○國務大臣(北村徳太郎君) 「われわれは漠然と希望し、明確に恐怖している。」と或る詩人は申しましたが、今まで私共は明確な恐怖はありましても、安定への希望は極めて漠然としたものしかあり得なか
つたのでございます。併し、今や耐乏と苦闘のうちに、漸く生存から
生活への十字路に辿り着こうといたしておるのでございます。この重大なる時期に際会いたしまして、
昭和二十三
年度予算案の編成に当りまして第一の
努力は、予算と物價との相互均衡をとるという一点に注がれたのでございます。このことたるや、重大にして而も極めて困難な問題でございますため、これに
相当時日を要しまして、遂に予算に関しましては暫定予算の御
審議を煩わすこと数回に及び、この程ようやく成案を得るに至りましたのでございますが、尚事務上の都合で予算案として正式に提出いたしますことは、先程
総理大臣より申述べました
通り若干遅れる見込でございますので、この際大綱につきまして一應御
説明を申上げると共に、現下の財政金融政策につきまして所信申述べたいと存じております。
先ず予算編成の基礎とな
つております重要なる二三につきまして御
説明申上げたいのであります。
第一には、物價及び賃銀と予算との
関係でございます。昨年七月物價改訂後、賃銀と実効價格との上昇線は
相当弱まつたとは申しますものの尚継続いたしております。このため特に官業と基礎
産業とは今尚採算割れを來し、これがため
鉄道通信両特別会計の
運営収支における赤字、又
石炭、鉄鋼、肥料等いわゆる安定帶
物資に対する價格調整補給金等実質上の財政負担と見られるものは、最近月額百億円に達する
状況にな
つておるのでございます。かような財政及び金融上の負担を引続き持続いたしますことは、インフレーシヨンの前途に重大な暗影を投ずるのみならず、企業の見地から見ましても、かような重要
産業の基礎を不健全なまま放置いたしますことはできないのでございますから、ここにこれらの價格の改訂を行いまして、企業の
運営を正常化することが必要と相成
つたのでございます。併しながら、賃銀物價の循環的高騰を遮断するためには、この際價格補正の
程度をできる限り低位に止める必要がございますので、從
つて政府は財政負担は極めて困難の際ではございますけれども、財政負担において物價騰貴の波及を抑制し、健全財政を堅持しながら、物價と賃銀との安定を図り
生産の正常化へも効果あらしめるようにしたいと、かような点に
努力をいたした次第であります。即ち一般会計においては五百十五億円の價格調整補給金を支出いたしまして、公定価格の著しい上昇を緩和することといたし、
鉄道通信両特別会計に対しましては、一般会計から百三十億円の
運営収支
不足金の繰入を行いまして、かくいたしまして
鉄道運賃の値上りは通行税を含めて現行料率の三・五倍、通信料金の値上りは現行料率の四倍に止めることといたしたのでございます。賃銀につきましては、右の價格補正を斟酌いたしまして、現在における一般勤労者の実質賃銀を
確保せしめることといたし、これがために所得税について大幅の軽減を行う等の措置を講じたのでございます。
第二の点は、健全財政の原則を、一般会計のみならず特別会計及び地方財政を通じて貫徹したという点でございます。財政の健全性とは、申すまでもなく一般会計のみならず、特別会計、地方財政を通じた財政全体として、その収支の均衡、適合を図るということであるべきことは勿論であるからでございます。このことは物價と賃銀との騰貴を抑制しつつ、而もこれによる
國民負担の増大をできるだけ避けねばならない情勢の下におきましては極めて困難でございます。予算の編成に当り最も苦心いたしました点はこの点に存するのでございます。結局各特別会計におきましても、地方財政におきましても、
運営上の収支について概ね赤字を出さずに済ますという見通しのつきましたことは、財政の健全化のために喜びとする
