○伊藤修君
只今議題となりました裁判官の刑事事件の不当処理等に関する
調査の中間
報告をいたしたいと存じます。
この
調査の対象となりましたものは、先ず尾津事件、眞木康年の事件、蜂須賀事件、尚、青木繁吉事件資格
審査の不実記載の事件、これらの事件を対象いたしましてこの
調査会を開始いたした次第であります。併し蜂須賀事件は事國際間に関することではありまするが、その
内容は家庭の紛爭が主因とな
つておつた次第であります。從
つて法律の精神を酌みまして、当
調査会におきましてはこの審理の
調査の対象としないということに決定いたしまして、これを除いた次第であります。從
つて当
調査会の
内容となりましたものは尾津事件及びその他の四件ということにな
つておる次第であります。
調査会におきましては、先ず尾津事件を最初に取上げまして、これを本日までにおいて
調査を完了いたした次第でありまして、その点につきまして本日先ず中間
報告を申上げたいと存ずる次第であります。この事案に対しまして、
委員会において取調べましたところの証人は合計二十六人に及びました。又
調査委員をして直接本人に面談し、
調査をいたし、証人の
意見を聴取したものは三十二人に及んでおる次第であります。又人を煩わさずいたしまして、書面を以て
報告をなさしめ、書面の審理の対象となりましたものが三十八件であるのであります。合せまして九十六
事項に対しまして
調査をいたしました結果、
調査会におけるところのこれらに関するところの記録は約千枚に及んだ次第であるのであります。從いまして、この中間
報告をいたします場合におきましても、これを悉く申上げるといたしますれば相当なるところの時間を要するのでありますから、ここにはその
概略を申上げまして、詳細の点に対しましては、速記録並びに当
委員会から本院に
提出するところの
調査報告書を以て、その
内容の詳細については皆様において御了承を賜りたいと存ずる次第であります。
この本論に入りまする前に、先ず我が
調査会の目的につきまして一言申上げて置きたいと存ずる次第であります。今日、日本の建設に当りまして、即ち新日本建設に当りまして、民主主義の確立、民主主義の徹底これを根幹としておることは皆様において十分御了承のことと存ずる次第であります。從
つて立法の上におきましても亦すべての機構の面におきましても、社会
制度の上におきましても、経済の面におきましても、文教の上におきましても、すべてがこの線に沿うて、我々は一日も早く民主主義國家といたしまして、世界に伍して恥かしからざるところの國を建設しなくてはならんと思うのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)連合軍におきましても亦この民主主義の國家として再建せらるることの一日も速かならんことを期待しておることは、これ亦疑わないところの事実であるのであります。從いまして我々政治に在る者といたしましては、立法の面は申すまでなく、その他の面に対しまするところの民主主義の徹底が如何程に進展しておるか、如何程に確立せられておるかということに対しましては、常に重大なる関心を持
つてこれに我々は処しなくてはならんと思うのであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)然るに我が日本の司法権の運用上におきまして、遺憾ながらこの大切なるところの民主主義の確立ということに相悖るがごとき観を呈するがごとき事案の取扱い方がしばしば見得るところの現状にあることを非常に遺憾とするところであるのであります。これは若し意識的に超國家主義者を擁護するというようなことがありといたしますれば、これは非常に日本の今日の在り方に対するところの反逆であるのであります。併しながら、我々の心配する今日の司法
制度の上におきましては、さようなことは毫末もあり得ないことを確信しておる次第であります。(「その
通り」と呼ぶ者あり)又少くともかような民主主義に相反するところの事案に対するところの司法官の見解というものが、若しこれを容認するがごとき態度を示すという場合におきましては、この考え方の及ぶところの結果というものは、積極的にこれを擁護する場合と相等しい結果を招來するのであります。又これを消極的に(「本論本論」と呼ぶ者あり)黙認するというような場合におきましても亦さような結果を招來するのであります。かような次第でありますから、我々といたしましては、今日の裁判の運行の上におきまして、裁判官が我々の期待するところの新日本建設の線に沿うてその司法権の運用せらるることを希求して止まないのであります。(「ゆつくりや
