○板谷順助君
只今上程になりましたる
國有鉄道運賃法案に対する運輸交通委員会における
審議の経過並びに結果を御
報告申上げます。
この法案の説明に先立ちまして、
諸君に御
報告申上げたいことがあります。御承知の
通り先般本院におきまして、輸送力増強に関する
決議案が満場一致を以て通過をいたしてお
つたのであります。即ち現在の国有
鉄道に対しましては、
國民が非常なるところの不満を持
つておる。例えば旅客列車におきましても、殆んど殺人的の混雑を來しておる。又サービスも極めて惡い、又貨物の輸送につきましても、現在の
生産増強を阻んでおりまするのは、要するにこの輸送の欠陥であります。更に又従業員各位におきましても、能率の増進に努め、いわゆる
國民に親しまれ、愛されるものにならなければいかんということを、この
決議案において力説をいたしたのであります。ところが、これに対して運輸当局は、昨日、極力この問題に対しては改善をし努力をするということについての回答に接したのであります。これ対する
報告書は、昨日
諸君の文書箱に入
つておることと存じまするから、これを以て御了承願いたいと存じます。
法案の説明をいたしまするが、この法案は、六月二日に
議会に提出をされまして、同月に
参議院に予備川審査を付託されたのであります。この
議会に提出されましたる各種の法案のうち最も重要なるところの法案の一つであります。
從つてこの
報告につきましては、相当の時間を要しまするので、甚だ御迷惑とは存じまするが、暫く御清聽あらんことを希望いたします。(「よし、」「二時間」と呼ぶ者あり、
拍手)
先ず第一に、
鉄道運賃は
國民一般の利害に緊密なる関連があるにも拘わらず、從來は運輸大臣限りで決めてお
つたのであります。ところが、今回財政法第三條の
規定によりまして、今回初めて
國会に付議せられたのであります。
第二の理由は、今回の法案は、旅客貨物共一律に大幅の運賃引上げでおりまして、この運賃の引上が一般予算中の物價並びに賃金の算定に織込まれて計算してありまするし、又この運賃の引上でまだ不足する分は、一般会計から
鉄道会計へ繰入填補することにな
つておりますから、この法案の動きの如何によ
つて、一般予算も
変更を受けざるを得ざるという結果になるのでありまして、待
つて密接不可分の
関係にあるからであります。
第三の理由は、
鉄道運賃の大幅引上は
國民生活に至大の影響を持ち、特に旅客運賃の引上は利用者が現実直接に負担の加重を受けますから、本案の発表と同時に鴛々たるところの
輿論の反対が起
つておるのであります。尚、運輸交通委員会に宛てまして全國全財務労働組合、國鉄労働組合、その他全國各方面から多数の旅客運賃値上げ反対の電報や書面が参
つておることを御
報告申上げて置きます。
第四の理由は、國有
鉄道は我が國最大の事業でありまして、この事業が財政的に健全に経営されて行くか否かということは、我が國経済復興の重要な指針ともなるべきものでありまして、従
つてこの法案の
審議につきましては、単に國有
鉄道の収支の計算のみならず、進んでは國鉄経営の
合理化、輸送力増強の問題まで掘り下げて檢討するのでなければ、
審議の徹底を期することができないことは当然のことであります。かような重要な法案でありまするから、
審議も極めて愼重を極めまして、前後十数回に亘
つて委員会を開催いたしたのであります。運輸大臣は勿論、経済安定本部長官、大藏大臣、その他各方面の責任者の出席を求め、あらゆる角度から熱心に
質疑をいたしました外、公聽会を開いて一般の
輿論を聽き、又予算分科会とは二日に亘りまして合同審査会を開きまして、会計、予算上より見た運賃問題の檢討へ行
つたのであります。
審議の
報告をいたしまする前に、簡單にこの法案の説明をいたしますると、この法案は本文九ケ條、附則三ヶ條、別表三より成
つておりまして、先ず第一條には運賃料金制定の根本原則を定めてありまして、
政府の言い分は、即ち運賃料金は公正妥当なものであり、原價を償うものであり、産業の発達に資するものであり、賃金及び物價の安定に寄與するものであるということが原則であるという説明であるのであります。