ところでございます。尤も資本的支出に属するものにつきましては、その経費の性質上公債又は借入金によることといたしたものもございます。これは資本勘定としても当然の措置であると、考えておるからでございます。
次に第三は
國民経済との
関連でございます。財政の健全化のためには、財政収支が均衡を得るのみならず、更に財政の規模が
國民経済全体に適應することが必要でございます。
國民経済力の綜号的指標たる
國民所得を見まするに、
昭和二十三
年度は大凡そ一兆九千億
程度と概算せられておるのであります。これに対しまして一般会計の歳出三千九百九十三億円余は二一%に当り、前
年度の一八%に比し多少増率にな
つております。本
年度の
國民所得は実質的に見て昨
年度に比し
相当増額するがごときことは期待できますが、我が國における
経済実力が未だ極めて貧困であることに省りみますれば、この負担は勿論
相当の重圧と思います。併し
経済の安定、國の
復興、その他我が國のなすべき
ところは極めて多いのでございますから、我々は新らしい
日本建設のためには、この負担をも敢えて甘受しなければならないと思うのでございまして、
國民各位におかれましても、この点について御理解と御辛抱を願わなければならないと存じておるのであります。
第四に行政管理に関する点でございますが、國内
経済体勢を
整備いたしまして、外貨の導入を容易ならしめ、我が國の
経済を
復興するためには、
経済部門と密接な
関係を有します
ところの行政部門を先ず
能率化する必要があることは申すまでもございません。この目的を達するため、
政府は行政事務の整理再編成と、
機構の
簡素合理化を行うことといたし、只今着々具体案を檢討作成中でございますので、この際先ず予算の上において取敢えず一般会計の人件費の一割五分に
相当する額を節約することといたしまして、行政整理の実施を先ず財政の面から促進することといたした次第であります。
以上のような観点に立
つて作成された予算の概要は、大体歳入歳出共に三千九百九十三億円余でございまして、歳入は租税及び印紙
収入二千六百三十二億円余、專賣益金九百四十三億円余、その他の官業及び官有財産
収入七十二億円余、雜
収入三百三十六億円余、前
年度剰余金八億円余でございます。歳出は終戰処理費及び賠償
施設処理費千六億円、價格調整費五百十五億円、
鉄道通信行政監督費繰入二十億円余、
鉄道業務収支差額繰入九十億円、通信業務収支差額繰入四十億円、
船舶運営会補助四十億円、地方分與税分與金四百四十九億円余、公共
事業費四百二十五億円、
政府出資百八十九億円余、その他千二百十八億円余でございます。
この
内容については近く予算案として正式のものを提出する際詳細に御
説明申上げることにいたしたいのでございますが、概要につきまして簡單に申述べますれば、歳出のうち人件費につきましては三千七百円ベース、物件費につきましては公定價格は概ね七割
程度の騰貴を前提として積算いたしております。次に終戰処理費及び賠償
施設処理費につきましては、最近の実情に今後の騰貴率を勘案して計上したのでございますが、
事業量としては前
年度に比べまして若干減少するものと考えております。價格調整費につきましては係る分七十五億円、今後における
石炭、鉄、肥料、その他
重要物資の販賣價格の急騰を抑制いたしますために必要な調整費四百四十億円を計上したのであります。
鉄道、通信両特別会計の業務勘定に対する赤字の補填及び
船舶運営会への補助は、いずれもさきに申述べました價格補正の方針に則りまして現行料率に比べまして、
鉄道運賃は通行税を含めて三・五倍、通信料金は四倍、海上運賃は三倍の線にこれを抑制いたしまして、
現状におきまして実行可能な合理化を断行して、尚
不足する分を一般会計から繰入れることといたしたのでございます。
鉄道通信の行政監督費繰入は、両特別会計に属していた行政又は監督の性質を有する経費をこの際一般会計の負担に移しましてこれら企業特別会計の