つてくれ、ゆつくり」と呼ぶ者あり)又今日の日本の國際情勢下に置かれるところの地位に鑑みまして、例えば日本の食糧政策に対して、マッカーサー元帥は世界連合國に向
つて、日本の食糧政策確保のために一二の反対あるものをもこれを押して以て遠洋漁業を許可しておる次第であります。かような場合におきましては、その許可せられたところの遠洋漁業というものは八千万國民の食生活の一環であり、生死の境を左右するものであると言わなくてはならん。又マッカーサー元帥の取られるところの行動そのものは、日本の占領政策の良き方面に貢献することは疑わないところの事業であるのであります。然らば、かような場合におきますところの違反事件というものに対しましては、國際間の事情並びに八千万國民の食生活に対するところの考慮ということを考え合せまして、これが審理を促進しなくてはならないと考えらるるのであります。又これを取扱わなくてはならんと考えるのであります。若し司法官にいたしまして、漫然事件そのものに囚われまして事件そのものの処理ということに没頭いたしまして、視野を狭くし、廣く視野を持たざることというような結果に至るならば、それは日本の民主主義國家の再建を阻害するものであり、少くともこれに対しまして相反するところの結果を招來すると考えられるのであります。故に我々は
國会といたしまして、これを対するところの正しき方向を示したいと、かように考えたのがこの
調査委員会を開催したゆえんであるのであります。ここで問題になることは、或いは結論をお急ぎになるかも存じませんが、大切な
事項でありますから、どうかこの点は御了承を賜
つてお聽取りを願いたいと思うのであります。(「同感」と呼ぶ者あり)我が
國会が憲法六十
二條に基きまして、國政
調査をする権限、これが果して司法権にまで及ぶかどうか、これは今日の憲法の解釈の上におきまして、又
國会といたしましても重大なるところの責任を有することは言うまでもないのであります。若し誤
つて六十
二條に司法権の
調査に対するところの権限なしという場合におきましては、
國会がこの
調査に手を染めた場合におきましては、取りも直さず違憲の結果を招來するのであります。故に我々といたしましては、この点に対して諸
外國の学説、日本におけるところのすべての学説、並びに新憲法制定当時におけるところの
質疑應答、その他諸般の事情を
調査いたしましての結果といたしましては、我々は憲法六十
二條にいうところの
國会の國政
調査権の
範囲におきましては、司法、行政いずれもこの対象になるものと確定いたした次第であるのであります。若しこの六十
二條の國政
調査に、司法権は独立であるからこれは含まないものと解釈するならば、司法権は独自の行動をとりまして、國家の
機関の一部たるところの司法
機関は独善化し、國の大体たるところの、向うべき筋を踏み外した場合におけるところの、
國会の示唆するところの権限というものはあり得ないことになるのであります。又司法権に対しまして、司法行政に対するところの、
國会がこれに対するところの
調査をなし得ることは当然のことであります。又司法、立法に対しまして
國会がこれに携わり得ることも当然のことである。して見ますれば、
國会は或る面に対しましては、司法権に対しましても尚その
調査上の権限行使をなし得るものと考えなければならんものと考えるのであります。殊に憲法の上におきましては、司法、行政、立法と相並んで三権分立の思想をここに確立しておることは、すでに皆様において十分御了承のこととは存じますが、少くとも日本の現憲法におきましては、
國会はこの三権分立の立場に立つと雖も、最高の
機関として、國民の信託に基きまして、主権を行使するところの
機関である一面を持
つておるのであります。(
拍手)言換えて申しますならば、司法、行政、立法等相並ぶうちにおきましても、
