○
政府委員(
網島毅君) それでは今
國会に提案いたしました
放送法案に関連いたしまして
放送というものに対する概略的な
現状、その他についてお話し申上げて御
参考に供したいと思います。大体
放送につきましては皆さんすでにお分りのことでございまして、私から今更かれこれお話し申上げるということは、非常におこがましいことなんでございますが、多少專門的な
立場から御
参考になる点もあるかと思いまして、お話し申上げたいと思う次第であります。
放送は御
承知のように今から三十数年前に世の中へ出て参りまして、それが
眞空管とか、或いはその他の
無線技術の
発達に伴いまして、
世界各國とも急速な
発達をいたしました。殊にこれが
一般大衆に対するところの
情報、或いは
教育その他文化的な手段として非常に効力を発揮する
関係上、
世界各國ともこれを助長いたしまして、今日の盛大を來たしている次第でございます。現在どういう形の
放送が
世界各國で行われているかと申しますと、一番廣く普及しておりまするのは、いわゆるこの
法案に書いておりまするところの
標準放送と称するものでございます。この
標準放送と申しまするものは、
波長からいいますと大体五百五十キロ
サイクルから千五百キロ
サイクルの間を使
つている
放送でございまして、なぜこれが
標準放送といわれているかと申しますると、この
電波を使うために、すでに数十年前から國際的な
会議がございまして、國際的な
会議におきまして、どういう
波長をどういう業務の
無線局に使うかということを決めております。それで第一回のこの
会議を
ワシントンでや
つたのでありますが、この
ワシントンの第一回
会議におきまして、
放送に使う
波長は今申上げた五百五十から千五百キロ
サイクルの間、
波長の長さでいいますと、大体六百メートルから二百メートルという
波長の長さになりまするが、その間にこれを限定するというふうに決めたのでございます。從いまして
專ら世界各國の
放送は、この
波長を使
つて普及したために、これが現在
標準放送といわれておるのでございます。その後この
無線技術が段々
発達いたしまして、
短波というものも非常に有効に使い得るということになりました。御
承知のように
短波は今お話申上げた
標準放送の
波長に比べまして、非常に遠くへ傳播する特性を持
つております。と申しまするのは始準
放送の
電波は大体
地球の
表面を傳わ
つて行くために、山だとかその他
地球の
表面のいろいろな
障害物のために早く吸收されまして、遠くへ余り届かないのでございまするが、
短波になりますとこれが
地球の上空の百粁或いは二百粁のところにあるところのいわゆる電離した層、これは大体酸素とかその他非常に薄いガスが電離しておりまして、
電氣の粒にな
つておりますが、その層にぶつか
つて、又
地球に
帰つて來るというところから、
丁度光が鏡に反射して、どんどん遠くへ行きまするように、
地球の
表面を今申した
電離層の間を何回も反射して遠くへ傳播するのであります。そういう
関係上この
短波を使いますと、先程話した
標準放送の
電力に比べて、非常に小さい
電力で以て遠くへ
放送を送ることができるということになりまして、
世界各國がこれに注目するようにな
つたのでございます。殊にこの
短波放送が盛んになりましたのは、第一次
世界戰爭の直後でございまして、先ず
ドイツが、この
短波を
使つた世界放送というものに非常に力を入れたのでございます。勿論その前からすでに
英國あたりでは、いわゆるインペリアル・ブロードキヤストと申して、
植民地に向
つて短波の
放送をや
つてお
つたのでありますが、これを大々的に計画的に國の
宣傳機関として使用したのは、
ドイツのヒツトラーが初めだと思
つております。これが非常に効果を発揮したために、
世界各國でもこれに倣いまして、
英國、
米國その他いわゆる強國と称せらるる國におきましては、この
短波放送も非常に沢山現在使われておる次第でございます。
次に、この
放送が非常に
発達して参りまして、
アメリカのごときは、すでに
放送局の数が千を超ゆる非常に大きな数にな
つております。
從つてそういうふうに
放送局の数が多くな
つて参りますると、先程お話した五百五十キロ
サイクルから千五百キロ
サイクルまでの
標準放送の
電波では、到底これを賄
つて行けないということになるのでございます。その結果、この
逃げ道をどこかに求めなければならないということになるのでありますが、
といつて短波を使いますと、
短波の
電波能力が非常に大きいものでありまするからして、
世界各國の
放送のみならず
通信も又妨害するということから、
短波を
放送に使うことについては、やはり條約で相当
制限されております。
從つてこれの
逃げ道として目下盛んに考えられ又使用される
機運にあるのは、超
短波或いは極超
短波でございます。超
短波と申しますと、先程お話した
短波より更に
