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谷口弥三郎君
只今議題となりました
優生保護法案に関しまする厚生
委員会における審議の経過と結果を御
報告申上げます。本
法案は本院議員提出
法案でありまして、谷口より提案か
理由及び内容の説明があつたのでございます。その要旨を簡單に申上げますと、我が國は敗戰によりまして、その領土の四割強を失いました結果、甚だしく狭められました國土の上に、八千万からの國民が生活しておりますために、食糧不足は尚今後も当分持続するのは当然であるのでございます。尤も我が國の天然資源は、貧弱ではありますが、まだ十分開発利用されてはおりませんので、或いはその方面に対して灌漑、発電などの施設をなしますとか、漁業の開発をいたしますとすれば、相当の、約八千万くらいの人口は自給自足が將來でき、得るようになるとは思うのでございますが、現在すでに我が國の人口は昨年の十月調査によりましても七千八百万、その後の出生或いは引揚者を加えますと、現に八千万を少し越しておるような飽和状態であるのでございます。從
つてこれを
解決する上におきましては、或いは食糧の増産を特にやりますとか、移民の懇請をするということが必要でございますが、尚第三の対策といたし産兒制限問題も考えられるのでございます。併しこの産兒制限は極めて注意をいたしませんというと、子供の將來を考えるような比較的優秀な階級の方のみが産兒制限をいたしまして、無自覚者や低能者などが行いません結果、國民素質の低下即ち民族の逆淘汰を起す虞れがあるのでございます。又現に我が國におきましては、すでに逆淘汰の傾向が現われておるのでございます。例えば
精神病にいたしましても、或いは先天性の失明者などにいたしましても、段々と増加いたしておるのでございます。尚
精神薄弱兒などにおきましても非常に段段殖えて参りまして、以前は浮浪兒の約半数が
精神薄弱と唱えられておりましたが、私共が先月九州各地の厚生施設設を巡視して見ますというと、福岡の百道松風園とか佐賀の浮浪兒收容所などにおきましては、その浮浪兒の八〇%までが
精神薄弱即ち低能であるというような状況でございます。從
つてこの際どうしても先天性の遺傳病者の出生を抑制するということが民族の逆淘汰を防止する上から申しましても、亦八千万以上に人口が増加するのを幾らかでも抑制する上において必要と存じておるのでございます。尚これまでは母性の健康までも度外いたしまして、ただ出生増加に專念いたしておりました態度をこの際改めて頂いて、母性保護の立場から或る程度の人工妊娠中絶を認めて、いわゆるそれによ
つて又人口の自然増加を抑制したいというのがこの
法案提出の大要であるのでございます。
この
法案の内容を簡單に申上げますと、これは七章、それに附則を加えまして三十七條から成
つておるのでございます。
第一章の総則におきましては、本
法案の目的を明らかにいたしまして、本法な優生学的の見地から、不良分子の出生を防止し、尚同時に母体の健康を保護するということを目的にいたしておるのであります。そうじて優生手術と人工妊娠中絶の定義を明らかにいたしております。
第二章におきましては、優生手術の章でございますが、この第三條に、同意を前提といたしました任意の優生手術を規定しておるのでございます。第四條から十條に亘りましては、社会公共の立場から、強制的に優生手術を行い得るという規定を挿入したのでございます。尤も任意の優生手術におきましては、本人が事の是非を十分に判断した上で、同意するということが本質的な要素でありますが、例えば未成年者或いは
精神病者、
精神薄弱者のように、自分だけで意思の決定ができない者につきましては、これを認めぬ。任意断種を行わせぬということにいたしております。そして以てこの制度で、相続権侵害などに惡用されぬようにというような注意を加えておるのでございます。第四章以下のいわゆる強制断種の制度は、これは社会生活をいたします上に、甚だしく不適應な者とか、或いは生きて行くことが第三者から見ても極めて悲惨な状況を呈する君に対しては、優生保護
委員会の
審査決定によ
つて、たとえ本人の同意がなくてもその者には優生手術を行い得るというようにいたしておるのでございます。これは惡質な、強度な遺傳因子を國民素質の上に残さないようにというのが目的であるのでございます。この場合には社会公共の立場からとは申しながら、本人の意思を無視するのでありますからして、対象となる病名を別表として法律に列挙いたしておるのでございます。そうして、尚本人或いは関係者が不服の場合には、再審制度と、その上に裁判所の判決を求めるというようにいたしておるのでございます。尤も強制断種の手術は、專ら公益のためにしますので、その費用は國庫が負担するということにいたしておるのでございます。