國会は優位の立場にあるということは疑いないところの事実であります。憲法前文におきましては、これを明らかにいたしておる次第であります。ここで我々は注意しなくてはならんことは、憲法の各條章によりまして、司法権の独立を明らかにしております。それは即ち裁判官が自由なる心証に基きまして、
個々の事件に対しまして他の何らの制約を受けず、独自の見解に基いてその事件を審理判決するところの権能があるのであります。これに対しましては、
國会と雖も容喙することを得ないということは、これは明らかなる事実であるのであります。いわゆる司法権の独立とは、
個々の訴訟、裁判に対するところの干渉、これに対するところの威迫、かような点を犯してはならないということが、いわゆる司法権の独立であ
つて、司法行政の運用、そういう面に対しましては、いわゆる司法権の独立の線には含まれないと我々は考えるのであります。かように考えまして、いわゆる司法権の独立という一線を画し、而して憲法六十
二條のこの國政
調査権は、いわゆる司法行政にも及ぶ、而して
個々の裁判に対するところの司法権の独立は相犯してはならないと、かように一線を画しまして、この
範囲内におきまして、
國会はこの事案に対しまして
調査を開始いたした次第であります。(
拍手)
かような見地に基きまして、先ず当
委員会は尾津事件に対しまして
調査の歩を進めた次第であります。
調査の要領は、詳細沢山ありますが、先ずその次第だけを申上げて置きたいと思います。第一は、
本件裁判に政治的圧迫があつたかどうか。この点に対するところの
調査をいたした次第でありますか、これは各証人、書類その他の事実に徴しまして、巷間に傳えられておるところの、例えば一松厚生大臣がこの裁判に対しまして何らかの干渉をしたかどうか、或いは楢橋氏がこれに対して何らかの干渉をしたかどうか、大野伴睦氏、石田一松氏、いろいろな知名な政治家の名前がここに浮き上
つて参
つたのでありますが、これらに対しまして、十分愼重に我が
委員会におきまして
調査した結果におきましては、いずれもこれらの方々が、
本件事案に対しまして何らの政治的圧迫をなしたという事実はなか
つたのであります。(
拍手)ただかような疑いを生じたという原因はです、尾津その人が常に知名の政治家の名前を口にいたしまして、誰それは自分の最も懇意な人である、誰それは自分が自由にし得る人である、又は自分は自由党の総務になるとか、民主党の総務になるとかいうように、政治的な自己の立場を誇張するがごとき言動をなしておつたことがたまたま誤り傳えられまして、何か
本件の裁判審理の進行の上におきまして、これらの政治的圧迫が加えられたのではないか、かような疑いをせらるることになり、かようなことが関係方面にも傳えられ、國民全体にも疑惑を與えたという結果であるのであります。併しながら、当
委員会におけるところの
調査の結果は、前言申上げまするごとく、何らこれらの知名の政治家が少くも関係していなかつたことを明らかにいたした次第であります。
次に、
本案裁判に対しまして、いわゆる暴力團体としての威圧が加えられたかどうか。この点でありますが、裁判の進行に対しまして暴力の威圧が加えられ、而してその裁判が曲げられるという結果を招來することありといたしますならば、これは誠に由々しい結果であるのであります。我々としては、かようなことに対しましては絶対否定しなくではならんのであります。
本件に対しまして、さようなことがあつたというふうな、やはり疑惑を招いた次第であります。併しながら、当
委員会におけるところの
調査の結果は、少くとも裁判所に対しましてはさような行動がなかつたということが言い得るのであります。たまたま一事実といたしまして、法廷におきまして、尾津そのものが怒りの余り椅子を振上げ、以て暴行に至らんとするような行動を示したことはあり得るのであります。又各公判の期日におきましては、その子分、孫分、兄弟分らが常に二百名近く傍聴いたしまして、非常な威圧が加えられたというような感じを抱かしめたことの事実はあるのでありまするが、御承知の
通り、日本の裁判官はかような威圧に対しましては、決して屈服いたしまして自己の信ずる裁判を曲げるがごときことは曾て一回もなか
つたのであります。(
拍手)故に
本件の上におきましても、この担当裁判官は何らのさような威圧に対しましては屈することなく、又さようなことを感じた事実もないのであります。(
拍手)故に裁判官に対するところの威圧は、