波長の短かい
電波でございまして、大体
波長が十米以下のものを普通超
短波とい
つております。そのような
波長と短かい
電波になりますと、その
傳わる性質が
大分光の
性質に似て参りまして、先程お話したような
電離層では、この超
短波を反射しない。
電離層は突き抜けてしまうということになります。
從つて大体見通しのきく範囲しか、この超
短波は
傳わらないという
性質を持
つておるのでございます。
從つて遠くほやる場合は不向きでありますが、
一つの町でありますとか、或いは
一つの
地域というようなものに
放送する場合には、この超
短波を使いまして、高い屋上に上げるとか、或いはアンテナを高くするとか、或いは近くの山を
利用するとか、そういう方法を講ずれば十分その目的が達成できまするし、又一方無暗に遠くへ飛ばないということからして、混信という問題も非常に少くなりまして、
放送には非常に便利だということになるわけであります。その結果現在
米國あたりでは、この超
短波放送が非常に盛んでございまして、
將來は恐らく
標準放送を凌駕するという
機運になりつつあるのでございます。殊に最近の
技術の進歩によりまして、我々の使い得るところの
波長というものが、ますます短
かい方に向いつつあります。戰爭前までは大体人間が使い得るところの
電波というものは、二メートルか三メートルという
程度にしか過ぎなか
つたのでありますが、
戰爭中にこの
方面の
技術が非常に
発達いたしまして、現在すでに数センチメートルという非常に短かい
波長のものまで実用になりつつあるのであります。その
一つの例として申上げまするならば、戰爭直前に開かれました即ち一九三八年にカイロで開かれました
國際会議におきましては、大体
世界各國が使うところの
波長につきましては、長波から大体十メートルくらいのところまで決めておりました。十メートルから一メートルくらいのところまではこれはまだ
試驗的な期間であるということで、國際的な取極めをするまでに行
つておらなか
つたのでありますが、昨年
アメリカのアトランテイツク・シテイで開かれました戰後第一回の
國際無線通信会議におきましては、
世界各國が使うところの
波長、又使い方を定められたところの
波長というものが、大体三センチメートルというところまで、すでに條約で決められております。これは取りも直さず現在その辺まで実用化し得る
程度まで
技術が
発達しているということを示すものでございまして、
將來この
方面の
電波の
利用、殊にこの
放送方面に対するこの
方面の
電波の
利用というものは恐らく想像以上のものがあるのではないかと考えられるのでございます。特にこの超
短波、或いは更に短
かい通称極超
短波と称せられるものを
利用することによ
つて受けるところの利益は、これは
テレビジヨン放送に非常に大きな力を持
つているということでございます。
テレビジヨン放送は普通の
放送と違いまして、
テレビジヨンを送るためには
一つの像を細かい点に分解いたしまして、丁度
新聞の
写眞版を見ますと小さい
網目にな
つておりますが、そういうふうに像を細かい網に分解いたしまして、その網の
一つ一つを次々と送
つて行くのであります。從いましてその
一つの像を送るためには、その
網目の数が何十万という数になるのでございまして、
テレビジヨンの像を細かく送ろうとすればする程その欠の数は細かく分けられることになります。從いましてそういうふうに細かい網の数を早く送るためには、この
電波で送るところの
電波の幅というものが非常に大きくな
つて來るのであります。
普通電話でありまするとか、普通の
放送でありますと
電波のわきに、ちよつとものをくつつければそれで送れることになります。例えば一尺の物指に対して一分ぐらいの
程度の幅をつければ
放送が送れることになるのでありますが、
テレビジヨンということになりますと今お話したようなわけでありまして、一尺の物指で送るためには一寸或いは二寸という幅のものをくつつけてやらんと
テレビジヨンが送れないことにな
つて参ります。そうな
つて來ると普通の
標準放送だとか
短波とかでは外の妨害がありまして、到底
滿足な
テレビジヨンの
放送というものができないのでありますが、超
短波になりますとそれが非常に容易になるのであります。
從つてテレビジヨン放送といえば、これは必ず超
短波或いは極超
短波に限るということに考えて頂いて差支えないと思います。今後
テレビジヨン放送はますます
発達する
機運にあるのでございます。現在普通の
白黒の
写眞のような
テレビジヨンを送る
放送局は、
アメリカにおきましてすでに百を以て数える数にな
つておりますし、現在すでに
天然色の
テレビジヨンを送る
放送局も相当
数量試驗的に今実施されているような次第でございまして、
將來この
テレビジヨン放送というものは、恐らく全
世界的に非常に
発達するだろうと思われるのでございまするが、これらはいずれも今申上げた超