次に第二條乃至第六條には旅客運賃料金を定め、第七條には貨物運賃を定め、第八條、第九條には運輸大臣に対する委任の範囲を定めてあります。又運賃料金の実額については、普通旅客運賃を第三條で定めてあります。その外はすべて別表に
規定されておるのであります。而して今回
規定せんとする運賃料金を現行のそれに比較しますと、原案は約三倍半の引上とな
つておりまして、これによる増收額は、旅客
関係におきまとして五百二十三億円、貨物
関係におきまして二百二十九億円、合計で七百五十二億円余とな
つておるのであります。本年度の
鉄道会計の收支について申上げますと、運賃の引上が年度中間で百あることも影響いたしておりまするが、百億円の赤字となり、これは一般会計から業務收支差額繰入として
鉄道会計に繰入れることにな
つておるのであります。
政府のこの法案提出の理由を簡單に御紹介しますると、國有
鉄道は、創設以来終戦に至るまで経営の赤字を生じたことはないのであります。戰跡におきましては、
諸君も御承知の
通り、むしろ剰余金を出しまして一般会計に繰入れてお
つたのであるが、終戰後急激なるところの物價及び賃金の高騰によりまして、多額の損失を生ずるに至り、更に今回物價の改訂、賃金水準の引上等が行われることになりまして、このまま放置してお
つたならば莫大な赤字を出すことになり、
鉄道財政を全く危殆に陷れることになりますので、この度運賃
改正を図り、財政法第三條の特例に関する法律によ
つて國会に提出した次第であるという説明であります。國有
鉄道は勿論独占的であり、且つ公共的事業であ
つて、運賃の高下は直接
國民大衆の日常生活に多大の影響を及ぼす重大な事項であります。そこで
政府の言い分は、運賃の値上は最小限に止めなければならんことは申すまでもないのであ
つて、
政府はあらゆる角度から種々考慮検討を加えた結果、貨物及び旅客運賃共に現行の……これは原案についてでありますが、現行の三・五倍に引上げることに決めたのであるという趣旨であ
つたのであります。 委員会におきましての
質疑應答は詳細を極めておりました。詳しいことは
速記録によ
つて御覧願うことといたしまして、その要点だけを御
報告申上げます。先ず
質疑應答を整理大別いたしますると、第一は
法律案の條文について、第二は
鉄道運賃の引上が一般物價及び賃金に及ぼす影響について、第三には運賃引上の倍率及び國鉄の財政について、第四には
鉄道最大の費用である石炭について、第五には國鉄経営の
合理化について、以上の五項目に分
つて整理大別をして説明をいたします。
先ず最初に、
法律案の條文についての
質疑應答を申上げますると、第一條には運賃制定の根本原則とじて四項目が書かれてあるのでありまするが、この四項目は、必ずしも調和し得るものでもないと思うが、今回の運賃値上はどの項目に一体よ
つたのであるか。第七條には「車扱貨物運賃は、貨物等級表の等級に從い、別表第三の貧賃率による」とあるが、貨物等級表は貨物運賃に関し最も重要なるものであるが、誰が一体決めるのであるか。第八條、第九條には、運賃、料金の軽微な
変更や賃率の適用に関する細目は運輸大臣が決めるとあるが、一体政令で決めるのであるか、或いは告示で決めるのであるかという
質問であります。これに対するところの
政府の
答弁は、
鉄道運賃は、一方には
鉄道財政の健全北を図ると同時に、他方には属民経済への影響を考慮しなければならないから、いろいろの
立場からの要請を調和して決めなければならない。今回の運賃倍率もその方針で第一條の四原則の総てを尊重して、種種研究の結果、決めたのであるという
答弁であ
つたのであります。又第八條、第九條の運賃料金の
変更、賃率の細目は、運輸大臣が告示で決めるという
答弁であ
つたのてあります。
次の
質疑は、
鉄道運賃の引上が物價及び賃金に及ぼす影響についてであるが、これほ
國民負担に関する重大問題である。経済安定本部長官や生活物資局長その他
関係者の出席を求めて詳細の説明を求めたのであります。
その主なる
質疑應答を申上げまするというと、