本件においては加えられなかつたという結果を私達は認定いたした次第であります。ただここに一言申添えて置きたいことは、いわゆる檢察陣に対しまして、即ち捜査の段階におきましては、少くとも威圧が加えられておつたことは明かなことであるのです。例えば逮捕に向つた際におきましては、その逮捕官に対しまして、令状を提示したところの逮捕官に向
つて、お前とおれがこの場においてボタン一つ押せは忽ちに木つ端微塵になるぞというような言動を浴せ掛けておるのであります。又捜査主任の檢察官に対しまして、十万円の懸賞金を附けたというような事実もあるのであります。又捜査担任の警察官に対しまして、自己の輩下であるところの、いわゆる白襟隊、桔梗隊と称せられるところの、これらの幹部を派遣いたしまして、強談威迫したという事実があるのであります。かような捜査陣に対しましては、少くとも暴力的威迫が、團体的威迫が加えられておつたことが十分認められるのでありますが、幸にいたしまして、
本件裁判審理に対しましては暴力の威圧が加えられていなかつたということを私達は知るに至
つて、この点に対しまして、日本の裁判が実に毅然たるものであるということを考えまして、喜びに堪えない次第であるのであります。
第三に、
本件に関し裁判官その他関係者に対するところの利益供與があつたかどうか。この疑いを被
つておるのでありまするが、これは
調査の結果、詳細に深く掘下げて参
つたのでありまするが、裁判所に対しましては絶対にないということをここに証明して申上げる次第であります。又檢察陣に対しましてもないということを申上げます。又警察官に対してもないということを申上げます。少くとも
本件捜査から審理に至るまで係官に対して不正は利益の供與というような事実は豪末もこれを認めることは得なか
つたのであります。然らばなぜさような疑いを巷間に流布せられるに至つたか、この原因を探究いたしましたところ、これはたまたま元林弁護人が保釈を運動する場合において、百五十万円の運動費を提供しろ、それがついに百万円となり、六十万円となり、最後に二十万円の要求にまで切下
つたのであります。併しながら尾津はこの元林という弁護人を信頼しなか
つたのでありまして、遂にその金銭は提供せられなか
つたのであります。かような事実が流布せられまして、恰かもこれが関係係官に提供せられたがごとき疑いを被むる結果を招來するに至
つたのではないかと存ずるのであります。從いまして、この点に対しましては裁判所その他の係官は何ら関知せざるところの事実によりまして、非常な迷惑を被つたと言わなくてはならんのであります。
第四に、
本件拘留執行の取消に関し妥当を欠く措置があつたかどうか。問題となりましたところの尾津の執行停止、いわゆる仮釈放の件であるのであります。これは非常に複雜でありまして、その
調査に対しましては十分意を注いでその結果を求めたのであります。これを要約して申上げますれば、少くともこの事案におきまして、尾津を執行停止の方法において釈放したことは妥当でなかつたという結論に到達することであります。御承知の
通り、我が日本の刑事訴訟法の手続の上におきましては、逃亡の虞のある場合、証拠湮滅の虞のある場合、
一定の住所を有しない場合、さような條件を具備した場合におきましては拘留をいたしますが、かような事実が解消した場合におきましては、これを保釈決定して身柄を釈放すべきが法理の上においては当然の措置であるのであります。然るに、尾津事件は九月初旬におきましてすべて結審に至
つておるのでありますから、その状態におきましては、或いはこの保釈の手段によ
つて釈放するならば或いは問題がなか
つたのかも存じませんが、併しながらその場合におきましても、本人は徹頭徹尾事実を否認している次第でありますから、その場合におきまして、若し控訴いたしました場合において、控訴審において証拠湮滅の結果を見るというようなことを慮
つて釈放しないというようなことも、取扱の上においてはあり得るのであります。一に係
つて裁判所のその場合におけるところの認定に俟つのみであります。然るに
本件の場合におきましては、関係弁護人から前後七回に亘りまして保釈の申請がされてお
つたのです。その五回までは、いわゆる
