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中平常太郎君 私はここに、議員多数の
発議によりまして、
在外同胞帰還促進並びに
定着後の
厚生対策につきまして、
決議案を上程いたしまするにつきまして、
発議者を代表して、ここに提案の
理由を申述べたいと存じます。先ず
決議案を朗読いたします。
引揚同胞対策に関する
決議
数百万の
海外同胞が本國に
帰還し得たことは
連合國当局の絶大なる同情によ
つたものであることを
日本國民は深く感謝し、更に七十余万の
海外残留同胞を本年
結氷期までに是非とも
帰還完了せしめられるよう
連合國当局に懇請してやまないのである。しかしてこれら
引揚同胞が速かに正常なる
國民生活に復帰することは、國内の現状からして決して容易なことではない。彼等は家も
土地も職業も失い、殊に多年
海外にあ
つたために本國に
人的関係少く
從つて信用もまた薄いために、就職することも企業を起すことも容易なことではない。これを本國にいた
國民と同じように
待遇したならば、それは非常に大きな差等がつけられる結果になることは明らかである。
從つてこの差等を出來る限り少くし、速かに彼等を自立更正せしめることは絶対に必要であり、又
連合國の好意に副う所以である。
よ
つて参議院は
引揚同胞更正のため次の如き対策を積極化すべきことを決意し、
政府もまたこの
決議に副い善処せられんことを要請してやまない。
一、
引揚同胞対策を合理的に処理するために強力なる
審議機関を設置すべきである。
二、今後の
引揚者復員者に対しては
帰還の日より一ケ年
間各種の税金を免除すべきである。
三、
引揚者復員者の智識と
技術を活かし且つ彼等の
希望を達せしめるために、機会を均等にし
門戸開放の政策をとる必要がある。これがため
勤労希望者には職業を、
事業経営希望者には
資金資材と
企業権を、
就農希望者には
土地資金と農具を、計画的に配当する
措置を講ずると共に、これら
引揚者復員者に対する
社会保障制度を設けるべきである。
四、
引揚者の大
部分は
住宅を持たないから、これらに
住宅を與うるために
余裕住宅並びに
國有建物の
解放等の
処置を講ずべきである。少くとも二十万戸の
住宅を緊急に建設する必要がある。
五、
引揚者が
海外において喪失した
財産については、
戰爭犠牲負担を公平化する
原則に基き、
國家は出來る限りの方途を講ずべきである。
六、
遺家族、
留守家族に対してはその実状に即して、
援護を積極的に行うべきである。
これが
決議案でございます。
終戰後ここに三年、
國民の
虚脱状態の中にも、
連合軍の多大なる援助によりまして、今日までに既に六百万の多数の
同胞は懐しの
祖國に
帰還いたしましたことにつきましては、私共
國民は敗戦の
苦悩の中にも誠に感謝に堪えない次第であります。ここに
マツカーサー司令官始め、
連合軍当局に対して深甚なる謝意を表するものでございます。而して今尚七十余万の未
帰還者があることは、当人の苦痛はもとより想像に絶するものがございますが、家郷にあ
つて一日千秋の思いで家の柱たる大切なる人の帰ることを待
つておられまする家庭におきましては、早く既に近所に誰彼となく沢山に
帰つて來て、おのおの
各種の
生産のいそしみ、
苦悩を回復して
一家團欒の
樂しみに浸
つておる中で、
自分の夫は、
自分の子は、未だに
帰つて來ない。生死の程さへも判明しない。
毎日北の空を眺めては焦燥の念に駆られ、悲歡の
余り自暴自棄に陷る者さへ來しつつあるのでございます。幸いに漸く五月に入
つて帰還が再開されましたが、五月に約四万一千程度の予定にしかな
つておりません。現在の
帰還数の状態では、或いは一部は又冬を越しはしないかという懸念があるのであります。四回目の零下四十度、五十度のシベリアの寒空で、今尚軍服を着せられて、
家族との通信の自由も、私権の行使も、亦個々の
能力も停止せられて、ただひとえに家郷の空を偲びつつ、当もなき過激な労働に心身を消耗し、或いは又一部の
同胞には遂に
祖國を見ずして帰らぬ旅につく者があるかと思へば、我々
國民は実にやる瀬ない、堪え難い断腸の思いがいたすのでございます。何とかして
結氷期までに全部の
帰還を完了せしめたい。そのためには
政府はあらゆる方法を盡して
内外要路に対して今一層の強力なる
方策と懇請とを重ねなければなりません。幸いに先に対
日理事会において
シーボルト議長の表明されましたように一ケ月の余裕があれば月十六万人は輸送可能な準備ができる、こういうことでありますから、何とかソ連との間に交渉ができるなれば、その上に
帰還者の数を増すことを
政府並びに
國会といたしましても、世界の各機関を通じてでも
國民共共にお願いしなければならないと思い、
特別委員会におきましても、先般
スターリン首相、
トルーマン大統領等へも特に参衆両議院全議員の連名で
懇請書を提出いたしましたような次第でございます。
内地におきましても、各地で