鉄道運賃の引上げに関連して新物價をそう決めるつもりであるか、今回の運賃引上は当然物價及び賃金水準に変動を及ぼすが、一般会計予算には如何なる断物價及び新賃金水準が織込まれているのであるか。旅客運賃の引上げは当今の世の中の情勢から考えて、見ると、貨物運賃引上げと同様、物價に至大の影響があると思うが、どうか。又
政府は今回
鉄道運賃の引上げが
國民生活に及ぼす影響を一体どう考えているのであるか。先ず官公吏で言
つたならば、現行の賃金ベース二千九百二十円に対して、六ヶ月の定期運賃は三%である。今回の
改正から計算をすれば、新賃金ベース三千七百円に対しては七%とな
つて、殆んど負担が倍額になる。又国民総所得に対する運賃の割合は、現在では貨物は二・四、旅客は一・九が、今回の改訂では仮に
國民所得は一兆九千億と見て、貨物が三・九、旅客が四・二とそれぞれ上るのである。それだけ
國民生活は苦しくなる。
政府はこれに対して、如何なる手を打つつもりであるかとの
質問であ
つた。これに対するところの
政府の
答弁は、
鉄道貨物運賃が基礎的物資の價格中に含まれている割合は、三倍半の引上をするとして、石炭は五%、コークスでは三%、セメントでは七%、米、麦、生鮮魚では一%弱、薪炭では三%乃至七%の程度であるが、その素材の運賃や
鉄道以外の運賃等を含めて考えると、右の数倍のパーセンテージになるから、物價騰貴を抑制するには
鉄道の貨物運賃を極力低くしなければならない。今日の新物
價改訂は貨物運賃の引上や賃金ベースの引上げを考慮して、一般物資において七割乃至八割の引上をするつもりか、安定帶物資については、経済復興
促進の必要から極力値上げを抑制し、その代り補給金制度を取
つて一般会計より出すつもりである。又新賃金べースは三千七百円であると考えているが、これは極力名月賃金を抑えて、実質賃金に裕りを持たせるように計らいたい。即ち
國民生活物資の購入はマル公物資價格において二割五歩、量においては六割五歩を示しておる。勿論できるだけマル公物資の配給を殖やして行くということにしたいと思うが、実質賃金において裕りを付け、生活を楽にするよう努力して行きたい、又闇値がマル公を割る物資も必ず出て来ると思うが、そういう物資は漸次統制を外して行きたい。又旅客運賃が物資と全然無
関係であるとは考えていない。旅客運賃の引上は確かに闇物資の價格に相当の影響があるとは思うが、貨物運賃の引上がすべての物資について一様に、而も直接的に影響を及ぼすことに比較して見ると、まだ旅客運賃の引上の方が一般物價に及す影響は少いと見ておるとの趣旨の
答弁であ
つたのであります。更に進んで、如阿なる根拠で断物價を七割乃至八割上げるのか、新賃金ベースを何故生二千七百円にしたのかという突込んだ
質問に対して、
政府はより細かな数字を挙げての説明がありましたが、大局的に見て各委員を納得せしめるような明快な
答弁を得られなか
つたことは非常に遺憾に存ずる次第であります。
私はこの機会におきまして、この物價問題に対しまして、私委員長としての
意見ではありません。委員長として
政府に
質問をいたしました要点を御
報告いたしたいと思うのであります。御承知の
通り現在の物價の引上につきましては、世間囂々としてこれに反対しておる。何が故に
政府から進んで物價を上げてインフレを激しくするのであるか、この点につきまして安本長官は、一例を申上げますというと、石炭に対するところの運賃の負担額は二〇%だと言う。これがいわゆる物價を上げる原因の一つとな
つておるのであります。又今回の物價の引上は、
國民生活の安定のためだという
答弁である。ところが
諸君、この問題につきまして
政府の
答弁は徹底しておりません。何となれば、例えば一例を申上げますならば、石炭について安本長官は、逆算いたしまして
鉄道運賃のいわゆる運搬費の負担が二〇%だと言いますけれども、その実、國鉄が負担するところの物價に対するところの運賃の値上は五%である。更にこれを四倍に引上げるといたしますならば、漸く五パーセント七の値上げである。又更にこれを五倍引上げするといたしましても七%であるのであります。
從つてこの貨物の運賃が今申上げますように、現在三倍半上げるといたしましても、どうも