本件の原因をなしたところの民事事件の和解のために被告の釈放を必要とする、或いは被告の事業のために被告の身柄の釈放を必要とするというようなことを主としての
理由として、保釈の申請がされてお
つたのでありますが、第五回以後におきましては、主として被告の病状を
理由といたしまして、病氣が拘禁に堪え得ないところを
理由にいたしまして、これが申請がなされたのであります。然るに裁判所は、この病氣に対しますところの認定は一拘置所の医者の診断書を基本にいたしまして、而もその拘置所の医者の診断書は前後五回に亘
つて提出せられておるのであります。その診断書の
内容はいろいろ書かれておりますが、要するに拘禁性神経症というところの病名である、勿論胃潰瘍或いは睡眠不足とかいろいろのことが書かれておりますが、かような拘禁性神経症というものは、我が医学界におきましては未だ曾てない病氣でありまして、拘禁性精神病はありますけれども、その前提をなすところの神経病ということになりますれば、やや精神病の軽いものという意味にこの病名の表現を、我々は解する次第であります。又医者自身の訊問の結果によ
つてもさように
説明せられておるのであります。然る場合におきましては、この病氣が大凡拘禁せられたものは、すべて大体において神経を悩み、衰弱して行くことは、これは我々が常識的に見るところの結果であるのです。これのみを以て身柄を釈放するということになりますれば、およそ日本全体の拘禁者に拘禁に堪え得るというものは、あり得ないことになるのであります。故にこの拘禁に堪え得るか、否かということは、この場合におきましては、その医者の
報告と相俟ちまして、他の帝大なり、或いはその他の大学なり、信頼し得るところの外の医者と両方の診断と相俟
つて果して拘禁に堪え得るか否かということを檢討して、そうしてその取扱い方をなされたならば、かような結果を招來することがなかつたと思うのであります。果せるかな、拘禁に堪えないとい
つて、釈放したところの尾津そのものは、九月十二日に釈放され、その晩は直かに自分の家に泊り、釈放の條件といたしまして、帝大病院にその住居を制限せられてお
つたのであります。少くとも釈放と同時に、その制限住所において生活をしなくてはならんところの決定であるのであります。然るに釈放同夜は病院に赴かずして、自己の家に寝てお
つたのであります。而してその翌日は病院におり、その翌日十四日は、愛人、第二の愛人の許に到り、四日目の十五日は第三の愛人と行を共にしておるのであります。さような結果から見ましても、果してこれが拘禁に堪えないということは言い得えないということは明らかなことであります。かような点を詳細に申上げておればきりまがありませんが、要するに、この点に対しましては、裁判所の取つたところの行動というものは妥当でなかつたという結論に到達した次第であります。
第五に、
本件審判は遅延していないかどうか、これはこの種の事件に対しまして、少くとも裁判所は相当なるところの関心を持ちまして、速かに事件を審理判決すべきところの態度に出なくてはならんと思うのであります。
本件の審理状態は、第一回の犯罪事実に対するところの審理は、誠に速かにこれが終結しておるのであります。即ち暴力行爲取締規則違反といたしまして、最高の三年が求刑されまして、そうして事件は追起訴を待つために、それから中止にな
つておるのであります。追起訴の捜査のために一月の初句まで費やしまして、一月の初句におきましては、第二回の追起訴が行われまして、これが審理が非常に遅れておるということは、疑いないところの事実であります。その原因は第一回の場合におきましては、刑事第四部が別に第三部から、松本、伊藤、一松と、こういう判事
諸君を轉属せられまして、独立の部を構成して、それによ
つてこれを審理せしめたのでありますから、いわゆる專任部が一事件のみを審理進行して参
つたのでありますから、速かにな
つたのであります。併し追起訴の分に対しましては、先にいろいろな問題を惹起した関係上、新たに部を設けずいたしまして、本來の部において他の事件と混同いたしまして、他の事件を取扱うと並行して、
本件の審理も継続された次第であります。さような関係上審理が非常に遅れて参
つたのであります。少くとも、かような場合におきましては、
東京地方裁判所長、いわゆる司法行政の責任者たるところの裁判所長は、これに対しまして適当の司法行政措置を講ずべきことは、当然なさなくてはならん