帰還促進大会が開催せられまして、全
國大会も先日行われ、又各
團体の
代表者は
連合軍最高司令部或いは
ソ連大使館又は
議会方面へも請願せられ、又この議事堂へは多数の
遺族家族が各地より参られて、血の出るような
帰還促進の陳情をなされつつあるのでございます。これを見ましても
政府並びに
國民を代表する議会の絶対的義務であり、又焦眉の急に迫
つているところの問題なのでございます。又今後の
帰還者を加えまして、六百数十万になりますが、このうち元
軍人應召者の大
部分はそれぞれ
帰還の
定着地を持
つておりますが、
引揚者は永年彼の地にあ
つて生活の環境を作
つておられた関係上、
内地には
縁故者も少く
信用も薄い、又
資金もありません。元來
政府といたしましては、かかる多数の
在外者に
帰還の指令を発しました以上は、これら
帰還せる
同胞の
定着援護の
方策は、当然
十分政府において大きな積極的な
具体的政策を立てるために特別なる閣議を開き、
國民の輿論に應え大幅の
予算を計上すべきでありまするが、未だにさような樣子はない。そこで本
決議案にはその
方策として、
差当りその重要なるものとして、第一番に
民間人を加えた強力なる
審議機関を設置し、
引揚者の
定着後の実態を科学的に調査分類し、特別に
資材資金の枠を作りこれを指導し強力して、その機能を発揮せしめ、積極的に
引揚者をして
生産方面に直結せしめる
方策を立てねばなりません。二には
内地戰災者に特典を與えたように、
引揚者にも一ケ年間は
各種とも
免税とすべきでありましよう。
戦災者は
土地の
信用或いは
親族知人或いは又疎開の
荷物等もあ
つた者もありまするが、そのために
種々更生の資料もありまするけれども、それでも一年の
免税があ
つたのであります。
引揚者には知人も少く
信用も薄く氣息奄奄漸く業務を見つけて着手し、その成果も挙
つていないうちに直ちに税金に取上げられてしまうということは、これは誠に残酷である。これは少くとも着手一ケ年は全部
免税とすべきであります。本
決議案が御賛成を得た後には、直ちに單独法として立法の意思を有しておるのであります。次に
住宅対策を積極的に実行すべき点でありますが、先ず先ず
住宅を與えねければ
人間生活というものは決して成立つものではありません。
引揚者にはみずから建てる力はありません。闇屋が建てる大きな立派な家を見て如何に憤慨しておるか想像を絶するものがあるのであります。他人の家の座敷や縁の端の小部屋で多数の
家族を擁しながら同居して日々立退きを強要せられつつも、行く先がなくて涙を呑んでいる
引揚者が幾万ありますか。
政府は今年度五十万戸を建築すると言いますが、別の
予算が取れなければ、このうち二十万戸は
引揚者に優先せしめる考えがあるかどうか。
在外資産の合理的処理問題、
軍事郵便貯金の沸出の緩和、又
在外公館への借上金の沸戻し
問題等いつにな
つたら解決するか、
政府は何かというと、
講和会議まで何事もでき難いように言うておるけれども、最近のように
講和会議が解決しなくとも、
民間貿易さえ、又
民間人の
海外渡航さえできるようにな
つたではありませんか。できんというのは爲さないのではないか。できるように本当に熱のある
努力を拂わないのではないか。
内地にお
つた者は個人の
財産などは没収に遭わなか
つた。併し外地にお
つた者はあらゆる
財産は没収に遭い、又掠奪、又は置去り、か弱い子供を殺し、散々な憂目を見て、命からがら還
つて來て、
同胞の懐に入
つたかと思えば、その懐は極めて冷たく顧みる者もない、故に愬えてよろしいのでございましようか。ここに
國民を代表する議会があるのではありませんか。戰爭は損なものとの結果を招來することは
民主主義の徹底を促す上において
根本理念でありましよう。併しながら
遺家族、
留守家族などが如何に忍び泣きに泣いておるか、誰がその涙を拭
つてやるか、これを慰めてやるか、果してこれで宜しいのか、せめて食
つて行けるだけには誰が何とい
つても絶対
政府並びに我々の責任であると思うのであります。ただ
生活保護法の金では食
つて行けないのであります。然るにこの方面に対する
施策は極めて消極的で、何ら見るべき
援護の実が挙が
つていないのであります。のみならず彼等に生きて行くところの
方策さえ與えずしておいて、
却つて一面
内地の一部の闇ぶくれの贅沢な
生活を見せつけられて、
インフレの波にもまれて生死の境を彷徨し、中には思想上甚だ檢悪の度を増しつつあるのでございます。
又現在
國民の大多数はみずからの
保身術に憂身をやつしておりますので、他を顧りみない。如何に
引揚者が
苦悩に喘えいでおりましても、関係のない者は誰も本氣で
援護しない。
政府亦消極的なる
生活保護法一本で行かんとして、何ら
生産方面に直結せしめる
積極方策を採
つていない。かの
生活保護法は大
部分これは
生活の
能力のない、食えない者を救助する建前の
資金であります。我々の要望するところは
生活要
保護者に轉落せしめることではない。私は