独立採算制を徹底せしめることといたした次第でございます。地方分與金は地方財政の
状況に顧みまして、赤字借入を避けしめるため必要な金額を地方公共團体に分與することといたしたのであります。公共
事業費につきましては、昨年における災害その他の事情を勘案いたしまして、前
年度に比し若干
事業量の増加を見込み、これに價格補正による單價の増嵩を加えて計上いたしました。
政府出資につきましては、
復興金融金庫に対し、本
年度において民間保有に属する分工金融債券の償還に必要な金額百八十億円と、その他に対するものを目途として、
政府出資と合わせまして、合計百八十九億円を計上いたしました次第であります。
以上の歳出を概観いたしまするに、終戰処理費、実質上の價格調整費及び地方分與税分與金のみですでに歳出総額の五三%を占め、爾余の経費を以て戰災復旧、
教育文化、保健衞生、
産業経済等々
施策の万端を実行せねばならんことは、物價騰貴の点を考え合せまして、財政の困難を如実に示しておるものであり、この大きな
國民的苦悩について十分の御理解を願いたいと存ずる次第であります。
次に歳入につきまして御
説明申上げます。以上に述べた巨額の経費を如何にして賄うかにつきましては、健全財政の原則から、財源のすべてを普通歳入によることといたしました。その大宗たる租税と專賣
収入につきまして、それぞれ所要の措置を講ずると共に、その他の
収入につきましても、物價等の
状況に顧みまして、できる限りの
努力を盡すことといたしました。專賣
収入につきましては、すでに
法律案を提出いたしましたが、租税についても数日中に
法律案を以て御
審議を煩わすつもりでございますが、その大要は次の
通りでございます。
先ず租税につきましては、最近における賃銀、物價等
経済諸情勢の推移に即應して
國民の租税負担を調整、合理化するとともに、財政需要に対應いたしまして、
収入を
確保することを目標として税制の全般に亘り改正を加えることといたしました。即ち租税の中枢たる所得税について、所得の変動、課税の実情等に照しまして、財政事情の許す限り負担を軽減するために、基礎控除、扶養控除及び勤労控除を
相当程度引上げるとともに、税率を大幅に引下げることにいたしましたことでございます。價格の補正が勤労所得者に加える重圧に対しまして、税の減額によ
つてこれを緩和しようと
努力いたした次第であります。又法人税につきましては、
産業の振興、外貨の導入等に資する見地から、超過所得の税率を引下げ、
外國法人を本邦法人なみに取扱う等の法人負担の軽減を図りました。これは勤労者の税負担の軽減と相俟ちまして、
生産活動促進に役立たせるような方途を取つた次第であります。
次に物價の変動に即應いたしまして、間接税中從量課税の酒税等につきまして、
相当の増徴を行うことといたしております。更に
経済情勢の変動に則應いたしまして、所得税及び法人税の減収の一部を補填して、租税
収入を
確保し、財政の基礎を堅実ならしめますために、今回新たに取引高税を創設いたしまして、各取引段階に対し、百分の一
程度の課税を行うことといたしました。
今次の予算に計上いたしました租税及び印紙
収入の総額は二千六百余億円に上り、租税は総歳入の三分の二を占め、決定的に重要とな
つておるのでございます。而もすでに
國民生活が一般に
相当窮迫いたしております実情に顧みまするならば、中央地方を通ずる
國民の租税負担は決して軽くはないのでございまするが、租税
収入の
確保が、財政
収入の均衡を得るために不可欠の前提でございますから、この際全
國民各位に対し、租税の完納につき一段の忍苦協力の程を切望する次第であります。
政府といたしましても、
國民所得の分布
状況の変動が激しい
現状におきまして、租税負担の公正を図りつつ、租税
収入を
確保するため、徴税
機構の
整備強化、税務の
運営方法を刷新
改善すること等、又特に大口利得者への課税の
充実に