第三章の母性保護の章におきましては、人工妊娠中絶ということについて規定をいたしておるのでございますが、これまでは妊娠中絶と申しますのは、医学上の立場からいたしまして、母体の生命を救うためにのみ行われておつたのでございますが、今回はこれを今少し拡めまして、そうして母性保護という方面にまで拡張いたしておるのでございます。即ち客観的にも妥当性が明らかな場合には本人及び配偶者の同意だけで人工妊娠中絶を行い得るということにいたしておりますが、荷その他の者におきましては、地区即ち保健所内にあります優生保護
委員会の判定を求めるということにいたしております。
第四章は、優生保護
委員会に関する規定でございますが、これにはこの
委員会は自己の責任におきまして、
審査決定をなし得る処理機関といたして、
中央、
都道府縣及び地区の三種にいたしております。
第五章におきましては、優生結婚相談所、第六章は優生手術又は人工妊娠中絶を行いました場合の医師又は指定医師の届出、秘密保持というようなものを規定しますし、第七章に罰則を規定いたしておるのでありまして、これが大体の内容でございます。本
法案につきまして、六月十九日以來三回に亘りまして厚生
委員会の各
委員は、極めて熱心なる質疑應答をされたのでございます。詳細は速記録に讓りまして、その中の質問の二三を拾
つて見ますと、生殖を不能にする手術というものが、一体どういうものであるかというお尋ねがございましたのに対しまして、これは生殖腺を除去しませずに、男子では精子管、女子では卵管を結びましたり、又は切断いたしまして、そうして精子、卵子が通過することのできんようにする手術であるという答えでございます。次には
精神病者の手術をする場合には、本人が非常に狂暴である場合には危險ではないかというようなお尋ねがございましたのに、この手術をやりますまでは、そういう場合には麻酔をかけて行いますので、而もその手術は極く簡單で男子でも五分、女子でも十分くらいで手術ができるし、生命上の危険はないというような答えがあつたのでございます。第三の質問には、第一條の不良な子孫というのは一体どういう意味かというお尋ねに対しまして、これは優生上の見地からの不良でありまして、惡質な遺傳性の疾患を指すのであるとの答弁でございます。第四には本
法案場は、遺傳学を前提としてそれを根拠としてできておるが、白痴とか、魯鈍のような場合には、絶対的にこれは遺傳するものかというお尋ねに対しましては、遺傳につきましては特別の考慮を拂
つております。尤も両親が白痴のような場合には約七%くらいは白痴の子供が生れるということにな
つておりますので、この点は
審査委員会で愼重に
審査をいたしました結果、手術を決めるということにいたしたいという答弁があつたのでございます。
又優生保護
委員会の
委員に裁判官とか檢察官を入れる
理由はどうかというお尋ねに対しまして、例えば強姦などによりまして、妊娠した場合には、民生
委員とか医者だけでは不十分であるから、どうしても裁判官、檢察官を加えて置く必要があるというような説明があつたのでございます。その外優生結婚相談所には私立は認めんかというお尋ねがありましたが、これは國立以外にも厚生大臣が認可によ
つて許すことができるようにな
つております。一定基準の設備をしますというと、申請をして私立でやることができる。ただ余り廣告的にならんようにというような説明があつたのでございます。その外貧困の
理由のみで本手術はできんかというお尋ねがございましたが、貧困というのみでは本手術は受けることはできん。又外國におきましても、そういう例がないという答えであるのでございます。その外社團法人であります
都道府縣の医師会をしてこの医師を指定させる、指定医師という制度がございますが、それで医師を指定せしむるよりか、
都道府縣の優生保護
委員会その他のもので指定させた方がよくはないかというお尋ねがありましたに対しまして、社團法人であります医師会は、現存
都道府縣に一つずつ
設置せられておるのでありまして、いずれも公的の存在でありまして、会員は任意加入でありますために、全医師には及んでおりませんけれども、役員は官公私立又は組合立の病院、医院の医師とか、或いは学界人でありますから、指定の際には会員であると否とに拘わらず、必ず公平に医師の技術と設備等を参酌して指定しますので、医師の技術とか設備などを最もよく知