自分のことを申上げると甚だ如何と思いますが、私は
引揚者ではないが、終列車などに駅頭で夜中迷
つておられる哀れな
引揚者を見て、これではいかんと思いまして、
同胞愛に駆られまして
愛媛縣の宇和島市でありますが、一昨年
引揚者の憩の家、
民生館を建築して、
建設費は約百万円余であります。二百二十坪、三十室、三十五
家族、百十五人を無料で収容して住居の安定を與えております。一面
授産場を併設いたしまして、副収入を得せしめるようにいたしております。
政府もこの
非常時危機を乗切るためには相当苦心して
努力はしておられますが、ただ当面の問題に忙殺せられて荏苒今日に至
つておるが、昨今
企業整備、統制の強化などのために
闇ブローカーは締出しを食い、潜心してお
つたところの失業問題が漸く表面に本格化するに至りました。他面物資の不足と、
インフレの
昂進等によ
つて引揚者の困窮は一層目も当てられん悲惨な状態に陥
つておるのでございます。
若し
政府の力が足らずしてかかる人人の特別な不公平なる犠牲においてのみ
新日本を建設なさんとするなれば、それは新憲法のいわゆる
民主主義の名に恥ずべき存在であると思うのでございます。(
拍手)彼等はいわゆる
無能力者ではない。知識もあります。
技術もあります。貴い経験もある。外地においては盛んに活躍してお
つた立派な
同胞であります。かかる
同胞の
就職希望に対しましては特にその
技術、経験を生かし、又
事業経営希望者には
資金、資材と
企業権を、
就農希望者には
土地と
資金と農具を計画的に配給する
措置を講ずると共に、
内地失業者に適用してあります
失業手当法のごとき一時
的國家の負担において支給し、その間は簿給又は無給で適当な
工場会社に入社せしめてその
能力を利用し、
生産に協力せしめ、一面就職の機会を作らしめるような
処置を取るなども考慮すべきであると思うのであります。この六百万の有爲な
同胞を活用して、
再建日本の
生産に直結せしめる
方策こそ、
政府が執るべき
最大喫緊の活きた政治であると思うのであります。(
拍手)
引揚者全世帯の数は約百三十万戸と称せられておりますが、その六〇%、いわゆる七十八万戸は、どうしてもみずから何かして食わねばならない仲間でございます。然るに過去において
生業資金として貸付けられた金額は、二十一年度においては十億円、二十二年度におきましては六億六千六百万円で、この内には
内地戰災者八万戸も含まれております。貸付を
希望しておるところの者は、現在まだ三十六万世帯ある見込でありますが、ろくに貸して貰えないために、又なかなか手續が面倒だから、疲れ果てて申込まない者も沢山ございます。以前には一世帯四千円、現在では最近七千円でありますが、
政府はこれを
生業資金の全部ではない、著手金だと言うが、今日の
インフレでは余りに僅少で効果がない。せめて
生業資金は一口一万五千円ぐらいにすべきであるが、たとえ一万円といたしましても、今後まだ三十六億円を要します。然るに二十三年度の
暫定予算ではあるが、僅かに一億円とな
つております。
政府は又
復金の融資を活用する途を開いたが、尚微々たるもので、二十二年度において一億二千万円、二十三年度一四半期において一億円だけ見込まれております。これまでの
復金の
融資方面を見ますと、御承知の
通り、一会社に数十億円を融資しております。この何百万の
引揚者に僅か一億、二億の融資では、
本末顛倒も甚だしいと言わねばなりません。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
政府は今年度
予算は三千九百余億円と言うております。その莫大なる
予算の中に、
引揚者の更生のために、その
生業資金として三十億円ぐらいは最小限度計上すべきでありましよう。(
拍手)、それさえ見積も
つてないならば、
政府の
引揚対策の
熱意は、ただ口先ばかりで、
口頭禪との非難を受けてもいたし方のないものと思うのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)これに対する
政府の実際的な
方策は如何。(「
厚生大臣よく聽くべし」と呼ぶ者あり)又
苫米地官房長官は、
軍公利拂一年停止により浮き出る筈の二十余億の金を
引揚者、
災害者の
救助方面に振向ける考えであると言明せられて、誠に近來にない意義のある賢明なる
処置と共鳴を感ずる次第でありますが、(「その
通り実行するか」と呼ぶ者あり)何程振向けられるか、未だ軍公問題が決定していないから、今日言明ができないのは尤もであるが、十分これらに振向けられんことを今から要望しておきます。
政府は
引揚対策について相当考慮しておるというように言われるが、実際檢討して見ると、その実際
的支出面におきましては誠に消極的であ
つて、只今申上げた
通りでございます。ここに本院の
決議を以て
政府に要望する
ゆえんであります。願わくば御賛成あらんことをお願いいたしまして、提案の
理由といたします。(
拍手)