鉄道の原價計算から申しましたならば半分は損が行く。であるから輸送の増強を如何に呼びましても、荷物を余計運べば運ぶ程
鉄道においては赤字が増大するという結果になるのであります。然らば今日物價を上げるということはどういうために上げるのかと言えば、御承知の
通り、各産業は赤字である。引き合わない
関係において、この物價を改訂せねばならんというのが問題であります。例えば石炭の例を申上げますならば、現在の價格におきましても中小の炭鉱業者は相当の利益を上げておる。ただ大炭鉱が赤字を今日沢山出しておる。それはどこに原因があるかと申しますというと、大体企業家が他力本願で、自分の炭鉱をできるだけ創意工夫して、産業の
合理化を図るところの熱意に欠けておる。一面に又労働者が、即ち拘束八時間制定と申しまして、四、五時間しか働かない、その結果減産を來しまして赤字が出る。赤字が出るがために物價を上げるといたしますならば、何時までもこの問題は解決できないのであります。従
つてその根本にメスを入れるということを忘れて、ただ物價を引上げるということのみに
政府は努力をしておる。例えば三千七百円のベースの問題につきましても、御承知の
通り、労働者
諸君が今日随分騒いでおる。
政府の説明を聽いて見ますというと、この三千七百円のペースの根拠は、五月におけるところの民間における一般の賃金の水準が三千五百円である。三千七百円の中から五百三十一円の税金が掛かる、それを差引くというと二千九百六十九円、これに対するところのいわゆる公定配給が一一五%、闇で買入れる價格が七五%、この闇と公定値段を睨み合わせて、更に五月以來いわゆる闇の物價が一ヶ月三・六ずつ上る、これを計算して、今申上げたところの三千七百円のベースを決めたという説明であります。ところが民間の事業におきましては、御承知の
通り、すでに四千五百円のベースを出している所もある。中には五千円以上も出しているところもある。勿論企業が成り立たんで赤字を出している所は、いわゆる労働攻勢のために止むを得ず出しているものもあるだろうし、或いは又儲か
つて出しているのもある。然るに今回
政府の物
價改訂というものが、これらの点まで掘下げずして、一律一体にこれを引上げるということについては、不合理であるということの私の
質疑を行
つたのであります。これに対しては
諸君の御判断にお委せいたします。
次には運賃引上げの倍率及び國鉄財政に関する
質問でありまするが、倍率の点は、本案
審議の中核でありますので、この
質問は最も活撥に行われたのであります。その主なるものを申しますと、旅客運賃は三倍半の引上げをすると、運送原價の約二倍の収入となるが、貨物は三倍半の引上げをしても、輸送原價の半分の収入にしか過ぎない。
政府は
鉄道運賃政策について全く経済運賃主義を捨てて、政策運賃主義を採
つているようだが、一体どうか。又今回の運賃の引上げを見ると、独立採算制の建前からら決めずに、軍に財政の辻褄を合わせるために決めたようだが、運賃を原價採算によらずに、政策的に決めると、将來
鉄道財政に
危險を及ぼし、
鉄道復興五ヶ年計画も覚束ないと思うが、
政府は國鉄の独立採算を捨てたのか、又今回の運賃引上げを見ると貨物輸送の赤字を旅客、特に三等旅客に轉嫁をした結果となるが、我が國の物價に含まれる貨物運賃は、アメリカに比較してまだまだ少い。これに反して旅客運賃三倍半の引上げは、殆んど旅行禁止に等しい。これは負担の公正を欠くものと思われるが、これは一体どうか。又旅客運賃を三倍半上げて、旅客の減少を五%にしか見ておらないが、最近私鉄が七割五分上
つて、実収入の増加が三割に過ぎなか
つた例から見ても、過少見積りではないか。又
鉄道予算に織込まれた新物價はどの程度で一体あるのか、
鉄道が予想した以上の値上りをする時は、又赤字が増加するのではないかという
質問であ
つたのであります。これに対し
政府の
答弁は、国鉄が財政の健全を図るために、独立採算制に順次移行することは望ましいのであるが、一挙に独立採算制を確立するということは、現状に鑑みてむつかしい。又貨物運賃をこれ以上げることは、一般物價に及ぼす影響が極めて甚大であ
つて、