努力いたしまして、負担の適正を図るとともに、
國民の納税に対する認識の普及徹底に一層の
努力をいたす所存であります。
〔
議長退席、副
議長着席〕
次に專賣益金は九百四十三億円余でありまして、煙草專賣においては、
國民生活との調和を図りつつ、財政需要の増大に即應するよう、新に自由販賣品を発賣するとともに、
生産数量を増加することといたしました。又從來の定價を、最近の物價情勢に應じて引上げた次第でございます。
以上、租税及び專賣益金の外、價格補正に伴う價格差益納付金百八十八億円余と官有財産
収入、財産税等
収入金特別会計の受入金等、その他の普通歳入合計二百二十一億円余を計上いたしておるのであります。
以上、
昭和二十三
年度財政の大要について御
説明申上げましたが、この機会に最近における財政
経済情勢につきまして、
政府の所信を申述べたいと存じます。
まず中央財政でございますが、悪性インフレーションの根源が、財政収支の不均衡に端を発することは周知の
通りでありまして、健全財政はインフレーション克服のための第一の
要請でございます。この
意味におきまして、
昭和二十二
年度予算も、収支の均衡を標榜して編成され、昨年秋における予算補正に際しましても、財政需要の著しい増嵩を、すべて租税と專賣益金とを中心とする普通歳入で賄
つて参りましたのでございます。然るに支出済額と
収入済額との間に生ずる時間的なズレのため、昨年末におきましては、支出は千八百十五円余で、予算額の五五%に当るのでありますが、これに反して
収入は五百七億円余で、予算額の二三・八%に止まり、
収入は支出の約半分を満たすに過ぎない
状況であります。このために財政収支の破綻が深刻に憂慮されたのでございます。その後幸にして國会を中心とする納税
國民運動と、税務職員のひたむきな
努力とは、
國民の深い理解と相俟
つて、一月以降顯著な成績を挙げ、四月末日までに、予算額千三百五十億円余を若干上廻る
程度の税収を
確保し得たのでありまして
昭和二十二
年度は、かくのごとくいたしまして、辛くも収支の均衡を保持することができました。融資規制と相俟
つて、通貨の増勢は著しく抑制せられました。インフレーションの進行を阻止するのに、多大な寄與する
ところが少くなか
つたのでございます。即ち昨年末二千百九十億円を超えました
日本銀行券発行高は、その後今日に至るまで二千二百億円を上下いたしまして、
物資の騰勢も鈍化を示しております。併しながら
年度の途中における
収入と支出との時間的ズレは、通貨増発の
原因と相成りますので、本
年度は予算の実行上、その時期的調整を図りまして、通貨の増発を結果することがあいよう、万全を期する決意でございます。
次に地方財政でございますが、健全財政の必要は、地方財政においても中央の財政と何ら異る
ところはないのでございます。而も地方財政の窮状は、國の財政における以上のものがあるのでございます。これは六・三制の経費或いは災害土木費、又自治警察の費用等々のため、歳出がいよいよ増大いたしまして、本
年度は大凡そ二千億円になんなんとするに拘わりませず、その財源は大部分を地方分與税分與金、國の歳出に依存しておりまして、独立財源が貧弱なことによるのでございますが、
政府はかねてから國の財政と地方財政との吻合調整の方途につきまして、鋭意
研究を重ねて参りました。國費と地方費との負担区分を明確適正にすると共に、実情に即した地方税制の確立を図るため、
事業税の創設、或いは入場税の地方移讓等を考慮いたしまして、別途、地方財政法及び地方税法の一部を改正する
法律案を近く提出いたすつもりであります。
次に当面の金融問題につきまして、
政府の
施策の大要を申述べたいと存じます。元來、通貨増発の
原因の一半は、
産業資金の需要の増大にあるのでございますから、通貨面からするインフレーション対策は、財政面と金融面との双方に亘
つて行わなければなりません。