つておるのは医師会でありますので、從
つて医師会をして指定せしむるのが妥当であるというような答えであつたのでございます。又優生保護法を
実施した場合には、予算はどのくらい要るかというお尋ねに対しまして、約二千八百万円程度要る予定であるという説明がございました。その外の質疑應答は省略書さして頂きます。
以上の質疑がありました後に討論に入りましたが、格別討論も申出がありませんので、直ちに採決に入りました。
全会一致を以て原案の
通り可決すべきものと議決した次第でございます。以上簡單でありますが、これを以て御
報告を終ります。(
拍手)
第二に
予防接種法案につきまして御
報告いたしたいと思います。
予防接種法案の厚生
委員会におきます審議の経過並びに結果を申上げますと、この
法案は六月十日に厚生
委員会に本
審査付託となりまして、六月二日及び十九日の二回に審議をいたしたのでございます。六月十二日厚生大臣からいたしまして、この予防接種法につきまして提案
理由及び内容の御説明があつたのでございます。
その概要を申上げますと、我が國の傳染病発生の趨勢は戰爭末期からだんだん増加の傾向でありまして、終戰後の社会的混乱の結果
昭和二十年、二十一年と引続いて傳染病の爆発的発生と蔓延を惹起したのでございます。加うるに戦争によります疲弊、特に衛生施設の不備とか医薬品の不足というような惡條件を伴いましたために、誠に憂慮すべき状態になつたのでございますが、幸いにも連合諸國の強力な援助を受けまして、又國民の協力、当局の努力などの結果によりまして、昨年に至りましては極めて急速に非常な減数を見たのでございます。かような傳染病の流行の終熄いうことに対しましては、外國からも非常に賞讃の言葉も得ておるような次第であるのでございます。併し本病が昨年におきまして可なり減数をいたしまして、而も大水害のありましたにも拘わらず少かつたということは、これは主として予防接種が可なり廣く行われたという結果が非常に効果をもたらしたものであると思
つておる。從
つて政府としては傳染病対策としてこの予防接種を十分に行いたい、今後は天然痘に限らず傳染病の虞れあるというような疾病で、学界におきましてその免疫の効果を確認されておりますものに対しては、全面的にこれを行いたいということが希望であるというように説明をされたのであります。
この
法案の内容を簡單に申上げますとこれには先ず第一に定期に予防接種を行いまするのには、痘瘡、ジフテリア、腸チフス、パラチフズ、百日咳、結核などであります。臨時に行いますところのものは発疹チフス、ペスト。コレラ、猩紅熱、インフルエンザ、及びワイル氏病ということにいたしてあります。第二に予防接種を行います義務を
市町村長といたします。
市町村長は保健所長の指示を受けてこれを行うことにいたしておるのであります。併し厚生大臣が必要と認めました場合には、
都道府縣知事に命じて臨時の予防接種を行うこともできるというようにな
つております。又
都道府縣の知事も
病氣が蔓延するような場合には、臨時に
市町村長に予防接種を行うように規定をいたしております。予防接種を受けました者に対しましては、証明書を與えて、市町村には台帳を作りまして記録をはつきりといたしております。(「簡單明瞭に願います」と呼ぶ者あり)以上が
法案の内容でございます。
これに対して熱心な質疑應答があつたのでございますが、例えば各注射をやるということに対しては、可なりの人数を要するのだから、できるだけ簡單に、或いはこの注射の時期などに対しては、多数の人数を用いて、短かい時間にやらせることが必要であろう、又これに対しては、生活費のない者にはどうするか、或いは生活費のある者から、幾らくらい取る予定であるかというようなことに対しての質問がございましたが、それに対しておのおの説明があつたのであります。例えば金のある方に対しては、ジフテリアの場合は三円二十四銭とか、痘瘡は九十銭取るなどの説明がございました。両今後予防接種をいたします場合には、母子手帳にこれを書いて置くというようなことにいたしております。以上その他詳しいことは御迷惑であるけれども、速記録を見て頂くことにいたしまして、これで省かせて頂きます。
質疑を終えまして討論に入りましたけれども、格別の討論もございませんので、直ちに採決に入りまして、
全会一致で原案
通り可決すべきものと決定した次第でございます。以上を似て終ります。(
拍手)