事項であると考えられるのです。然るに事ここに出でずいたしまして、漫然本來の部をいたしまして、この事案を進行せしめた結果、事件の審理判決が遅延したということに対しましては、少くともその行政措置において、妥当を欠くものあると我々
委員会といたしましては認めざるを得なか
つたのであります。
第六に、係判事は、
本件の特殊性に関し、如何なる認識を持
つておつたか、この点でありますが、かようないわゆる街の顔役尾津そのものをして言わしめますれば、自分は関東の飯島一家に属し、弟分の養子とな
つて、いわゆる飯島の分派の二代目を相続しておる松田一家ですから…流れであるというように申しております。そうして自分の子分、孫分を集めますれば、総人員は三万人に及ぶとか言うておるのであります、或いは三千人に及ぶとも言うておるのであります。かような、いわゆる右翼團体の厖大なる力というものに、かてて加えて尾津が持つところの財力、これと相俟
つて、この種の團体が如何なる行動に出るかということに対しましては、我々といたしまして十分関心を持たなくてはならんと思うのであります。アメリカのニユーヨークの或る雜誌におきましては、日本のカポネと稱して尾津特輯号を発行しておるのであります。これが再び日本に輸入されまして、いたくこの尾津の構成するところの右翼團体が、日本の將來におきまして非常なる禍根になるのではないかというような杞憂を抱くのであります。或いはかような團体が、軍國主義者、全体主義者、極右團体と相関連いたしまして、この或る場合におきまして、これが活動を開始し、以て我々が過去に嘗めたところのあの悲惨な状態に再び逆戻りするような結果を招來するということになりますれば、これは又由々しき大事であるのであります。かような若し虞れなしといたしましても、この種の右翼傾向を持つところの團体が全國到る処に、而もこれらの團体の行動は、御承知のごとく、街の顔役といたしまして、その強力なる暴力的力権、暴力的の力、團体的の背景の威圧力を以ちまして、善良なる國民に対しまして、行爲、不行爲を要求いたしまして、幾多の國民がこの威圧の前に屈服いたしまして泣いておる事実は、皆様の夙に御承知のことと存ずる次第であります。これに対しまして、先きに全國の街の顔役に対するところの大檢挙が行われたのであります。言い換えて申しますれば民主主義の再建の途上におきましては、この種の團体が將來持つところの基盤、地下
政府的の傾向を持つところの、この危險性に対しまして、相当な我々は関心を持ちまして、この事件に対するところの解決を図らなくてはならんと思うのです。ただ一つの刑事事件、一つの脅迫事件として審理判決することを以て足るのではなくして、日本の再建の観点に立ちまして、この種の事件に対しましては、速かにこれを解決し、以て國民に向うところの規範を示すべきことは、司法関係の係官といたしましては正になさなくてはならん仕事ではないかと考える次第であります。(
拍手)
かような観点に立
つて裁判官というものが馬車馬的に小さな視野を持たず、廣く日本全体のことを考える、日本の向うべきところの大道を弁まえまして、審理に立向わなかつたならば、ひとり司法官は往年非難の的と
なつたところの、あの司法官化石の声を再び聞くことになるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)我々は尊敬するところのこの司法官が、より以上日本の再建のためにその視野を廣くいたしまして、日本再建の一大根幹とな
つて、日本の國民の指導に当
つて頂きたいと、かく念願するゆえんにおきまして、裁判官が
本件のごとき事案に対しましての認識が甚だ十分でなかつたということを遺憾ながら皆様に御
報告(「その
通り」と呼ぶ者あり)するゆえんであるのであります。
かような次第でありまして、当
委員会においてそれらの事件に対するところの
調査を進めまして、その結果かような司法官に対する所の態度に対しまして、我々がいかなる
機関を設け、如何なる構成においてこれを我々の希望するところの方向に結びつけるか、或いは如何なる立法措置を要するかというような点の結論を見出したいと存ずる次第であります。今日は尾津事件に対しまして、以上
調査の結果を
簡單ながら中間
報告を申上げる次第であります。(
拍手)