政府は、財政面における健全財政主義の原則を堅持しておるのでございます。このために、昨年三月以來金融機関
資金融通準則が施行され、金融機関からの貸出は、原則としてその蓄積
資金を以て賄い、又いわゆる赤字金融をなさしめない方針を取りまして、信用面からする通貨膨脹を極力抑制して参
つたのでございます。而して融資につきましては、
経済の安定、
産業の
復興、
生産の
増強というような見地から見まして、
産業各般に亘りまして緊急度に應ずる順位を決定いたしまして、
資金が当面必要な方面に、
重点的に融資せられるよう規制しておるのであります。かくて過去一年余の実績は、通貨増発抑制上、
相当の効果を挙げたものと存じております。
併しながら、最近におきまする徴税成績の著しい
向上、
政府支拂の引締め等のため、一部の
産業におきましては、
事業資金の逼迫が訴えられ、近く行なわれる價格の補正によ
つて、この傾向はますますその度を加えるのではないかと懸念されておるようであります。我が國
経済再建上必要な
事業に対し價格補正等に伴いまして、運轉
資金や
設備資金の正常な需要の増加による適正な
資金を供給することは、
生産を続行し、
経済の正常な循環を
確保するゆえんであると考えられますので、
政府はインフレーション防圧のため、健全財政と相並んで、健全金融の原則は飽くまでも堅持しつつ、而もその運用に当りましては、実情に即して、でき得るかぎり
生産を
増強するため、効果的な
施策を取る所存でございます。すでに正規の配給
物資、
貿易物資等の
生産配給に必要な
資金の供給を円滑ならしめるため、公團認証手形、配給手形、
貿易手形
制度を創設いたしております。又農村金融対策といたしましては、肥料、農機具、農藥等の購入代金等に対しまして、農業
生産資金の供給の手段として、農業手形
制度を創設いたしまして、その効果を挙げつつある次第でございます。
尚
資金需要の
根本的な
原因が企業自体に内在する不健全性に由來するものであるならば、企業自体に立入
つて健全化を行わなければなりません。さようしなければ、実質的な健全金融は成立たないのでございまして、國の企業や行政面における行政整理に並行いたしまして、民間企業についても
整備合理化を図らなければならないと考えております。
金融について特に注目いたすべきことは、いわゆる復金融資であります。
復興金融公庫は、我が國
産業の
復興再建に必要な
資金で、一般金融機関から融資することが困難な
資金の
融通に当
つておるのでございますが、その額は
昭和二十二年中の全金融機関の貸出総額中約三分の一を占め、且つ融資先の性質上
相当の赤字金融をも行な
つております。而もその必要とする
資金は
復興金融債券によ
つて賄われておりますが、その大部分が
日本銀行の引受によ
つておりますので、一部には、いわゆる復金インフレの非難さえも聞くのでございますが、
石炭、鉄鋼、肥料、電力等、緊急
産業への
資金供給は一刻もゆるがせにできない現況に顧みまして、止むを得ぬことと存じます。
政府は
復興金融債券につきましては、できるだけ市場消化に努めますると共に、融資の改修及び使途の監査等につきましては、一段の工夫を重ねたい所存でございます。尚
復興金融金庫は第五回の増資を
計画中でございまして、近くこれに必要な
法律案を提出いたす筈にな
つております。尚從來、企業はその必要とする專業
資金の大部分を金融機関からの融資に求めて來たのでございますが、通貨の膨脹を避け、健全な民主的
経済を確立いたすためには、今後所要
資金は極力これを増資、拂込等の安定した自己資本に求めるよう、漸次切替えて行く必要を感じておるのであります。このためには、申すまでもなく、
國民の証券投資に対する
関心を高め、廣く
國民の間に有價証券の分布を図ることが必要でございますし、從
つて先に施行されました証券取引法の適切な運用等には今後一段と
努力を続けたい、証券の民主化のために一層の
