何十万は分離して、そうして遂にフランスの大内乱を起すところの爭議は解決したのです。そうして昨年十一月三十日に、この労働攻勢を乘り切
つて行くと、本年の三月十一日になりますと、又
賃金抑制法を
内閣は
議会に出しまして、一月十五日の
物價を以て、今後
物價を
引上げてはならない。今度は
物價釘付け政策です。それはいろいろ議案がありましたが、結局期限を附けた。いつまでもというのでは面白くないから、本年十二月までこの物資を絶対に釘付けする。こういうことになりまして、
議会は共産党とド・ゴールの右翼の反動團体を除く外は、百八十八対三百三十四票という多数を以て
議会を通過しておる。こうして飽くまでも
賃金を上げないで、
物價を抑制しておる。それから一面又そういうことをやると同時に、詳しいことは分りませんけれども、本年の四月一日からは日用必需物資と食料品等に対しまして、八%から一八%の
物價の引下げを断行した。もうフランスは数回それを実行しておる。それでたびたびの激しい労働攻勢に対して、或る場合には負けて、多少手当というようなものを増額したことはありますけれども、
賃金を
引上げんという
方針は断乎として動かんのです。アメリカにも盛んなる労働攻勢がありますけれども、これは戰後の好景氣で非常に
資本家が利潤が多くな
つて來た。これは商工省が非常に精密な統計を発表するのでありますから、
労働者はそれを見ておる。これはひどいじやないか、我々の
賃金は一向上
つておらんのに、
資本家だけ毎年どんどん利益が上る、そんなに沢山儲けるなら、少しこつちへ寄越せ。これはアメリカの爭議で、
日本の爭議とは全然正
反対の現象です。そうすると大きな製鉄会社のごときは、その要求をぽんと蹴
つてしまつた。
賃金の
値上げは相成らん、その代りこつちは製品の値段を下げる。一ケ年一千万ドルの利益を
犠牲に供して、製品の値下げをした。これでよろしいだろうか。
賃金値上げはしない。各國は皆こういうように
生活の安定をして、
賃金の
引上げを抑えておるのであります。然るに
日本はどうか。
政府みずから進んで、
鉄道運賃を三倍にする、郵便料金を四倍にする。
財政のごときでも、去年は二百五十億であつた
終戰処理費が、今年は一千六十億。去年百四十億であつた公共事業費が、今年は四百二十億。そういうべらぼうなことばかりして、
政府みずから
インフレを奨励して行くような、こういう劣等不法の政治をする國は、世界のどこにもございません。諸君政治に携わる者は、特にこのことを御了承せられたい。こんな馬鹿な政治をして一日の安きを偸むということは、それはもう参議院も衆議院も、断じて国民のものではないのであります。國会無用なりと断言せざるを得ないのであります。この
予算をこのまま丸呑みにするようなことがありまするならば、それは由々しき大事件であります。私は時間があれば、こういうことを何程でも申上げたい。沢山豊富な資料を持
つております。著書も書いて、この参議院の図書館に寄贈してありますから、御覧を願えば幸いでありまするが、それは今から言えば聊か古い。併し今の新らしい
財政についても、私はもつともつと深刻な
意見を持
つておりまするが、要するに、
政府みずから
インフレを挑発するようなことをする、そういう劣等な政治をするものは、どこにもない。
最後に、申し遅れましたが、もう
一つ物價騰貴を抑制する
條件、それは金融を引き締めるということである。この間イタリアの大統領に当選した人は、あれはやはり銀行屋さんでありまして、昨年の六月大藏大臣にな
つて、僅かに一年足らずの大臣在職でありましたけれども、さすがに
経済界のことに精通しております。大藏大臣に就任すると、先ず
賃金の抑制、
物價の抑制、それから銀行の貸出し制限というものに全力を挙げて、それでマーシヤル、プランの受入れ態勢を作
つたのであります。
日本でもこのままでは、絶対にアメリカは安心して
日本の援助をいたしません。できるものではないのであります。然るに何事か。復金の貸出しは本年は九百億だという。これはみんな貨幣に轉化して來るのであります。復金の金をこのまま使つたら、紙幣は一千億殖えるのであります。
財政の支拂は去年に比べると、二千億殖えて、これで三千億、大雜把な計算でありますが、今二千三百億の紙幣が出ておる。それに三千億加えると五千億になる。そういうことになりましたら、それはもう乱脈破壞の極ではないか。そういう政治をしておるのであります。況んやこれは私が今指摘したごとくに、
物價騰貴の費用ばかりであるのでありますから、この
予算を実行して行けば、
物價はどんどん上
つて、恐らく半年経たんうちに、倍の
予算を要求することは当然である。そうすれば、五千億に又二千億、三千億も殖えて、七千億、八千億にも紙幣が殖える。
日本は破局の第一歩に踏込んでしま
つたのでありますから、ここで大なる轉回をしなければ、これはもう
日本の壞滅を防ぐことは絶対に不可能なのであります。芦田総理大臣は、何かこの復金の貸出しの金で儲けたとか、賄賂を取つたとかいうようなことを盛んに言われておりますが、大臣が賄賂を取つたとか取らんとかいうことは、それは
財政計画に関係のないことだから、我々の論ずべきことではないけれども、とにかくこういう不当な貸出しをするということは、これは財界攪乱であり、
日本の
経済的破滅である。この復金の金九百億、この補償をするために、
予算にも百八十億という
予算を要求しておりますが、これこそ実に無用有害の金でありまするから、この金は断じて削除して貰わんければならん。それを削除して、それを
鉄道運賃の
引上げや、郵便料の
値上げに充当せよということが、私の今
予算委員長閣下に提出した書類の案である。これくらいの明白なこと、これは痛くも痒くもないことで、少し頭を働かせば、この
通り立派な政治ができるのでありますから、是非諸君はこれを断行して下さらんことを切にお願いいたします。