國民生活に脅威を與えることとなる。成る程アメリカにおいては、物價に含まれる運賃の割合は比較的に大きいが、アメリカの経済は強靱であ
つて恒久的である、我が國の経済は今極めて脆弱であ
つて、危機に直面しているのであるから、同一に論ずるわけには行かない。又貨物運賃の引上げは、すべての物價に直ちに影響を及ぼすが、旅客運賃は利用者個別的の負担となるから、国家経済、
國民生活全体の上から考慮して、貨物運賃が原價を割り、旅客運賃が原價の倍となるのも止むを得ない。
政府はできるだけ経済運賃主義を採りたいとは思うが、現下の経済危機を突破するには、物價水準とも睨み合わして調和を図り、
國家の綜合政策の一環として
鉄道運賃を決めなければならないと考える。又旅客運賃を三倍半に引上げた時の旅客の減少歩合は、或いは一割ぐらいを見込むのが手堅いと思うが、五分でも差支ないと思う。
鉄道予算に織込んだ新物價は、石炭、電力は二・六倍、一般もの價は七割高であるが、改訂では石炭が二・七七倍、電力が三倍、一般物價が七割乃至八割とな
つたので、
鉄道財政は相当苦しいと思われる。旅客減少歩合や物價騰貴の見込みついて多少狂いがあ
つたなら、極力節約や
合理化を図
つて、これを補
つて行きたいという趣旨の
答弁であ
つた。尚貨物運賃と旅客運賃の均衡の問題については、突き進んで
質疑應答が重ねられましたが、
政府の説明が委員会を十分納得せしむるに至らなか
つたことは、非常に遺憾に存ずる次第であります。
尚
鉄道運賃の引上については、
國民大衆の生活に及ぼす影響が甚大でありまするので、公聽会を開いたことは前に申上げた
通りでありまするが、簡單にその結果を御
報告申上げます。公述人が十一人の中で、運賃引上絶対反対を表明した者が七名、運賃引上は止むを得ないとした者が四名でありまして、その中倍率については旅客が三倍、貨物が五倍が一名、旅客二倍半、貨物五倍が一名、旅客二倍半、貨物三倍半が一名でありました。
次には石炭の問題であります。御承知の
通り國鉄の経費は、二十三年度の予算におきまして、人件費が三五%、物件費が五四%、その他が一一%とな
つておりまして、その物件費中の四〇%以上が石炭費にな
つておるのであります。そうしてその消費量は、
昭和十一年頃は年間四百万トンの程度であ
つたものが、昨年度は六百八十万トンの多きに上
つておる。それは全く石炭の品質が落ちたからでありまして、
昭和十一年頃は六千四百カロリーであ
つたので、一個列車を一キロ引張るに十七トンで済んだものが、昨今では五千四百カロリーに落ちたために、三十九トンを要しておるのであります。千カロリーの差で消費量が二倍以上とな
つたのであります。石炭の品質低下は消費量が増加するばかりでなく、
機関車を損傷し、労務を加重し、列車事故を誘引し、その他いろいろの面に不経済を生じて、
鉄道財政赤字の根本原因をなしておるのであります。單に
鉄道ばかりではなく、電力とか、船舶とかも同様のことが言えましよう。更に進んでは品質の惡い石炭を輸送することは、輸送力の浪費ともなるのであります。かように石炭品質の問題は極めて重大でありまするので、各委員も石炭問題を重視いたしまして、石炭廳長官を始め
関係者の出席を求め詳細に
質疑應答を交したのであります。
政府の説明によりますると、石炭については量の問題ばかりじやない、質の向上についても極力努力を拂
つている。尚品質に應じで格差をつけるとか、選炭設備を増強するとか、いろいろの方法を考えている。幸に最近は
鉄道用炭も逐次品質が向上して、五千四百カロリーに上り、更に七月以降は平均五千六百五十カロリーにまで引上げる計画をしている。下半期には
生産も増加するであろうし、特に北海道の成績が上がれば
鉄道用炭も品質の向上を図ることができるという
意見であ
つた。委員会におきましては尚
政府を鞭撻督励する
意味におきまして、
鉄道用炭品質改善に関する
決議をいたして、これを
政府に要求したのであります。
その
決議は
一、七月以降納入
鉄道炭の平均発熱量は
政府決定の五、六五〇カロリーを確保すること。
二、塊、粉割合、現行三一対六九を七月以降四〇対六〇を目標として改善に努めること。
三、現行石炭契約書の特約