努力を傾けて、証券の民主化、即ち安定した自己資本によ
つて企業が賄われる方途へ我々の
努力を傾けたいと存じておる次第でございます。
以上財政
資金と
産業資金とに亘り、
資金の需要面について申述べたのでございますが、かくいたしまして放出されました通貨が直ちに還流いたしまして、これらの
資金需要を満すことができれば、通貨の増発は起らない筈でございますから、今の
ところ必ずしもそれが還流の速度が早くないのであります。從
つて資金需要に対應する貯蓄が
不足な点にも亦通貨増発の一因が存するわけでございます。貯蓄
増強につきましては、すでに一昨年秋以來の救國貯蓄
運動が末端まで滲透いたしまして、すでに
相当顯著な成績を挙げております。徴税成績の急上昇にも拘わらず、今年一月は百七十九億円、二月は九十五億円、三月は二百一億円と順調に進展して参
つたのでありますが、四月には約四十億円と著しい減少を見ました点に鑑みまして、インフレーシヨン抑制のためには一層
國民蓄積の
増強が
要請されますので、本年は貯蓄目標額を三千億円とし、これが達成のため更に一段と
努力をいたしたいと存じております。貯蓄
増強の
方策としましては、先ず第一に通貨への信頼感を増すことが必要でございます。然るに今尚巷間或いは新円の再封鎖をするのではないかというような風説がございますが、
政府は断じてかようなことはいたしません。通貨の信用を害するがごときことは絶対いたしませんつもりであります。尚進んで貯蓄組合の結成を促進いたしまして、貯蓄慣習を喚起し、郵便貯金を初め貯蓄成績による
資金の地方還元を図り、更に郵便局に吸収いたします
資金をして、できるだけ地方に還元いたしまして、地方の
産業並びに財政のために使
つておるのでありますが、今後も一層その地方への還元を図る等、諸般の
施策を実施いたす所存でございますから、各位の一層の御協力を切望する次第でございます。
尚外資導入の点から見ましても、特に必要なことは、この際信用組織の確立であると思うのでございます。御
承知の
通り、銀行、信託会社、保險会社等の金融機関は、一昨年來
再建整備に
努力いたして参りまして、三月末日を以て最終処理を完了いたしました。即ち新旧勘定を合併いたしまして、いわゆる戰時補償の打切等に伴いまして生じました不良資産の清算をや
つたのでございますが、更に近くそれぞれ大増資をいたしまして、企業組織の強化に努め、諸
外國に劣らぬ資本構成を有する金融機関として再出発をすることに相成
つておるのでございます。
外資導入と
日本経済の見透し等について、一言更に申述べることをお許しを願いたいのでありますが、財政金融当面の情勢は、以上申上げました
通りでございますが、
終戰後第四年目の今年に入
つてからの諸般の情勢は、全般的に見まして次第に好轉しつつあるものと申すことができると思うのであります。即ち納税成績の目ざましい
向上を主軸として、通貨は殆んど安定的状態にあり、又
物資面におきましても、供米は昨年に比べまして遙かに早く
完遂されております。各方面において
國民各位のひたむきな
経済復興への
努力は、今や漸く歩一歩とその実を結び始めたのでございます。
併しながらこのような
國民の
努力にも拘わらず、脚下の現実を顧みまするとき、戰爭の惨禍は余りにも大きく、鉱工業
生産は未だ
昭和五年乃至九年の四三%に止まり、
食糧その他の
生活必需
物資の
生産は七千八百万の
國民の最低必要量を到底満し得ないのでございます。この基本的な欠陷が
解決されない限り、
経済の終局的な安定は期し得られません。そうしてこの
解決は、すでに脆弱と
なつた國内
経済の
基盤だけでは到底望み得べくもないのであります。ここに國際
経済との
関連において、即ち外資の援助と
貿易の振興によ
つて初めて可能とな
つて参るのでございます。事実今日までの我が國
経済は、いわゆる緊急援助費等、米國
政府の予算支出による外資の援助によ
つて崩壊を免れて來たのでございますが、併しながら今後進んで