短波、或いは極超
短波を使
つてやるということになるのでございます。
それから又
テレビジヨンと似ておりまするが、
フアクシミル放送というものがございます。これは現在すでに我が國におきましても一部
利用されておりまするが、それは
無線によりましてこの
白黒の画でありますとか、或いは又文字というものをそのまま送ろうというわけであります。即ちこの有線で行われておりまするところの
写眞電報その他これに相当するものを
無線で送ろうというのが今お話した
フアクシミル放送でございます。これも現在
アメリカその他で相当
発達しておりまして、
ニユースでありますとか、或いはいろいろな図面でありますとか、或いは又氣象の
天氣図というようなものを
電波で
放送いたしますと、各船であるとか、或いは
測候所その他の所におきましてこれをそのまま画で受けられます。そうしますると、船でありますとか、
測候所では
天氣図をそのまま即時に受けることができまするから非常に便利でございます。こういう
フアクシミル放送というものがございまして、これも今後ますます
発達する
機運にございます。この
フアクシミル放送は成るべく遠くまて送る必要がありまする
関係上、現在
短波を使
つて相当行われておりまするし、
將來は
一つの
都市或いは
一つの
地域というものを目標とする場合には、超
短波或いは極超
短波を
使つてフアクシミル放送というものが相当発送する
機運にあるのでございます。
そういうような
状況でございまして、今後
放送というものは、ただ單に現在
日本で行われておりますような
電話の言葉の
放送ばかりでなしに、眼で見る
放送も非常に普及
発達する
可能性があるために、この
法案におきましては、そういうものも一應頭に入れまして、そういうものも
將來日本で行い得るような形において盛り込んである次第であります。
次にこの
放送の
やり方、
事業の
やり方がどうな
つているかと申しますると、大体これを
三つに分けて考えることができるかと思うのであります。
一つは
從來日本がや
つておりましたところの独占的な
形態を持
つた放送の
やり方でございます。それからもう
一つは現在
アメリカがや
つておりますように、全く自由企業的な
立場においてこの
放送をや
つているというのでございます。最後に残りましたのはこの両者を丁度接配したようないわゆる中間的な
やり方でございまして、
最初の独占的な
形態を持
つておりますものは現在は
英國の
放送事業がその代表的なものでございます。その外何といいますか、全体主義的な傾向を持
つたといいまするか、そういう性格のある國においては大体こういう
やり方を採
つておるというふうに考えられるのでございまして、又非常に民主化された國におきましては、
アメリカのような全く自由企業的な
立場で
競爭的にこれをやらしているということを申上げていいかと思います。それから第三の
立場を採
つていますものは、
濠洲その他若干の國でございまして、比較的新らしくこの
放送に対する
法律を定めておるような國におきましては、この
折衷案を採
つているようでございます。
今申上げたように、大体
三つの
やり方があるのでございまするが、
放送を全く自由放任的にやらした場合、即ち
アメリカのような場合においてはどうなるかと申しますると、初め
アメリカは
放送というものに対して殆んど無
制限にこれを許していたのであります。その結果
アメリカ全土に亘りまして
放送が非常に早く
発達したのでございまするが、その代り無暗
矢鱈に
放送局ができて参りました。例えば
一つのデパートがその
廣告用に
放送する。学校が又その実驗用に
放送を始める。
宗教團体が又それをやるというようなこと、その外に個人が、いわゆる金持の人が趣味で以て、
興味本位を以てこの
放送を始めるということになりまして、
波長の点からこれを放任し得ないという
状況に立ち到
つたのであります。その結果
アメリカの
連邦通信委員会におきましては、
放送に対する無
制限の
許可方針を止めまして、相当嚴密にこれを審査いたしまして、そうしてその必要あるものに対しましてはこれを許可するという
方針を現在取
つて参つております。その他独占的な経営を取
つておる國におきましては、勿論この
放送に対しましては相当強力な國家的な
制限を加えておるのでございまして、今お話いたしましたように、この
放送というものが純理論的に見ますと、
新聞のように全く自由に誰でもこれがやれるようにいたしまして、そうして
國民がそれらの中の
自分の思想、
自分の好みに應ずるものを選択してこれを聽いて行くという
立場ができれば最も望ましいことかも知れないと思うのでありまするが、
一般の
新聞、雜誌と違いまして、
放送は
電波というものを使う
関係上、どうしてもこれを無
制限に設置することができない、ここに大きな差があるのでありまして、この無