條項を廃止して、実測カロリー及び実量濡引檢收を実施すること。
この点につきまして、現在までの運輸省が、この石炭の契約が、例えばカロリーが不足であ
つても、量が惡くても値引をしないという、こういう馬鹿げた契約をしているのであります。品が惡かろうが量が不足であろうが、一切それは
関係せんというような契約をしてお
つたのでありますが、これは今回石炭廳の長官或いは安本長官を呼びまして、これは契約を改訂させることにしたのであります。
四、
鉄道運轉用としては発熱量四、〇〇〇カロリー未満の石炭を配当しないこと。
これは雜用であります。
五、
鉄道に対し信頼し得る炭鉱を選定して供給すること。
六、
鉄道の檢收機構及び檢炭
施設を一層強化し、これを利用して炭質の改善を計ること。
七、國内
生産ピツチ数量を極力把握蒐集して、
鉄道用としての配当を増加し、ピツチ煉炭を増産して、粉炭処理の強化に充当すること。
八、山元の選炭を強化すること。
九、運輸大臣及び石炭廳長官、以上各号の実施につき、極力その実現を期し、その実績を当分の間、委員会に遅滞なく
報告すること。
これがこの委員会におけるところの
決議案であります。かように委員会におきましては
鉄道運轉用石炭の品質向上を図ると同時に、他方運輸当局に対して、技術の向上による石炭の消費節約、粉炭の加工処理
促進、雜用炭の消費節約等につきまして、最善の努力を拂うよう、強い要求をいたしたのであります。
最後に國鉄の経営
合理化、能率増進に関する
質疑でありまするが、國鉄の能率は終戰後、頓に減退したために輸送力は落ち、
從つて運賃収入が上らず、又経営の
合理化が進まないために、経費の節約が実績を挙げておらないことが、国鉄赤字財政の一つの理由であり、
從つて今回の運賃引上の倍率にも至大の関連を持ちまして、
國民にも負担の加重をかけるのでありまするから、各委員より國鉄当局に対し、強い反省と努力を促す
意味の
質問が多か
つたのであります。その主なるものを申上げますると、本年度の輸送の要請は一億九千万トンであるのに対して、輸送計画は一億二千六百万トンに過ぎないのであります。これでは滯貨が殖える一方である、もつと輸送力を増強して収入の増加を図ると同時に、
日本経済復興に寄與すべきではないか。又国鉄の経営
合理化、作業能率の向上は、以前から強く叫ばれているにも拘わらず、一向に進捗しておらない。
國民は國鉄の現状に対して甚だ不満を持
つているが、当局は今後如何なる
対策を一体構ずるつもりであるか。例えばこの輸送力の増強につきましては、
只今申上げましたる
通り、大体の
政府の決めましたのは、一億九千万トンの要求に対して一億二千六百万トンであります。ところが
鉄道当局の
答弁は、労需物資と資材と資金があ
つたならばこれ以上増強ができるということを弁明している。でありますから如何に
政府の間に大体の計画を立てましても、これらの問題が解決をしたならば、必らずこれ以上の輸送力の増強はできること信ずるものであります。又
鉄道の収入の主なるものは、旅客収入でありまするが、旅客輸送力を増強し、サービスを改善をし、旅客運賃の増收を図る考えが一体ないのか。又
鉄道不正乗客の数は過去一ヶ年間において百四十万件以上に及んでいるのであります。その追徴金も五千三百万円を超えているのであります。発見されなか
つたものがまだ沢山ある、不正乗客は恐らくはこれに数倍するであろう。
鉄道は徹底的に不正乗車を根絶する
対策を講ずべきであると思うがどうか、等の
質問でありましたが、これに対するところの
政府の
答弁は、貨物輸送力の増強については、配車技術の向上により、貨車
運用効率を高め、貨車修繕能力の特別強化によ
つて、貨車を生み出し、本年度四千輛余りの貨車を新製し、又シート、ロープを充足して、貨車積載効率を高める等、あらゆる努力を拂
つて増送に今後努めるつもりである。又
鉄道の
合理化については、國有
鉄道審議会を設けて、廣く
調査研究せしめるつもりであるが、差当
つて考えているのは監督行政部門と、現業とを切り離して、現業は将來極力独立採算制に推し進めたいと考えている。又国鉄の能率化には各種作業の機械化を図ると同時に、成るべく速かに能率給制度に切り換えていきたいと思