経済の
復興を図るためには、
政府による援助のみならず、いわゆる民間外資の導入をも図る必要があることは言うまでもありません。然るに我が國
経済の
現状は、インフレーシヨン下にありまして、労働不安は去らず、企業の基礎は未だ
整備されておらん等、民間投資にと
つて採算の見通しが困難でございますし、その安全性と利潤性とを
確保するには、尚甚だ未だしであります。又
経済が不安定なため、爲替レートも未だ決定せられませず、國内價格は國際價格水準と遊離いたしました凸凹のままに放任されておる状態でございます。而も
相当非
能率な経営が行われておる國内
経済の状態が、
貿易の振興に対して重大な妨げとな
つておるのでございます。併し幸いにして緊急援助費等、
相当巨額に上る米國
政府の外資援助が傳えられ、ドレパー使節團の
報告書を通じて、賠償の緩和、外資援助その他の
日本の
経済的自立に対する深い
関心が明らかとなり、又
食糧事情が世界的に好轉しつつあると等を考え合せますとき、我々の前途に大きな光明が射しそめて來たことを認めることができると思うのであります。
政府といたしましては、この機会を捉えて、國内的にもこれに即應いたしまして、
再建のための
施策を実施し、先ずインフレーションの進行速度をできる限り緩慢化して、外資の援助を支柱とする一應の中間的安定を実現しまして、これを本格的安定への踏台といたしまして、非
能率な我が國
経済を漸次国際水準に近づけ、以て爲替レートの決定、民間外資の本格的導入、
貿易の振興を実現いたしたいと考えておる次第でございます。
ドレーパー使節團の
報告書にも明らかな
通り、この場合、綜合対策の中最も重要なことは、健全財政の確立でございます。それは單に形式的な収支均衡に止まらず、収支の時期的調整を図り、又中央、地方を通じて一貫した健全財政でなければなりません。更に金融画における健全金融と相表裏いたしまして、財政の赤字を金融面に轉嫁するごときことのない、実質的な収支の均衡を目途としなければ相成りません。これと同時に、主食その他
生活必需物の供給
確保を裏附けとする実質賃銀の安定によりまして、家計の赤字を克服し、又企業については、金融、
資材の両面から、経営の合理化、
能率化を図ることによりまして、その赤字を解消せしめるよう、不断の
努力が続けられなければならないと存じております。
先に述べましたように、終戰以來の
國民の尊い
努力は、今や漸く効果を現わし始め、而も國際情勢の好轉が期待されるこの時こそ、我が國
経済再建に又とない好機であると存じます。今こそ我々は
経済安定の目標に向
つて昂然と頭を擡げつつ、國内の協力態勢を整えて起ち上らなければならんと思うのであります。「われ山に向いて目を上ぐ、わが扶けはいずこより來るや」と昔イスラエルの詩人が叫びましたが、誰に頼るよりも、先ず私共は目を上げて、世界的視野に立ちつつ、みずからを助けねばなりません。我が
國民経済の
再建は、我が
國民自身の
努力によ
つて初めて実現されるのでありまして、
外國の援助のみに依存して、みずから最善を盡さないような安易なる態度では、
國民経済の
再建のため絶対に必要な外資の導入すら期待し得なくなり、遂には
國民経済を再び不安のどん底に陷らしめ、民族自立の希望は遂に達成することができずに終るでありましよう。連合國、殊に米國の好意に應える
意味におきましても、我々
國民はこの機会に昂然と起ち上り、一致協力して苦しきに堪えつつ、
経済再建の一途に
努力を傾注いたさねばならないと思うのであります。かくて
國民各位の
再建への意欲と、不拔の勇氣と、撓まざる
努力とによりまして、不安と恐怖は一掃され、明確に前途を望みつつ、歩一歩、
経済の安定がもたらされることのあまり遠くないことを私は信じて疑わない次第であります。
以上概要を申述べまして、予算案に関しては御
審議を進められんことを切に願う次第でございます。(
拍手)