制限に設置することができないという点から、これに対して國家的に相当やはり
制限を加えて行く必要がある。殊に
最初に申上げましたように、
放送が
一般の公衆の
情報、
教育、その他文化の向上に非常な重大な役割を持
つておるという点から申しまして、
放任主義にはできないということになるのでありまして、各國とも
放送につきましてはそれぞれ
立場は違いまするが、その國の実情に即した
立法をいたしましてこれを取締
つておるという
状況にあるのでございます。
次に我が國のことにつきまして
簡單に申上げまするが、我が國におきましては
放送が
最初にできた当時におきましては、
東京と名古屋と大阪、この
三つにそれぞれ
單独の
放送協会ができまして出発したのでございます。ところが
單独でやりますると、
聽取料の問題、或いは
プログラムの問題、その他いろいろな問題がございまして、当時
放送をできるだけ早く
日本各地に普及されなければならないという
立場を取
つてお
つた政府といたしまして、これを一本にして、そうしてただ單に人口の稠密な
都市ばかりじやなしに、
山間僻地におきましても普くこの
放送を受け得るようにしなければならないという
立場から、この
三つの
放送事業体を合体いたしまして、現在の
日本放送協会というものの設立を斡旋した次第であります。
その後
日本放送協会ができましてからは、これをただ單に
聽取料のみを対象とした
事業体として考えることなく、その
聽取料を以て廣く
日本全國の
放送を普及させるという計画を立てまして、現在におきましては大
都市は勿論、中
都市その他
放送の
電波の
傳わらないような
土地を選びまして、相当多数の
放送局を設置しております。殊に最近になりまして第一
放送のみならず、第二
放送の普及も相当考えなければならないということになりまして、現在におきましては第一
放送に使われている
放送局は九十局、第二
放送に使われておる局は十六局、合計百六局の
放送局が
日本にございます。その中
電力の一番大きなものは五十キロワツトでございまして、これは現在の
東京の第一
放送がそれでございます。それから
電力の一番小さなものが五十ワツトでございまして、これはいわゆる第一
放送所と称せられるものでございまして、そこでは独自の
プログラムは組まない、近くの
放送局から
プログラムを中継いたしまして、それを再
放送してその
附近の人達に
放送を聽かせるという建前を取
つておるものでございます。
そのように
相当放送が普及しておりまするが、これで十分かと申しますと、まだ十分だとは考えられないのでございます。と申しますのは北海道の一部、或いは
東北方面の一部、その他
中部地方の
山岳地帶、或いは又九州の南寺、
鹿兒島附近というところはまだ
放送の
電波が弱いところが相当ございまして、普通市販されておるところの
四球程度の
受信機では、夜はともかく、晝は十分聞え得ないという
土地も若干残
つております。殊に最近は近くの
隣接國からの
放送が相当強く
日本に聞えるのでございまして、
隣接國からの
放送は聞えるけれども、
日本の
放送は聞えないというような
状況の所もございまして、これらに対しましてはやはりできるだけ早く
放送局を設置するなり、或いはその
附近に現存しておりますところの
放送電力を増加するなりして救済しなければならないかと存じておるのでございます。
尚
日本におけるところの現在の
電話放送以外のものについてのことでございまするが、先程お話申上げました
フアクシミル放送につきましては、まだこれを正式にやりたいというところはございません。併しながらそういう
通信社の一部におきましては、これを
ニユースの報道に使いたいという
機運もございまして、
一つ試驗をして見たいという希望を申出ておるところもございます。
次に
テレジジヨン放送でございますが、これは残念ながら現在の我が國の
技術は、
世界の
テレビジヨン技術のレベルに比べまして、相当まだ劣
つておりまして、現在の
日本の
技術そのままを以て
テレビジヨン放送をやることは無益であり、又不可能であるというふうに私共は考えておるのでございます。この
テレビジヨン技術の
発達につきましては、
日本は比較的早くから手を着けたのでございますが、
戰爭中全くこれが中断されましたその結果、現在非常に遅れておりまするが、遅れ馳せながら
日本放送協会その他一部の
メーカー方面におきましてはこれの
研究を進めております。これらの
研究が進んだ曉、或いは又
アメリカその他の
外國の
テレビジヨン技術が輸入された曉におきましては、
日本におきましてもこの
方面の
放送が
発達するでありましようし、又
発達して欲しいものであるというのが私達の考えでございます。
以上が大体の
設備面から見たところの
世界及び
日本の
放送の
現状のあらましでございまして、一應のお話はこれで終りたいと思いますが、何か御質問でもございましたら又申上げたいと思います。