つている。能率の向上については、労需物資の充足、食糧加配の増加が極めて必要であるから、各方面の理解と援助を乞いたい。旅客輸送については七月一日からダイヤを
改正して二十三万キロを増発し、急行、準急を殖やし、又客車の
整備、清掃を励行し、サービスの向上を図
つていきたい。不正乗車の取締には常に頭を悩ましているが、今後とも車内檢札や改札を強化し、その防止に努めたいという趣旨の
答弁があ
つた。
國有
鉄道の根本的
合理化、能率の徹底的増進によ
つて、國鉄としては赤字を克服して健全財政を取戻し、
國家としては國鉄輸送力の増強により、経済復興の隘路を打開することを強く希望する者の眼から見ますると、この程度の
答弁では聊さか物足らん感じを抱いたのであります。この外にもいろいろの
質疑應答がありましたが、これは
速記録によ
つて御覧を願いたい。本案は七月二日に
衆議院で
修正可決をされまして、同日
参議院に送付にな
つたのであります。
修正案の大要を説明いたしますと、
國有鉄道運賃法案の一部を次のように
修正するとありまして、第三條の一号、「三等の賃率は、営業キロ一キロメートルごとに、百五十キロメートルまでは一円二十五銭」とあるのを九十銭に、「百五十キロメートルをこえる部分は九十銭」とあるのを六十五銭に
修正されたのであります。又第十條に「この法律の施行期日は、公布の日から七日をこえない期間内において、とあるのを、「二十日をこえない期間内において」と
修正をされておるのであります。「政令でこれを定める。」とあるのを、「各
規定につき、政令でこれを定める。」と
修正してあります。又別表第一の第四條の
規定による航路普通旅客運賃表、別表第二の第六條の
規定による急行料金表がそれぞれ
修正されておりますが、これは説明を省略さして頂きます。この
修正案の骨子は、
政府原案が旅客運賃におきまして、現行の大体三・五倍の引上げでありましたのに対して、恐らくは
政府は國論に顧みて、或いは又政党の
修正によりまして、この倍率を下げて、大体二・五五倍にすることにな
つたのであります。
修正案については、七月三日の委員会において、
政府より
修正の各事項について説明があり、又これに対して委員からの
質問がありました。その主なるものを申上げますると、倍率の引下げと施行期日のズレとによる運賃収入の減少はどれ程であるか。又その補填の方法は如何。又学生定期や学生割引は一体どうするのか。更に又施行期日はいつ頃になる見込であるかというような
質疑である。これに対して
政府の
答弁は、
修正による減収と施行の遅延による減收とを合せて、本年度は百九十九億円である。そのうち百九十一億円は一般会計からの繰入金を増額し、八億円は
鉄道の節約を以て充当するという
答弁であ
つた。又学生定期や帰省等の場合の学生割引は、割引率を強化する考えで研究しておる。又施行期日は貨物は十日、旅客は十八日を予定しておるという
答弁でありました。
これにて本法案に対するところの
質疑は終了いたしました。そこでいよいよ討論に入りまして、先ず
民主自由党を
代表して淺岡委員より、本案に反対をし、旅客運賃を現行の二倍、貨物運賃を現行の三倍にすることの
修正案の提出がありました。この
修正案の詳細は、後刻淺岡
議員より説明されることと存じますから、ここでは省略をいたします。次に民主党の橋本委員、社会党の中村委員、緑風会の村上委員より、それぞれ
衆議院よりの送付案に対して、不満足ではあるけれども、已むを得ず
賛成するという発言がありました。共産党の中野委員より絶対反対だという発言がありました。これにて討論が終了いたしまして、採決に入りまして、先ず淺岡委員提案の
修正案について賛否を諮りましたところ、少数を以て否決となりました。次に
衆議院送付の
修正案を含む原案全部について賛否を諮りましたところ、出席委員二十二名中、
賛成十五各の多数を以て可決せられたのであります。これを以て
報告を終ります。(
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